ferretで劇的に成果を上げた、
オウンドメディア経由のリードを成約に結びつける4つの組織改革
Webマーケティングのノウハウが学べるメディアferretは、昨夏からの取り組みでオウンドメディアとしての機能を強化し成果を挙げてしているという。
ferret創刊編集長・飯髙悠太氏と、マーケティング部を率いてferretの“オウンドメディア的役割”の部分を急拡大させたキーマン、中橋紀善氏の2人に、多くの人に読まれ、尚かつモノが売れるメディアづくりの裏側を聞いた。
- TEXT BY YASUHIRO HATABE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
ferretはいまも昔も「オウンドメディア」ではない
2014年9月にローンチしたWebマーケティングメディア「ferret」は、今年の9月で丸4年を迎える。PVはすでに月間500万PVを越え、会員登録数は月間4,100人(2018年7月現在)にも上るということだ。年初時点での会員登録数は2900人程度というから、この半年でかなりの勢いで増加している。
そして、1年ほど前に新設したマーケティングチームと動きを連携することで、自社プロダクト「ferret One」の受注につながるリードを提供できるようにもなってきたという。
飯髙そもそも「ferret」はオウンドメディアではありません。単体で収益をあげることを目的に始まった事業です。だから、立ち上げの時から、当社の何らかのプロダクトにリードを提供しようなどという意識は、一切ありませんでした。
前回、FastGrowで飯高氏にインタビューをした時にも少し触れていたが、ferretの狙いはWebマーケティングのノウハウを一箇所に集約し、体系化することだった。
飯髙 前提として、僕らの会社は「Webマーケティングの大衆化」をビジョンとして掲げています。ferretも当然ですが同じ方向を見据えて、大手企業に限らず世の中のあらゆる企業が、Webマーケティングを実践できる状態をつくりたいと思ってサイトをつくっています。
Webマーケティングは、5年前ならSEO、リスティングも小手先の手法でどうにかなった部分がありました。でもその頃から、「いずれそれだけでは成果が出ない時代が来る、一社一社がきちんと顧客と向き合うためにもWebマーケティングは絶対必要条件だ」と思っていました。
ただ、「さあやってみよう」と思った時、世の中にマーケティングを取り扱う書籍・Webメディアは数多くあっても、戦略の話“だけ”、解析手法“だけ”、サイト改善“だけ”の情報が点在していて、「初心者でもこれさえ読んでおけば、マーケティングの入口から出口まで、あらゆる課題が一通り分かる」というものがなかった。そこで、それをつくろうとしたのがferretです。
メディアも「サービス」の一つである
ferretのコアターゲットは、イノベーター理論で分類されるところの「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」だと飯髙氏は話す。
飯髙イノベーター理論で言うとこの二つは全体の34%ずつだから、合計68%。そういう人たちに使ってもらえてこそ、大衆化といえますよね。そういう人たちが、Webマーケティングの知識レベルでいうと100点満点で60点が取れるくらいのものを目指しています。
ferretに出会ったら、基本的なマーケティング用語の意味が分かった、書かれていることを参考に実際にやってみたら何かが変わった、問題が解決できた、そういう状態をできるだけ広く、たくさんつくりたいんです。
中橋だから、僕らの中ではferretも当社のサービスの1つという位置づけですね。「ferret One」というマーケティングツールもサービスだし、ferretもまた知識・情報でお客さんの課題を解決するサービス。ferretは他のプロダクトの利用を促進するためのツールとしてあるわけでなく、あくまでもひとつの独立したサービスなわけです。
飯髙 メディア事業として成り立たせるぞということですね。その裏付けとしてferret単体でP/L(損益計算)を引いていますし、収益を上げるため、記事広告やタイアップ、他メディアへのコンテンツ提供などのマネタイズ施策もいろいろやってきました。
そういう前提がある上でferretのユーザーに提供するベネフィットの一つとして、僕らは「ferret One」という実践で活用できるプロダクトを持っている。だから、1つの選択肢として、リードを提供したらユーザープロセスは学んで実践っていう自然な流れだしとなったわけです。
メディアとプロダクトのマーケティング担当を統一し、連携しやすい組織に
ferretはローンチから半年でPVは月間100万に到達し、それ以降も急角度で成長を遂げているのは冒頭で紹介した通りである。
しかし、メディアにどれだけ人が集まったところで、プロダクトにリードを渡せるかどうか、その後のプロセスで受注にまでつなげられるかどうかはまた別の問題だ。
