精緻な“データ共有×バリュー浸透”でグロース続ける、ヘルスケア企業Linc'wellの事業組織の秘密
Sponsoredユーザー数も金額も、事業の規模感が全然違う。過去在籍していた企業で月間予算だったレベルを今は1日で使うこともある──。
ヘルスケアIT企業のLinc'wellで一つの診療科支援の事業責任者を担う一人、山口大地郎氏はこう語る。セプテーニやツクルバでマーケターとしてのキャリアを積み、2024年4月に入社。わずか数ヶ月で数千万円規模の投資実行を任されている。
同社は2018年の創業から7年。理想的な患者体験を目指すべく、同じ志を持つ医療機関クリニックフォアの支援を通じて、予約から診察、服薬指導まで医療機関のプロセスをまるごとデジタル化し、累計資金調達額122.3億円、プロダクトの累計登録者数130万人を超える規模にまで成長した。
その原動力となっているのが、複数の診療科の支援それぞれに事業責任者を置く「分散型」の意思決定システムだ。内科や皮膚科、あるいは花粉症、AGA(脱毛症)、漢方などに分かれ、数億円規模の投資枠を持つ現場もある。
このシステムが成り立つ背景には、徹底したデータ分析と「Patients First(患者第一)」を始めとしたバリューがある。
本記事では、DeNA、ソフトバンク、リクルートでキャリアを築いた大舘氏、その指揮下で診療科の成長支援を担う山口氏、そして物流改革の経験を活かして入社、その後CRM(Customer Relationship Management)へキャリアチェンジし、3ヶ月目で大型施策を任された三苫氏の声を通じて、急成長企業ならではの事業成長、組織の実態に迫る。
- TEXT BY SHUTO INOUE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
支援診療科ごとの事業責任者を置き、多事業推進をスピードアップ!
意思決定と育成がまわるLinc'well独自の仕組みとは
山口氏は、自身の携わる診療科支援のKPIやマーケティング支援に必要なデータをリアルタイムで可視化したダッシュボードを開きながら語り始めた。
山口部の数字だけでなく、各診療科を支援するためのデータが驚くほど充実しているんです。経営から現場までがつながってしっかりとダッシュボード化されています。
大舘かなり細かいところまで含めて、一気通貫でデータ基盤が整っていますよね。私も入社して驚いた点の一つです。
山口たとえば新規の施策を検討する時も、過去の類似施策の結果やユーザーの反応まで、すぐに参照できる。データ環境がここまで整っているからこそ、数千万円規模の意思決定も迅速に進められるんです。
ヘルスケアIT企業としてのLinc'wellは、対面診療とオンライン診療の2軸で医療を提供するクリニックフォアを支援している。支援と一言で言っても広範囲に渡っており、マーケティング支援もその一つだ。
この「事業責任者」の一人が山口氏だ。セプテーニで幅広い業界のクライアント対応を、そしてツクルバで不動産テック領域を、それぞれマーケターとして経験してきた。2024年4月にLinc'wellへ入社し、早くも一つの診療科支援の事業責任者として数千万円規模の施策をいくつも推し進めている。
とはいえ、「最初は正直、戸惑いや驚きばかりでした」と当時を振り返る。
山口前職とは全く違う分野。医療の世界では当たり前のように、薬の名前が飛び交います。Slackでのやりとりですら、初めは「これなんのことだろう」という感覚になることがありました。
業務においては、事業スピードの速さと、それを裏付ける意思決定のスピードにいい意味で驚かされましたね。
Linc'wellではロジックと方向性が合理的であれば、機動的に施策実行まで進めることができます。それに、蓄積されたデータをすぐに活用できる体制が整っている。
たとえば新規獲得の手法として、新たなマーケティング施策にチャレンジしたいと思った場合ですが、過去の類似施策の結果をすぐに参照できるため、仮説検証のポイントを素早く判断し、起案まで持っていくことができます。
最近進めたあるマーケティング施策でのことです。やや大きな投資額の施策のため、その日のうちにすぐにCOOとも相談。数百万円規模の投資実行を即決し、ベストな時期での施策実施ができました。
このような施策実行の規模感×スピードを支えているのが、徹底したデータドリブンの文化だ。DeNA、ソフトバンク、リクルートと、複数の大手企業でキャリアを積み、Linc'wellではマーケティングと事業開発を統括する大舘氏が改めて、その本質を説明する。
