連載MBA再考
【起業志望者へ】
世界中の起業家ネットワークが手に入る!
卒業生が語る、バブソン大MBAが起業に役立つ理由とは?
「起業するなら1秒でも早くしろ」。
今回の特集で取材した海外大MBAホルダーの起業家や経営者からは、そんな声も聞こえてきた。
しかし、「MBAを取得したからこそ起業してうまくいっている」と語る、バブソン大学でMBAを取得した男性がいた。その胸中とは。
- TEXT BY FastGrow Editorial
なぜ経営者としての経歴を持ちながら海外MBAを取得したのか?
田中ハブソン大学MBAに行かなければ今のビジネスはできなかった。
そう語るのはD-matcha株式会社・代表取締役社長を務める田中大貴。
彼はアントレプレナーシップの分野で世界トップクラスの評価を得ている、米国バブソン大学でMBAを取得。しかしMBA留学以前に、株式会社Doughnut Plant Tokyo(以下ドーナツプラント)の代表取締役社長として既に経営再建を行った経歴を持っていた。なぜ彼は経営者としての経歴を持ちながらバブソン大学でのMBA留学という選択に至ったのだろうか。
田中のMBA取得の動機を聞いていくと、当初は必ずしもMBA取得を目指していたわけではない、ということが明らかになってきた。
起業家になりたいという固い決意を元に就職
就職活動当時、競争の厳しい環境に身を置き、ビジネススキルを磨きたいと考え、コンサルティングファームであるブーズ・アンド・カンパニー(現Strategy&)に新卒入社。ところが、リーマンショックによる不況により、入社後まもなく社員の数は減りコンサルタント一人あたりに求められる仕事量は増えた。
田中がむしゃらに働きました。ただ、信頼して仕事を任せてくれる上司が多かったので、結果を出せば通常よりも早く昇進できたんです。
田中は1年半で昇進し、コンサルタントという仕事に更にまい進していったが、とある上司の言葉をきっかけに、今後のキャリアを見つめ直していた。
田中コンサルティングファームでは個人として仕事をこなす能力はつくが、チームを上手くマネジメントする能力は育たない、と言われたんです。
コンサルティングファームでは優秀な人材が多く、細かく指示しなくともプロジェクトは進められる。今後の起業を目指すキャリアを考えた際に、リーダーとしてチームを率いる経験を積まなければと考えました。
上司からの言葉をきっかけに、田中はECホールディングスというベンチャー企業に飛び込む。
ECホールディングスを選んだのは、創業者である井関と波長があったことも理由の一つだ。同社はOnline to Offline(O2O)の需要拡大を見越して店舗運営とオンライン上でのサービスを組み合わせたビジネスを展開。田中は入社直後から、赤字であった菓子部門の店舗運営を任せられる。そこで食品製造販売業の経営を学んだ。
ひょんなことから有名ドーナツ屋の再建オーナーへ
入社から半年経ったある日、その後田中のキャリアを大きく飛躍させる出来事が起こる。破産を目前にしていたドーナツプラントを買収しないか、という依頼が代表の井関に舞い込んだのだ。
田中は買収後の再建プラン作成を任され、そのプランが共同で買収を担当していたファンドに高く評価された。
「君が責任を持って経営するなら投資するよ」――
最終交渉の場で、ファンドからそう投げかけられた。この瞬間から、田中は経営者として再建に取り組むことになる。
田中コストの見直しから店舗運営までなんでもやりましたが、一番大変だったのは裁判です。裁判所の通知が届いたときは驚きましたね。買収以前に会社が税金を滞納していたことがそこで初めて明らかとなりました。
買収時には何も知らされておらず、まさに寝耳に水。裁判所から、当時出店していた商業施設各社に対して、店舗の差入敷金・保証金の差押さえ通知がいったことが引き金で、当時出店していたほとんどの店舗の契約が突然打ち切りになったんです。
代表になって1期目ですでに単月黒字化していた矢先の出来事で、非常にショックでしたね。そんな窮地に立たされ、なんとかして会社を守らねばと思い、必死になっていろんな施策を実行しました。その中で、ブランドコンセプトである”The Best Doughnut in the world”に原点回帰することを決意。
「Fresh doughnut」を実現すべく、深夜にドーナッツを製造をし、翌朝早朝にできたての商品を都内の店舗に配送する仕組みを確立すると同時に、製造工場ではできたてドーナッツを深夜0時から工場併設の店舗で販売することで、新たなファンを獲得。2、3期目でしっかりとお客様からの信頼を得ることで業績が回復し、通期で黒字化できました。
この経営再建時、戦略コンサルタントとして培ってきた分析能力は役に立ったが、それ以上に実業では細かいこと(例えば、ドーナツの並べ方、お客様への声掛けの仕方で売上が変わる)や工夫が積み重なって結果に響くということを、自ら店舗や工場などのオペレーションに入ることで実感した。
代表の田中自ら、戦略や指示だけでなく、具体的な行動を示すことで社員一丸となって目標に取り組むことで、3年という短期間で再建に成功できたのだ。
そして、通期黒字化の目途が立った頃、起業するかMBA留学するか、という2つの選択肢が田中の頭をよぎった。
生徒の40%がファミリービジネス経営者の子息。世界中の起業家とネットワークが作れるバブソン大学
