【Googleも注目】
ブロックチェーンを駆使し、メディアエコシステムの変革を目論む、
謎の組織PUBLIQとは?
世界的にフェイクニュースが蔓延している。
これはウェブメディアの収益構造から引き起こされる悪だ。
しかし、ブロックチェーンによりメディアビジネスの根本を変えようと目論むフランス人がいる。
世界を巡り、グローバルにメディアを変革しようとする彼が東京を訪れた。
新テクノロジーはジャーナリズムにゲームチェンジをもたらせるのか。
- TEXT BY FastGrow Editorial
質より量が利益を生む歪んだメディア業界
今、非営利組織PUBLIQのアレクサンドル・タバック(Alexandre Tabbakh)CEOは多忙だ。
彼はメディア業界に革新を起こすため、世界主要都市を回っている。ニューヨークではGoogleやAccenture、Barclays、Forbesといった名だたる企業の役員たちと会い、ブロックチェーンがいかにメディア業界を変革できるかを力説。
カザフスタンで行われた世界最大級のメディア討論会、ユーラシアン・メディア・フォーラムでも、CNNやAPCO Worldwide, China M&A Associationの代表を含む600人ほどを前にブロックチェーンを基盤とした新しいメディア業界の収益構造をプレゼンテーションした。
「現在のメディア業界は、読者とライターが一番の被害者だ。我々はメディアの新しい形を創造する」とアレクサンドルは言う。
インターネットの普及と共に、私たちがアクセスできる情報はとてつもない速さで増えてきた。だが全ての情報が正確かつ有益なわけではなく、偽造された情報も多い。
現在の収益構造上、一部ウェブメディアは低コスト・低品質の記事を量産することでサイトのビュー数を増やすことに専念している。1PVの元では記事のクオリティーは関係なく、クリックされるものが正義。ゴシップやアダルトなど劣悪な内容が利益を生む構造になっている。さらに、一部のメディアは1次情報に当たるのでなく、既に存在する記事の末節を変え新しい記事を作成。ウェブメディアでは質の低下と情報の重複が起こっているのだ。
一方、FacebookやTwitter、WeChatなどといったSNSは莫大な富を築いている。しかし利益の源泉である投稿者は適切な対価を得ていない。
例えば、Twitterでは多くの専門家が自身のツイートを通して情報を提供している。もし彼らの情報が正確で多くの人の関心を引いたとしても利益を享受するのはTwitterであって、その専門家たちではない。さらにプロのライターですら適切な報酬を受け取っていない。彼らはページ単位もしくは文字数単位で原稿料が定められ、記事の質がそのまま報酬に還元されていない。特にウェブメディアの原稿料は安い。
アレクサンドル読者の信頼を勝ち取るためにもライターが質のいい記事を書く動機を作らなければいけない。最近Googleがアフリカでジャーナリストを養成していると知った。私は誰がどうやって正当な報酬を払うのか疑問だ。いくらいい人材を育てても不当な報酬ではやる気も減っていく。だから適切な報酬が与えられるシステムが必要なんだ。
ライターの評価=報酬になる
そこでアレクサンドルはブロックチェーンを使った新しいエコシステムにたどり着いた。彼は金融×ブロックチェーンで一度起業しており、知見や人脈があったのだ。
後者を具体的に説明すると、一度記事を投稿すると暗号化され、“Seeders”のもとで保存される。彼らは保存可能なスペースを提供することによって手数料を稼ぐ参加者だ。そしてこの暗号化された記事を解除するための複合キーがブロックチェーンに保存される。これにより記事を改変することはほぼ不可能になる。この不変性は権力を持った組織からの検閲を防ぎ、ジャーナリズムの確保とライターの独立性を保つ。
また、The PUBLIQ Ecosystemはライターに客観的な評価を提供し、公平な報酬を即時配布する。具体的にはライターはそれぞれPUBLIQ スコアという数値を割り振られ、その数値に応じて他の暗号通貨や紙幣と交換可能なPBQ トークンが日々報酬として配布される(レートは未定)。このスコアは記事のビュー数やライク数、シェア数、フラッグ数に応じて変化。フラッグはネガティブなフィードバックとして使用される。
PUBLIQ スコアに関する記録も記事と同様にブロックチェーンによって守られており、半永久的に不変。報酬に直結する評価を保つためにライターは質の高い記事を投稿しなければいけない。もし偽造または模造した記事を投稿すればネガティブなフィードバックを受け、スコアと共に報酬もなくなる。
アレクサンドルFacebookはフェイクニュースや間違った情報を判断するAIを開発している。新しく素晴らしい挑戦だが、私は1つの民間企業がコンテンツの良し悪しを判断するのは危険だと思っている。読者だけがコンテンツを評価するべきだ。
PUBLIQは一つの主体が判断することを好まない、したがって当然編集部も存在しなければ、The PUBLIQ Foundationという管理組織でさえ、何かを実行する際はライターたちに投票を募る。彼らは可能な限り民主的な形態をとっているのだ。
99%の利益はライターのもの
PUBLIQは読者にとって最適な提供方法を求め、コンテンツの見せ方にも工夫をしている。
保存された記事は彼らのメディアサイトで全て閲覧可能。だが目的はメディアとしての成功ではない。したがってAPIを使い他サイトでもコンテンツを閲覧可能にする予定だ。さらに、同社サイトではAIを使ったリコメンデーション機能が備わっており、読者は自分の好みに合ったコンテンツを効率よく見つけることができる。こういった機能は特に珍しくないが、提案の仕方にPUBLIQ創業者たちの思想が表れている。
アレクサンドル読者が意見を持つ機会を最大限に広げたい。私たちはついつい同じ意見のコンテンツを選んでしまう。だが幅広い考えに触れることでより洗練された視野を持てるのではないだろうか。
一部のリコメンデーション機能が偏った方向に読者を促している。私たちはユーザーのオピニオン形成を阻害したくない。だからPUBLIQのリコメンデーション機能には読者が選ぶ記事と異なった意見のコンテンツも提案する仕組みを設けた。
また、PUBLIQは広告主をサポートするためにもAIを使用。ユーザーの好みやコンテンツの内容をもとに最適な広告の配置を提案してくれる。さらにAIによる分析やレポート機能も備えており、広告代理店の役割を限りなく排除。メディア業界の収入源である広告費をできるだけコンテンツ提供者に還元する仕組みになっている。創出される利益は99%ライターに還元され、残りの1%でPUBLIQは維持される。
アレクサンドル今までメディア業界ではとても長い間仲介者に支配されてきた。そして彼らは人々の創作物を使って莫大な富を得ている。この受け入れがたい現状を変える時は10年後でも20年後でもない。今だ。私たちは素晴らしい時代に生まれ、この業界を変えるだけの技術を持っているのだから。
こちらの記事は2017年09月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
FastGrow編集部
連載スタートアップ的メディア論考
8記事 | 最終更新 2017.11.22おすすめの関連記事
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