大舘Linc'wellでは主要な診療科支援それぞれにリード(事業責任者)という役割を置き、各々が収益モニタリングの責任を持ちます。ただし、それは短期的な事業成長のみを追求しているというわけでは決してありません。
経営陣から「短期的な足元の事業成長を追求するならその施策でいいのかもしれない。ただ長期的な事業成長を追求するうえで、本当にそれが患者さんにとって最高の医療体験につながるのか。自分や家族がサービスを利用する際に自信と誇りを持てる施策なのか」という問いかけを常日頃から受ける。「データドリブン」と「Patients First(患者第一)」、この2つが我々の意思決定の軸なんです。
特にこの「データドリブン」な意思決定文化は、部門を超えた異動でも効果を発揮している。その好例が、社内のジョブチェンジから僅か3ヶ月でCRMの大型施策を任されている三苫氏だ。
ファッションEC企業で物流改革を担当していた三苫氏は、2022年にLinc'wellへ入社。最初の1年間はオペレーション部でEC事業に関する物流業務の標準化を推進。その後、オンライン診療システム提供事業の要であるCRMチーム(Customer Relationship Management)へ全くの未経験分野ながら異動を果たしたのだ。
三苫CRMチームでは、クリニックフォアの既存患者さんへのリテンション施策を担当しています。支援の際は医療の観点から、医師の判断のもと、不要・過剰な処方につながるようなことはしない、というポリシーを持って、医療機関側と連携しながら、取り組んでいます。
具体的な内容としては、患者さんのインサイトに寄り添いながら、治療の継続率を高めるためのプランの企画・提案や、一度治療を中断された方への適切なタイミングでの再開サポートなどがあります。
これらは、年間で億単位のインパクトをもたらす現場最前線のマーケティング施策です。最初はこれまでの経験が活かせるか不安だったのですが、意外にも、裏側の物流業務で培った「業務の標準化」という視点が活きています。どのタイミングで、どんなメッセージを、どのユーザーに送るべきか。その最適なプロセスを、データに基づいて設計・改善していく。基本的な考え方は物流改革と変わらないんです。
冒頭でも山口氏が触れた通り、Linc'wellの特徴は徹底したデータの活用にある。それは未経験の領域に挑戦するメンバーにとっても大きな支えとなっているようだ。
「この施策の投資対効果は?」「類似の施策ではどんな結果が出ている?」
判断に必要な情報がすぐに参照できる環境があるからこそ、三苫氏のように異動してきたメンバーもデータに基づいて自信を持って提案できるのだ。
山口「なぜその施策が必要なのか」と問われたとき、皆がデータで語る文化がすでに出来上がっている。もし論理的な説明ができなければ、それは再考のサイン。でもそれは否定ではなく、より良い方向を探るためのフィードバック。この建設的な対話の積み重ねが、チームの成長を加速させているんです。
支援診療科ごとに事業責任者を配置する特異な組織体制。一見すると大胆にも見えるが、整備されたデータ環境と、経営陣から現場まで浸透する「データドリブンの文化」に裏付けされる。では、具体的にどのようなデータをもとに、どのような判断が行われているのか。
データドリブンで実現する「驚異的な意思決定速度」
診療実績400万件*と比例し、日々診療にかかるデータが蓄積される医療現場。その中から意味のある示唆を見出し、新たな意思決定を迅速に進める──。Linc'wellは、全ての診療科で一気通貫してデータ分析基盤を構築することで、この難しいトライを続けている。だが、データさえあれば良いというわけでもないだろう。
同社がグロースを続ける理由が、データを活用した「議論の型」に見て取れる。
山口過去在籍していた企業では月単位で持っていた予算規模の施策を、Linc’wellでは1日で判断し実行することすらあります。月の営業日数が20日ちょっとですから、20倍くらいのスピードで意思決定していっている感覚です。
でも、それは場当たり的な判断ではありません。診療科ごとのKPIや過去の施策結果など、判断に必要なデータがすぐに参照できる。だからこそ、数百万円規模のコストをかける新規施策の意思決定でも迷いなく進められるんです。
