「MVVは、企業のフェーズに応じて運用せよ」──上場企業トリドリとスタートアップidentifyに学ぶ、競合優位性を高める戦略的ビジョン経営

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インタビュイー
鬼山 真記

2007年に株式会社ぐるなびに新卒入社。都内飲食店への自社メディアを活用した集客支援を経験したのち、2013年にアライドアーキテクツ株式会社へ参画。SNS特化型の広告代理事業の立ち上げとグロースに携わったのち、2017年に独立しidentify株式会社を創業。2020年には自社プロダクト『DeLMO』をローンチ。現在はシードラウンドの資金調達を経て、事業グロースのフェーズに突入。

金子 健人
  • 株式会社トリドリ 取締役 

兵庫県川西市出身。2014年春、新卒入社で上京し、ITベンチャー企業でセールス、Webメディアディレクション等を歴任。その後、日本最大級の動画投稿・ライブ配信プラットフォームのプロデューサーとして、インフルエンサーを主軸としたキャスティング、マーケティング、プロモーションタイアップ担当として幅広く活躍。当時から”個の力”がこの先の社会を変えていくことを感じており、2019年には大手旅行会社・音楽レーベルなど多彩な業種をクライアントとしたインフルエンサーマーケティング、SNSコンサルティング事業会社を起業。その後、toridoriにジョインし、現在は取締役・コーポレートデザイン部部長を兼務。経営・人事制度・評価制度構築・事業開発をメインに担当している。

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MVVが浸透している組織とは、どんな組織なのだろうか?また、MVVを組織全体に浸透させていくためには、何をすべきなのだろうか?

創業期のスタートアップにおいては、メンバーが少ないため、MVVを明文化せずとも共通の夢や目標に向かって進むことができるかもしれない。しかし、組織が拡大して新しいメンバーが増えるにつれ、そうした夢や目標に対する熱量や解像度にはギャップが生まれ、組織が一枚岩となって進んでいくには不安定な状態に陥ってしまう。その意味で、どの企業フェーズにおいてもMVVの浸透は必要不可欠なものなのだ。

今回はこうした「事業成長におけるMVVの重要性」に関して見識を深めるべく、今まさにMVVの浸透や刷新に注力している急成長企業2社に話を訊いた。1社目は、2022年12月にグロース市場に上場したトリドリ。多彩なインフルエンス・プラットフォーム事業を手がけ、上場後もスタートアップマインドを持ち続けながら変化と成長を志向している企業だ。

そして2社目は、クリエイターエコノミー領域で急成長中のスタートアップ・identify(旧:マキヤマブラザーズ)。今や読者も毎日のように目にしているであろう「縦型ショート動画」における広告クリエイティブ素材の提供を、広告代理店や広告主向けに行っている。(縦型ショートの動画広告に最適化された動画素材が収集可能なプラットフォーム『DeLMO』)

「事業の数字とMVVは両輪の関係。企業フェーズに限らず最重要項目として取り扱うべきだ」

「MVVは運用するもの。常時アップデートしていきたい」

といった興味深いメッセージも発せられた本対談。組織づくりに悩む読者の参考になれば幸いだ。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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強固なビジョン浸透こそが、他社に模倣されない競合優位性を生み出す

金子僕たちトリドリは2022年12月に上場したばかりですが、もし今その時に戻れるとしたら、当時の何倍もの熱量と意志を持って、「MVVの浸透」にコミットするでしょう。

決して悔やむ意図ではありませんが(笑)、今はそれ位、事業成長におけるMVVの重要性を感じていますね。

現在、トリドリの取締役でコーポレートデザイン部部長を務める金子 健人氏はそう述べる。次いで、identifyの創業者でCEOの鬼山氏は、その言葉に頷きながら次のように語る。

鬼山identifyはまだまだプロダクトが立ち上がって間もないフェーズのスタートアップにはなりますが、金子さんのおっしゃる通り、企業経営においてMVVは必要不可欠だと感じています。

