CSの進化は、これからが本番だ──日本におけるSaaSの社会実装、最前線の潮流を、5つの事例から追う
CS(カスタマーサクセス)が、いよいよ日本でも一般化してきた……と、FastGrowの読者なら自然と感じていることだろう。はたして、本当にそうだろうか?
上場前後のスタートアップやベンチャー企業で、CSの設置や高度化が進んできている。だが、その実態を詳しく聞いてみると、どこの企業でもまだまだ「試行錯誤の連続」だという。
CSの教科書とも呼ばれる青本=『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』と、赤本=『カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』がそれぞれ2018年・2019年に日本でも出版されてから数年。ここで、いくつかの企業の挑戦事例を確認していきたく、この記事を企画した。
2本立ての企画だ。前半は、『マネーフォワード クラウド』と『クラウドサイン』という、日本を代表する2大SaaSプロダクトでCSを担う今井氏・中嶋氏と、CSコミュニティを運営するKOMMONS代表の白塚氏らによるトークセッションレポート。これまでの思考錯誤や昨今のトレンドについて聞いた。
そして後半は、FastGrowのこれまでの取材などから、特筆すべきCS関連の事例をまとめた。
「CSの」マネフォ、クラウドサイン(弁護士ドットコム)、KOMMONSによるCSスペシャルトーク
──まずお聞きしたいのは、「CSチームが担うべき役割」について。マネーフォワードもクラウドサイン(弁護士ドットコム)も、CSチームの発足から時間が経ち、さまざまな変化があると思います。ここ数年について振り返ってお聞きできますか?
今井私はHRソリューション本部という、人事労務周りのサービスを提供しているチームでCSを担っているので、ここの範囲でお話しします。
大きく、2つの変化がありましたね。
一つは、人数が倍増しました。私が入社したのが、2021年の4月でしたが、そのときのCSのメンバーは、10名もいなかったんです。それが今や20名以上と、この2年で2倍以上になっています。
もう一つが、チームが細分化しました。カスタマーサクセス部が3年ほど前に立ち上がった時には、全員がハイタッチで対応をしていました。それが、2021年の2月、私が入社する少し前に、事業規模でのチーム再編を行い、従業員数が多いユーザー企業さんに対してはハイタッチ、少なめのところはテックタッチ・ロータッチで効率化を進める、という2チーム体制になりました。ただそのときも全メンバーが、担当企業を持って直接支援するカスタマーサクセスマネージャーという職務でしたね。
現在は、その2チームに加えて、データ移行専任のチーム、コンテンツを作成する専任チーム、オペレーション専任のチーム、そしてこの2023年6月にプリセールスチームが増えました。
──すごくざっくり言うと、順調に拡大してきた中で、これまで解けていなかった課題や現場で感じたものもあるから、それに対応するための役割分担を進めてきたっていうことですよね。たとえばセールスだったら、チームの拡大についてのノウハウが本とかにも多く書かれていますが、CSは参考にするものがまだそれほど多くないので、手探りの部分もあるのかなという感じがしますね。中嶋さんはいかがですか?
中嶋そうですね、今井さんの話と重なる部分が多いなと思いました。大きく2つあります。人数が増えたということと、CSチームっていう線引きがどんどんわかりにくくなってきたことです。
後者について補足しますね。一般的に他社さんで「CSチーム」が担っている役割を、カスタマーサクセス部という部署の中に閉じずに、メンバーの専門スキルや組織的な管理体制を考慮し、全社的に点在させています。
たとえば、クラウドサインでは2年前にお客様同士で交流していただくユーザーコミュニティを立ち上げたのですが、こちらは事業戦略部という部署が担当しています。また、エンタープライズのお客様を対象としたアップセル活動は、営業部の中でCSの役割を持つ組織をつくって取り組んでいます。
──確認なんですけど、コミュニティとかアップセルっていうのを、CSの中でももちろんやってるし、他のところでもやってるってことですか?
