コンテンツホルダーこそエンタメ業界に変革を起こせる。
「知られざるテックカンパニー」エイベックスの無限の可能性
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1988年に創業し、90年代の圧倒的な音楽シーンをつくったエイベックス。音楽レーベルとしてのイメージが強いが、実は2000年以降はインターネットやテクノロジーの進化に合わせて、リアル・デジタル双方のエンタテイメント全般を革新的に発展させてきた歴史がある。
企業としても、エンタテイメント×テクノロジーの「エンターテック企業」であることを前面に打ち出す今、具体的にどのような事業があり、どのような可能性を秘めているのかを聞いた。
- TEXT BY TOMOMI TAMURA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
イベントや登壇者を定量的に評価するAI
エイベックス=音楽アーティストという印象が強いなか、それぞれ新たな事業に取り組まれていると聞きました。具体的に、担当されている事業について教えてください。
山田僕はCEO直轄本部で2つの事業に取り組んでいます。その一つが、全社を横断したマーケティング組織の組成です。これまでのエイベックスは、音楽、アニメ、デジタルの主要三事業や、海外事業など、各事業部による縦割りのマーケティングで事業成長を促してきました。
そうして大きくなった事業をドライブさせるためには、全事業を横断して、すべてのデータを集めて分析できる環境が必要だと考え、横断的なマーケティング部を2017年4月につくりました。
山田組織を立ち上げて2年目ということで、まだ大きな実績はありませんが、動画の再生数やソーシャルでの話題数、ファンクラブの退入会推移、ECの売上状況状態などを集約し、日々のデータをリアルタイムにスマホで見られ、すぐにアクションを取れる仕組みを作っています。
もう一つ、新たな事業として進めているのは、「AIによる来場者感情分析」です。これは、ライヴ会場などにカメラを設置し、来場者の感情を時系列で感知するというもの。採取できる感情は「怒り」「軽蔑」「嫌悪感」「恐怖」「喜び」「中立」「悲しみ」「驚き」の8種類。すでにいくつかのライヴ会場で実施しており、ゆくゆくは外販を目指しています。
たとえば、映画の試写室に導入することで、どんな属性の人がどの場面でどう楽しんでいるのかが分かります。それを製作者に届けるツールとして販売できると考えているのです。
つい先日も、ラスベガスで開催されたカンファレンスに参加して、参加者の反応を分析しました。すると、ある登壇者のときは多くの人がずっと下を向いている、またある登壇者のときは喜んでいるなどのデータが取れたんですね。
登壇者や、イベントそのものを定量的に評価できるデータはこれまでなかったものなので、ビジネスの広がりを感じています。こうした、データドリブンな新しいチャレンジを貪欲に進めていきたいと考えています。
日本の花火が、最先端デジタルと融合
坂本僕は音楽やコンサート以外の、リアルエンタテイメント事業を担当しています。具体的には、花火に最先端3Dサウンドとショーパフォーマンスを融合させた、未来型花火エンタテインメント「STAR ISLAND」や、国内最大規模のeスポーツイベント「RAGE」、アメリカ発祥のマインドフル・トライアスロン「WANDERLUST 108」など、総合的なエンタメです。
坂本STAR ISLANDが生まれたきっかけは、音楽イベントのULTRA JAPANのクリエイティブディレクター小橋賢児さんが、イベントの最後に打ち上げる花火を見て何か新しいことができのではないか?と相談を受けたことで、花火をよりエイベックスらしいエンタテインメントにできないか、と考えたのです。
日本の夏の風物詩として花火は大衆的ですし、各地の花火大会には数万〜数十万人もの人が集まります。僕自身、この集客力をもって花火の有料イベントができたら新しい価値を生めると思っていたので、小橋賢児さんを中心にクリエイターを集めエイベックスのリソースと組み合わせSTAR ISLANDは立ち上がりました。
お台場で開催するSTAR ISLANDは、興行のみの収支で継続していく事は厳しいのですが、そもそも僕はイベントだけでマネタイズすることを考えておらず、それをトリガーとして次のビジネスにつなげることを目指しています。たとえば、企業との提携やライセンスビジネス、また社内の事業部でのマネタイズなど、いろいろと可能性はあるはず。インターネットやVRなどでの多面的な展開も可能でしょう。