私はその中でも特に「ビジョン」を重要視しており、ビジョンこそが事業や組織づくりにおいて強力な競合優位性を生み出すと思っています。

ヒト・モノ・カネといった経営資源が限られるベンチャー / スタートアップでは、得てして組織づくりよりも事業を伸ばすことに注力しがちである。もちろん、手元の資金が尽きてしまっては元も子もないため、経営者が事業に注力するのは大前提だ。

しかし、2人はそれだけでなく、MVVも同じレベルで重要視しながら企業経営に挑むべきだと主張する。

金子MVVが組織に浸透していれば、自分たちがどんな目的で何を目指しているのか、そのゴールを見失うことなく事業を成長させることができます。これは言わずもがなですよね。

と同時に、MVVを深く理解し、腹落ちした人材が増えるということは、組織としても新たな事業アイデアが生まれた際にスムーズに権限委譲していけるといったメリットも享受できると考えています。

鬼山まったくもって同意です。その他、自社の競合優位性を築く上でも、MVVの浸透は重要だと捉えています。

と言うのも、一般的に、競合優位性を高める要素としては、いち早く市場に参入することで得られる「先行優位性」や、「技術力」などが挙げられます。しかし、市場が拡大して後から同じような競合のサービスが生まれてくれば、これらの強みは強みとしてワークしなくなる可能性が高い。

では、どうすれば競合他社と差をつけて、自分たちの事業を持続的に成長させていくことができるのか?私は、組織のメンバー全員が事業に対して「熱狂している」状況を生み出すことが大事だと思うんです。これは時間を忘れて働くということではなく、「限られた時間の中で一人一人が最大限のパフォーマンスを発揮する為に何ができるか?」というマインドを指しています。

経営陣だけが事業に熱狂していても事業は伸びていきません。組織のメンバー全員が事業を通じてビジョナリーな思考を持ち、事業に夢中になってゴールに向かって取り組んでいくことが重要です。そしてメンバーたちの熱狂を引き出すトリガーとなるものが、「ビジョン」であると私は考えています。ただ弊社もまだまだ発展途上で、MVVに対して私と社員の間、また社員間でも認識の相違が生まれ、足並みが揃わない時もあるので、悪戦苦闘中という所です。

企業が、MVVの中でもとりわけビジョンに本気で向き合っていれば、そのビジョンに惹かれて優秀な人材が集まるようになってくる。

こうしたビジョンドリブンな組織づくりは、単に外から優秀な人材を採用してくればカバーできるといったものではなく、経営者の地道な努力が必要となる。が故に、このビジョンをしっかりと組織に根付かせることができた際には、企業としての競争優位性が高まり、市場をリードする存在に近づけるということなのだ。

金子社会を大きく変え、急成長している企業のMVVを思い浮かべてみると、社外の人間である僕ですらもそのMVVの中身を認知しているケースが多いです。

例えば、メルカリのミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」や、ラクスルのビジョン「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」、マネーフォワードのミッション「お金を前へ。人生をもっと前へ。」など。

こうした企業は、事業の成長性はもとより、継続してMVVを社内外に発信しているからこそ、共感した優秀な人材が入ってくるのでしょう。何度も繰り返し、自分たちのMVVを発信し続ける。こうした姿勢は当社としても引き続き見習っていくべきだと感じています。

鬼山私も他社さんの例を挙げさせていただくと、マクアケの「生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」というビジョンが印象に残っており、1度聞いたら頭から離れない素晴らしいメッセージだと感じています。

子どもたちでも理解できる、誰が見ても解釈がぶれないシンプルなビジョンだからこそ、世の中に広く浸透していくのだと思いますね。

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今や広告業界全体が注目する領域で急成長を遂げるトリドリとidentify

スタートアップにおけるMVVの重要性を語る2人だが、そう思うに至った理由は何か。その背景を知る上で、初めに両社の事業概要と、両社が属するインフルエンサーマーケティング市場、クリエイターエコノミー市場の動向について見ていきたい。