中嶋アップセルなどはそうですね。一方でコミュニティは現状事業戦略部が主体ですが、協力して一緒に取り組んでいる部分、明確に分担している部分があります。ただ、常に試行錯誤中で、お客様への価値提供と事業成長を両立できる形を模索しています。
そのほか、エンタープライズ以外のお客様への提案活動においても、既存のお客様に向けて、アップセル商材の情報を一斉に配信して興味を持っていただいたお客様に商談するというような動き方を、CS以外の別組織が進めていたりします。
──なるほど、「今の状態」だけを切り取ると、そういうふうに分かれてはいるものの、ずっとそうしていこうと決まってるわけでもなく、試行錯誤しながら最適解を探しているということですね。面白いですね。でもそんな中でも、中嶋さん個人の考えとして、「やっぱりカスタマーサクセス部にあるべき仕事はこれだ」みたいなものって、何か感覚としてあったりするんですか?
中嶋それも大きく2つありますね。
一つは、NRRを追うこと、つまり去年の売り上げと比べて、各社さんからの売り上げを伸ばすっていうところの総額の部分ですね。特に、解約を阻止したり、ダウングレードを減らしたり、といった守りの部分はもちろんのこと、攻めの部分においてもアップセル活動などを部分的に役割分担しているとはいえ、結果指標としてのNRRは、CSの本部で重視すべきところだと考えています。
もう一つは、利用率の向上ですね。クラウドサインは、活用されればされるほど、お客様に価値をお感じいただけます。また、私達の価格設定が特殊だともいえますが、1件の契約書を送信していただくことに200円を掛けさせていただくような形になっていることもあり、利用率の向上は事業成長にも直結します。そのために戦略を立て、成功事例を創り、他のお客様へ展開していく役割は、ずっと変わらず担うべきものなのではないかなと。
──ありがとうございます。ちなみに白塚さん・藤井さんから見て、CS以外の部署がCSもやるというような動きはよく聞くものですか?
白塚市場の中でもクラウドサインさんが先駆けて取り組まれていますが、我々のコミュニティに登録されているアーリーアダプターの企業でも、徐々に増えていると思います。
いわゆる解約率の改善やアップセル/クロスセルの創出は、CSで成果を出せている企業のほとんどが追っている指標という印象があります。
それに対して、新規プロダクトの開発や成功事例を活用した新規顧客獲得など、CSの役割が更に広がるタイミングで、他部署との役割分担が必要になるケースが多いと感じます。
藤井CSといっても本当にいろいろあるなぁというのを、各社のお話を聞いて思っています。
最初は一人で立ち上げてCS活動をすべてやっていたところ、すなわちハイタッチなコミュニケーションから、成熟してきたタイミングでテックタッチ・ロータッチを取り入れますよね。そして規模が大きくなってきたらコミュニティタッチを始めようかという変化をたどる例がおおいですよね。
なので、CSチームも、ハイタッチをやるチームと、カスタマーマーケティング部みたいなチームと、またほかのチームと、という感じで細分化していくっていうのが、うまくいっている企業でよくある流れなのかなと思います。
──ある程度、トレンドのようなものは見えてきていて、その中でもやはりマネフォさんとクラウドサインさんは先駆的なんですね。ここで今井さんに改めてお聞きしたいことが二つあります。一つは、この「トレンド」をどのように見ているのかということ。そしてもう一つは、参考にしたいと感じていること。いかがでしょうか?
今井全体の傾向やトレンドというと、CSOpsだったり、データやデジタルツールの活用っていうのは、昨年ぐらいからよく聞くようになったと感じます。
私はオペレーショングループも兼務しているため、この方面に関心が強く、自然とそうした情報が入ってきてる可能性はありますが。
それと他社さんの例では、中嶋さんがおっしゃっていたNRRのところですね。それとGainsightさんが発信してる「新・カスタマーサクセスの10の原則」。
去年、カスタマーサクセスのイベントで、CSOpsに投資するとか、顧客維持だけじゃ駄目、価値を提供し続けないといけないとか、そういうことがよく言われていて、記憶に残っています。
──今井さんの感覚としては、ほんの1年前でも、あの体制はまだまだ不十分だったなとか、オペレーションへの投資も全然だったなみたいな、そういう感覚があるということなんですか?
