「食でライフスタイルに温もりを」
じげんマフィアが自宅をレストランに変革
日経トレンディの2017年ヒット商品予想第2位に選ばれ、とくダネ!やスッキリ、TechCrunchなど多くのメディアで取り上げられている食材宅配サービス、「TastyTable(テイスティーテーブル)」。
運営会社である株式会社ブレンドを経営するのは28歳の経営者、田尾秀一。
彼は新卒入社第一期生で株式会社じげんに入社し、わずか2年で子会社である株式会社にじげん取締役に就任。
業績を10倍以上にまで伸ばした実績を持つ。
若くして豊富な経験を持つ田尾。何を考えキャリアを選んできたのだろうか。
- TEXT BY FastGrow Editorial
成果の出し方は人それぞれ
新卒入社第一期生としてじげんに入社されていますね。
田尾そうです。学生時代はITベンチャーでインターンを経験していて、IT領域に就職することは決めていました。なぜならITはスケーラビリティが非常に高く、単体で成り立つものもあれば、なんにでも掛け合わせられる。IT×不動産、IT×医療など、ツールとしての強さもあり、これから伸びていく業界だと確信していました。
あとは将来起業したいという考えもあって、会社が小さい規模から大きくなっていくまでの変遷を見たかったんです。そんな考えで就職先を探していた時、あるイベントでじげんを知りました。
その時じげんの創業者である平尾丈さんも参加されていて、運よく直接話を聞く機会がありました。
田尾話してみると驚きましたね。すごいビジネスオタク(笑)。僕はビジネスの仕組みを作ることができ、再現性のある経営者になりたかったので、平尾さんのような優秀な経営者から学びたかった。
一番自分のやりたい事業、これから伸びていく会社のフェーズ、理想的な経営者、この3つがマッチしていたこともあって、じげんに入社することを決めましたね。
じげんに入る前から強く経営者になることを意識していたんですね。
田尾実は小学生くらいから社長になりたいと思っていました。理由は成果が青天井だから。
経営者という仕事は自分の決断次第で大きなリターンを生み出せる。それはキャリアにおいてかもしれないですし、金銭的においてもそうかもしれない。チャレンジしがいがあってとても魅力的な仕事です。
また、ビジネスで成功すれば世の中に計り知れない影響を与えることができます。例えばiPhone。この10年で人々の生活を劇的に変えた製品でありビジネスです。そんな影響を自分の努力次第で生み出せる。そこが経営者になりたいという想いの根本です。
ただ起業には失敗する可能性もありますが、自分に能力があれば最悪再度会社に入るなど絶対に生活を維持することはできます。
それに起業を経験すれば人材としての価値も上がるはずです。だから世の中で思われる起業におけるリスクというものは正直ほぼないんです。
入社されてからはどうでしたか?
