なぜ「美容医療」市場で、メルカリ並みのtoCサービスが生まれるのか?MGP長澤氏とトリビュー毛氏が語る、toCプラットフォーム急成長・3つのカギ

インタビュイー
長澤 啓
  • MINERVA GROWTH PARTNERS 創業パートナー 

三菱商事において金属資源分野における投資及び主にエネルギー、リテール、食品分野等の領域におけるM&Aを担当した後、2007年よりゴールドマン・サックス証券にジョインし、東京及びサンフランシスコにおいて主にテクノロジー領域におけるM&AやIPOを含む資金調達業務を担当。2015年6月にCFOとして株式会社メルカリに参画。日本初のユ二コーンとなる非上場企業としての2回の増資ラウンドを経て2018年6月にIPO。2020年9月に同社CFOを退任し、現在に至る。慶應義塾大学卒、シカゴ大学MBA。

毛 迪
  • 株式会社トリビュー 代表取締役 / CEO 

1990年生まれ。大学卒業後、リクルートやVCを経て2017年にトリビューを創業。初期はプロダクト開発やユーザー獲得、営業を担当し、現在はファイナンスや組織作り、事業全般を管轄。

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事業開発を経験する環境として、最もエキサイティングなのはどこだろうか?昨今、「事業開発といえばBtoB」という流れが加速しているように感じる。SaaS事業がワンプロダクトでは伸ばしきれないという状況となり、複数事業・複数プロダクトへの舵を切る企業が増えるに伴い、BtoB企業での事業開発ポジションが激増。そんな流れが、日本のスタートアップエコシステムにおいて生まれている。

その裏返しに、メルカリを始めとして一時期は時流をつくってきたtoCサービスのスタートアップがやや目立ちにくくなっている。我々のようなメディアも、VCを始めとした投資家サイドも、そんな情勢を感じている。

その中にあって、美容医療という市場でtoCサービスを展開するトリビューが光を放っていることをご存知だろうか。「ありたい自分でいられる世界を実現するプラットフォーム」として美容医療口コミ・予約アプリ『トリビュー』を提供し、グローバルテックジャイアントにはできないような丁寧なプロダクト開発により、美容医療予約のGMVにおけるシェア1位を獲得。元メルカリCFOの長澤氏がその成長に期待し、Minerva Growth Partners(以下、MGP)がリード投資とグロース支援を決めた(参照:MGPによるプレスリリーストリビューによるプレスリリース)。

本記事ではそんな長澤氏とトリビュー代表毛氏の対談で、「美容医療」という市場の面白さと、ここでtoCサービスとしていかなる魅力的な事業開発環境を構築しているのかを追っていく。

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フリマアプリ市場を超える潜在ニーズが、美容医療にはある?

長澤美容医療に対する潜在的なニーズは、間違いなく増えていると感じます。その中で、安心・安全にユーザーがクリニックを探し、選択できるプラットフォームがまさに必要になっていくタイミングの市場ですよね。

グロースフェーズのスタートアップを支援するMGPでパートナーを務める長澤啓氏が力を込める。ベンチャー投資家が注目している領域の一つが、美容医療なのだ。

と言われてもピンとこない読者の方がまだまだ多いかもしれない。そこでまずはファクト(あくまで参考値)を示そう。

出典:出典:フードデリバリー市場と旅行サービス市場については経済産業省<令和5年度電子商取引に関する市場調査>を参照。美容医療市場については、トリビューによる美容外科・美容皮膚科・審美歯科の合算額。フリマアプリ市場は経済産業省<令和5年度電子商取引に関する市場調査>などから試算。

このように、成長著しいと言われるフードデリバリー市場と比較してもすでに十分すぎるほど大きい。また、15年ほど前まではほとんど存在しなかったフリマアプリ市場が今では1兆円以上の規模になっている点との比較も意識したい。元メルカリCFOの長澤氏が指摘するように、美容医療という潜在的な巨大市場は既に存在しているとも言われている。また、単価が高い施術も少なくないことから、同じく高単価商材が多い旅行サービス業界に匹敵する市場規模に成長する可能性もあるかもしれない。

なお、美容医療市場はまだまだ未開拓と言われつつも、すでに急拡大の兆しが見えている。

出典:株式会社トリビュー 会社説明資料

美容医療を含む自由診療全体が、今後大きな存在感を示していくのは間違いないと感じています。

自由診療をわかりやすく表現すると、「病気を治す保険診療以外の医療技術活用」です。美容外科や美容皮膚科などのいわゆる美容医療はもちろんですが、歯列矯正や脱毛、AGA、レーシック、アートメイク、さらには膝関節の再生医療や卵子凍結なども含まれます。こう聞くと「あ、思ったよりも身近で、人生の中で関わることがありそうな領域だな」と感じる人も多いのではないでしょうか?