今井そうですね、オペレーションにはほとんど投資ができてなくて、マンパワーで各自が頑張るという感じでしたね。取り組みを始めたのはここ1年ぐらいです。
そもそもカスタマーサクセスマネージャー自体、そこまで多くはなかったんです。なのでオペレーションを整理するよりもまず、「人の力で支えきるところ」に注力していました。ここ1年ほどでお客様もカスタマーサクセスマネージャーも大きく増えているので、効率化や標準化の重要性が増しています。
──ありがとうございます。トレンドをどう見ているのか、中嶋さんからもお聞きできればと思うのですが、いかがですか。
中嶋二つありまして、一つは、ここ数年で、たとえばカスタマーサクセス部(CS部)というように、部署名や職種名を「カスタマーサクセス(CS)」と呼称するケースが一層増えてきたのではないかと感じています。その結果として多様なCS人材の人とお話する機会が増えた印象があります。
もう一つは、専門化・高度化ですね。従来から長らくCS活動に取り組んできた企業さんですと、たとえば今の今井さんのお話にあったCSOpsなどのように、専門特化した業務が切り出されて、役割として明確になり、採用にも影響してきていると思います。
──専門化・高度化については、中嶋さんのところではどうですか?
中嶋うまくいった一例としては、たとえば今私が担当しているコンサルティングチームっていうのも、入社当時(2020年10月)にはまだ存在していませんでした。クラウドサインはコロナの影響でお客様の数が激増したのですが、それは当然計画にはなかった事態でした。そのため、組織の体制が十分に追いついていけていなくて、たいへんな状況でした。そこで、採用活動と並行して業務整理やプロセスづくりを進める中で、有償のプロジェクト推進は専門知識とスキルを備えた体制できちんと支援ができるようにと考え、今のコンサルティングチームができたんです。当時のエンプラCSチームの一部から切り出されたようなかたちでした。
このように、実質的に切り出しちゃった方がいいよね、と考えた役割は個別個別で切り出しています。
他にも、たとえば最近、PMMという役割を各社さんが設けていますよね?従来は、新しい機能をリリースしたときに、それを市場にPRしていく活動を、CSが主体となって進めることもありました。現在では、新しくPMMという専門職種が生まれたため、CSはより本来的なサクセスのための仕事に注力できるようになったのかなと。
──ありがとうございます。ここから、次のテーマである多様性について伺っていきたいのですが、CSのメンバーだったりもちろんマネージャーも含めて、一人ひとりがどんなスキルとかマインドを持つのが大事かなっていうのをお聞きしてみたく、いかがですか?
中嶋これは4つあると考えています。想像力と、当事者意識と、やり抜く力、学ぶ力が、各企業に共通で重要かなと思いました。
前提として、事業のフェーズや事業領域によって、求められる役割はぜんぜん違うと思うんですよね。フェーズがまだ浅いスタートアップであれば、CSチームにも結構幅広い役割が求められるので、先ほどのPMM的な個別の動きとか、PdM的な機能の優先順位をつけることとか、カスタマーサポート的な部分とかが、包括的に求められるので、特に「やり抜く力」と「学ぶ力」は重要だと思います。
逆に、規模の大きなCS組織ですと、PMMあるいはPdM的な業務は他のチームが持っているので、先ほどの今井さんのお話のような、専門的で高度な業務が個人レベルで求められるようになります。こうして役割分担が進むと、間にボールが落ちがちな状況も生まれますよね。また、自分の見る範囲が狭くなることで、全体的なお客様の体験を見ることが難しくなってくることもあります。そんな時、想像力と当事者意識、そしてやりぬく力っていうのが、結構重要になってくるんじゃないかなと。
──CSの仕事をやったからといって、それらが身につくわけじゃないですよね。どのようにして身に着けていけるのでしょうか。
中嶋心と頭に必死で汗をかくこと。与えられた役割に全力に向き合いどうにか達成した経験。たとえば、CS以外の仕事においても、法人営業という範囲の中で、お客様のご要望とかご期待に全力でお応えするっていう、そこの経験。なかなか簡単にできないと思うんですけど、そこで苦労しながら何とか成し遂げた経験とかっていうのが、 重要になるんじゃないかなと考えてます。
──今井さんからもこの点お聞きできればと思います、いかがでしょうか?
