【メディア人必読Ⅱ】
ferret創刊編集長に聞く
最強のウェブメディア運営法
弊媒体で掲載した「【メディア人必読】PVこそ資産だ。
高広伯彦に聞くウェブメディアビジネスの本質」は、SNS上でも大きな反響を巻き起こした。
同調するメディア関係者も多いが、媒体を運営している当事者たちは実際どう感じたのだろう?
マネタイズについて、コンテンツ作りについての考え方は十人十色だろう。
高広氏と公私共に親交のあるferret創刊編集長の飯髙悠太氏に話を伺った。
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
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【メディア人必読】PVこそ資産だ。高広伯彦に聞くウェブメディアビジネスの本質
まずは高広さんのインタビュー記事の感想を聞かせてください。
ストレートに言ってくれたな、という印象です。「やたらと読者を増やしてPVを稼げばいいかというとそうではない」というのはよくわかる。ただ、ウェブメディアは儲からないと嘆いている人が多いという話が出てきましたが、実際は儲かる、と私は言いたい。
高広さんも言っていた通り、賢くやろうとしないで足で稼げばいいんです。僕も営業上がりだから積極的に記事広告や他メニューを販売しにいくし、泥臭くやってマネタイズしていくのが必要ってことも的を射ている。そのときに重要な指標がPVであるということはその通り。
メディア運営側として補足するなら、一口にPVといっても広く取るかニッチを狙うかで戦略が変わると思っていて、僕は圧倒的に後者側。広い領域でゼロから取るのは難しいですが、”狭くて深い領域”はマネタイズしがいがある。またメディアの今後のありかたは、コミュニティになると思っています。
狭くて深い領域を狙う上で心掛けていることは?
様々なメディアが理想を持ってそこに近づこうと努力していますが、点と点ばかりでコンテンツの文脈がつながってないところが非常に多い。
たとえばリスティング広告運用会社のオウンドメディアではリスティングのノウハウやアップデート情報ばかり扱っている。リスティング広告で成果をあげるためには、UI/UXを考えなくてはいけません。
LPOやA/Bテストも必要ですし、ユーザー解析、勿論、テクニカルな話だけではなくビジネス視点も重要です。一方でリスティング広告を筆頭とした運用型広告を専門で扱う会社でも、めちゃめちゃうまくやってる企業があります。個人的にアナグラムのメディアは記事更新があるたびみています。
ウェブマーケティングで成果を上げるための一連の流れを教えてくれるメディアはなかった。その領域のメディアを作ったのは僕らの運営するferretです。
カリキュラム、ferretの全コンテンツを読めばウェブマーケティングの全てがわかることを意識してサイトを設計しています。点が散らばっている情報を、一本の線でつなげたかったんです。とはいえ、正直いまのままでは本当の線ではないという自覚もあり、今後そこはよりよくしていこうと考えています。
実際、自分が欲しい情報をキーワード検索できても、本当にほしい情報に辿り着けていないユーザーは多いと思うんです。それを解決しようと世の中の人が真面目にやっていけば、ウェブ上にコンテンツは増える一方でもう勝てる分野はないんじゃないか?と思ってしまいそうです。
しかし、今のGoogleの発想で考えたら、ユーザーにとって意味ある情報を提供し続ければ、まだまだ勝ち目があるニッチ領域があると思っています。ferretとしては、マーケティングに困った人が検索に頼らず、いかにダイレクトでferretに訪れてくれるか?が重要だと考えています。
これからメディアを始めたい人は、どうやってニッチな領域を見極めてコンテンツを作ればいいですか?
コンテンツやデザインありきではなく、誰に対して狭く深くあるべきかを考えるのが一番重要です。まずは(ターゲットとなる)ユーザーありき。
たとえばスターバックス・コーヒーのユーザー1人にしても、大学生と30代の女性が1杯を購入する際の視点が違う。20代はインスタ映えにこだわっているかもしれないし、30代はコーヒーといえばスタバという考えになっているかもしれません。そのどちらかにターゲットを絞ることが「深さ」につながります。
SEOにしても内部対策か外部対策かで違ってくるし、リスティング広告の出稿先も、「深さ」を考えたら効果を最大化させることができる。
創刊編集長でありながらそうした観点を持てているのはなぜですか?