「生きている時間の幸福度を高めるために、医療技術を活用する」ということなんです。

毛氏(提供:株式会社トリビュー)

昨今、“生きがい”や“自分らしさ”という言葉をしばしば目にするようになった。普段の生活において不便や不足を感じにくくなった現代において、「より良い人生を送りたい」という欲求が顕在化してきているようにも感じる。

自己投資やコト消費といったワードの増加も、その表れだろう。この観点で、トリビューを始めとした自由診療(美容医療含む)領域の事業拡大はまさに、時代の最前線の動きだと言えそうだ。

美容医療における「綺麗になりたい」というニーズだけでなく、アートメイクや脱毛における「日々の暮らしの時間効率化を図りたい」というニーズにも応えるものです。このニーズが、どんどん広がっています。

長澤すでに足元で利用が増えていますし、美容整形まで至らずとも、よりライトな自由診療(例として注入、脱毛、AGA治療等)については忌避感みたいなものがかなり薄れていると感じませんか?なので大きな流れとして、自由診療を求めるユーザー層が、これまではややニッチ(≒少数派)でしたが、どんどんマス(≒多数派)になっていくはず。この動きを捉えたプラットフォームを展開するトリビューには期待しかなく、私たちも投資を決めました。

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toCプラットフォームの急成長には、「安心・安全」「情報の非対称性解消」「利便性」の三つがキー

長澤氏が冒頭で「潜在的なニーズ」を指摘したのは、メルカリでの経験があってのこと。フリマアプリ市場になぞらえるかたちで、自由診療という事業領域をより深く探っていこう。

左:長澤氏、右:毛氏(提供:株式会社トリビュー)

長澤そもそも不要品の市場は、潜在的には7.6兆円ほどの大きな規模があると試算されていました。それを、CtoCのデジタルプラットフォームを通じて、潜在的なニーズをアンロックし、取引を生み出し、拡大させていったのがメルカリという事業です。

このように、toCサービスが新しい市場を創出する際に重要なことが三つあると考えています。一つは、一人ひとりのユーザーに安心・安全をもたらすこと。二つ目は、情報の非対称性をなくすこと。そして最後の三つ目は、利便性の高い取引が実現できる仕組みを整えることです。

どれか一つが欠けると、どこかで破綻が生じ、大きな市場として持続していきません。

美容医療市場でも同様のことが言えると考えています。

美容医療市場はすでに約9,000億円ほどの規模があります。顔にメスを入れるような美容外科だけでなく、注射やレーザーなどでシミや小じわを軽減するといった美容皮膚科や、歯並びを矯正する審美歯科など、実は多くの方が身近に経験や興味をお持ちだと思います。

ただ、市場に対する認知ギャップがまだ大きい。脱毛や歯列矯正と、美容外科では、イメージが大きく異なりますよね。まさに、コンテンツプラットフォームでこのギャップを解消していくことができると考えています。

また、今後は自由診療全般への展開も視野に入れています。レーシックや再生医療、不妊治療関連など、QOL向上に関わる幅広い分野があります。「綺麗になりたい」というニーズだけでなく、レーシックによってコンタクトや眼鏡を使い続けるわずらわしさを解消したり、アートメイクによって朝の身支度がスピーディーに進むようにしたりと、人生の時間をより効率的に使えるようになるソリューションを提供できると考えています。

長澤今はまだ市場が黎明期なので、それほど多くないニーズを大手クリニックチェーンが寡占している状態です。これから一気に、独立系のクリニックも増えていくでしょう。その集客をサポートしつつ、一般消費者に安心・安全もお届けする。そんなプラットフォームの重要性が高まっていきます。

長澤氏(提供:株式会社トリビュー)