田中起業することを決めていたし、ドーナツプラントの経営を経験しているので、経営論を学ぶ一般のMBAではあまり意味をなさないと思いました。そのためすぐに起業しようか、と思いとある人に相談していたとき、米国に起業家育成に特化したMBAがある、という話をききました。
MBAに行く理由のひとつにネットワーク構築も考えていたので、その大学であればグローバル展開に役立つ、世界の起業家ネットワークが築けると思い、これはいいぞ、と思ったんです。
そのMBAプログラムを持つのが、バブソン大学だった。起業家育成のプログラムが充実していることで有名な同校は、学生全体の約40%がファミリービジネス経営者の子息という珍しい環境だ。そのため、卒業後自国で経営者としての道が準備されている学生たちとのネットワークを築くことができる。
同大学では最初に、Entrepreneurial Thought & Action® (ET&A™)というバブソン大学特有の起業家的思考法を学ぶ。その後、「文化的な衝突が多くなるように調整されている」という多国籍チームで、起業本番さながらにビジネスプランを作成。
6ヶ月の期間内にプランニングだけでなく、実際に校内や近くの地域でそのビジネスを立ち上げ、収益をあげることまで実行させるのがバブソンMBAのユニークなところである。
以前、本連載でも紹介した山川准教授が話していた通り「失敗を通して学べ」と言わんばかりだ。学生の70%が留学生という多国籍な環境で、実際にチームとしてビジネスを立ち上げていく経験は、学び多い時間であった。
【MBA再考】「MBA: 失敗のすゝめ」 バブソン大学・山川准教授
田中物凄いストレスなんですよ。約束の時間に1時間経っても誰も来ないのは当たり前だったり、南米人は普段調子いいけど夜になるとやる気をなくしたり、タイ人はシャイであまりしゃべらなかったり。みんな個性的過ぎてまとまらないんです。
田中は留学前から思い描いていた“抹茶”を題材にビジネスをしようとチームを説得。半年間のチームテーマとして取り組むことに成功した。自身が卒業後にビジネス化したいテーマということもあり、本番さながらにチームをまとめる強烈な訓練となった。
田中最初は多国籍なメンバーをまとめる英語力もなかったので大変に苦労したのですが、そういった経験を積む中でチームの中でリーダーシップをもって場を仕切る事に自信を持ちました。
MBAのグループワークでは、多国籍なメンバーの価値観の違いに行き当たり、衝突を招く。そういった負荷のある環境が起業家精神を養い学生を成長させるのだ。
田中人と関わってうまく折衝していかなくてはビジネスでは何事もなせないという事実を実感するプログラム。それがバブソンMBAを他のMBAと際立たせる特徴だと思います。
Matchaを世界ブランドに
田中は現在、茶葉の生産から商品開発・販売・輸出を一貫して行うD-matcha株式会社を経営している。京都・和束町にて茶畑を管理し茶葉生産を行いつつも、日本だけではなく、世界各国にお茶の飲み方やお茶を使った新商品を提案している。
田中また、より日本茶への間口を広げて若い人が興味を持ちやすいように、ショウガとほうじ茶、レモンと煎茶、といったようにドライフルーツと日本茶をブレンドしたブレンドティーも販売しています。それらはお客様にも気軽に飲んでいただけるようにティーバッグ商品を作ったりなど、工夫を重ねている最中です。
また、同社は海外に輸出する際には商社などを介さずに、現地のパートナーと直接交渉している。直接対話することで、現地の顧客ニーズに丁寧に答えていくことを重視するからだ。
田中輸出先の半分はバブソン大学で知り合ったビジネスオーナーたちで、残り半分は海外向けの自社ホームページから問い合わせを頂いた方々です。実績のない起業当初から輸出先を作ることができたのは、留学時代に築いたネットワークが多いに役に立ちました。
世界へのお茶販売にかける、田中の想いは強い。
田中和束町のお茶を、ワインでいうボルドーやシャンパーニュ地方のような世界ブランドにしていければと思っています。
和束町が日本茶の産地として世界で有名になり、世界中から日本茶を愛する人が買い付けに来て、それに最高の日本茶を提供して応える。それによって日本文化も伝わるし、日本の農家がもっと裕福になれると信じています。
世界を相手に日本茶を販売していくことの第一歩に、バブソンへの留学で得た経験とネットワークが活きている。
迷う時間はもったいない。行動あるのみ。
戦略系コンサルタントから企業再生を経験し、米国にMBA留学。今では日本の文化を世界に伝える起業家。そんな田中は、日本の若者に何を思うのか――
田中考えて迷っている時間があるなら、とにかくまずはやってみてほしい。日本はお金を出して応援する人が多いのに、起業してチャレンジする若者が少ないんです。失敗したら死ぬわけでもないから、もっと挑戦して、たくさん失敗して欲しい。私自身、ドーナツプラントで経験した多くの失敗が、今のビジネスに活きていると感じています。
“Failure is good”。バブソン大学でMBAを教える山川准教授の教えは田中にもしっかりと届いていた。また、田中を例にとればバブソンMBAへの留学で築くことのできる世界中の起業家とのネットワークは、実業に役立つ価値あるものであることは間違いない。
世界を相手にするビジネスを志すのであれば、バブソン大学の門戸を叩いてみる選択肢も、遠回りではなく着実な一歩と呼べるだろう。
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