セールスチームは、如何にして新規のマネタイズポイントを発想したのか?──「衣服を売る」のではなく「経営課題の解決」を追求するシタテル新規ビジネスの実態
Sponsored「衣服が売れない」と言われるようになって久しい。旧態依然とした慣習が残る衣服産業は、「レッドオーシャン」とも呼ばれることも少なくない。
そうした潮流をものともせず、およそ20億円もの資金調達を実施し、業界にイノベーションを起こそうと奮闘する企業が存在する。衣服生産プラットフォーム「sitateru」を中心に、アパレル事業者やプロ・アマチュアを問わず、「衣服をつくりたい」人をサポートするシタテルだ。
FastGrowは、「アパレル企業」ではなく「テックカンパニー」として経営やサービス開発に挑む同社に取材を重ね、テクノロジーの導入によってレガシー産業に変革を起こす術を探ってきた。
本記事では、セールスとして長らくシタテルを支え、新たな市場を開拓してきた伊藤達彰氏と薗部良氏にインタビュー。
彼らは、単に衣服づくりを支援するのではなく、顧客の事業課題に踏み込み、衣服を用いて、解決のため伴走する。さらには徹底的に顧客とコミュニケーションを取り、その知見を元に、自らサービスをつくってしまう。
二人のリアルな仕事ぶりを掘り下げ、旧態依然とした産業構造があるなか、シタテルが次々と新規サービスを創出できる理由に迫った。
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY TAKUMI OKAJIMA
“課題解決の手段”として「衣服」を活用する
「服をつくるのはアパレル会社である」という当たり前を変え、誰もが衣服をつくり、売ることができる社会の実現を目指すシタテル。
伊藤氏は同社の草創期に入社し、一貫してセールス業務に従事してきた。現在は新事業である「CSTM(カスタム)」のPM(プロジェクトマネジャー)として、事業をリードする。
CSTMは、生地やボタン、プリントや刺繍などを自由に組み合わせてつくれるユニフォーム等を提供する。30枚からの小ロット生産が可能であり、「フルオーダーの予算も時間もない」といった企業を初期のターゲットとしてサービスを展開。
ユニフォームづくりを通じ、顧客が抱える課題の解決に挑んでいるが、その真価を発揮できた事例として、伊藤氏は大手化粧品メーカーとの取り組みを挙げる。
伊藤当時のクライアントは大々的なリブランディングを図るタイミングで、店舗販売職(ビューティーアドバイザー(以下、BA))の方々のユニフォーム刷新の相談をいただきました。BAの方は顧客との接点となるブランドの顔であり、リブランディングに大きな効果をもたらすと考え、この度のリブランディングに沿い、かつ加速させる提案をいたしました。
結果として、新ユニフォームに関する社内アンケートでは「自社ブランドが好きになった」「これまでと違う層のお客様に話しかけられて嬉しい」という回答が多く得られました。リブランディングが目的でしたが、結果として社員の方の働きがいや自社へのロイヤルティを高めることにもつなげられました。
他にも伊藤氏は、大手広告代理店と協力し、航空会社との取り組みも手がけたことがある。その際には医学博士とのコラボレーションのもと、最新の生地を使った、長時間のフライトでも疲れにくいビジネススーツを生み出した。
これらの事例からわかる通り、顧客のリクエストに応えるだけではなく、潜在的な課題を見つけ出し、その解決のための手段として効果的に衣服を使うことを提案する。その伊藤氏の営業手腕は、これまでのキャリアによって磨かれてきた部分が大きいようだ。
リーマンショックの影響が色濃く残る2010年に証券会社へ新卒入社し、その後も東日本大震災の影響を受けて市場が冷え込むなか、金融商品のセールスに従事してきた。その環境は、バブル崩壊後の様相とも似ていたようだ。
冷え込みのなかでも成果を出すのは、単に「売る」ことだけを目的にせず、顧客に伴走して「頭」も使える営業だった。バブル崩壊の経験を活かし、必死に仕事をする先輩社員の背中を見ながら、伊藤氏は営業の技を磨いていった。
2年の勤務の後、会社の看板を借りずに自分の実力で結果を出したいと考え、介護系のベンチャー企業へと転職。営業組織のマネジメントなどを手がけた。その後、学生時代の就職活動でもアパレル企業を受けていたほど、衣服産業に強い興味を持っていた伊藤氏は、シタテルに飛び込んだ。
伊藤私がシタテルに入社したときは、まだサービスの形も定まっていない0→1のフェーズ。会社や事業がどのように変化していくのか想像できませんでした。セールスの実力が最も試されるフェーズだと感じ、「この環境で結果を出して成長したい」と強く思ったのが、入社の決め手ですね。