今井中嶋さんのお話を、「そうそう」と思って聞いていました(笑)。その中でも私が本当に一番大事だと思うのは、圧倒的な当事者意識、つまり自分ゴト化なのかなと。
コミュニケーションとか課題解決、プロジェクトマネジメント、こういったスキルも重要ですが、結局のところ、どれだけ自分ゴトにできるのかだと思いました。
お客様の成功ってすごく難しいんですよね。事業や組織に関する事情もそれぞれですし、なんならDXを推進したいとか、従業員の健康を守りたいとか、私達のサービスで提供できる範囲を超えたところをお客様が目指していることも多々あります。それをちゃんと認識したうえで、私達のできる範囲でしっかり支援するのが大事なんですよね。
「それは、うちのサービスではできないからなぁ……」とはならないよう、お客様のことを、自分ゴトとして捉えていくことで、CSとしての行動量だったり思考の深さだったりが変わってくると思います。
──今井さんが担当するお客様だと、プロダクトでできることよりももっと上の要求ばっかりなんですか?
今井そういうお客様が一部にいる、という感じですね。もう少し具体的に言うと、私たちのプロダクトに期待してくださっていることが、経営者目線と、現場目線とで、ちょっと違うんです。現場は、給与計算や勤怠管理に関する業務を楽にしたいと考えているのですが、経営者はもっと大きな価値創出を思い描いているわけです。こうした例に一つひとつしっかり向き合って、今のプロダクトでできることよりももっと上の要求に応えていきたい。これからやっていきます!という思いです。
中嶋全面的に同意で、激しくうなずきながら聞いていました(笑)。
SaaSベンダーからすると、「この機能を使ってほしい」とか「アップグレードしてほしい」とかって思うんですけど、こうしたことを要求するのはちょっと違うんですよね。こっちがやりたいことを押し付けるのではなく、お客様がやりたいことに寄り添う必要があります。そこにフィットする機能であれば、お客様のタイミングや文脈に合わせて、的確に提案していく。
このほうが、結果的に利用率やNRRといった指標にも良い影響を与えるはずなんです。お客様のお役に立つことを、愚直に、スピーディーに、スムーズにやり切るっていうのが、今、CSチームのメンバーに求められるんじゃないかなと。
──次のテーマは、CSキャリアについてです。どんな人がCSでキャリア開発を志してほしいかという想いをお聞きできますか?
今井現状、私達の部で活躍してる方で言うと、実際に企業で人事労務業務を行っていた方や、社労士事務所やアウトソーサーで実務をやっていたメンバーですね。実務を知ってるということは、システム外でどういうことをしているのかがわかっているので、システムを運用する上で、大変なポイント、大事なポイントも理解できるんですよね。
そういう意味では本当に、ありとあらゆる方が、どこかのSaaS企業でCSにチャレンジできるんだろうなと思います。
──今、SaaSとかデジタル化に一切かかわっていなかったとしても、それをデジタル化する仕事がどこかのSaaS企業におそらくあって、誰でもできるっていうイメージなんですね。
今井そうですね。その中で必要になってくるのが、「人のために役に立つ仕事ができるのが嬉しい」といった気持ちなのだろうと思います。
CSはいろんな要素が組み合わさっている職種です。たとえば直接お客様に対峙して支援するわけですから、人間関係を築くのが上手なセールス出身者が向いていると言える部分がありそうです。また、広く支援していく中ではデジタルマーケターのスキルも活きると思います。
中嶋まさに、「お客様に貢献したいという強い気持ち」があることが、すごく重要だなと思います。
私たちのチームは、SaaS企業出身が3分の1ぐらい、あとはSIerさんやIT系のコンサルティングファームさんなど、お客様の課題解決のためにITツールを使ってきた人たちが多いですね。
ただそこもバックグラウンドはそんなに必須の要件という感じでもないんです。中には、飲食業界から来た方もいまして。やっぱり、お客様に貢献したいというスタンスやマインドセットがあることこそ、重要な要素かなと。