今はメディアの領域で戦っていますが、言葉を恐れずに言うと自分のことをマーケターとうたっています。月500万円くらいの規模の広告プランニングなら同世代の現役に方にも引けを取らないと思います。
メディアもサービスもこれまで数十個も作ってきたし、打席に立つことは多いんです。だから、サイトに訪れたユーザーがどうコンバージョンするのかの設計はできる。入口がマーケティングで生粋の編集人じゃないから、うまい文章やおもしろいコンテンツは書けないですが。
いろんなメディアで支援してきた中では、どういうコンテンツがTwitterでバズるのか、どういうタイトルだと注目を集めやすいのかだけじゃなく、誰に読んでほしいか、誰にシェアされたいかも考えてきたし、ターゲットがログインしている時間まで把握していました。
世の中では「ユーザーファースト」で考えてるって企業が増えてるけど、本当にそうなの?って思うことがたびたびありまして。結局単なるきれいごとなんじゃないかって。ウェブ上だけでユーザーを知ることは難しいと思っています。それがAmazonやFacebookであれば可能かもしれませんが。
なので私は未だに営業現場に出るし、現場では企業がどういう課題を持っているか、生の声を聞くことを重要視しています。
そうすると、あのコンテンツよかったよって言われることもあれば、その逆もしばしばある。でも重要なのは、100人いたら90人に嫌われてもいいから、まずは残りの10人が超好きっていう状態を目指せばいい。そうすることで、毎日来てくれる人が増えていくものだと思います。
媒体読者に会って意見を訊くこともあるんですか?
もちろんです。ユーザーと会える場所を増やすことは常日頃すごく考えています。地方の方の声を聞くことはとても大事。地方の声ってオンライン上ではわかりにくいので、現地に行ってイベント登壇して懇親会をすることによって、彼らの課題が見えたりするんです。
僕のこと信用してくれたらferretの会員になってくれるし、接点はすごく大事にしています。
地道な活動をしていますね。
僕、地味ですからね(笑)。それに、資金力に頼ったマーケティング手法だけにフォーカスしちゃうと再現性がない。お金を持ち続ければ再現性はあるけど、そんなの保証されていないじゃないですか。
でも、地道にできることには再現性がある。僕自身これまではどちらかと言うと再現性なくよしなに生きてきたし、何度もメディア運営に携わっていたらデバイスの変化やプラッフォームの多様化によって今の時代になっていたって感じです。
でも今回ferretやるときは単純に再現性を持ちたいと思って地道に、だけどしっかり考えてやってきています。
今もう一度0からferretを立ち上げろ、と言われたら、本当にできるかは置いておいて2倍のスピードで立ち上げられる自信があります。そのくらい仮説検証を繰り返しながら日々PDCAを今のferretでは回せています。
ferretのように、コアなファンがついてメディアのコミュニティ化が進むと、どのような変化が生まれますか?
人間のつながりを確認できる場がプラットフォームに置き換わるということだと思います。だから、いかにリアルに人との関わりを感じられる場であるかが大切。そうすることで、多くの人がそこにお金を落とすようになると思うんです。
つい最近ferretで、ヘアライターの佐藤友美氏にインタビューした記事を掲載したところ、約400アクション(Facebookシェア・いいね!、はてぶなど)されたのに3,500PVでした。
通常ならこれだけシェアされれば、数字としては倍くらいになります。ただ、これこそ“狭く深く”を突破したいい例です。記事内では、7万部突破という売り上げを記録している彼女の著書『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)のプロモーション方法について伺っています。
佐藤氏は発売前にまわりの友人や美容師に読んでもらってそれをまとめたチラシ作り、発売してからはそのチラシ自体をフォロワー全員に送ったとのことでしたが、これからは彼女みたいに、自分にコアなファンを持っている人が強くなってくるのかなと思う。
それこそ、インフルエンサーマーケットの正しい在り方にもつながってくる。たとえばユニクロが有名女優を使っているのはコンセプトとしては正しいけど、インフルエンサーとして使うなら、なんらかのスキルや知識に特化した人を選んだほうが絶対フォロワーの購買リアクションは大きいはず。
たとえでユニクロを言わせてもらいましたが、ユニクロ自体めちゃくちゃマーケティングがうまい会社だと思っていて、だからこそ女優を使うことでより加速しているんです。マーケティングができてない会社が、女優を使えば物が売れるって発想はやめたほうがいいと思います。
ちょっと想像してみてほしいんですけど、著名人が推薦する本って一応お気に入りにいれるけど、実際に店頭に足を運んで購入するまでには、中々ならなくないですか?
