連載MBA再考
残酷な日本で、
他と違う人生を送りたい人のためのMBAのススメ
結局MBAという選択肢は何をもたらすのか?取材の結論として、ビジネスキャリアとしてだけではなく、ライフプランとしてもMBAを考察する。
- TEXT BY FastGrow Editorial
箔を付けるためのMBA
MBA特集取材の最中、某総合商社の変わった若手に会うことがあった。彼は所属企業の派遣留学で欧米有名MBAスクールではなく、アジアを選んだというのだ。その意思決定の理由がこの特集の結論と一致していたため、少しその商社社員について触れたい。
彼は今年9月より某アジアトップスクールと欧州トップスクールでMBAのダブルディグリーを予定している。元々不動産業界で働くという軸のもと、新卒で商社に入社、入社後4年間国内デベロッパー業務に携わり、希望通り充実していた。
だが、その後の1年間の中国研修で、地方都市の想像を超える開発、若い中国人同僚たちの持つ裁量権の大きさと高い能力に圧倒された。
この体験から中国などのアジア及び長期スパンで成長が見込める市場(アフリカ・中東)でのネットワークや、アジアのマーケットについての知識を得たいと思うに至ったそうだ。
また、社内のMBA留学獲得競争は欧米トップスクールに集中。その商社はハーバードやスタンフォードに社員を送り続けているものの、帰ってきて何か革新的なことをやった人はいないため、単に経歴に箔を付けに行っているだけという印象を持っていた。
Episode 1 : スライドで見る有名MBAコストパフォーマンスランキング
そういったこともあり、彼は欧米ではなくアジアのMBAを選択した。確かに、彼が持った印象のとおり、これからの時代のビジネスリーダーになるのなら欧米のMBAである必要が無くなったのではないだろうか?
REAPRA・CFOの松田氏は「起業は0から1を作ることであって、すでにそこにある仕事で経験を積むこととはある意味で対極に位置するもの」と語っている。
また、インダストリア代表取締役の橘氏は、「MBAを、ビジネスの場で起こっている事象を形式知化して教える場ととらえると、そこには常にタイムラグがある」と、MBAを捉えていた。
Episode 8 : 「起業を学ぶにはMBAより起業がよい」インダストリア代表取締役・橘芳樹
彼らの教えを踏まえると、確かに起業や新しい物を生み出すイノベーティブなキャリアと、既存の知識を体系的に学ぶMBAは根本的に違うもののように思える。 ただ、経済成長が続くアジアに門を構えるMBAスクールでは、少なくとも革新的な体験を間近で経験できるかもしれない。
中国MBAに社費留学した大川氏は、「欧米だと、イノベーションを起こそうとしても規制に邪魔されることがしばしばあるが、中国は“なんでもござれ”というスタンス。起業家として新しいアイディアを生み出すには最適な国」と語っていた。
経済成長率が高い発展途上国では様々な物が急速に壊され、生み出されている。質に難あれど、アメリカなどの成熟した国でMBAを取得するよりも、とてつもない新陳代謝を持った国に行く方が、革新的なことを成し遂げたい人にとって刺激となるだろう。
Episode 5 : 8年で4倍以上の志願者!卒業生6名の体験談から考察した、“アジアMBA”がキャリアに有利な6つの理由
MBAを取得するメリット
どの取材者も口をそろえて人脈形成できる点を挙げていた。最大のメリットはまさしくこの世界中に広がるビジネスネットワークだろう。
エフマイナーCEOの森田氏は、「様々な人々との繋がりや、それを広げる機会を得られることがMBAの魅力」と語っていた。橘氏に至っては、「MBA時代の友だちとは3日に1回は誰かしらと会ったり話したりしています」というほど現在もネットワークを活用している。
Episode 4 : 「MBAは起業には必要ない」元官僚・エフマイナー森田博和CEO
アジアMBA、特に冒頭で紹介した某商社社員が目指す、ダブルディグリーという選択は幅広い人脈形成が期待でき、メリットを最大化できるのではないだろうか。