さらに、長澤氏が何度も言及する「安心・安全」が、この市場においては非常に重要なキーワードになる。

「美容医療に興味はあるけれど受けたことがない」という皆さんのお話を聞く中で、驚くことがよくあります。不安や疑問を、医療効果が実証されていないようなサプリメントや民間療法などで手軽に解決しようとしているケースがあるんです。そうした医学的根拠のない商品では、悩みが解決しないどころか、時間とお金を多く無駄にしてしまう可能性もあります。「美容医療」として展開されているものは、効果のメカニズムが科学的に証明されているのに、その情報が届いていないのはもったいない。

長澤ハードルが高く感じる理由は「知らないから怖い」というところが大きい。周りに美容医療を受けた人が多くいるわけではなかったり、受けた人がいても自分からそのことを話題にしたりすることがあまりないので、実際にどうなのか、リアルな情報がわからない。そこで、情報の非対称性を解消するプラットフォームの価値が出てくると考えています。

私たちはこれまでも、口コミの信頼性にこだわってきました。全件で投稿ユーザーの本人確認を実施し、トリビュー外での予約の場合は領収書もしくはレシートの提出をお願いしています。加えて、GoogleやXのような一般的なサービスの口コミとは異なり、業界特化型でユーザーが本当に知りたい情報を投稿してもらえるよう、質問項目を細かく設計しています。

長澤その口コミの質の高さは、トリビューの大きな競争優位性だと思います。安心・安全を届け、プラットフォームとしての信頼性を担保する上で、必要不可欠なものです。今後も妥協することなく続けることが何より重要ですね。

アプリ上の参考画像。複数の写真付きで細かな口コミがあるとわかる。詳細はこちらのnoteで語られている

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シェアNo.1といえど、まだ1.5%。
市場の成長率を超える成長が至上命題

ところで、美容医療の施術を受けに韓国を始めとしたアジア各国を訪れる友人・知人を思い浮かべた読者もいるのではないだろうか?そう、実は特に韓国には世界から施術を目的とした“美容医療ツーリズム”で旅行客が訪れている。つまり日本でも、インバウンドという観点での市場拡大ポテンシャルがあるわけだ。

グローバルでは韓国が圧倒的に強く、世界中から人が集まっています。一方、日本には再生医療を求めて中国の富裕層が訪れているという実態もあります。

韓国のクリニックは海外でもマーケティングを積極的に行っています。たとえばタイでクリニックが説明会を開催したり、医師が現地でカウンセリングイベントを実施したり。日本のクリニックはそこまでの海外展開ができていません。ただし、日本の医療に対する安全性や清潔さへの信頼は世界的にも高いので、大きなポテンシャルだと考えています。

長澤私たち投資家としても、マーケット自体がさらに大きくなる可能性を感じる部分ですので、トリビューが「日本の美容医療を世界の美容医療へ」変えていくことに貢献していくという点でも楽しみですね。

そんな展開も見据えつつ、まずは足元、国内市場におけるさらなるシェア拡大に向けてアクセルを踏み始めたのが今のトリビューの事業フェーズだ。

現在、送客でのGMVに占めるシェアはNo.1となっていますが、マーケット全体のほんの1.5%です。まだ始まりに過ぎません。2030年までにシェア30%まで拡大するという高い目標を掲げています。

そのためには、市場の成長率を上回る事業成長が必要で、まだ着手できていないさまざまな施策も含めて推し進めていかなければなりません。たとえば、クリニック側の予約から実際の来院、施術実施までの導線に、プロダクトとして貢献できる余地がまだまだ多くあります。また、より多くのユーザーにリーチするため、クリニックに通う施術よりももっとライトなソリューションの提供も検討しています。

こうした観点で、長澤さんの言う「利便性」を的確に提供できるようにしていきたいですね。

出典:株式会社トリビュー 会社説明資料

長澤プラットフォームビジネスはネットワーク効果が効くため、複数のプレーヤーが並立するというよりも、少数の強者に集約されていく傾向があります。トリビューはそんな立ち位置を目指しているわけですね。波に乗れば、多様な価値をどんどん提供できるように拡大していくでしょう。そのためにも、これからの数年でどれだけデータアセットを活用した事業グロース、プロダクト・事業開発を実現できるかが重要になってきます。

ユーザーのデータを活用した新しいサービス展開は、すでにいくつか具体的に検討を進めています。年齢や性別だけでなく、どんな悩みを持ち、どんな情報を探しているのか。そういったデータをもとに、一人ひとりに最適なソリューションを提供していける自信があります。