藤井最近はCS担当者に、本当にいろんな方が増えてきていますね。私たちのコミュニティには、CSの方が700名いらっしゃって、毎月30~40人くらいのペースでどんどん増えていくんですけど、その際にバックグラウンドを入力してもらうと、「ケーキ屋さんをやっていました」とか、「スーパーの卸で朝5時だったのが9時になってめちゃくちゃありがたいです「だったりとか(笑)。IT以外の領域でサービス業をやってきた方々が目につきます。
一方で、GoogleとかBCGとか、IT開発あるいはコンサルティングをハイレベルでやってきた方々もいらっしゃいます。とにかく裾野が広いんですね。バックグラウンドが非常に多様で、面白くなってきたなという感じがしています。
白塚いろんな業界・職種からCSへの挑戦が増えているのは私も面白いトレンドだと感じています。業界軸では、ITの力を活用して、同じ業界の課題をよりスケーラブルな手段で解決したいという人が増えている印象があります。また、職種軸では、これまでセールス、マーケ、サポート、開発の領域で活躍されていた方が、それぞれハイタッチ、テックタッチ、サポート、CS Opsに横スライドしてくるというトレンドも生まれてきていると感じます。
白塚他にも、自分で事業を起こしたい方や、顧客が期待する価値と自社が提供できる価値のギャップにもやもやしている方に、CSに興味を持ってもらいたいと考えています。将来事業を起こしたい方におすすめしたい理由は、CSでは顧客にどの様な価値を提供し、いくらで買ってもらうのかというビジネスの本質的な部分を日々の業務で経験できるからです。
まずはビジネスとして成立している企業のCSとしてそれを経験し、今度は自分で一から事業を始めてみたり、社内で新規事業開発に移るといったキャリアの方は実際増えていると感じます。
モヤモヤについては、会社から求められる成果を出しているのに、お客様が本当に期待する価値とはギャップがある……というときに、CSという選択肢を考えてみてもらえると良いのではないかなと思うんです。お客様のことをより深く知った上で適切なソリューションを提供していくことを求められるのがCSの魅力ですし、新しい職種ゆえそこから色々なチャレンジにつなげられる職種だと思います。
この両方の側面で、さまざまな人材が集まってくると、CSの市場が大きくなり、CS中心で事業を展開していく企業も増えていくでしょう。そういう世界観を、私たちは実現していきたいと思っています。
藤井それと、「新卒の登竜門」みたいな考え方もすごくいいと思っています。これから日本全体での生産性が高まっていくために、SaaSがもっと広がっていく必要性は大きい。そのためには、絶対にCS人口が増えなければなりません。キャリアの早いタイミングで一度、登竜門として学んでもらう場面があると、すごくいいなと。
CSを学んでから、セールスやプロダクトにまつわる業務を経験できるような流れになると、活かせることがたくさんあると思うんです。なんでまずはCSっていうのが、これからファーストキャリアとしても結構あり得るんじゃないかなと。
今井CSって、CS部だけでできるものではなく、全社で取り組まないといけない。だからこそ、そのマインドを新卒でできるだけ多くの人に身につけてもらえると、すごくいいですね。
弊社には新卒でCSに配属されるメンバーがまだいないのですが、いずれ取り組みたいですね。サービスやドメインについてのキャッチアップという点でハードルの高さを感じてしまっているのですが、役割の細分化が進むことで新卒配属も検討できると思います。
中嶋クラウドサインでは第二新卒でCS配属になることはあります。とはいえやはり、慣れるまではなかなか難しいですね。どうしても深い業務理解や高度な顧客対応力が求められる場面も少なくないので、今井さんがおっしゃっていた通り、役割の分担や設計ができてから、というタイミングが良さそうです。
一方で、私自身がファーストキャリアからCSで、かなり荒波にもまれたと言いますか、しごかれて結構成長した実感もあるので、本当に早く成長したい人は、覚悟を持ってCSに挑戦するというのもいいかなと思いました。
──最後に、中嶋さんと今井さんが実際にこれからどんなキャリアを描いてるのか、そしてどのように飛躍していきたいのか、お聞きできますか?