では、なぜそこまでの意思決定スピードを実現できるのか。どうやらその秘密は、徹底的な事前設計にあるようだ。
大舘施策の開始前から、KGIやKPIの設定、検証方法まで細かく設計しているんです。一見、手間のように思えるかもしれませんが、これが意思決定の質を支えている。
たとえば、ある施策を実行する前に「なぜその施策を実施するのか」は当然踏まえつつ、何がいつまでにどういう数値になっていればよいのか、という成功の定義を定めます。これを事前に定めておくことで、施策実行後のデータを振り返る際に、何が成功で何を改善すべきか、関係者間でぶれることがないため、手戻りが発生しません。
その他にも、ある施策で短期的なインパクトは見込めても、実施の前に「患者さんにとって本当に価値があるのか」「長期的な観点での影響はどうか」といった複数の観点で必ず議論を重ねる。これらの習慣が、意思決定のスピードと質を両立させる鍵となっているんです。
ただし、ここで注目すべきは、データの活用方法だ。複数の診療科それぞれに最適な判断基準を持ちながら、なおかつ驚異的なスピードで意思決定を行う。各診療科の支援を担当するリードは、まさに“事業責任者”であり、“プロダクトオーナー”だ。矛盾しそうな要求をうまく実現する鍵は、意外にも「失敗」への向き合い方にあった。
山口もちろん、想定していた事業規模に到達しないこともあれば、ABテストで思った通りの検証結果が出ないこともあります。でも、そこから何を学ぶかが重要ですよね。たとえば、AGAの診療科で効果的だった施策を、そのまま他の診療科に展開しても上手くいかないことなんて日常茶飯事です。患者層が違えば、アプローチも変える必要がある。そういった仮説を、「楽しんでどんどん検証していこう」というメンバーが多いですよね。
三苫僕も大舘さんや山口さんに相談する際は、単に答えを求めるのではなく、自分なりの仮説を持って提案するようにしています。「こういう考え方で、このような答えを導き出したのですが、どうでしょうか」という形で議論を始める。すると必ず新しい観点をいただけて、それを咀嚼して次の施策に活かせる。そういう高速のPDCAが、スピード感を支えているんだと思います。
迅速な判断と高速のPDCA。その基盤には、データを「議論の共通言語」とする文化が根付いている。しかし、より興味深いのは、この高速回転する組織に息づく、もう一つの特徴的な価値観だ。それは「観点重視」とも呼べる、独自の成長支援の仕組みである。
「観点重視」の組織文化によるリーダー育成
山口新規施策をいくつも検討し、その結果として現れる予測を見ながら「今期はこれだけの効果が見込めそうだ」と満足げにしていた時、大舘さんから「今期は達成できたとして、来期の同時期も同等のインパクトが出せそう?」と聞かれ、固まってしまって。
診療科支援の責任を背負うようになって、まず取り組むのはやはり「短期的にインパクトが出る施策」だろう。だが、そこにとどまってしまっては、ビジネスパーソンとしての成長が頭打ちになってしまう。
山口目前のインパクトを増やし続ければ良い、と考えているだけの自分に気づかされました。
新規施策を集中的に打つことで今期のインパクトがある反面、翌年の同じ時期は大きく落ち込む可能性がある。短期的には良い数字が出ても、長期でみると経営の安定性を損なうかもしれない。こうした視点が、完全に抜け落ちていたんです。
この「観点重視」の姿勢は、前職時代に大舘氏が培った視点だ。
大舘「観点を示す」というアプローチは、スケールする組織に必要不可欠ですよね。各診療科支援のリードに対して常に「正解」を教えるマネジメントでは、理想とする事業成長スピードにつながりません。もっというと、テクノロジーで最高の医療体験を提供するという新しい取り組みをしているので、たった1つの「正解」なんてありません。あくまで私も、観点を提示する役割の1人でしかないと考えています。
「自分で考えぬく力」を育てるために、まず異なる立場から物事を見てみる。部分最適ではなく、全体最適の高い視座で物事を捉える習慣をつけてもらいたいんです。
その1つの方法として、Linc'wellでは「R&D投資枠」と名付け、各現場でトライアンドエラー前提の挑戦ができる投資枠を一定確保しています。そこからの振り返りも早く進むような制度設計もしています。これにより、短期/長期問わず、各メンバーが思い切って新しいことに挑戦し学ぶ環境を整えています。