今後も、仕掛けたいイベントや事業はいくつかあり、水面下ではビッグプロジェクトを進めているところです。
業界を刷新し、キャズムを超える
水野僕も山田さんと同じく、2つの新規事業を担当しています。一つは、クラウドでエンタメ人材のプラットフォームを作る事業。昔と違い、今は人気者の定義が変わっていますよね。ほんの一握りのトップアーティストだけでなく、動画配信領域でユーチューバーやイチナナのライバー、SHOWROOMのショールーマーなどが増えています。また、SNSで活躍するいわゆる”インフルエンサー”などがいますが、例えばそういった人材にアプローチできる仕組みを構築したいと考えています。
水野加えて、エイベックスにはアーティストの“卵”がたくさんいて、エイベックス・アーティストアカデミーには数千人、エイベックス・ダンスマスターには全国で1万人以上が通っており、さまざまなオーディションを受ける人は、毎年延べ1万人以上います。
そういったエンタメ人材の将来の可能性を育むために、プラットフォームを設計中です。エイベックスというエンタメのプロダクションが、ネットで完結する人材プラットフォームを作ること自体、自社を破壊するイノベーションであり得る訳ですが、自分たちがやらなければ外部企業に先を越されてしまい、それこそ「イノベーションのジレンマ」に陥ってしまう。
そういった社内的な理解も得て、これは早くて年内、遅くても年度末のリリースを目指しています。
もう一つはバーチャルアーティスト、いわゆるVtuber事業です。Vtuberは発信源がバーチャルなだけで、いかにリアルで突き抜けられるかがとても重要なんですね。ライヴやイベントなどリアルの興行というキャズムを超えないと大きな収益性のある事業に昇華させることは難しく、このままだと多くのVtuberは行き場を失うと思うのです。
その点、エイベックスは自社内にキャズムを超えられるコンテンツやノウハウをたくさん持っているので、この領域で勝負しようと考えました。
足りないノウハウや知見はすべて集め、自社のスタジオでVtuberのコンテンツを作ることのできる環境を構築しました。実は、戦略的にエイベックスの社名は伏せて、すでに世の中にコンテンツを出しています。
今後は実際のアーティストやアイドルのようにライヴや配信、ファンクラブもあるような立体的な展開を想定しています。
最大の強みは、コンテンツホルダーであること
エイベックスと聞くと、音楽の会社というイメージを持つ人は多いと思うのですが、実際は、最新テクノロジーを活用した総合エンタテイメント企業であることがよくわかりました。新しい事業を立ち上げるにあたり、他社にない強みは何だと思いますか?
水野エイベックスの一番の強みは、コンテンツホルダーであることだと思います。世の中にはさまざまなプラットフォームがありますが、それ自体はコンテンツを持っていないことがほとんどです。逆に、コンテンツを持ち、プラットフォームに提供していた側のエイベックスが、その領域に参入する体制さえ整えば、全然違う世界になる可能性がある。
山田コンテンツを持っている強みは間違いないですね。あと加えるなら、ボーダーレスに、さまざまな企業と提携できること。NTTドコモと映像配信サービス「dTV」をやりながら、現在はサービスを終了していますが、ソフトバンクと合弁で立ち上げた音楽・映像配信サービス「UULA」をやるなど、競合同士の企業ともフラットにお付き合いできるのは強みではないででしょうか。
坂本仕事に対する自由度は高いですよね。僕の場合は、大規模なイベントだけでなく、イルカのショーをプロデュースしたり、海の家を開いたり。自由に新しいことを実現させています(笑)。
いずれ、働き方が会社や事業部に閉じた状態ではなく、プロジェクト単位で外部の人も含めていろんな人をアサインできるようになれば、もっと先進的で革新的なエンタメは生まれるのではないかと思っています。
山田新規事業を自由度高くやりやすい背景には、企業文化が大きく関係しています。音楽領域は、1〜2割のヒットアーティストが全アーティストを支えるという構造を取っているため、僕らの事業も10の新規事業から1のヒットを生み出せばいいという考えが根付いているんですね。だから、新しいことに挑戦しやすく、そのぶん失敗も多いため、それを糧に成長速度が上がったのだと思います。
リアルとデジタルの融合、そしてリアルを研ぎ澄ます
今後、エンタメ業界はどのように進化していくと思いますか?