まずはトリドリ。同社は、主にSMB(中小企業や個人事業主)とインフルエンサーを支援するプラットフォーマーだ。

インフルエンサーを活用したPRを希望する企業が、自ら直接インフルエンサーにPR依頼をすることができるマーケティングプラットフォーム事業(企業側のアプリ『toridori marketing』とインフルエンサー側のアプリ『toridori base』を展開)と、インフルエンサーマーケティング支援事業を主軸に事業を展開している。

提供:トリドリ

そんなトリドリでは「『個の時代』の、担い手に。」をミッションに掲げ、それに続く行動指針(バリュー)として「期待の先へ。」「ジブンを更新しよう。」「コストもきちんと。」「部署を超えろ。」の4つを定めている。(トリドリのミッションと行動指針

提供:トリドリ

一方、identifyは、縦型ショート動画広告に最適化された動画素材のプラットフォーム『DeLMO』を展開。

同社はリボン型のビジネスモデルを採用しており、『DeLMO』を中心に、スマホで撮影したショート動画の素材を提供するクリエイターと、提供された素材をSNSマーケティングに活用する広告代理店や広告主を両側に持つプラットフォーマーである。

提供:identify

identifyでは、「すべてがアイデンティティになる時代をつくろう」をビジョンとし、「複業の一歩目となり、伴走者であり続ける」というミッションと、3つの行動指針(バリュー)「関わるすべての人をリスペクトする」「一貫した行動でブランドを築く」「共に挑み、共に成し遂げる」を掲げている。(identifyのビジョン、ミッション、バリュー

提供:identify

鬼山TikTokの台頭により、ここ1〜2年でスマホ画面を縦にしてフル画面でコンテンツを視聴できる縦型ショート動画の市場が一気に拡大しました。

『DeLMO』をローンチした2020年の頃は、アドアフィ系*の広告代理店やWebメディアからの需要が多かったのですが、2023年の春以降は、テレビCMを手がけるような大手広告代理店からの需要も増えています。

おそらく広告業界全体が、縦型ショート動画による“訴求力の高さ”を無視できない状態になっているのでしょう。明らかに市況が変わってきたと感じますね。

*アドアフィ系とは、「成果報酬型広告」のこと。商品購入や資料請求などユーザーが広告を経由してコンバージョンが発生した時に広告費用が発生する。

金子確かに、縦型ショート動画の普及度合いは凄まじく、その勢いはまだまだ止まらないと思います。その勢いに合わせて、『DeLMO』は今後ますます伸びていくプラットフォームになると予想しています。

というのも、昨今、景気の影響から「なるべく広告費の予算を抑えたい」という企業が増えており、広告代理店を通さずにインハウス(自社)で広告運用を実践する事業会社が増えているからです。

その背景には、GoogleやTikTokなど広告媒体側の運用にAIが導入されてきていることが挙げられます。AIが最適な広告出稿の設定をフォローしてくれるため、たとえ広告運用の未経験者であっても、手軽に広告運用ができるようになってきているんです。

一方、インハウスで広告を運用する際、課題となるのが「クリエイティブの質」です。広告を出稿する際、「自社の商材を魅力的にアピールできる、最適な動画素材が手元にない…」という悩みが事業会社には存在しており、『DeLMO』はこの課題にミートするソリューションとして役立っている。時代の流れを見越した、先見性あるプロダクトですよね。

鬼山お褒めのお言葉ありがとうございます。縦型ショート動画が時代の潮流となり、おかげさまで『DeLMO』を導入いただく企業様は飛躍的に増えてきています。

そこで私たちは、より安心して企業様が動画素材をご活用いただけるよう、広告素材の品質・安全性に対するエビデンスが取れる『EVITOL(エビトル)』という新プロダクトも先日リリースしました。

『EVITOL』サービスサイト:https://www.evitol.com/

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中小企業やマイクロインフルエンサーに向き合う理由は、社会課題の解決のため

一般的に「インフルエンサー」と聞くと、何十万人〜何百万人ものフォロワーを抱え、芸能人のように知名度が高く、SNSを駆使して活動するキラキラした人物をイメージする読者が多いはずだ。