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質の高い口コミ13万件などを基に、急拡大市場で事業開発に邁進できるチャンス

長澤となるとやはり、今後の成長に向けて最も重要なのは人材ですね。特に、BtoC領域で実績を上げてきた方々をどれだけ仲間にできるか、これが重要なポイントになってくるでしょう。

ここで改めて強調するのが、toCサービスという観点。昨今、SaaS企業への興味関心の高まりもあり、BtoBサービスを提供する企業への人の流れが目立っている。その中にあって、トリビューは異彩を放つのだと、長澤氏は言う。

長澤以前と比べて、日本発のtoCサービスが大きく成長する例が目立たなくなっています。GoogleやMeta(Facebook)などのグローバル大手プラットフォーマーが、あらゆる領域にまで染み出しています。そんなグローバルのサービスが強い中で、日本市場に特化して成長できる領域と言えるのがこの自由診療です。

そうですね。これまではプロダクトの磨き込みを中心に、オーガニックでの成長を実現してきました。これからは本格的なマーケティング投資を行っていく予定なので、他のBtoC領域での知見をお借りしたいですね。

長澤現在の規模感であれば、経営陣と直接コミュニケーションを取りながら、自分で企画を立案し、実行まで責任を持ってやり切れる機会がまだまだあります。これは非常に貴重な機会だと思います。

オーナーシップを持って推進していくメンバーを改めてしっかり増やしたい。アイデアリストはたくさんあるのですが、それをカオスな中で実現していくためのリソースが足りていないんです。

左:長澤氏、右:毛氏(提供:株式会社トリビュー)

トリビューは月間利用者数30万人、質の高い口コミが13万件以上もすでに蓄積されているプラットフォームです。新規事業のためのインサイトやデータにあふれています。

冒頭でもお伝えした通り、美容医療を自分ゴト化して捉えられる人がまだそこまで多くないと感じています。この点は採用面談でもよくお聞きするのですが、じっくり話していくと印象が変わることも多いです。最近お会いした方から「再生医療も近い領域だとわかると印象が大きく変わる。美容を一つの切り口として、人生を豊かにするさまざまな事業をやっていくのがトリビューなのだとわかった」と言っていただき、とてもうれしく思いました。

あらゆる人々にとってありたい自分でいられる世界を実現し、一人ひとりの人生をより豊かなものにするため、美容だけでなく再生医療も含めた自由診療全体の市場を創出していきます。その中では、クリニック側のDX的な支援を力強く進めるというのも重要です。そんな大規模なtoCプラットフォームの実現に向け、すでに蓄積されているインサイトやデータをどう活用して実現していくか、試されています。インパクトの大きな事業・プロダクト開発あるいはマーケティングなどに裁量を持って取り組みたい方にとっては、非常に面白いフェーズですね。

我こそは、と感じたBtoC経験者にはぜひ、トリビューでのチャレンジを検討してみてほしい。そして最後に長澤氏が強調したのが、より長期的な目線だ。

長澤将来的にIPOとその後の成長を見据えているので、ガバナンス体制の構築や管理部門の強化、資本政策の検討など、さまざまな準備が必要になってきます。当社のファンドメンバーは皆そうした経験を持っているので、これから本格的にサポートをしていくことになりますね。

長澤さんたちが特に心強いのは、事業の解像度を非常に高く持った上で、中長期的な視点でご支援いただける点です。目先のマーケティングやサービス拡充に頭が持っていかれがちなのですが、今お聞きしたとおり、IPOに向けたエクイティストーリーの構築や資本政策なども喫緊の課題です。専門性の高い部分でのサポートは非常にありがたいですね。

長澤たとえば、投資先企業の事業計画を、我々投資家目線で分析し、独自に作り直して評価するといったアプローチまで常にしています。そうすることで、マーケティング施策の実効性や、コスト構造の検証など、真に効果的な意見を投げかけられるので、より的を絞った議論を投資先であるスタートアップ側とできるようになっていくと思うんです。

このフェーズで、長澤さんたちからも知見をお借りしつつ、まったく新しいtoCプラットフォームをつくり上げていける。ほかになかなかない事業開発環境がトリビューにはあると考えています。

このエキサイティングな現場に飛び込むことをぜひ、検討いただければと思います。

こちらの記事は2024年12月23日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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