1,000社へのヒアリングから発見した、コミュニティ×衣服ビジネスの可能性
一方の薗部氏は、シタテル入社後にセールス担当からスタートし、新規サービスの調査・検証を経験。現在は顧客やユーザーをコミュニティとして保有する企業向けに、アパレルプロダクトやオリジナルブランドの企画から生産までをサポートしている。
具体的な事例として、SHOWROOMとの取り組みが挙げられる。SHOWROOMの配信者がオリジナルTシャツのラフ案を複数考え、視聴者からの投票を行う。得票が多かったTシャツをシタテルが製品化し、販売するのだ。
「この取り組みのポイントは2つある」と薗部氏は話す。1つ目はSHOWROOMの根本にある思想を形にできた点だ。SHOWROOMはエンターテインメントを提供しようとする人を応援し、輝かせるためのプラットフォーム。薗部氏はその思想を反映し、配信者の人たちを応援するため、販売利益を還元する仕組みをつくった。
2つ目は、顧客に新しい手段でのマネタイズを可能にした点だ。この取り組みにより、モノで売上をつくるという、これまでなかったキャッシュポイントをつくることを実現させた。
企業の新たなキャッシュポイントを生んだ例は、他にもある。大手のデジタルエンタテイメント事業を展開する企業がプロデュースしているバーチャルアイドルのブランド立ち上げをサポートし、グッズの発売から2週間でおよそ数千枚のTシャツ販売を達成したのだ。
「アパレル」に「コミュニティ」を掛け合わせた新規サービスを開発した背景には、薗部氏の足を使った地道なリサーチ活動があった。
薗部半年ほど前から、新しい市場を開拓するミッションに取り組みはじめました。そこで私は、まず世の中の企業が困っていることや、どんなところにニーズがあるのか探るため、徹底的なヒアリングを行いました。
約2,000社の候補企業をリストアップし、そのなかから約1,000社を選び、話を聞きに行きました。そのなかで浮かび上がってきたのが、「コミュニティ」という、顧客・ユーザー基盤を切り口にしたシタテルの新規サービスの可能性です。
薗部氏は途方も無い量のヒアリングを、調査会社など外部の力を一切借りず、数名のメンバーとともにやり切った。ともすれば心が折れてしまいそうな膨大な件数のヒアリングを完遂し、事業の種を見つけられた背景には、薗部氏がJリーグ下部に位置するJFLのサッカー選手だった経験がある。
薗部平日の日中はチームを持つ企業で働き、就業後に練習していました。シーズンになれば毎週末が移動と試合の繰り返しでした。その経験から、日々の練習を積み重ねることが、試合での得点につながることを知っていたんです。だからこそ、事業を成功させるために地道なヒアリングを行っていくことは、苦に感じませんでした。
サッカー選手からの転身を決意した24歳当時の薗部氏が、最初に選んだ職場はアパレルの小売業だった。商品管理業務を経て店頭販売を行うなかで、服がつくられるプロセスに興味を持ちはじめた。
衣服産業のさまざまな課題について調べるうち、産業の変革に挑むシタテルの存在を知る。Facebookのタイムラインをスクロールしていたとき、「衣服産業のGoogleを目指す」ことを掲げたシタテル代表取締役CEO河野秀和氏のブログが目に入ったのだ。自分もその挑戦に加わり、衣服産業の第一線で活躍したい想いから、薗部氏は入社を決めた。
シタテルのセールスが「新規事業」を生み出せる理由は、徹底的なマーケットイン思考
強い想いを持ってシタテルに入社した二人は、マーケットインの発想で、顧客の潜在的なニーズからサービスを生み出していった。顧客とともに試行錯誤を重ねながら課題解決に挑むプロセスに、二人は大きなやりがいを感じている。
伊藤私が入社したときは、衣服で企業の課題解決ができるなんて、正直、想像していませんでした。飲食店や小売業はもちろんのこと、事務職の方が制服を着ている企業もありますよね。会社の成長とともに、価値を提供できる対象が増えたことは、大きなやりがいになっています。
薗部たとえばマーケティングを外部に委託する会社はたくさんありますが、「この会社にマーケティングを頼んでいます」とわざわざ外部に発信することはないですよね。むしろ委託していることを隠したがる会社もあります。
しかし、弊社のお客様は、積極的に「シタテルさんと一緒にやってます!」「シタテルさんとのコラボレーション」と発信してくれています。「一緒に取り組んでいる」という感覚を持ってもらえることは、衣服を中心とした私たちの事業ならではだと思います。
だが、もちろん事業づくりが一筋縄でうまくいくわけではない。シタテルで長らくセールスを担当してきた二人は、現物をつくるビジネスだからこその難しさにも言及する。