しかし、今やスマホ1つで誰でも自己表現できるようになった一億総クリエイターの時代。なにも活躍しているのは上述したような「トップインフルエンサー」たちだけではない。たとえフォロワーが数万人以下だとしても、ある特定の分野においてはファンからの支持が高く、影響力を持つ人たちがいる。それが、「マイクロインフルエンサー」と呼ばれる人たちだ。

そして何を隠そう、トリドリはマイクロインフルエンサー、identifyはSNSアカウントを持っているすべての人に向き合った事業を展開しているのだ。いずれもSNSのフォロワー数なども問わない、幅広い層に向けてクリエイターとなるチャンスを提供している。

鬼山これまでは各SNSにおいて、上位2%のトップインフルエンサーたちにのみ注目が集まっていましたが、identifyはこうしたトップインフルエンサーたちではなく、残りの98%の人たちを輝かせたいと考えています。

当然そこには理由があります。まず、この10年間を振り返ると、インフルエンサーマーケティングは最も拡大した市場の一つとなりましたが、そこで成功を得たインフルエンサーはごく一部に過ぎません。

また、もう少し俯瞰して日本経済全体を見ると、日本は先進国の中で大きく競争力を失い、少子高齢化や出生率の減少、また年金問題など多くの課題を抱えています。こうした中で、先に挙げたようなトップインフルエンサーたちだけが活躍する市場の状態では、社会課題の解決という観点では世の中に貢献できていないのではと感じてしまうんです。

鬼山したがって、identifyとしては、一般クリエイターたちの活躍が社会課題の解決に繋がる仕組みを目指したい。そう考えて、老若男女問わず幅広いクリエイターが登録でき、かつ自分を表現して報酬を得ることができるプラットフォーム『DeLMO』を立ち上げるに至ったんです。

誰もが当たり前に複数の仕事を手がけることができれば、日本企業の課題である人手不足や生産性向上にも貢献できるかもしれない。私たちはそのように考えてこの領域で事業を展開しています。

金子鬼山さんのおっしゃる通り、インフルエンサーマーケティングの市場は年々拡大しており、2023年においては前年比120%の731億円、5年後の2027年には1,302億円になるとも言われています。

市場が拡大を続けていく中、私たちはマイクロインフルエンサーを主要なステークホルダーに据えつつ、これまでのPRにおいて主流だった「莫大な広告予算を持つ大企業に対して有名なインフルエンサーをキャスティングする」といった領域でサービス提供をするのではなく、まとまった広告予算が取れない中小企業でも気軽に使えるようなサービス提供を心がけています。

具体は異なれど、社会を構成するボリュームゾーンのステークホルダーに対して向き合うといった構図は、identifyと似ているのかもしれませんね。

さらにトリドリは、社会の公器たる存在として、事業を通じて下記に掲げるSDGsの達成にも貢献していくことを掲げている。

提供:トリドリ

一部のインフルエンサーだけが恩恵を受けるのではなく、「個」としての誰もが輝ける社会を目指したい。

高い志と使命感をもって事業を推進するトリドリとidentify。両社が記事の冒頭でMVVを何より重視する理由が、少しずつ見えてきたのではないだろうか。

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MVVの浸透にフルコミットしていれば、上場後の事業成長は「更に」加速していた

上場後の今となっては、もっとMVVに注力すべきだった──。

冒頭でも語られた通り、直近でMVVの重要性を痛感したトリドリの金子氏。その想いに至った背景とは如何に。

金子上場審査には、事業計画の合理性に関する審査があり、そのチェック対象になるのが予算実績管理です。私たちは上場に向けて、予算と実績の数値を合わせるために必死で売上を追いかけていました。

つまり、「目標の予算を達成できなければ、上場のタイミングがズレるのではないか」、もしくは「上場できないのではないか」、そうしたプレッシャーが少なからずあったんです。一方、経営層もメンバーも「上場」という共通の通過点があったからこそ、売上達成に向けて団結できていたのも事実です。

ところがいざ上場を達成した後、メンバー間において「上場を遂げた今、自分たちはこれからどのように事業を伸ばしていけばいいのか」と、事業推進における「核」が見えにくくなり、迷っている空気が生じていたんです。事実、「上場した後の会社のビジョンが見えなくなった」と離職してしまうメンバーもいました。

