食品業界に新たなブルーオーシャン、
「冷凍食品・新時代」が到来
- TEXT BY SAORI HASHIMOTO
「冷凍食品」といえば、電子レンジで温めるだけで食べられるため便利である一方、「不健康」や「美味しくない」といったイメージを思い浮かべる人も少なくない。
しかし今、アメリカで「冷凍食品ブーム」が起きている。マーケティング・リサーチ会社Acostaが2017年に公表したレポートでは、アメリカ人の26%が前年よりも多くの冷凍食品を購入し、市場全体の売上は2017年に5年ぶりに上昇。
しかも、そのブームを牽引しているのは健康意識の高いミレ二アル世代。購入量の割合を世代別に見てみると、
- X世代(1960年代初頭または半ばから1970年代に生まれた世代)が27%
- ベビーブーマー世代(第二次世界大戦後から1964年頃までに生まれた世代)が19%
- そして、ミレ二アル世代が圧倒的に多い「43%」だったのだ。
今回は、アメリカで起こる「冷凍食品」に対する消費者のパーセプション・チェンジ、その背景にある特にミレニアル世代の価値観の変化について考えてみたい。
冷凍食品とミレ二アル世代の密接な関係
アメリカでは共働きの家庭が多い。そうなると当然、食事の支度に充てられる時間はかぎられてくる。カナダの大手証券会社RBC Capital Marketsが公表した最新のレポートによると、アメリカ人が毎日の食事の準備と片づけに費やす時間は、平均39分だという。
ニューヨーク在住の筆者の知人である30代半ばのアメリカ人女性は、夫と二人の息子(1歳と3歳)との四人暮らし。自身もフルタイムで働きつつ二人の子どもを育てる、ミレ二アル世代によくみられる構成の共働き家庭だ。
彼女は朝9時から夕方6時までオフィスで働いたあと、6時半に帰宅し、それから食事の支度を始めるのだが、7時の夕食に間に合わせるためには温めるだけで食卓に出せる冷凍食品を主菜か副菜として毎日必ず一品は使うと話していた。
ちなみに、子どもの朝食にも冷凍食品を活用。オーガニックの冷凍ワッフルを常に冷凍庫に入れてあり、ベビーシッターに温めをお願いすればいいだけなので助かっている、とも。
このように考えているのは彼女だけではない。既出のAcostaによるレポートによると、ミレニアル世代が冷凍食品を買うシーンとして、
- 簡単な夕食(89%)
- 子どもの朝ごはん(81%)
- 副菜として(78%)
- 手軽な昼食(72%)
を挙げる。また、彼ら(ミレ二アル世代)が冷凍食品を購入する際に気をつける点は、
- 抗生物質不使用(76%)
- ホルモン剤不使用(76%)
- オールナチュラル(73%)
- 低ソディウム(69%)
を挙げるように、これまで非・冷凍食品に求めていたものと同等の品質への信頼を冷凍食品にも求めている。「忙しいから仕方なく食べている」のではなく、従来の食事の置き換えとして捉えているのだ。
だからこそ、彼らの54%は一度気に入ったブランドの食品を買い続ける。X世代とベビーブーマー世代では、その割合は48%に留まる。
オーガニックに低ソディウム・・・ 健康志向を前面に打ち出すメーカーたち
「冷凍食品業界の未来は、他の世代よりも食に対する健康意識の高いミレ二アル世代のニーズを汲み取れるかどうかにかかっている。彼らは徐々に冷凍食品が手軽で健康な食事手段だと考え始めている」
そう話すのは、前述のAcostaのVPであるColin Stewart氏。メーカー各社はミレ二アル世代の胃袋を掴むため、彼らが求めるものを徹底的に調査したという。その結果、冷凍食品のイノベーションが功を奏し、ミレ二アル世代にヒット。
例えば、大手食品会社のNestleが擁するブランド「Lean Cuisine」は2015年までは2年連続で売上が減少していたが、ヘルシー志向でオーガニックや高タンパク質、またはグルテンフリーメニューなどを充実させてから、業績は見事に回復。
同様に業績悪化に頭を抱えていた大手B&G Foodsは、冷凍野菜に強いGreen Giantを買収。昨年、ヘルシー志向の消費者に対して、主食の置き換えとしてトレンドとなっているそぼろ状の野菜「Riced Vegetables」や副菜としてよく購入されるローステッド野菜、また小さくカットされた野菜などのラインナップを強化。
このように、アメリカの冷凍食品業界は新しいトレンドの波とともに大きく再編され、いくつかのメーカーは淘汰されることとなった。
Stewart氏によると、冷凍食品はオンラインよりも店頭で購入されることの方が多い。そのような食品カテゴリーは業界内では少ないそうだ。それを踏まえ、小売企業も店舗の中心に冷凍食品コーナーを設け始めているのだという。
しかし、オンライン市場の各プレイヤーもリピーターを獲得しようと動いている。Amazonの生鮮食品デリバリーサービスであるAmazon Freshや競合のFresh Directなどは、肉や魚、アイスクリームまで幅広く冷凍食品を取り揃えており、いずれも履歴から再度購入できる便利さがある。
Amazon FreshでLean Cuisineのレビューを見てみると、「スーパーマーケットだと、パッケージが似通っていて見分けがつきにくい。オンラインなら前に食べたものと同じものが欲しいときに履歴から購入できたので便利だった」という声も聞かれる。
インターネット利用に長けたミレ二アル世代とリピート購入が多い性質を持つ冷凍食品の相性は良い。今後さらに売り上げを伸ばしていく上では、各メーカーにとってEコマース施策の拡充はカギとなるだろう。
冷凍食品=エコ&節約
活況を迎える冷凍食品業界だが、実は社会問題の解決にも役立つと見られている。
RBCの別のレポートでは、アメリカの食材廃棄物の増加が問題視されている。その量はなんと生産されるうちの「80%」、食材のほとんどがロスされているのだ。冷凍食品はこの廃棄物問題を解決する一策になると期待されている。
イギリスのマンチェスターメトロポリタン大学の研究では、冷凍食品を食べると、新鮮な食材を使って料理をする生活と比べて、廃棄物をおよそ半分にまで抑えられるという結果が出ている。
確かに、アメリカの食材は1パッケージあたりの量が多いため、新鮮なうちに使いきれず傷んでしまうこともしばしば。その点、冷凍食品なら多少の賞味期限は気にする必要がないし、野菜ならすでに食べやすい大きさにカットされているため、皮や芯などの食料廃棄も出ない。
さらに、食料廃棄を減らせるばかりでなく、食費も約30%ダウンできるというから、まさにいいことずくめだ。
食事の用意に時間を割けないミレニアル世代が多いアメリカでは、フードデリバリーやミールキットの宅配サービス業界が活況を迎えているが、温めるだけで食べられる手軽な冷凍食品も心強い味方。
健康に着目した商品ラインナップも増え、これまでの冷凍食品のイメージを覆す「冷凍食品・新時代」が到来している。食の選択肢は今後もますます広がっていくのだろう。
こちらの記事は2018年05月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
橋本 沙織
連載GLOBAL INSIGHT
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