チャットコマースで実現する真のOne to Oneマーケティング━━2023年、“Cコマース”が世界の潮流に
コロナ禍におけるパンデミックはあらゆる業界にDXの波を引き起こし、消費者行動を大きく変えた。中でも特にEC領域は爆発的に成長し、「パンデミック絶頂期にはわずか90日間で10年相当の成長を遂げた」とも言われるほど。また、世界のEC売上は2021年時点で既に4兆ドルに到達したとの見方もあり、今後も年率30%の成長が継続すると予想されている実に“ホットな領域”だ。
その中で企業・消費者両者の観点から注目を集めているのが“チャットコマース”。デジタルネイティブ世代の消費者の多くは、既に商品のマーケティング、販売、サポートをオンラインで完結させることを望んでいるのではなかろうか。また昨今「Chat-GPT」が世間を賑わせているが、SNSやメッセンジャーアプリなどのチャットツールは、企業と消費者がコミュニケーションや取引を行うためのより便利な手段となりつつあり、今後もますます目が離せないと言える。
そこで今回でAIチャットボット×コミュニケーションデザインでユーザーに新たな接客体験・購買体験を届けるチャットコマース®️『ジールス』を展開し、グローバル視点でのトレンドにも詳しいZEALSの取締役COO、遠藤竜太氏をお招きした。チャットコマースの市場で今どのような変化が起きているのか、また我々の暮らしがどう変わっていくのか、余すことなく聞いていく。
『WeChat』『FacebookMessenger』『LINE』
APIの開放がチャットコマース市場誕生の皮切りに
まずは、「そもそもチャットコマースとは?」についておさらいしておきたい。チャットコマースは海外では「Conversational Commerce=会話型コマース」とも呼ばれ、アプリ上で“ユーザー”が“チャットボット”と対話をしながら、商品の予約や購入といった意思決定(マーケティングで言うところの“コンバージョン”)が全てが完結する状態をさす。
しかし、実のところ“チャットボット”というテクノロジー自体はそんなに目新しいものではない。2013年に、テンセントが運営するメッセンジャーアプリ『WeChat』が中国国内限定でチャットボットAPIを公開したことを皮切りにこの市場はスタート。続いて、2016年には『Facebook Messenger』と『LINE』が全世界向けにAPIを公開したことでこのテクノロジーは一気に世の注目を浴びることとなる。
世界のスマートフォンの普及率が一定割合を超え、アプリによる商品やサービスの購入が一般的となるにつれて、「アプリ上で、接客対応が自動化されていくのでは?」という期待が寄せられたのだ。
その期待を受けて、多くの企業が“チャットボット”の開発に勤しんだ結果、2016年〜2018年の2年間で技術が革新的に進歩した。結果、多くのサービスにチャットボットが搭載されていくという大きなトレンドが発生したのである。
しかし、当時のチャットボットは、現在のような“マーケティング”の文脈ではなく、“カスタマーサポート”としての機能に偏っていたと遠藤氏は指摘する。
遠藤確かに、当時“チャットボットバブル”と形容できるほど、チャット形式での接客対応を目的としたAI搭載型のチャットボット技術が進歩しました。
一方で、市場には多くのプレイヤーが生まれましたが、その99%以上がチャットボットを“カスタマーサポート”のために使っていたんです。つまり、WEBページ上のポップアップなどでチャットボットが「お困りごとはありますか?」「問い合わせはこちら」といったように、ユーザー側で悩みが表出した際にサービスが対応するといったようなものですね。
これらのチャットボットによる“カスタマーサポート”の機能は、確かに顧客対応にかかる人的リソースの削減を果たした。一方、それらをどのように購買行動に紐付けるか、つまりマーケティングやセールスといった領域に転用させ、事業成長に直接つながるようにできるか、という観点は置き去りにされていたのだ。
マーケティングにパラダイムシフトを起こした二つの転換点
それでは、いつから現在のように、チャットボットがマーケティングにも活用され、“チャットコマース”という市場が誕生するに至ったのだろうか。そこには大きな二つの転換点が存在するという。
遠藤チャットコマースが現在注目を集めている理由は大きく分けて二つあります。
まず一つ目、商慣習の大きなトレンド変化です。ECの商慣習を振り返ると、2000年代はPCが普及し、WEBサイトで物を購入する時代。そして2010年代はスマホの普及によりモバイルアプリでの購買が簡単になりました。するとどうなったか、企業やサービスが各々独自のアプリをリリースした結果、マーケットには大量のアプリが生まれました。
ここで問題が発生したんです。実は、エンドユーザーが各社のネイティブアプリをダウンロードしても、3ヶ月後には7割のアプリが使われていないという調査結果がでています。
一方で、LINE、Instagram、WeChatに代表されるスーパーアプリは、エンドユーザーの生活基盤に深く関わるようになったため、ほぼ毎日と言っていいほど利用されています。そこで、企業は自分たちでネイティブアプリを作るのではなく、これらのアクティブなアカウント上に法人格として参入していくことで、アクティブなインターフェースで顧客とコミュニケーションができるように進化していったんです。このようにして2020年ごろから、ECマーケティングの主戦場がネイティブアプリのチャット上で展開できるチャットコマースに移行しているというわけです。