そこであらためて、「自分たちは何を成し遂げたいのか?」とMVVに立ち返ってみたところ、ようやく自分たちの存在意義や理想とする在り方、目指すべき姿というものが見えてきました。

今思えば、「組織の核となるもの(=MVV)」を社内に浸透させるべくフルコミットしていれば、上場後に迷うメンバーを少しでも減らせたのかもしれません。

そう振り返る金子氏だが、そのMVVの浸透を、事業の数字と両輪で進めることができなかったのは自分自身に要因があったと述べる。

金子実は、MVVをつくる段階では、当社代表と僕の意見は対立していました。

代表は常々「MVVを浸透させることは事業成長と同じくらい大事だ」と言っていたんですが、僕はMVVに対しては正直、「売上貢献や明確な結果が出づらい施策にそこまでコミットする必要はあるのか」と感じていたんです。

しかし、実際につくってみると僕の考え方は一変しました。結論から言うと、対外的なブランディングおよび採用において、MVVは大きな機能を果たしたと考えています。MVVは、投資家の方や求職者の方にとって「インフルエンサーマーケティングを手がけている会社のうちの一つ」でしかなかったtoridoriに、「『個人が活躍する時代を担いたい』と考えるプラットフォーマー」という個性の輪郭を描いてくれました。

結果として、採用応募数などはMVVをつくる前と比べて10倍まで伸びましたし、何より、「『個の時代』の、担い手に。」というミッションに共感して入社してくれたメンバーの活躍は目覚ましいものがあります。

その反面、もともと社内にいたメンバーへの浸透は、対外的な発信の成功と比べると、課題感がある状態です。先ほど挙げた、素晴らしいMVVを掲げている企業の例からもわかる通り、MVVは一度掲げて終わりではなく、継続して発信していかなければ、社内には浸透しません。

社内にMVVが浸透しないということは、メンバーが日々の業務で困難に直面した際、立ち戻って判断する指針を持てないということと同じです。ここが、上場フェーズでの小さな後悔となっています。本当は、経営トップがメンバーに対して熱意を持って、何度でもMVVについて語っていく必要があったのだと感じています。

今後は、経営トップが社内に向けてMVVを発信する機会を今まで以上に設けていくのと同時に、社外に向けての発信もより加速させていきたいと考えています。(金子氏も新たに情報発信を始めるべく、noteを開設)

金子氏が語る通り、自分たちが何を目指しているのか組織内で共通認識が持てていなければ、その組織が持つパフォーマンスを最大化させることは難しいだろう。経営者は事業の数字を追いながら、MVVの浸透においても全力でコミットすべきなのだ。

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MVVとは、事業フェーズに応じて「運用」するもの

一方、identifyはこの夏、事業フェーズの変化に伴いMVVをアップデートしたばかり。併せて社名も刷新した(旧:マキヤマブラザーズ|新:identify)。

鬼山MVVの刷新においては、中長期的な視点を持ち、グローバル展開ができる新MVVへとアップデートしました。

MVVの一つ、ビジョンについてお話をすると。旧ビジョンは「日本人の年収を“UPGRADE”する」というもので、日本人という枠組みに限定されていました。しかし、私たちの事業は、日本人向けだけでなくグローバルも視野に入れたサービス展開も可能だと思っているんです。

加えて、先ほどお伝えしたように、私たちはトップインフルエンサーとして活躍する一握りの人たちではなく、世代や性別などの垣根を超えた幅広い一般クリエイターの人たちを支援していきたいと考えています。

そう考えた時に、どういった言葉が一番マッチするかをメンバー同士で議論した結果、「すべてがアイデンティティになる時代をつくろう」というビジョンにアップデートすることがベストだという答えに行きつきました。

鬼山また、会社名を刷新した理由は、組織形態の変化が大きいです。2017年に個人事業として創業してからおよそ3年間、私はマーケティング・コンサルティング事業を手がけてきました。旧社名であるマキヤマブラザーズとは、この時に一人で考えたものです。