成功していて、単独で収支も追わねばならないferretというメディアに、オウンドメディアとしての機能を持たせようとした時に、どのような課題が生じ、どういう取り組みで成果を高めてきたのだろうか。
飯髙2016年頃から、「ferret One」へリードを提供していたんですよ。といっても、ferretの登録会員に対してとりあえずコールする(電話をかける)みたいな形で。でも、資料をダウンロードするために会員登録をした人に、通り一遍の営業トークをしたところで、そう上手く受注につながるはずはないですよね。
中橋そこで昨年の6月に、まず組織を変えました。それまでは、ferret部門とferret Oneの部門のそれぞれにマーケティングチームが属していたのですが、それらを各部門から切り離して、両部門を横断する1つのマーケティングチームに統合したのです。そして、私がマーケティングからインサイドセールスへの橋渡し部分をマネージメントするようにしました。
当時、ferret Oneの部門からすると「ferretのメディアパワーを活用したいけど、どうすればいいか分からない」という感じでしたし、ferret部門もメディアとして、「ferret Oneというプロダクトのプロモーション支援における良い関わり方を決めかねている」という感じで、いわゆる“お見合い”状態でした。
飯髙 もう少し心の声をあからさまにいうと、ferret部門からは「すでにリードをあげているのに」という考え方だったと思いますし、ferret One部門からすれば「もっといいリードがほしい」という思いもおそらくあったと思いますね。
中橋ただ、私はその状態はある意味“健全”だとも思っていて。やはり、プロダクトを売りたい側はより受注率を高めたいはずで、予算に対してこれだけのリードがほしいという算段をしているのは当然あるべき姿です。一方、メディアは、メディアとしての矜持がなければアイデンティティが保てませんから。そこが崩れてしまっては本末転倒なわけです。
だからこそマーケティング組織を一つにして、どうやったら共通のメッセージングで、事業を横串で貫いたマーケティングができるのかをチーム内で決めました。お互い“おっかなびっくり”でコミュニケーションが取れていなかったので、組織を一つにしてメンバーのマインドの変革を図ったわけです。
施策以前の話ですけれども、この組織再編が、今振り返ってみれば重要な転換点だったと思います。
受注までのストーリーの“ねじれ”を解消し受注率アップ
中橋もう一つ着手したのは、ferretを起点にしてferret Oneの受注に至るまでの一連のプロセスをきちんと構造化するということでした。
マーケティングがリードを獲得し、インサイドセールスがリードしてアポを取り、フィールドセールスが顧客を訪問して商談をして受注に至り、カスタマーサクセスが顧客のプロダクト活用をサポートする…このプロセスのそこかしこに、“ねじれ”があったんですね。
飯髙SaaS企業にはよくあるバリューチェーンの形ですけれども、おそらく多くの会社で“ねじれ”が生まれているのではと思います。
マーケティングのKPIとして、どうしてもリードが主眼としておかれますよね。だからどうしても意識が「量」に寄ってしまって、リードの「質」まで考えられなくなってしまう。そうすると、それほど温まっていない見込客がインサイドセールスに流れて、なんとか無理矢理アポを取ったとしても、受注に至らない。
本当はもっと入口のところから「質」を意識してコントロールしたほうが、後工程に無駄が少なくなるし、成果も上がるわけです。
僕らの場合は、さらにそのバリューチェーンの前にferretというメディアがあったので、余計にねじれる構図になっていました。
中橋そこで行ったのは、ferret Oneのバリューチェーンを改めて明確にして、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスそれぞれのマネジャーに明確な数字責任を持たせるということ。
仮にマーケティングからリードがもらえなくても、インサイドセールスはそれを言い訳にしない。自給自足でアポを取ってフィールドセールスに渡す、それくらいの意識でやることをひたすら追い求めましたね。そうやって数字が徐々に上がってきて、各部門のKPIが週次・月次で守られる状態になった。
そのような「KPIは絶対死守する」という組織基盤が整った上で、例えばマーケティングとインサイドセールスの間で、「こういうリードだったらアポ率が高いんじゃないか」「このリードだったら、こういうメッセージでリマインドメールを送ろう」というような、「質」に関するコミュニケーションを増やしてきています。組織全体に甘えを許さない文化を作るためにも、「量」を担保してから「質」も担保する、という順序が大事ですね。
飯髙それに合わせて、ferretのサイト側でも、Web接客ツールなどを使ってサイト来訪者に対するWebアクションを増やしています。