二つ目の潮流がマーケティングの領域におけるCookieの規制にあります。AppleがCookieを廃止する以前のデジタルマーケティングは多くの企業がWEBサイトを通じて個人のサードパーティCookieを明確な同意もなく取得していました。
これはつまり、複数のWEBサイト上で同一ユーザーの行動が追跡できて、特定の商品に興味がありそうなユーザーにリターゲティング広告を当てて、購買に結びつけることができたんです。
しかし、徐々にその倫理観と焼き畑的な手法が問題視され、ついにAppleやGoogleはCookie取得を規制しました。これはデジタルマーケティングが健全な方向に向かったのと同時に、企業の広告費に大きなネガティブインパクトを与えました。
そこで、注目を集めているのがチャットコマースです。
ECの商慣習におけるパラダイムシフト、そして各国で進む個人情報保護に関する法案策定やCookie規制の強化。企業を悩ませる二つの課題に対するソリューションという形でチャットコマースが注目を集め、成長を遂げているのだ。
そして、チャットコマース市場を正しく理解するために、もう一つ押さえておきたい潮流として遠藤氏が挙げてくれたのが“ゼロパーティデータ”である。ファーストパーティデータが企業が取得する顧客の情報、セカンドパーティーデータは他社が取得したデータ、サードパーティデータは第三者が提供するデータ、というところまでは感覚的にも理解が可能であろう。
一方で、現在最も価値のあるデータと称されるこの“ゼロパーティデータ”とは一体何を指すのだろうか。
遠藤ゼロパーティデータとは、「顧客が企業に明確な意思を持って、自らの意思で提供したデータ」を指します。もう少し噛み砕いて言うと、購入の意思やその背景、つまり購買インサイトを、顧客のパーミッションを得た状態で取得するデータです。
わかりやすい例としては化粧品などが該当するでしょう。例えばリアル店舗で化粧品を購入する場合、スタッフは顧客の肌診断を行い、肌悩みや肌質などを聞くことができるので、顧客の肌にあった商品を提案できると思います。
しかし、このような顧客のインサイトデータ、いわゆるゼロパーティデータはこれまでデジタルマーケティングの領域ではあまり活用されてきませんでした。WEB上の行動履歴から顧客のインサイトデータは読み取れないからです。しかし、デジタル上でも接客体験が優れているチャットコマースを使えば、ゼロパーティデータの取得が簡単にできるようになるんです。
顧客のインサイトデータが取得しやすくなること、このインサイトデータを広告配信にまで活用できるようになることは、本当の意味でのOne to One マーケティングを実現します。これまでの膨大なマスデータの収集・解析から生み出された広告よりも、より個人にパーソナライズされた精度の高い広告が出せるんですから。「お客さんから直接教えてもらえれば勝ち」なのは当たり前ですよね(笑)。
今後もますますチャットコマース×ゼロパーティデータの市場は盛り上がっていくと思います。
ファーストパーティデータ:企業が取得した顧客情報(氏名・年齢・メールアドレス・購買履歴など)
セカンドパーティーデータ:他社のファーストパーティデータ
サードパーティデータ:第三者が提供する自社では収集できない顧客のデータ
ゼロパーティデータ:顧客が同意した上で、意図的、積極的に企業に共有するデータ
アジアがチャットコマース市場をリードする理由
前章までで、チャットコマースが勃興した背景について理解できた。そこで次は世界のチャットコマースの勢力図についても伺っていきたい。ここ四半世紀ほど、世界の経済成長をリードしていたのは紛れもなくアメリカだ。GAFAMに代表されるビックテックの存在なきにして、21世紀初頭におけるテクノロジーの進化を語ることはできない。
しかし、遠藤氏曰く「チャットコマースの領域では、アジアが一番先をいく」とのこと。欧米はまだまだこれからなのだと言う。
遠藤チャットコマース領域においてはやはり、中国のテンセントが開発する『WeChat』、17言語に対応するスーパーアプリ『LINE』が一歩リードしているといえます。
それは、『WeChat』が中国国内において圧倒的なスーパーアプリとしての地位を確立して独自の進化を遂げているからです。メッセンジャーアプリとしての機能だけでなく、モバイル決済ができるペイメント機能、中国のインフルエンサーがこぞって利用するSNSとしての機能、ライブコマースの機能、そして法人がアカウントを生成できる機能といった多くの機能が包含されています。
また『LINE』においても、『WeChat』同様に全ての機能が内包された非常にアクティブなアプリケーションの中では、チャットコマースが発展しやすいと言えるんです。
一方アメリカはこれまで、主流どころだけでも、FacebookMessenger、Snapchat、WhatsApp、Instagram、Twitterといったように、機能別にそれぞれのセグメントで尖ったアプリが発展してきました。例えば、Facebook Messengerは2016年にAPIが解放され、一時期には企業アカウントを運用する企業も増えましたが、そこから購買が生まれるほどは定着できていないんです。