しかし、現在はチームで事業を成し遂げていく形態へと変化し、旧社名と現状の組織形態との間で乖離が生じ始めていました。そこで心機一転、新たに掲げたビジョンと一貫性があるidentifyという社名に刷新したんです。

ちなみに、社名の刷新は現場の社員からの発案で決まったという。本来、社名変更は企業のイメージが大きく変わるため、企業としては慎重にならざるを得ないもの。ところがidentifyでは社名変更でさえ社員と協議しながら、共に創り上げようとチャレンジしている。こうした実態から、identifyは社名の通り、役職やポジション、年次の垣根を超えて、共にビジョンを達成しようとする意志が感じられる。

こうして事業成長に伴い組織としての在り方を刷新したidentify。ここまでの取材を通じて、組織づくりにおけるこだわりが随所に散見されてきたが、鬼山氏にとってMVVとは、どんなものとして見えているのだろうか。

鬼山私にとっては、企業経営において絶対的なものがビジョンであり、MVVの中で最も上流の考えになります。続いて、ミッションやバリューは、ビジョンを達成するための手段であると捉えています。個人的には、この「手段」が「目的化」してしまわないように常に気を付けています。

企業や経営者によって価値観は異なると思いますが、私は、MVVは一度つくって終わりではなく、常に状況において刷新していく、「運用すべきもの」だという見方もできると思っています。

金子MVVは運用すべきもの、面白い。共感しますね。私もトリドリにおいて、MVVの内容こそ変わらずとも、それをどのように解釈し、組織に浸透させていくかは変化していくものだと感じています。

同じミッションでも、上場前と後では見え方も感じ方も違う。まさに私もこれから、どのように組織に浸透させていくかを運用しながらみていきたいと思います。

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組織としての壁に直面しそうな時こそ、MVVを見直すべき

MVVは事業や組織のフェーズに応じて運用していくべき──。興味深いメッセージであるが、具体的にどういったタイミングをヒントに考えていけばいいのだろうか。

金子僕は、現状の組織に対して違和感を覚えた時だと思います。具体的には、優秀なメンバーが揃っているにも関わらず、組織の成長が鈍っているなと感じるようなタイミングです。

本来はもっと事業成長していけるはずなのに、思うほどの結果が得られていない──。

そうした時は、事業として進むべき大枠の方向性が合っていたとしても、組織としての本来の目標や目的に対し、組織内でズレが生じている可能性が高い。では、経営陣がこうした組織の違和感に気づくためには、どうすればいいのだろうか。

金子違和感に気づくためには、現場から声をあげやすい環境、かつ経営陣が現場の声を拾いにいく仕組みを構築することが必要です。

トリドリでは、経営陣が現場の声にスピード感を持って対応できるように部署名を刷新。「経営企画室」という、どこか敷居の高さを感じさせる部署名から、より部署として目指すべき目標が明確にわかる「コーポレートデザイン」という部署名に変更しました。

名称変更後は現場メンバーからの相談も増え、経営陣とビジネスサイドの連携を担って会社を牽引する部門へと成長したので、この施策は成功だったと考えています。

MVV同様、「言葉」が持つ力や、与える影響は大きい。部署名一つとっても、より具体的な内容を示す名称に変えれば意図が明確になり、結果、メンバーの行動を変えたり、行動を加速させたりすることもできる。金子氏は、メンバーの視点に立ち、細部にまでこだわりを持って、組織を変えていこうとしているのだ。

一方、identifyでは、MVVを刷新するタイミングについてどんな見解を持っているのか。

鬼山私は、今後発生しそうな組織の課題に向けて、メンバー間で話し合う時こそが、MVVを見直す良いタイミングだと思っています。

identifyの場合でいうと、スタートアップではお馴染み「30人の壁」です。今のidentifyはまだ15人ほどの組織ですが、この1年でおそらく「30人の壁」に直面するとみています。その時に、どういった課題が生じて、その課題をどうやって乗り越えていくべきか、事前にメンバーみんなで考えるために、先日、ベトナムのダナンへ4泊5日の合宿に行ったんです。