でも、知り合いに薦められたら私はソッコーでAmazonで買います。本来人間が生きているのってリアルな場なので、相手を近くに感じられるほど人は影響を受けやすい。
ネット上の深く・狭い、特化したコミュニティでなら、オンラインとはいえ限りなくリアルに近づけるんじゃないですかね。
メディアを作る上で、ペルソナを設定することは重要ですか?
そうですね、社内のメディア関係者の目線を合わせる上で大切と思います。ペルソナがないと、例えばライターが誰のために書いているのか想像しづらくなる、ということはあるでしょうね。
つまり、インナーコミュニケーション向けに重要なんじゃないかと。
ferretでは、そもそものペルソナである「ferretにくることで満足できる人」に加えて、このペルソナを連れてきてくれる「第二のペルソナ」も設定しています。
自分が尊敬する人がシェアしたり、いいね!しているからこそ、自分も読みたくなるじゃないですか。だから、この人の尊敬するアーリーアダプターは誰なんだろう??って考えるんです。「第三のペルソナ」くらいまで立てていますね。
その上で、ひとつひとつの記事に対して、それが誰のためのものであるか設定してから書き始めてもらっています。大枠のアウトラインを出してから編集者がOK出したら、ライターはその記事を作成していいってことにしているんです。
ペルソナ以外にも設定している項目はありますよ。「これはバズを生むための記事」「この記事はこういう課題を解決するためのもの」だとか、記事ごとのKPI・ゴールも毎回設定している。
社内でも「読まれないコンテンツは無価値だ」と私は良く言っているし、読まれるためのベストな時間やタイミングももちろん考えています。
最近ではferretのスマホアプリを提供し始めたんですけど、仮説通り、ウェブ版とアクセス時間が全くことなるという発見もありました。
スマホアプリは朝7~8時、夕方19時〜20時の通勤時間にアクセスが急増するのに対して、ウェブ版は就業時間中の9~18時くらいにアクセスが多い。業務時間外でferretに触れる時間を増やすためのアプリ化施策だったので、良かったなと思います。
まだまだダウンロード数が少ないのは事実ですが、それより隙間時間で見てくれる人のためにアプリを提供しているので、そこに関しては満足しています。
メディアをスマホアプリ化する企業も最近増えてきていますけど、「誰にどういう場面で来訪してほしいのか?」を考えて、その特性に合うコンテンツ提供方法を考えることを意識していかないとですね。
メディア関係者に鳴らしたい警鐘はありますか?
そんな偉そうに言えないですが、コンテンツ1つひとつの評価をもっとちゃんとした方がいいと思います。オウンドメディアを運営したら失敗したって話をよく聞きますが、「最後までやりきらずになんで失敗って言うんだろう?」と私は思ってしまいます。
そもそも、提供している企業自体がちゃんと「なぜオウンドメディアをやっていて、どんな目的が達成されれば満足なのか」をきちんと考えていないんですよ。
たしかに1万PV取れるコンテンツが作れたらある意味すごいけど、BtoBのマーケティングメディアであれば、問い合わせや資料請求といったコンバージョンがしっかり取れている記事かどうか、といったことと計測しないと意味がない。
「PVが取れたから良い」じゃなくて、コンテンツ毎、メディア毎にしっかりと目的を決めて評価・計測していく姿勢が世の中に広まるべきだと思います。
実際にferretでも、とあるコンテンツマーケティングのノウハウを書いた記事は1週間3万PVいったけど資料請求は0件で、鍼灸院の来店が5倍になったコンテンツマーケティング事例を書いた記事は1/10の3,000PVだったけど資料請求は10件ありました。どっちが良い・悪い、ではなく、コンテンツごとに目的を意識すべきです。
その他でいうと、チャネルごとにCPAを計測するのもそろそろ止めませんか?と言いたい。オンラインでもオフラインでもユーザー接点が増えてきた現代では、リスティング広告ではCPAがいくら、ディスプレイではいくら、では意味が無いのでは。
ブランドリフトじゃないですけど、チャネルごとの貢献度をしっかり計測する意識をもって、マーケティング活動全体での「トータルCPA」で成果を考えるべき。
メディアの役割は、態度変容ですからね。最後の刈り取りだけでCPAを計測してしまったらそれこそ「LPつくってリマケしろ」で終わってしまう、工夫がないマーケティングにしか手を出せませんよ。
こちらの記事は2017年11月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
松本 玲子
連載スタートアップ的メディア論考
8記事 | 最終更新 2017.11.22おすすめの関連記事
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