田尾実は内定者インターンとして大学4年次から働いていました。じげんは面白くて、インターンなのに新卒採用を任されました(笑)。
その後採用業務も行いつつ、既存のプロジェクトにアサインされたタイミングで新規事業も任せてもらえたんです。自分が優秀だから仕事をもらえたというより、最初はやりたいやりたいと言っているからやらせてあげようといった感じだったと思います。
もちろん自分だけじゃできない部分だらけで、直属の上司から事業運営や営業に関するイロハを教えてもらったり、マーケティングと言ったらマーケティングの人が教えてくれたり、サイトを作るとなったらエンジニアとデザイナーの人に相談したり。そういう状態で色々教えてもらいながらやっていました。コードを書く以外の仕事は幅広く全部やりました。
それだけのスピード感で仕事を任されると、やはり困難な事も多くありましたよね。
田尾そうですね。成長で悩むことはありました。最初は営業やマーケティング、サイトのディレクションなど、やることを絞ってなかったんです。
でもある時自分の得意なことにフォーカスしました。
成果の出し方って人それぞれあると思うんですよ。僕は比較的パソコンとにらめっこしてどこに問題があるんだろうとか、どこをチューニングしたらいいんだろうとか、そういう数字ドリブンでやるのが好きでした。
だから自分がやっていたジャンルのサイトで、ここにたくさんユーザーがいる、だけど全然売り上げに繋がっていない。これをどうやってその人たちが問い合わせを行うようにするか、結果的には会社の売り上げに繋がるかというのを考えていました。
こういう露出にすればコンバージョンするんじゃないのかという仮説をたてて、試してみたいと上司に相談し、絶対意味ないとか言われてもとりあえずやりましょうと(笑)、無理矢理説得しながら自分が得意な事をやっていましたね。
すると成果が出るようになり、社内でMVPをとることもありました。
「逆張り」が思想の根源
入社2年目でじげんの子会社、にじげんの役員に就任されましたね。
田尾はい、自分が管理していたサイトも大きくなっていた頃です。実は当時株式会社にじげんはまだ規模もそんなに大きくないフェーズでした。
同じウェブサービスではあるものの、じげんのメインサービスはクライアントからお金をもらうBtoBビジネス。にじげんはBtoCのビジネスだったので勝手が全く違いました。M&Aなどを行って新しいノウハウを取り込んだりしていたのですが、なかなか芽がでなくて。
そんな中、担当者が変わるタイミングがあり、その人から「じゃあ田尾お前やれば」といった感じで、良くも悪くも抜擢されて、面白そうだからやってみようと思って引き受けました。
やれるという確信はあったんですか?
田尾どうにかできるとは思っていたんですけどロジカルな計画があったわけではないです。
僕はベースの考えが逆張りなんですよ。普通の人があまりやらない事をやった方が面白い。
じげんに入社する時もそうで、当時は「もうちょっと大きい会社とかのほうがいいんじゃない」と周りからすごく言われていました。だけど自分はじげんに入社するほうが得るものが大きいと思っていたので周りの言葉よりは自分の意思決定を優先しました。
人がダメと言っているけど自分がいいと思っている選択はだいたい勝ちます。にじげんって規模も小さければ、当時は上手くいっていない会社。ただ今までやってきたことと違う領域になるので、得られることは多い。おまけにこれを立て直したらかっこいい。そんな考えでにじげんの取締役を引き受けました。
経営してみてどうでしたか?
田尾予想以上にうまくいきませんでしたね(笑)。 今までやってきた方法では全く効果がなくて。
サイトを改善してデザインを良くしても伸びず、マーケティングするけど伸びず、規模がダメなのかなと考えて企業買収。それでもうまくいかなかった。このまま継続するのも厳しくなっていく中、そもそも考え方を変えようという話になりました。
やはりBtoCとBtoBの根本的な考え方が違ったので、いくつかやり方を抜本的に変えたんです。
じげんではアクセスを増やしたり、サイトのユーザビリティを上げたりすることが基本的なサイトの収益最大化につながるキーの要素だったんですよ。だけどにじげんはBtoCビジネス。なのでユーザーの満足度をどうやって上げるのかにフォーカスしたんです。
するとそれが施策としてすごくはまって、どんどん伸びていく循環に入りました。結果的にそこまで1年半か2年くらいかかりました。
その後業績も安定してきたので、代表に今度は自分で起業したいと言って後任に引き継ぎました。僕がやめるときの業績は入った時と比べると10倍以上にすることはできました。
行動しない事が一番ダメ
ブレンドの構想はどうやってできたのですか?