三苫トライアンドエラーの文化はLinc’well全体にありますね。僕はオペレーション部でAI検品システムの導入検討など、全く新しい視点からの業務の標準化を推進してきました。AI検品は新たな挑戦ですが、常に「なぜそうするのか」という理由を言語化し伝えることで周囲も耳を傾け、協力してくれる。CRMでも同じように挑戦できる環境があることが嬉しいですね。大舘さんや山口さんと施策について相談する中で、自分では気付けなかった観点を知ることができ、日々学び、少しずつですが、成長している実感があります。
このような対話の積み重ねが、チームメンバーの成長を加速させる。週に1度開催される全体会議では、支援する診療科それぞれの成果と失敗が包み隠さず共有されるという。
大舘この場は単なる施策相談をする場ではありません。自分の仮説を持って臨み、多様な観点からフィードバックを得る。そして、その学びを次の施策に活かしていく。判断軸さえ一致していれば、あとは各リードがそれぞれの学びを基に良い自走をしていけるようになりますからね。
これらは、施策の横展開を行う際にも副次効果として表れる。
山口診療科ごとに対象となる患者層が異なりますから、すべての施策をそのまま単純に横展開できるわけではありません。それでも「なぜその施策が効いたのか」という本質的な理解と観点を共有できれば、各診療科の特性に合わせて新たな仮説を組み立てることができる。
たとえば若い女性向けの診療科と、中高年男性向けの診療科では、まったく異なるアプローチが必要になる。でも、共通する本質もある。その思考と相談を重ねる過程で、また新しい発見が生まれるんです。
「自分で考える」という文化は、医療DXという未開の領域で、より実践的な形へと進化を遂げている。それは、Linc'wellならではの機動的かつ効果的な事業推進を支える、揺るぎない土台となっているのだ。
そして、この組織に息づくもう一つの特徴的な価値観がある。それは「Patients First(患者第一)」という判断基準だ。より大きなスコープで事業を俯瞰するメンバーたちは、この価値観をどのように実践しているのか。
「Patients First(患者第一)」が導く、独自の意思決定基準
「誤解を恐れずに言えば、短期的なインパクトを出すことだけであれば、難しいことではないと思っています。」
山口氏は、Linc'wellならではの判断基準について語り始めた。
山口たとえば治療の中止を検討する患者さん向けの導線を複雑にして、手続きを分かりづらくすれば、継続率は上がります。でも、それは患者さんが本当に望む医療体験なのか。絶対に違いますよね。
AGA(男性型脱毛症)の治療を例にとると、進行を防ぎ毛髪を増やすために治療を継続される患者さんもいれば、価格など様々な要因で治療の継続が難しい患者さんもいます。
そこで患者さん一人ひとりのために何ができるかを支援先のクリニックと相談し、お財布にも優しく続けやすい方法として、診察の結果によっては、お薬をまとめて配送することを選択できるような仕組みを導入しました。患者さんの経済的な負担を抑えつつ、継続的な治療をサポートし、不要だと感じたら医師に相談し、中止も検討できるようにする。そういう仕組みを社会に浸透させることで、長期的な顧客価値向上につながっていくと考えているんです。
ヘルスケアIT企業として、収益性と患者体験は時としてトレードオフの関係に陥る。診療科支援のリードには、収益モニタリングを担う責任がある。しかし、それは患者体験を犠牲にすることを意味しない。むしろその逆だ。
三苫治療の中止を検討する患者さんに向けた導線をわかりやすく変更しましたが、先ほどお話しした仕組みを導入することで、結果的に継続率は向上しました。こうした数字上の変化もすぐに確認できています。
患者さんの信頼を得ることを通じて、事業としての成果につなげる。これは「Patients First(患者第一)」という価値観が、社内で深く浸透している証ですね。
この判断基準は、診療だけでなく、予防領域でも実践されているという。
大舘医療体験の向上は、既存患者さんへのサービス改善だけではありません。たとえばAGAの場合、原因を診断し、早期治療が必要かどうかの見極めが重要と言われています。だからこそ私たちは啓発活動も重視しています。
実際にAGAの領域では、芸人のかまいたちさんとコラボレーションした動画コンテンツを支援の一環として展開しました。薄毛の仕組みから治療法まで、医学的な内容を丁寧に説明することで、まだ悩みが顕在化していない層にも価値ある情報を届けたいんです。
