連載ファッションが最強のビジネスである

スタートアップは最強・極上のマーケティングセンスを
ファッションから学べ!!

Fashion is dead。という印象が強いだろうが、実はある点は限りなく最先端かつ、どの産業にも真似できないスキルを持っている。

それは営業力、交渉力、ものつくりのクオリティー、課題解決力、でもなく、「センス」だ。

いかにもファッションぽいスキルと思われるかもしれないが、事業を生かすも殺すもこのセンス=ブランディングにすべてがかかっていると思わないか?

だって、イケてるサービスと思われたほうがいいでしょ?

  • TEXT BY FastGrow Editorial
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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ファッション>レクサス

ファッション産業と聞いて、斜陽の業界であるとか、低賃金長時間労働のブラック産業であるといったイメージを抱く人は多いだろう。そうしたイメージは間違ってはいない。

ファッション業界で今年非常に話題となった『誰がアパレルを殺すのか』(杉原 淳一, 染原 睦美著、日経BP社)にも書かれている通り、ファッション関連産業は、長年蓄積してきた矛盾や非効率が噴出し、いよいよ変わるか死ぬかの瀬戸際にきている。

日本だけでなく、欧米でもファッション消費の低迷はここ数年著しく、厳しい状況は日本と変わらないか、日本以上だ。

しかし、そんな風に今や衰退産業の筆頭格であるファッションが、引き続き異業種から熱視線を集めている。その中には、ファッションよりも遥かに規模が大きく、遥かに進歩スピードの早い産業も含まれる。

たとえば自動車産業がそれだ。ある自動車ブランドが、ファッションブランドのあるコミュニケーション手法に注目しているといったら驚く人は多いのではないか。

それは日本を代表する高級車「レクサス」だ。彼らは競合として、「ベンツ」や「アウディ」、「テスラ」などをもちろんベンチマークしているのだろうが、同時に、ラグジュアリーなライフスタイルを提供するブランドとして、ファッション分野の高級ブランドも猛烈に研究しているのではないか。

筆者が強くそう感じたのは、レクサスが16年から行っているという「ニュータクミプロジェクト」を知ったときだ。

活動の詳細はこちらのページを見て欲しいが、簡単に説明すると、日本各地の若い伝統工芸士やアーティストなどを取り上げて、彼らの作品に有名建築家などがアドバイスすることで商品としての精度を高め、最終的には作品を国内外に発信・販路を開拓するというプロジェクト。

選ばれているアーティストは、秋田の大館曲げわっぱ職人、岡山のい草かご職人など、自動車との関連性が全く見えない人ばかり。たとえ彼らが人気作家に育ったとしても、それでレクサスの販売台数増に直結するようなことはまずないだろう。

ではなぜこれをレクサスが行っているのか。それは、ブランディングのため、ということに尽きる。

プロジェクトによって日本の若い作り手にフォーカスすることは、同じように日本で職人が一つひとつ作っているというレクサスの物語に光を当てることにつながる。

「レクサスは、匠のクリエイティビティーや精神性を大切にするブランドです。そんなレクサスとともに暮らす生活を想像してみてください。速さだけを追求する車よりも、ずっと豊かでしょう?」と訴えかけているわけだ。

実はこのブランディング手法、高級ファッションブランドが十八番としているものだ。たとえば高級ブランドの代表格であるフランスの「シャネル」。

シャネル表参道

彼らは傘下に、気の遠くなるような刺繍や羽飾りを施す工房をいくつか抱えている。そうした工房の技術を披露するためのファッションショーを、パリコレやオートクチュールコレクションと呼ばれる通常のファッションショーとは別に年1回開催し、自分たちの物語の強化を図っている。

スペインの高級レザーブランド「ロエベ」の取り組みは、よりレクサスのプロジェクトと近い。クラフトプライズというアワードを設け、各国の優れた陶芸家やアーティストを表彰することで、手仕事を大切にするというブランドの精神性を訴えている。丁度11月30日まで六本木の21_21デザインサイトで展示開催中だ。

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VCのWiLがファッションPRに惚れる

レクサスのような高級自動車ブランドが、ラグジュアリーブランドのブランディングに着目するのは、ある意味当然とも言える。それを「異業種がファッション産業に注目する代表例」として挙げるのには違和感を覚える人もいるかもしれない。

では、住宅やホテル、食品、街作りといった分野でも、昨今ファッション企業とコラボレーションして、そのブランディング手法を取り入れようとしていると言ったらどうだろうか。

たとえば、大手不動産会社がアウトドアライフスタイルブランド「スノーピーク」と組んでマンションを企画しているというニュースを、聞いたことがある人もいるだろう。

スタートアップフリークには、興味深い話題がある。今年3月、アッシュ・ペー・フランスというアパレルのPR事業部(通称PR01)がMBOで独立し、株式会社ワンオーを設立した。なんとベンチャーキャピタルのWiLが出資している。ファッションPRは花形職種だが、このスキルが厳しい投資会社に評価されたのは何とも感慨深い。

ファッションで個性を主張するなんて言葉はとうの昔に死語になったが、それでも、もしカフェで隣り合った人と同じ服装だったら、気恥ずかしくてたまらない。さりげなくであれ大胆にであれ、やはりファッションには人とは違う自分を演出する役割が求められている。

そのためにブランディングなりコミュニケーションなりを磨きに磨き、差別化をはかっているのがファッション産業の企業群だ。

デザインそのもので全く新しいものを生むことが難しくなっている今の時代は、ブランディング、マーケティングのテクニックがいっそう精緻になっている時代とも言える。

そういう視点でファッションブランドを見渡してみると、あなたの業界や仕事にとっても有益な視点が見付かるはずだ。

こちらの記事は2017年11月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

FastGrow編集部

編集

海老原 光宏

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  • 株式会社eiicon Enterprise事業本部 Consulting事業部 部長、公共セクター事業本部 東海支援事業部 部長 
公開日2019/10/31

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