中嶋ちょっと話がズレてしまうのですが、とにかく「社会の進歩に貢献したい」という思いを抱いています。この点で、新しい成功事例をつくるとか、新たな強いモデルを確立させるとか、そういう活動を、CSの中でやりたいと思っているんです。
こうしたことを、これからもっとやっていきたい。世の中に真のサクセスがたくさん生まれるようにしたい。今の会社の中でも頑張っていきますし、他社のCSの方のご支援も行って、各ベンダーの顧客企業様の生産性向上と、成長産業としてCS職が日本の雇用の受け皿にもなっていけるように活動していこうと思っています。
今井私は、CSが大好きなんですよ。最高のCSとは何かを突き詰めていきたいと思っています。
CSは全社で取り組むものだという信念を持ってる人が増えてきているものの、実際に全社で全力で取り組めているかというと、まだ十分に腹落ちしてない方もいると思います。会社として全力でCSに取り組めるようになるために、まずは自分たちの本部から、CSは本当に大事だよねというのを他部署のメンバーにも感じてもらえるようにしたいと思ってます。
お客様にも事業にもこれだけ価値を提供できているということを見せていきたいですね。
藤井CSのスキルがいろいろな会社さんで細分化されていっています。なので、今、副業でもチャレンジできるようになってきています。これがみなさんのキャリアにとって、また違う新たな一歩になりえます。
自社のプロダクトだと、ハイタッチはすごいやってるけど、テックタッチは先だなとかってなったときに、それまでの経験を生かして、テックタッチにチャレンジしたり、とかっていうので幅を、社外でも広げられる。こうしてCS全体のレベルアップが生まれていくと嬉しいですね。
白塚CSの事業貢献というのは、見えないゆえに評価されていないという部分も結構あるのかなと思っているので、これからはしっかり成果を可視化して、CS中心の経営が実現できる社会をつくっていきたいですよね。このままいけば、自然となっていく部分もあるとは思いますが、私たちのコミュニティを通じてさらに加速していきたいです。
また、日々顧客の成功に向き合っているCSの方は仕事に対する満足度がかなり高いと感じます。そういう点も市場で認識されると、人事観点でもCSマインドで仕事をする人を増やしたいという考えに繋がっていくと思っています。
顧客への価値提供、自社への事業貢献、そして従業員の満足度を同時に実現できる職として、CSをもっと広げていきたいと思います。
CSの組織や役割を拡大していく過程が、このトークから具体的にイメージできるようになってきたのではないだろうか?さあここからは、FastGrowにて別途取材をしてきたスタートアップでのユニークなCS推進事例を3つ、掲載する。合わせて確認し、学びを深めてほしい。
「何も困っていません」に、どう対応する?CS力が試されるプロダクトの現場とは──Chatwork
待っていてもお客様からお問い合わせはきませんし、「困っていることはありませんか?」と聞いても「なにも困っていません」と返ってきてしまう。だからこそChatworkのCSはお客様に気づきを与える+αの提案を持っていかなければならないという難しさがあります。
導入社数は41万社を超える(2023年6月末時点)規模となりながら、解約がほとんど起きていないという、お手本のようなSaaSとも言えるビジネスチャットプロダクト。読者の中には「Slackに劣後するプロダクト」という印象も、もしかしたらあるかもしれないが、実績をみれば、そんなことはとても言えず、全く異なる強さを持つプロダクトであることがわかるだろう。
そんなChatwork、CSが直面した課題は……と言えば、先ほど引用したように、「何も困っていません」と顧客が言うこと、である。これは驚きだ。要するに「CSが大きな価値を発揮しなくても売れた」というわけだ。PLG(Product Led Growth)の言葉を思い浮かべる読者もいるだろう。
FastGrowでは、同社のPLG戦略に迫ったCOO福田氏のインタビュー、そしてPLG戦略の中でどのようなプロダクトマネジメントが生まれるのかに迫ったPdM2名のインタビューをこれまでに実施した。とにかく、プロダクトの強さによって、新規顧客を獲得し、既存顧客に対するアップセルも獲得する、そして段階的な値上げまで実現する。そうして驚異的な事業成長を、上場後も続けている。2023年12月期決算の業績予想では、なんと50%近い売上高成長へと上方修正を発表している(2023年8月発表)。
