親と暮らし、短い通勤時間とオフィスのデザインを重視し、外食好き?
アジア太平洋地域のミレニアル世代の姿
2017年、世界人口は76億人に達したが、このうち「ミレニアル世代」がどれほどいるのかご存知だろうか。
米シンクタンクのピュー・リサーチ・センターによると、世界人口のうちミレニアル世代が占める割合は27%であるという。
つまり、世界には20億人ほどのミレニアル世代がいることになる。
驚くことに世界のミレニアル世代の60%近くがアジア地域に住んでいるという。世界中でもっともミレニアル世代が多い国はインドで、全人口13億人のうち4億人近い国民がミレニアル世代である。
現在20歳前後から30代半ばであるミレニアル世代は、購買力を強め、消費者としての存在感を高めている。特に新興国が多いアジアでは、ミレニアル世代の消費インパクトは非常に大きいものと考えられる。
今回は、インド、中国、オーストラリアなどアジア太平洋地域のミレニアル世代が、住む・働く・遊ぶに関してどのように考えているのか、グローバル全体との比較を交え、その特徴を紹介したい。
- TEXT BY GEN HOSOYA
住む──お金が貯まるまで親と住むことはいとわない
不動産コンサルティング会社CRBEが2016年に発表したレポートは、アジア太平洋地域のミレニアル世代の不動産観、仕事観、そして余暇について、その特徴をあぶり出したインサイト溢れる内容だ。以下では、このレポートのデータを中心にミレニアル世代の特徴を紹介していきたい。なおこのレポートが対象にしているのは、オーストラリア、中国、香港、日本、インドの5カ国・地域だ。
まず、不動産観について。アジア太平洋地域のミレニアル世代はグローバル比較で見ると、親と住んでいる割合が高いことが明らかになった。
アジア太平洋のミレニアル世代が親と同居している割合は63%。一方、グローバルでは49%だったのだ。内訳を見ると、香港とインドが80%以上となっており、全体平均を引き上げていることが分かる。中国は60%、日本は50%、オーストラリアは35%と全体平均を下回っている。
香港とインドでなぜ親との同居率が突出して高いのか。理由の1つは、収入に対する家賃の高さが挙げられるだろう。
米コンサルティング会社デモグラフィアの住宅価格調査では「住宅価格の年収倍率」で香港は19.4倍と世界でもっとも高い値を叩き出しているのだ。東京・横浜の4.8倍の約4倍の高さ。高ければ高いほど家が買いにくいことを示す数値だが、家賃の高さとも相関していると考えられるだろう。実家を離れ一人暮らしをするにしても、家賃が高すぎ貯蓄ができない状況に陥ってしまうのだ。
実際CBREの調査では、アジア太平洋のミレニアル世代の71%が、不動産価格の上昇率に賃金の上昇が追いついていないと考えていることが明らかになっている。特に香港では85%ともっとも高い割合だ。
また、香港では一人暮らしをする必要があまりないという理由も考えられる。土地が狭いため、ほとんどの場合、実家から職場に通勤することができるためだ。
レポートでは、ミレニアル世代の不動産購入の意思についても調査している。アジア太平洋全体で、今後不動産を購入する考えがあると回答したのは65%(グローバルは71%)と、ミレニアル世代は不動産購入に関心がないという通説とは異なる結果になっている。
おもしろいのは、アジア太平洋のなかでも国ごとに違いが浮き彫りになった点だ。不動産購入を考えているミレニアル世代がもっとも多いのが中国で、90%近くが住宅ローンまたは即金で不動産購入する考えがあると回答。オーストラリア、インド、香港は80%ほど。一方、日本は35%と著しく低い割合となったのだ。
中国では結婚を機に両家の親が頭金を出し合い、ローンを組み不動産を購入する習慣があるそうだ。一方、インドでは不動産を投資対象として考える人が多いという。そのインドは、即金で不動産を購入すると回答した割合が約30%と調査対象の中でもっとも多かった。即金割合は、中国は10%ほど、オーストラリア、香港、日本はともに10%未満だ。
CBREレポートは、日本のミレニアル世代の間で不動産購入意思が低い理由として、収入の低さだけでなく、賃貸の方が便利という考えが強いことが背景にあると指摘している。
働く──仕事探しの条件は短い通勤時間とオフィスデザイン
CBREのレポートは、不動産だけでなく仕事観でも、通説とは異なるミレニアル世代の実体をあぶり出している。