田尾僕たちが現在行っているサービス「TastyTable」はミールキットという、使い切りの食材と調味料、有名店のプロが監修したレシピをセットにして宅配するサービスです。
田尾TastyTableは元々自分がユーザーとして使いたかったサービス。昔から同じ様なビジネスをやられている企業さんもいたんですが、ミールキットは時短を目的としたサービスが多いんですよ。野菜などの材料は全部切られていて、あえたら完成、料理するのがめんどうな人達のために設計されています。
でも僕たちのサービスは料理することの楽しさを伝える、体験してもらうことを優先して設計しています。少しだけ手間をかける分、自宅でレストランのような料理が作れます。
だから週末に時間があるタイミングで、作って食べて気の置けない恋人や家族、仲間と素敵な時間を過ごしてほしい。そういった思いがあって今のサービス設計にしています。
実はブレンドは元じげんの同僚の3名で創業した会社です。このビジネスのアイディアは退社前から持っていたんですが、他の2名は以前からフリーで動いていた中で僕はまだ会社にいたので、計画や具体的な事は僕が退社してから用意を進めました。
8月末にじげんを退社。9月から起業のために動き始め10月にはサイトをオープンし、11月から配送開始しました。本当に一気に起業した感覚です(笑)。
ブレンドのビジネスは今まで携わってきた事業とは違い、ネット上だけでは完結しないサービスですが、困難はありましたか?
田尾たくさんありました。これまではネットだけでサービスが完結するものが多かったので、まず在庫や実際の商品の宅配があること、またレシピの開発など、これまで全く経験したことがない領域だったので、初めはどうやっていいのか全くわかりませんでした。
だからいろんな人に会いに行きました。まず有名なシェフの方々に会いに行って一緒にレシピを作ってもらえないか相談しに行く。仕入れ先も良さそうな会社をリストアップしてとにかく地道に数をあたりながら、取引先になってもらえないか交渉していました。
全く0からのスタートは経験したことがなかったので大変でしたね。だけど、いろんな方と話していく中で、僕たちのアイディアに賛同してくれる方も多くいて、仕入れ先やレシピを考えてもらうプロの料理人の方とのネットワークがだんだんと広がっていきました。
今では魚は明治時代から創業されている築地の老舗仲卸「尾辰商店」さん、お肉はTV番組カンブリア宮殿でも取りあげられた「プレコフーズ」さん、野菜は一流ホテルなどに卸している大田市場の「丸和商店」さんなどの厳選した食材を安定的に提供していただける取引先を確保出来ました。
また、レシピに関しても、初期から人気イタリアン「ダル・マット」オーナーを務める平井正人シェフや、ミシュラン一つ星を獲得したフレンチレストランにて料理長を勤めていた「モノリス」石井剛シェフなどにも参画頂き、今ではさらに多くの一流シェフの方々に監修していただいています。
だからこそ、レストランのような食事を自宅の食卓で堪能できるサービスを運営することができています。
今後、ブレンドとTastyTableが目指していく世界観は?
田尾昨年日経トレンディさん恒例企画の、2017年ヒット商品予想の特集で「ミールキット」としてTastyTableが第2位に選ばれました。それからVOGUE JapanやZIP!、とくダネ!、スッキリなど数多くのメディアにも取り上げられ、おかげさまで知名度もユーザーもどんどん広がっています。
僕たちとしては出来るだけ多くの人にTastyTableを使っていただきたい。また1年で365日、朝昼晩と3回ある食事の中で、多くの機会にTastyTableで良い体験をご提供したいと思っています。
そのために、イベントやパーティーなどで使えるミールキット、平日のために少し簡単に作れるミールキットなど様々な利用用途に合った商品を今後準備していきたいと思っています。
また食というのは、人の生活・ライフスタイルに大きな影響を与えることのできるものだと考えています。一方で、今の時代はデザインやテクノロジーの力がより大きく、これだけ人に日常へも影響力が増している中で、食の分野においてはまだそこを活かしきれてない部分も多く感じています。
ブレンド社としては、最大限ITの力を駆使しつつTastyTableというサービスを通して新しい体験性や付加価値をどれだけ生み出すことができるか、本当にユーザーにとって価値のあるサービスを作っていけるかをチャレンジしたいと思っています。
こちらの記事は2017年10月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
FastGrow編集部
連載未来を創るFastGrower
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