連載0→1創世記

Tinderみたいにカジュアルに転職活動
リクルーティングアプリ「GLIT」を生んだCaratのハイペースな事業構想の理由は?

インタビュイー
松本 直樹
  • 株式会社Carat 代表取締役社長 

同志社大学商学部卒業(2014年)。SHIFTに入社し、外資系大手SIer案件にてオフショアへのテストアウトソーシングのコンサルティングを行う。新卒1年目から部署の立ち上げを行い、営業/顧客折衝/提案/プロジェクト管理/予算管理/採用と幅広い業務を経験後、海外に設立した子会社の立ち上げ支援を行う。

齋藤 陽介
  • 株式会社Carat 取締役兼最高技術責任者 

京都大学大学院情報学研究科修了(2014年)。大学院時代はインターネット広告におけるリアルタイム入札の研究を行い、経済学で用いられる市場モデルを応用した入札戦略を提案。SHIFTに入社し、業務用Webアプリケーションの開発に携わる。 設計・開発、運用から営業支援に至るまで、あらゆる工程を経験。

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今年6月に正式版がリリースされたアプリ「GLIT(グリット)」は、求人情報を左右にスワイプして“興味あり/なし”をつけていくカジュアルなリクルーティングサービス。

スマホに特化した操作性で、隙間時間で就職・転職活動を行うことができる。

保守的な仕事観を持った人は眉をひそめそうなほどの気軽さが特徴の同アプリを生んだ株式会社Caratの代表取締役社長・松本直樹は、“逆張り精神”を重視している。

  • TEXT BY MISA HARADA
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
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同級生たちが絶対知らない“イケている会社”に入りたかった

今年26歳を迎えるという若さの松本は、同志社大学を卒業し株式会社SHIFTに新卒で入社。京都大学大学院を修了した齋藤とは、SHIFT同期入社の仲だ。

しかし、ソフトウェアの品質保証やテスト事業というSHIFTの業務内容は、学生の目には少々地味に映るものではなかったのだろうか?

松本基本逆張りで行きたいんですよ。同級生たちが絶対知らないところ、でもめっちゃイケているところに行ったろ!と思って。皆が知らないっていうことは、競争倍率が低いので勝てるチャンスも大きいと判断したんです。

齋藤自分はIT系ベンチャーの社長に憧れていたので、サイバーエージェントさんやDeNAさんと一通りチェックはしました。でも、人と違う道を選びたい気持ちが大きくて。大学院時代は周りが優秀な人ばかりだったので、僕はキャリアのどこかで他人と違う選択をしないと彼らに勝てないと考えたんです。

ニッチでもマーケットがあるし、勝てるロジックがある。

SHIFTの代表取締役社長である丹下大と触れ合い、そんな“勝てそうな感じ”を嗅ぎ取った2人には、もともと起業への憧れがあった。

とくに松本は、「25歳で会社を作りたい」という確固たる目標を持っていた。そのためSHIFT では、3年間で学べるだけ学ばねばとがむしゃらに働いた。

そういう意味では入社のタイミングもよかった。入社半年ほど経過した2014年11月、会社が東証マザーズに上場。SHIFT全体で“社員は手を挙げて好きなことにチャレンジしてもいい”という方向に進んでいったのだ。

気づけば松本は、若手社員であるにも関わらず、部署を立ち上げて30人以上いるメンバーのマネジメントを担当したり、ベトナムに子会社を立ち上げるプロジェクトに携わったりなど、経営会議に参加する立場となっていた。

SHIFTでの仕事はやりがいがあるものだったが、起業への憧れは冷めず、予定通り25歳で退社。齋藤と、もう1人の共同創業者(現在は退社)も一緒だった。

松本私は非エンジニアなんで、優秀なエンジニアと一緒にやりたいというのは起業の絶対条件でした。その相手を25歳までに見つけられなかったら、起業を先延ばしにするか、私には運がなかったと諦めるかの2択だと思っていたので。でも社内で2人も出会えたので、じゃあやるしかない!と。

がっつり仕事で組んだ経験があるわけではなかったが、それでもお互い相手の実績は知っていた。齋藤は、「彼となら大丈夫だ」と感じたことを明かしてくれた。

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テクノロジー化されていない部分をテクノロジー化していく

「GLIT」の操作性は、Tinderなどのマッチングアプリに非常によく似ている。通勤途中の電車の中で、求人情報を右に左にスワイプしていくだけで、自分に合った企業が見つかる。

保守的な人は「仕事探しはそんなに気軽にするものじゃない」と眉をひそめるかもしれないが、松本は、“転職活動はあまりにも面倒だ”という問題意識を感じていた。

松本は、経験として転職サイトに登録してみたことがあるのだが、毎日大量に届くメールには辟易したという。また、無数の求人情報を自らチェックしていかなければならない仕組みにもげっそりさせられた。