「早稲田‐ナンヤンダブルMBAは、東京とシンガポールの両方のネットワークを活用できたので、その点も有利に働いた」と、二つの異なる地で学んだ楽天の向井氏は話している。
そして、この人と人とのつながりやMBAでの課題から、MBA経験者たちは人生の視野が広がっている。
「(留学中の友人は)『失敗しました』がプラスになるという感覚を持っていて、やっぱり違うと思うんですよね」と森田氏は新しい価値観にふれ、物事を変える、新しいことをするということに関して認識が変わるきっかけに出会っている。
松田氏は、「様々な国の人々と議論することで、多様性を受け入れることの重要性、日本人としてのアイデンティティを深く考える機会を得たことが良かった」と語っていた。
MBAの授業は議論が多い。様々な背景を持った人々と議論する際には、意見だけを聞いていてもなかなか理解しがたいことがある。その原因は生まれ持ったバックグラウンドから生じる価値観の違いであることが多い。
それを理解することで、自身の固執した考えを知ることもできる。同様にアイデンティティを実感するのにこれほど最適な場所はないだろう。
佐藤グループワークを通じて自分の価値観、仲間の価値観について知ることで、その時々に自分がどう判断するのか、それはシロに近いのか、クロに近いのか議論の中で学び、自分についてより深く知ることができる。
つまりMBAは、人生を学ぶ場所でもある。
MBAは万能ではない
また、起業家を目指すならMBAではない、今すぐ起業するべきだ。この特集ではっきりしたことだ。バブソン大学の山川教授でさえ、同大学に入りたいと相談してくる学生に向かって、「(サンドイッチ・チェーンの)サブウェイのフランチャイズを始めたらどうか」と勧めるのだ。
Episode 7 : 「MBA: 失敗のすゝめ」 バブソン大学・山川准教授
起業では、事前に学ぶより、行動することで失敗や成功を繰り返し、今までになかった価値を作っていく必要がある。そして、ベンチャーにおいてもMBAは最適解ではないだろう。
高野ベンチャー企業への転職では、勉強するという観点でいうとMBA取得よりも、簿記1級や会計士、税理士科目合格などのほうが有効。
キープレイヤーズの高野氏は「勉強を目的とせず、仕事の成果に直結する最低限の勉強をすればよいのでは」と、まず行動することの大切さを語っていた。
三谷氏によれば、「MBAは、ものすごく広く浅い学問。マーケティング、会計、経済、生産、人事といった、それぞれ習得するのに何年もかかる学問領域を1年や2年でサラッと学ぶ」
Episode 3 : “広く浅い学問”MBAを確かなスキルとするために…三谷宏治「働きながら国内MBA」のススメ
これらの知識をスタートアップで活用している暇はない。行動しながら学ばないとキャッシュが尽きて倒産してしまうだろう。
つまりMBAを取得すれば起業家として成功できる、ベンチャーで活躍できる、といった考えは改めるべきだ。
スローガンの創業者・伊藤氏にも、MBAについて考えを聞くことができた。同氏は、28歳に日本IBM在籍時、起業するかMBAを取得するかを比較検討したことがあるそうだ。
そして、それぞれの選択肢で、2年後の自分を想像し、起業した経験を持った将来像に惹かれたことでスローガンを創業するという決断に至った。
伊藤2年間という時間を費やし、2000万円前後の費用をかけてMBAを取得した自分はきっと、年収1000万円はほしい、経営の上流に関われる仕事しかやりたくない、といったように、仕事・キャリアに関して天狗になってしまうのではないか?と思った。
自身がMBA取得後と他の選択をした後にどうなっているか?同氏のように、様々な選択肢のその先にある未来を想像して比較することで、本当に自分がやりたいことを、見つけることができるかもしれない。なにがやりたいのか、なにが自身にとっての成長なのか考えてみてほしい。
ただ最後にこう言いたい。イノベーティブに生きたいなら、他者とは異なる選択をしろ。それが一番面白い人生となるはずだ。
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