圧倒的なアクティブ率を誇るスーパーアプリが存在しているアジアは、チャットコマースが進化するにはうってつけの環境であったというわけだ。
一方これは、欧米においてチャットコマースが無視されているということではない。前章にて紹介したゼロパーティデータの重要性を最も理解しているのは、デジタルマーケティング先進国のアメリカであろう。Forbes誌では“Zero-Party Data Is The New Oil”として取り上げられ、企業のゼロパーティデータへの関心度は高くなっている。このような流れの中で、相性の良いチャットコマースが今後アメリカにおいても成長していく可能性が高いといえる。
そしてここに目をつけたのが、まさしくZEALSだ。
遠藤今年2022年9月1日にアメリカ法人「ZEALS, Inc.」を設立しました。代表取締役である清水正大と執行役員CFO渡邉雄介の赴任も予定しており、社内でも米国市場での挑戦は最重要のプロジェクトとして位置付けられています。
これまで、チャットコマース領域においてはスーパーアプリを擁するアジアがリードしてきたので、これをアメリカに逆輸入する、つまり逆タイムマシン経営ができるチャンスだと捉えています。
特に注目しているのが、2021年にAPIが開放されたInstagram。アメリカでは、Instagramにおけるチャットコマースを主軸に事業拡大を目指していきます。
購買チャネルは一本に絞るべし?
チャットコマースの活用事例に迫る
チャットコマース勃興の背景や、世界の勢力図について、これまで遠藤氏に話を伺った。とはいえ、具体的にチャットコマースがマーケティングに活用されるシーンをイメージできない読者もいるのではないだろうか。そこで、一つチャットコマースを活用した事例も紹介したい。
日本におけるスーパーアプリLINEを活用したマーケティング事例として、アサヒビールの家庭用生ビールサービス『THE DRAFTERS』が挙げられる。ドラフターズの会員になるとビールサーバーがレンタル可能となり、自宅に生ビールが届き「本当にうまい生ビールを、家庭で楽しむことができる」サブスクリプションのサービスだ。
このプロジェクトの目的は、ドラフターズの会員向けプラットフォームを構築、そしてユーザーと直接コミュニケーションを図りながら、取得したデータを各施策で活用することであった。
そこでドラフターズは、サービスのタッチポイントをあえてLINE公式アカウントのみに絞ったのである。ユーザーが慣れ親しむアプリ上で会員登録〜継続購入の手続き〜会員同士のコミュニケーションをすべて完結させたのだ。
一般的に事業会社は様々な販売チャネルを持ち、またそのチャネルごとにデータベースを管理、そしてCRM施策を行うのが、慣例であり、マーケティングコスト、そして管理コストがかさんでしまうという課題が存在していた。
ドラフターズでは、会員登録やCRM機能、ユーザーとのコミュニケーションなど各ファネルがLINE公式アカウントに集約されることによって、顧客にとってもより良い体験を届けられるだけでなく、企業側にとっても便益を生む事が可能となったのだ。
チャット上でユーザーとの自然なやり取りを通して「自宅でお酒を飲む頻度・量」や「よく飲むビールの銘柄」「普段誰とビールを飲むか?」といったゼロパーティデータを気軽に取得できるため、今後の広告施策やコンテンツ施策に転用できるという副次効果も期待できるなど、まさにマーケティングの価値観を一変させるほどのインパクトを得た。
上記は、一事例に過ぎないが膨大なポテンシャルを有するチャットコマース市場。今後さらに、チャットコマースがどのように貢献していくかについて遠藤氏は見解を示した。
遠藤今後チャットコマースは、LTVの最大化に貢献していくと考えています。LTVとは、ブランドやサービスの顧客ライフスタイル全体でもたらされる利益を示す重要なマーケティング指標ですが、現実的には改善が難しいと言われています。
このLTVの向上に最適な手段として、チャットコマース×ゼロパーティデータは非常に有用です。顧客のインサイトが取得できるゼロパーティデータは、商品やサービスの改善やパーソナライズ化において非常に価値のあるデータであり、先にも述べたようにチャットコマースはゼロパーティデータの収集に適しています。
この2つをかけ合わせることで、より顧客の購買の後押しが可能であり、LTV向上に繋がると考えています。チャットコマースが、一人一人の購買における意思決定の背中を押すのです。
すでに、人材、教育、コスメ、サロン、D2C、金融、不動産、自動車などあらゆる業界でチャットコマースの導入が進んでいますが今後も進化が期待できます。
2020年代のECの主戦場として注目を集めるチャットコマース、そして先駆者として市場を切り開くZEALS、今後両者から目が離せないであろう。
こちらの記事は2023年02月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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