山田サブスクリプションモデルの勝ち筋をいかに見つけるかだと思っています。その鍵を握るのはデジタルマーケティング。海外のエンタメ企業はマーケティングをものすごく研究して、ヒットするコンテンツを制作しています。どのタイミングに、どんなアクションを取れるかで、未来が決まる。だから、僕らもマーケティング戦略で世界に仕掛けていきたいと思っています。
坂本リアルエンタテインメントとテクノロジーは切り離せません。10年前と今では、ライヴやイベントなども音響・照明・映像だけを見ても、世界観が全く違いますよね。8Kの映像技術を活用すれば、より臨場感のある、高品質なコンテンツが、会場に行かなくてもライヴ配信で楽しめる。テクノロジーを活用することで、リアルエンタテインメントの楽しみ方は無限に発展すると思っています。
水野僕は、リアルとデジタルの垣根が曖昧になると思っています。たとえば、Vtuberがキャズムを超えるには、リアルとの掛け合わせが鍵になる。
例えば、東京ドームでのライヴを現場はもちろん映像をスマホで同時視聴でき、現場にいなくても演出にスマホから干渉して、バーチャルアーティストと会話できるようになったり、ギフティングできるようになったらリアルとデジタルの垣根は曖昧になりますよね。これは、テクノロジーをエンタテイメントに掛け合わせることで実現する、一つの未来の形だと思っています。
ただ、人間はデジタルのつながりが強まれば強まるほど、リアルでの体験を大切にしたくなる生き物だと思うんですね。だから今後、仮に網膜投影型のARやMRが当たり前になる世界になったとしても、リアルで誰かとご飯を食べたり景色を見たりする行為は変わらない。特にエンタメ業界では、デジタルが発展すればするほどリアルの価値が上がるのだと思っています。
人の人生を変える事業=エンタメ
エイベックスの総合エンタテイメントを加速させるために、どのような人材が必要でしょうか?
山田世の中へのインパクトの与え方はさまざまありますが、エイベックスがやっているのは、人に喜んでもらい、人の人生を変えること。アーティストが好きだというミーハーな観点よりも、人の人生をポジティブに変えられることに価値を感じる方には、ぜひ選択肢の一つにエイベックスを入れてもらえたら嬉しいです。
それから、僕は勤続20年なのですが、ここまで続けられたのは、時代の変化やテクノロジーの進化に合わせて、常に新しいことをやり続けられる環境だったからなんですね。今後、指数関数的にテクノロジーは進化すると言われているので、エンタメ業界が生み出せる新たな価値は無限だと思うんです。そういったチャレンジングな環境に興味がある方もぜひ来て欲しいですね。
坂本僕自身がそうなのですが、エイベックスという会社が持つ莫大なリソースと信用をうまく活用して成長したい人は、最高の環境だと思います。いずれプロジェクト型の働き方がスタンダードになったとき、エイベックスのリソースと信用があるのは強力な後ろ盾になると思いますよ。
ライヴ事業を担当していた黒岩(代表取締役社長COO 黒岩 克巳氏)が社長に就任したり会社の組織や評価制度が大きく変わったり、いまのエイベックスはまさに変革期。
「音楽」で培ってきたエイベックスのアセットにテクノロジーをかけ合わせて新しい変革を起こし、社会に大きな感動を与えたい若者にはうってつけの環境です。
テック系ベンチャーで働く人々には、もっとエイベックスという「テックカンパニー」を知ってほしいですね。
水野まさに僕も、ハッカソンやアイデアソンに行くと、学生から「エイベックスにエンジニアが求められているとは思いもよらなかった」という話を聞くんですね。アーティストが楽曲をリリースして、ライヴをして、というイメージが先行すると思うのですが、エイベックスは総合エンタテイメント企業。音楽はもちろんのこと、リアルイベントやバーチャル、またその先にある新規ビジネスなど、裾野は無限に広がっています。
だからぜひ、エイベックスが持つ大量のコンテンツにテクノロジーを掛け合わせて、新しい価値を生みたい人、個人的にはアプリを作れる人に、選択肢の一つに考えてもらえたら嬉しいです。
こちらの記事は2018年09月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
田村 朋美
写真
藤田 慎一郎
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