大舘すでに、「こんなに詳しく仕組みを説明してくれる医療機関は初めて」という患者さんからの声をいただくことも増えていると、クリニックフォアから聞いています。
短期的な集客だけを考えれば、もっと感情に訴えかけるような内容にしたり、ニーズが顕在化している層のみへのアプローチにしたりした方が効果は高いかもしれません。
でも、正しい医学的知識を広めることこそが、結果として患者さんの治療効果を高め、医療体験の向上につながると考えているんです。
山口AGAなら継続的な服薬の重要性、花粉症ならシーズン前からの服用で症状緩和など、診療科によって患者さんの課題は異なります。それぞれの特性に合わせて、データに基づいたコミュニケーション設計を行い、医療機関が目指す最適な医療体験の実現を支援していきたいですね。
データドリブンな判断と「Patients First(患者第一)」の価値観。一見相反するように見えるこの2つの要素も、Linc'wellでは両立している。それは、データに基づくアプローチがあってはじめて、短期的・中長期のそれぞれのエコノミックスを把握したうえでの、「Patients First(患者第一)」に基づく、より最善の顧客価値向上に資する施策への投資を選択できるという思想に基づくものだ。そして、それを可能にしているのが、多様なバックグラウンド及び専門性を有するプロフェッショナル人材たちの存在だという。
多様なバックグラウンドを持つ人材が集う理由
月に1度開催される全体会議。その場で交わされる議論からは、医師・看護師・薬剤師などのバックグラウンドを持つ医療のプロフェッショナルに加え、不動産、物流、金融、さらにはサイバーセキュリティまで、多彩な経験を持つメンバーたちの知見が垣間見える。
三苫全体会議では、必ず新しく入社したメンバーの自己紹介があるんです。違う仕事をしていたら絶対に接点を持てないような分野の方々と、今後気軽にディスカッションができることへの期待と、実際にこれまでもディスカッションを通じて自分の固定観念が揺さぶられた経験があり、ワクワクしますね。
医療以外の分野からの転職者も約7割というLinc'well。しかし、その背景には明確な意図がある。現場を率いる3名の経歴からも、その特徴が浮かび上がってきた。
大舘氏は、デジタル領域の第一線で多彩な経験を積んできた一人だ。DeNAで営業、ゲームコンサル、海外展開のプロジェクトマネジメントと、幅広い経験をしたのち、ソフトバンクにてペッパーの一般ユーザー向けのアプリケーション企画を担当。その後リクルートでは、全社のアライアンス担当、ホットペッパービューティーやじゃらんのマーケティングを統括する中で、ユーザー体験の重要性を学んだという。
大舘医療というフィールドは、人々の生活に直接関わり、かつテクノロジーによる変革の可能性を大きく秘めている。その中でより専門性を確立し、社会的なインパクトを残せる機会だと感じました。また、前職で培ったユーザー体験への知見が、医療体験の向上という形で活かせると確信したんです。
一方の山口氏はセプテーニとツクルバで、一貫してマーケティングの実践を重ねてきた。セプテーニでは幅広い業界でクライアントの課題解決に携わり、その後ツクルバでは5年以上にわたって、人々の住まい探しという生活に直結する課題に向き合ってきた。
山口不動産も医療も、人生の重要な局面で必要となるサービスです。その意味で共通点は多い。ただ医療は、より切実で普遍的な課題解決が求められる。ここなら、本質的な価値創造に挑戦できると確信したんです。
そんな山口は、その多様な経験とネットワークを新しい挑戦に活かしている。
山口これまでマーケティングキャリアを歩んできた経歴から、動画制作が得意な知人が多かったので、そのネットワークをLinc'wellの事業に活かせると直感的に思ったんです。
中でもTikTokは予防医療やヘルスリテラシー向上の観点でも親和性があるメディアだなと以前から感じていたため「TikTokの開拓について企画・制作から運用まで回せる体制を作れますが、どうですか?」とフランクに提案したら「それ、まさにやろうと思ってた!」という反応をいただいて(笑)。
特にAGAの領域では、先ほどもお話しした通り、自分が薄毛なのかどうか、そもそも対策ができるのかすら知らない層が多い。そういう人たちに、判断の仕方や、予防ができるという知識を伝える、リーチできる新しいチャネルとしてスタートし、今では他の診療科でも展開が始まっています。