主に新興国のミレニアル世代は、会社へのロイヤリティーが低く、転職をしがちと見られているが、レポートではアジア太平洋のミレニアル世代は3分の2が同じ企業、または転職するにしても少ない回数が良いと回答しているのだ。転職を頻繁にしたいという回答は9%にとどまっている。
ミレニアル世代が仕事を選ぶ条件についても興味深い結果が示されている。
上位には給与や人間関係などよく耳にする条件がランクインしているが、通勤時間、会社の場所、オフィスデザイン、フレキシブル/リモートワークの有無なども高い割合となっている。
レポートでは、アジア太平洋のミレニアル世代の約90%が、通勤時間は1時間までなら許容できると回答。さらに、50%が通勤時間の理想は30分以内と回答している。国別での理想の通勤時間を見ると、中国39分、インドとオーストラリアが42分、日本47分、香港52分だった。日本や香港は交通インフラが比較的整っており、その分通勤時間への許容度が高いようだ。
オフィスデザインについては、73%のアジア太平洋ミレニアル世代が、良い雇用者はオフィスを含めた仕事環境へのこだわりを持っていると回答。また同じく73%がオフィスの良いデザインはそこで働くスタッフに好影響を与えると考えている。さらに、71%はより良いオフィス環境のためならほかのベネフィットをあきらめるこができると回答している。これほどオフィスデザインや仕事環境へのこだわりは強い。
ミレニアル世代にとっては、オフィスやその周辺環境は単なる働く空間ではなく、リラックスし、コミュニケーションをとり、ほかのアクティビティーにも取り組める空間でなくてはならないようだ。たとえば、ヨガなどウェルネス関連の施設や自転車通勤できる駐輪スペースなどへの需要が高い。
遊ぶ──生活コストの安さから、外食などが多い
アジア太平洋のミレニアル世代は、グローバルに比べ、家賃、交通費、生活必需品への出費が少ない傾向が明らかになった。このため、収入における貯蓄可能割合は18%と欧米の11%を上回っている。
一方で、グローバルに比べ、余暇に多くのお金を使っていることも判明。最大の理由は、欧米に比べ低い物価にあるようだ。中国のミレニアル世代の間では、収入に占める生活コストの割合は28%。北京や上海の生活コストはニューヨークの半分ほどしかかからないという。生活コストが安いおかげで、余剰資金を余暇につぎ込めるわけだ。アジア太平洋ではオーストラリアの生活コストがもっとも高い。
余暇への出費では国ごとに違いが見られる。中国とインドでは、非飲食分野でのショッピングが多かった一方で、香港と日本では行楽への出費が多いという。
スポーツ関連の出費は収入の4%ほどと全体的に同じであった。しかし、収入レベルが高くなるにつれ、スポーツ関連への出費割合は増加傾向にあるようだ。スポーツウェアをファッションとして職場や学校に来ていく「Athleisure」と呼ばれるトレンドを後押ししている。
外出時のアクティビティーに関しても国ごとの特徴があらわになった。外食、映画、ライブイベントの3種類のアクティビティーに1カ月あたりどれほどの時間を使っているのかという質問では、アジア太平洋全体で外食5.9日、映画1.8日、ライブイベント1.5日となった。
香港では外食が全体平均の約2倍となる12日ほどであることが判明。3日に1回のペースで外食していることになる。一方、インドでは映画が全体平均の2倍ほどある。ボリウッド映画という独自の映画文化があることが影響しているようだ。
アジア太平洋地域のミレニアル世代の特徴を見てきたが、対グローバルとの相違だけでなく、域内でもそれぞれに独自の価値観を形成していることが分かったのではないだろうか。世界最大のミレニアル世代密集地域アジア。今後の動向にも注目していきたい。
[トップ]Photo by Frida Aguilar Estrada on Unsplash
こちらの記事は2018年02月15日に公開しており、
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シンガポール在住ライター。主にアジア、中東地域のテック動向をウォッチ。仮想通貨、ドローン、金融工学、機械学習など実践を通じて知識・スキルを吸収中。
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