ではこのプロダクトカンパニーの中で、CSが一旦、どんなチャレンジをしてきたのか。まだ「PLG」の戦略が本格的に進んでいない当時の、カスタマーサクセス部に属していた大河内唱平氏(2021年当時。2023年9月現在は別部署に所属)の考えを引用しよう。
個人的には、営業よりもCSの比重を高くしたほうがうまくいくと考えています。なぜならChatworkはお客様からのご紹介で導入するケースが非常に多いからです。顧客フォローさえしっかりやっていれば新規顧客が入ってくるし、顧客フォローが甘ければ新規顧客も入ってきづらい。「CSがいなくても売れる」のではなく、「CSがいなくても売れたんだから、CSに注力すればもっともっと広まるはずだ」と確信しています。
同氏が語るのは、あくまで「CS活動による伸びしろが、非常に大きい」ということ。すでに強いこの事業・プロダクトを、さらに圧倒的に強いものとすべく、大きな役割を見つけ、コミットしてきたわけだ。
最近は、CSの主な取り組みを「PLG」と位置づける。組織紹介のnoteから引用しよう。
フリーミアムで獲得したユーザーから有償化を狙い、有償化したユーザーも活用に応じてアプローチしてエクスパンションを狙うという戦略で、後者のエクスパンションの再現性を確立していきながら最適なユーザーコミュニケーションを模索しています。
全社戦略においても重要な施策と位置付けられ、決算説明資料でもこのように紹介されている。
まさに、CSの底力が試される環境だと言えよう。今後の具体的な展開を楽しみにしたい。
「前例のないプロダクト」を目指すからこそ、初期設計から徹底的にこだわったCS組織を──ゼロボード
2023年夏、創業2期目ながら、すでに2,400社を超えて導入が進むSaaSプロダクト『zeroboard』をご存じだろうか?
GHG排出量算定・可視化クラウドサービスとして、ESG経営が強く求められるこの時代の潮流を捉えつつ、したたかなパートナー戦略によって急拡大を進めている。ちょうど、カスタマーサクセスマネージャーの募集も開いている(2023年9月5日現在)。
CSについては、「本部」のかたちで立ち上がったばかりでもあるのだが、緻密で大胆な戦略には驚かされる部分が多い。まずは、以前のインタビューからその考えを引用しよう。
『zeroboard』は、今はわかりやすく「GHG排出量算定クラウドサービス」と謳っていますが、お客様にとって「算定」は本当の目的ではありません。では、お客様にとって何を提供できればよいのか?
それは、脱炭素経営の実現によって自社の売り上げが伸びたり、コストを削減できたり、市場の評価や株価が上昇したり……そういった経営上の効果が現れて、はじめて成功だと言えると思います。私たちは、その状態を実現することを目指しているんです。
一般的なSaaSはデータを「サービスをちゃんと使われてるか」っていうところで活用することが多いと思うんですよね。ヘルススコアと呼ばれるような発想で。
それももちろんやるんですけれども、せっかく「前例の少ない脱炭素の取り組み」に伴走し続ける仕事ですから、もっと日々の業務や活動の情報データを集められるようにして、そこからより高度な提案をしていきたいですね。CSがハイタッチでやる部分と、テックタッチでやる部分とをしっかり整理して。
立ち上げ期なのだから、まずはプロダクト自体を使ってもらえているかどうかという「ヘルススコア」を測るのが定石のはず。だが、自社のありたい姿、そして顧客それぞれのサクセスについて先回りして考えた結果として、「脱炭素コンサルタントのように高度な提案をしつつ、実際の取り組み実施をプロダクトと共に伴走して進めていく」という存在を目指しているのだ。
すでにその「カスタマーサクセス本部」というチームは細分化している。オンボーディングからハイタッチのサポートを実践するカスタマーサクセス部、ロータッチ/テックタッチを担うカスタマーマーケティング部、そして最もハイタッチで専門的な支援を行うコンサルティング部だ。
そしてこの2023年8月にはコンサルティング部に近い組織として「ゼロボード総研」という社内シンクタンクも立ち上げた(プレスリリースはこちら)。