伊藤ウェブ業界ならば、アウトプットが納期から大幅に遅れることはあまり無いはずです。しかし、服づくりをするうえで関わるステークホルダーは、納期に遅れることが頻繁にあります。中国でデモが起こった、工場が突然閉鎖になった…理由は様々ですが、トラブルが頻発します。
私たちのお客様は、普段は衣服産業とは関わりの薄い会社が多いため、納期の遅れが発生した場合は当然ご理解いただけないこともよくありました。アパレルの商慣習を当たり前とせず、いろいろなことを変えていく覚悟で各所と調整することに努めてきました。
薗部氏も、衣服を製作するサプライヤーとの信頼関係を構築する難しさについて話す。通常、サプライヤーはアパレルブランドと契約すれば、定期的に発注を受けられる。
しかし、シタテルのビジネスモデルでは、顧客のニーズありきで不定期に発注を行わなければならず、サプライヤーからすれば売上が不安定になりやすい。つまり、サプライヤーと連携し、継続的な関係を築いていくことはとても困難なのだ。しかし当然、衣服産業を変えていくためには、サプライヤーの協力は不可欠だ。
信頼関係を築くために、いかなる手段を講じるのか。薗部氏の回答は実にシンプルだった。「とにかくサプライヤーさんの元へ足繁く通い、コミュニケーションを取ることが何より大切です」。
「アパレルはレッドオーシャンではない」常識にとらわれないビジネスモデルで、産業の未来を切り開く
シタテルの成長を支えてきた二人に、今後の展望について聞くと、「アパレル企業の枠を超え、産業課題を解決する会社を目指す」と意気込みを語ってくれた。
シタテルに集うのは、衣服産業の出身者ばかりではない。代表取締役の河野氏をはじめ、異業種に出自を持つメンバーが大多数を占める。だからこそ、従来のアパレル企業からは生まれない発想が生まれ、新しい事業を創り出せる。
さらには、高い技術力のある縫製工場とのネットワークや、年間約3,000パターンもの衣服をつくり続けてきて蓄積されたデータも、新たな事業を生み出せる要因と言えるだろう。草創期に有名なセレクトショップやアパレル企業の仕事を引き受け、高いクオリティかつオリジナリティある衣服の生産を支えてきた、シタテルならではの強みだ。
主に発想や企画力を提供するPR会社や広告代理店にはつくれない、良質な「形のある製品」を武器に、唯一無二のポジションから顧客企業の課題解決に挑んでいく。そのためにシタテルのメンバーは、「パラダイムを変えるチャレンジが楽しめる人」である必要があると薗部氏は話す。
薗部従来の衣服産業の常識にとらわれず、ビジネスの機会を見出せなければいけません。これまでの衣服産業では、消費者の「衣服代」を取り合って来ました。しかし、見方を変えてみれば、私が推進するファンコミュニティ向けのオリジナルグッズ事業のように、お金を生み出せる新しいやり方は見つかるんです。
SHOWROOMとの取り組みのように、特定のコミュニティ向けにアパレル製品をつくることは、消費者の「趣味に使うお金」を「衣服代」に転化させることにつながる。
薗部アパレル製品は「衣服代」で購入するという「当たり前」を疑い、変えていく。これまでの常識や慣習を疑い、産業のあり方を変えるチャレンジがしたい人には、うってつけの環境だと思っています。
衣服産業はレッドオーシャンだと言われることも少なくないが、二人はそうは考えていない。顕在化していないだけで、広大なブルーオーシャンが広がっていると捉えているのだ。
伊藤たとえば、決められた型のなかからユニフォームをつくる「ユニフォーム事業」はプレイヤーも多く、レッドオーシャンかもしれません。しかし、パターンを組み合わせることによって、低予算・短納期で、店舗デザインにあったオリジナルユニフォームをつくれるサービスを提供するプレイヤーは少ない。ゆえに、CSTMには大きな可能性があると思っています。
単に言われたものを受託製作するのではなく、見方を変え、ビジネスモデルを工夫すれば、世の中に対して大きな価値をつくりあげることができます。この未知のブルーオーシャンを切り開いていきたいと強く思える人たちと、衣服産業を変えるために全力を尽くせる環境が、シタテルの最大の魅力です。
こちらの記事は2019年10月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
写真
藤田 慎一郎
編集
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
連載テクノロジーが最適化する10兆円市場〜衣服産業で起こる変革の兆し〜
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