この事例は、Linc'wellのバリューの一つである「Respect diversity(多様性を尊重しよう。チームでしか出せない価値がある。)」を体現している。広告業界での経験、クリエイターとのネットワーク、医療への深い理解。異なる専門性を持つメンバーが互いを尊重し、それぞれの強みを活かすことで、従来のヘルスケア領域では考えられなかったような新しい価値が生まれているのだ。
また、こうした挑戦の現場では「Complete work(諦めないでやりきろう。答えを待っている人がいる。)」というバリューも大きな働きをしている。
大舘私自身、DeNA時代から「より良い方法を常に考える」「全力コミット」という文化を学び、実践し続けてきましたが、Linc'wellではそれが「Complete work」という形で根付いています。
決して単なるスローガンではなく、データに基づいて仮説を立て、検証を重ね、より良い患者体験を追求し続ける。その姿勢が、短期的な成果と長期的な価値のバランスを取ることを可能にしているんだと思いますね。
入社後すぐに行われるアンケートにて、社員の8割以上が「Complete workの実践を強く実感する」と答えているという。
異なるバックグラウンドを持つメンバーに共通するのは、「より大きな挑戦の場を求めて」という志だ。その期待に、Linc'wellは「打席」と「やり切るカルチャー」で応えている。そして今、組織が150名規模に成長する中、その挑戦の機会はさらに広がりを見せている。
医療DXのフロンティアで生まれる「打席の多さ」
山口支援診療科ごとにリードするポジションがあり、1つ1つの事業の規模も大きい。このスコープの大きさは、他ではなかなか経験できないと思いますね。
大舘まだすべての診療科支援に対して、リードを一人ずつアサインできている状態じゃないんです。我こそは、という仲間を増やし、どんどん任せていきたい。
急成長企業として、まさに転換期を迎えている。
大舘今のフェーズは、我々にとっては重要な分岐点だと思っています。敢えて「良質なカオス」を維持し、官僚的な組織になることを避けていかなければならない。多様なバックグラウンドを持つメンバーが、フラットに意見を交わせる。そんなカルチャーがあるLinc'wellであれば、きっとこの壁も乗り越えられるはずです。
医療×テクノロジーという未開の領域で、Linc'wellは特異な組織モデルを確立しつつある。異分野の知見を積極的に取り込みながら、なおかつ一貫した判断基準を保つ。それは、多様な人材が集い、共に成長できる土壌となっているのだ。
大舘オンライン診療は、最も進んでいる領域でも、浸透率はまだ1桁台後半です。つまり、イノベーター理論で言えばまだアーリーアダプターフェーズ。
今後さらに、クリニックフォアとともに新規診療科の展開をサポートすることも視野に入れながら、より多くの人々に最適な医療体験を届けていきたい。そのためには、事業をリードするポジションをしっかりと埋めていく必要があります。
大舘氏は医療DXの現状をこのように表現した。複数の診療科それぞれが異なるフェーズにあり、そこには無数のチャレンジが眠っている。しかし、その挑戦を担うリーダー人材は、まだ十分とは言えない。
三苫それぞれの診療科支援に固有の課題があり、それが新たな打席となる。しかも、診療科ごとに特性が異なるので、同じアプローチが通用するとは限らない。その分、学びも深いと感じます。
医療×テクノロジーの最前線で、Linc'wellは独自の組織モデルを確立しつつある。支援診療科ごとに事業責任者を置き、データドリブンな判断基準のもと、スピーディーな意思決定を可能にする。その背景には、「観点重視」の文化と「Patients First(患者第一)」を始めとしたバリューが息づいている。
まだ誰も見ぬ景色を切り拓くフロンティアには、必然的に「打席の多さ」が生まれる。そこで一人ひとりが責任をもって、確かな判断基準を持って向き合う。まさに、急成長企業ならではの組織モデルと言えるのかもしれない。
医療という社会インフラの革新に挑む彼らの姿は、変革の時代を生きる全てのビジネスパーソンに、普遍的な示唆を投げかけているようだ。
こちらの記事は2025年01月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
井上 柊斗
写真
藤田 慎一郎
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