また、会員登録の際に入力してもらう項目も少し増やしたり、サイト内の行動履歴を追ったりするようにして、どのような動機でferretを訪れたのか、何に関心があるのかをできるだけ掴めるように少しずつ変えています。
中橋Web接客ツールには、ユーザーの行動履歴によってWebアクションのパターンを変えられる機能があります。今は、どんな行動パターンのユーザーに対して、どのようなメッセージを出して、その後の行動をどう促すかの定義に注力しています。仮説をもって、実際に試しながらゴールデンルートを見つけようと検証しているところです。これがものすごく大変な作業なんですけども(笑)。
飯髙あと、これは「量」を担保する施策でもありますが、ferret Oneでは問合せが来た瞬間に、チーム全員に聞こえるようオフィスに「音」が鳴ります。お客様からしても、問合せした瞬間に行動履歴から予測される適切な情報提供を電話でされるわけですから、「まあ会ってあげてもいいか」と思ってもらいやすいんです。熱いうちに鉄を打って、アポ獲得率を高める小ネタです。後どんなにマーケティングオートメーションだ!と言っても、マーケティングオートメーションはデータやシナリオ設計がなければ思ったような機能は果たさない。BtoBにおいては、電話をかけるといったアクションがとても重要なことなんですよ。ご自分が問い合わせしたってことを考えてもらうと、そこはわかっていただけるのかと。
メディア運営は手段だ。「覚悟」と「目的」はあるか?
「オウンドメディアではない」と自らを定義するferretが、オウンドメディアとしての機能を果たしはじめている。この事実の中に、メディアづくりのあるべき姿のヒントが隠されているのではないだろうか。
飯髙今「メディアをやりたい」というアイデアが出てくる背景って、おそらくこれまでのマーケティング活動に限界を感じているからなんですよね。国内市場が縮小していく中で、リーチを潜在層にシフトしていかないといけない。そこで「メディアだ!」と考える。
でも、いざやろうとすると、なぜかKPIとしてコンバージョンやPVが求められる。これがとにかくナンセンスなんです。本来の目的はコンバージョンやPV獲得ではなく、商品を買ってくれる可能性のある人たちの「購入意欲を高め、育てる場」というのがメディアの役割であるはずなのに。
僕はよく、メディアのKPIがコンバージョンだと言って聞かない企業に対しては、「だったらリスティングとリマーケティング広告とfacebook広告とアフィリエイトにもっと投資したら?」って言っていますね。それらはコンバージョンに直結しますし、計測しやすいからです。
あとは、「メディアをやる」という手段が目的になってしまっているケースも見かけます。それって、メディアを単に「人が集まる装置」としか考えていないんだと思うんですよ。
でも、見られるメディアになるには時間がかかるし、そもそも上手くいく保証もない。思っている以上に、つらいことも多いですよ。だから、もし「やる」となったら、トップ不在は絶対におすすめしません。片手間で立ち上がるほど、メディアは簡単ではないとはっきり言っておきます。強い意志と覚悟を持ってコミットするトップが絶対に必要です。
中橋お客様を見ていても、本当にそのとおりですね。ベーシックではメディア運営のコンサルティングサービスも提供していますが、年商数億円という中小規模の社長の中には、金融機関から融資を受けてまで僕たちにコンサルティングを発注してくれる方もいます。そのくらい覚悟があると、やっぱりメディアもうまく伸びていくんです。
飯髙ferretの場合も、社長直々に、「2年は赤字を気にしなくていいから、このKPIをここまで持っていってくれ。収益化はその後からでいい」といってくれていました。そこまでの覚悟があるなら、やりたい・やってやろうと思い入社したんですよね。
中橋そのようなトップのコミットメントももちろんのこと、「目的は何か?」「誰にどんな価値を提供するのか?」を決めることは、事業運営の基本ですよね。ターゲットと課題がちゃんと明確になっていないと上手くいくわけがないし、そもそもそれが定義されていなければ、成功だったか失敗だったかも判定できない。でもなぜかメディアになった瞬間に、多くの人がそんな当たり前のことも考えられなくなってしまう。
飯髙メディアを立ち上げるなら、いつまでに、どんな状態を目指すのか?誰の、どんな課題を“メディア単体で”解決したいのか?もし、これからメディアをやろうと考えている人は、そういったことを吟味してから覚悟を決めて取り組まれることをおすすめします。
こちらの記事は2018年08月16日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
畑邊 康浩
写真
藤田 慎一郎
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