このように、短期間のうちにさまざまな動きを見せてはいるものの、実際にこの社会に対して大きな価値を提供するまでにはおそらく、少し時間を要する。何せ、GHG排出量を“算定”すればいいのではなく、“削減”を達成しつつ、その結果として企業価値を高めるところにまで貢献しようとしているのだから。その理想を現実のものとすべく、大胆な取り組みを、地道に進めているのが、ゼロボードのCSだ。これからの展開を、楽しみに見ていこう。
3年で1,000回以上の機能アップデート、その裏側にいるCSとは──Bill One(Sansan)
日本で今、最も勢いのあるSaaSと言えば?間違いなく名前の挙がる一つのプロダクトが、Sansanの提供する『Bill One』だろう。
先日、FastGrow Conference 2023 Summerに同社取締役COO富岡圭氏が登壇した際、ローンチから3年でARR38億円という急成長ぶりが説明された。さらに2024年中にはARR70億円を達成しようとの目標も語られ、衝撃を覚えたリスナーもいたはずだ。
富岡氏が語ったのは、『Bill Oneビジネスカード』という新プロダクトについて。いわばSansanによる「FinTechへの事業拡大」であった。その舞台裏についても改めて紹介したいのだが……今回はCSという切り口で、プロダクトの強さに迫るエピソードを取り上げよう。
このSansan公式noteの記事で語られているように、なんと3年間で1,000回もの機能アップデートがあった。そこに大きく貢献したのがCSなのだという。
記事に登場したのは、「カスタマーサクセス部副部長」と「プロダクトマネージャー」を兼務する木口知之氏。この二刀流となった兼務を見るだけでも、CSがプロダクト開発に貢献しているであろうことが感じられる。
同氏によれば、「自分がCSとPdMの両方の役割を持つことが今のBill Oneでは最適解」とのこと。だが、実際にどのような運用で成果を挙げているのかが気になるところだ。その最たる例を、引用の形でそのままお示ししよう。
最近だと、請求書のPDFデータにコメントを書き込める機能には多くの反響がありました。この機能、Bill Oneの提供開始時から要望はありましたが、これがないと業務を遂行できない、という類の機能ではありません。他にも「なくてはならない」機能要望がたくさんある中で、優先順位を上げる判断をすることが難しい機能でした。
それでも顧客からは絶えずこの機能に対する要望が上がり続ける状況だったので、社内でもたくさん議論して、改めてこの機能があることで、お客さまの月次決算の加速に間違いなく大きく寄与するという結論に至り、開発着手の決断を行いました。リリース後さっそく使ってくださったお客さまから「この機能、待ってました!」「すごく使いやすくなりました」という喜びのコメントをいただくことができ、私もとても嬉しかったです。
顧客からはさまざまな要望がある。導入数が増えれば、それだけ増えていく。優先順位をつける際に「絶対的な正解」などない。そんな中で最良の意思決定をし続ける必要性があり、そのプレッシャーに押しつぶされそうになっている読者もいるだろう。
『Bill One』の開発チームは、「これがないと業務を遂行できない、という類の機能」ではないものを開発するという意思決定をした。これが本当に、より良いプロダクトにつながるのか、はっきりとはわからない部分もあっただろう。だが、チームメンバー全員が納得できるような「お客さまの月次決算の加速に間違いなく大きく寄与する」という結論に至る議論がなされた。おそらくその裏側で、木口氏をはじめとしたCSの果たした役割は大きい。
アップセルやチャーン防止といった文脈で語られることがどうしても多いのがCS。しかし、ここまで紹介した数社の事例のように、「進化したCSの姿」が見え始めている。各社に最適な形でCSをどのように進化させるべきか、まさに検討するタイミングがこの日本でも来ているかもしれない。
こちらの記事は2023年09月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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