SHIFTという会社に身を置いていたことにより、転職エージェントから品質保証に関わる職種やシステムエンジニア職ばかりが提案されることにも違和感を覚えた。

確かに業務内容は近いかもしれないが、異業種にだってマッチする企業はあるのではないか――。その考えにより、「GLIT」では表示される求人情報に“ランダム感”をあえて残している。

松本転職って基本的に楽しくないじゃないですか。新卒のときはまだ『これから自分はどう生きていきたいだろう』というワクワク感があったかもしれませんが、転職だと『今の会社は嫌だ』とかネガティブな感情が動機になってしまいがち。転職というものを、もう少し楽しみながらやれる世の中になればいいなと思ったんです。

「GLIT」によって転職活動をカジュアル化するというのは、求人を出す企業側にとっても「現職に満足していても他に良いオファーが合ったら検討したい」という潜在層にアプローチできるメリットがあると指摘する。

また、成果報酬や紹介料などを削減することで、企業側にとっても安く無駄なく求人・採用ができるサービスとなることを目指している。

松本は、“起業したい”という気持ちは強かったが、特別このジャンルで仕事をしたいというこだわりがあったわけではない。

現在の「GLIT」に落ち着いたのは、問題意識ももちろんあるが、今まで浮かんだアイデアの中で一番勝算が見えたというのが大きい。完全にマーケットインで事業内容を決めた形だが、Caratのコアとなるビジョンを挙げるとすれば、どんなものになるのだろうか?

松本テクノロジー化されていないところをテクノロジー化して、無駄な工数がかかっているところを上手く仕組み化していきたい。絶対このマーケットという強いこだわりがあるわけではありませんが、Caratとしてそういう事業をやっていきたいというのは創業時から話していることです。

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「自分をすごく優秀だと思っている人」のジョイン希望

“テクノロジー化”を会社の大きなキーワードにしている以上、Caratでエンジニアは非常に重要な存在だ。齋藤に“理想の人材”についてたずねると、「自分をすごく優秀だと思っている人」という意外な答えが返ってきた。

そういう自信家を嫌う企業は多そうなものであるが、どういった魂胆なのだろうか。

齋藤『勉強させてください』というテンションよりは、自分は優秀だから将来的に執行役員になってやるみたいな勢いのある人がいいです。ぜひ僕たちを踏み台にしてほしい。

転職アプリをリリースしていることもあって、Caratでは1つの会社でのキャリアをそこまで長いものとして捉えていない。スキルがあることが前提であるが、“踏み台”であることを明言してくれたって構わないそうだ。

メンバーの提案は可能な限り受け入れたい。それは、松本が20代前半では普通担当させてもらえないような仕事をSHIFTで任せられた経験から生まれた感情だ。大仕事によって人は一気に成長する、だからこそチャンスは提供したいと考えている。

松本は、職場としてのCaratの魅力を「0→1フェーズに立ち会えること」と語る。「GLIT」というプロダクトをリリースしたが、松本は、まだ0から1にはなっていない段階だと厳しい自社評価を下す。

なぜなら、まだ「GLIT」に関しては売り上げを伸ばすために試行錯誤が続く状況だからだ。

松本今は『これをやったら伸びる』という正解もはっきり見えていない状況だから、仕事として大変なのは事実なんです。でもそんな悩みが持てるのは、事業の初期段階だけじゃないでしょうか。1から10は普通の会社でも学べますが、0から1を生み出す段階に立ち会うのは貴重な経験になると思います。

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お葬式にたくさん弔問客が来てくれるようになりたい

Caratは、今後さらなる事業を展開していき、将来、投資を受けているスカイランドベンチャーズにおける最初の大きなエグジット例となることを目標としている。同社から投資を受けることを決めたのも“逆張り精神”が根本にある。

すでに大きなエグジット例がいくつもあるベンチャーキャピタルから投資を受けたところで、自分たちが一番になることは難しいと考えたのだ。

松本は、「逆張り精神の持ち主なんで」と冗談めかして語るが、彼の言う“逆張り”とは結局のところ、よくある選択に流されるのではなく、1つひとつの選択肢を吟味することで一番になれる場所を見極めるという非常にロジカルな行動だ。

松本の“一番になること”へのこだわりは強い。25歳で起業して、30歳で事業の地盤を整えてスケールアップさせるフェーズに進む、というように、かなりハイペースな計画を描く理由には、父親の死が関わっている。

父親が40代前半で亡くなったため、松本は、「自分も最悪40歳で人生が終わる可能性がある」という考えを持って生きてきたという。

松本だから40歳で会社が上場するなり、世の中に認められる状態にいたい。お葬式にたくさん人が来て、『すごい人だった』と思ってもらえるとかね。別にすごいと思ってもらう対象は僕自身じゃなくて、会社とか事業でもいいんです。あとは僕が亡くなっても会社は続いて、残った人たちで新しい事業をやってくれるとか。

そういうふうに自分が亡くなった後も何らかの形で生きた証が残っていくというのが理想です。

こちらの記事は2017年12月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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池田 有輝

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