そこでメンバー一人ひとりが、来る「30人の壁」を乗り越えるための現時点の解決策を出していき、話し合いを行いました。今回のMVVのアップデートも、その話し合いの中から生まれたものです。

今後発生するであろう組織の課題に向けて、事前にメンバー全員で話し合い、必要とあらばMVVをアップデートさせ、万全の態勢で臨む。このように、identifyでは企業の成長段階に合わせてMVVを進化させているのだ。

たとえ、想定していた問題が起きなくても、組織一丸となって思考したことは決して無駄にはならない。その経験は、これからの組織成長においても資産になると、鬼山氏は教えてくれた。

一方で、組織内にMVVが浸透しているかどうかは、外から判断しにくいのも事実。例えば、新たな活躍先を考えている人が、入社前にその組織内にMVVが浸透しているか見極めるコツなどは、存在するのだろうか。

金子もちろんありますよ。企業の説明会や面接に出てくる人は、企業の代表・顔として表に立つため、採用候補者からの質問に対し準備して臨んでいるケースが多い。なので、ベストは採用業務に関係なく、志望先の企業で働いている人と積極的にコンタクトを取ることです。

その際、「あなたはどんな目的を持ってここで働いているのか?」「ここで働くことで何を目指しているのか?」などと訊ねてみると、組織内でのMVVの浸透度合いが測れると思います。

余談ですが、企業選びの際に「入社後、自分の上長となる人はどんな人なんだろう?」「他部署にはどういった人たちがいるんだろう?」と、積極的に組織のメンバーたちを知ろうとする人は、総じて優秀。入社後に活躍する傾向にあると感じています。

鬼山同感ですね。私は、一次面接から最終面接までに出てくる人たちに対して、MVVに対する同じ質問を投げかけてみるのも一つの手だと思います。

MVVが浸透している組織では、その想いや熱意がメンバー一人ひとりに腹落ちしているため、誰に聞いても同じ答えが返ってくるはず。しかし、メンバー間でMVVの解像度が異なる場合、それは組織内にMVVが十分に浸透していないことを示しています。ぜひ、企業選びの際は試してみてください。

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MVVが染み渡る組織で過ごすキャリアは、成長実感を高める

今回の取材を通じて、MVVの浸透は、企業経営において大きなメリットをもたらすことがわかったと思う。経営者においては、この点を重視しない手はないだろう。

一方で、その組織で働く側にとってはどうだろうか?最後に、働くメンバーの視点で見た時に、MVVが浸透している組織で働くメリットとは何かをうかがって幕を閉じよう。

金子僕は、「キャリアを振り返った時に、自身の成長がより鮮明に見えること」こそがメリットであると思います。

なぜなら、「当時の自分は何に共鳴して働いていたのか」と振り返ることができるからです。今の自分と比較して、スキルだけでなく、思考や価値観の変化といった観点からも、自身の成長度合いに気づくことができるはずです。

また、「自分はこの組織のMVVに共感して働いているんだ」というものがあれば、それは自身の価値観や考えを対外的にアピールする材料にもなる。ある種のセルフブランディングにも繫がると思いますね。

一方、鬼山氏は独立するまでの自身の10年間の社会人経験を通じて、ありのままの想いを語ってくれた。

鬼山金子さんの意見に近いですが、MVVが浸透している組織では、「自分の行動が社会をよくするための一歩に繫がっているんだ」「世の中の役に立っているんだ」と、自分の価値をより一層感じやすいと思うんです。

私は、社会人時代に売上至上主義の組織で働いていたことがあるのですが、その環境が自分には違和感がありました。だからこそ、「メンバーには行き過ぎた売上至上主義の環境は提供したくない」という想いが強くありました。とは言え、企業として存在している以上はビジョンを達成する為の手段として事業成長(売上や利益)に強い関心を持つことは必須とも考えています。

そもそも、売上至上主義の環境で数字だけに追われる人生は、ビジネスパーソンとして充実していると言えるのでしょうか。もちろん人にもよると思いますが、単に数字を追って自身の目標を達成していくだけよりも、同じ志を持ったメンバーが組織一丸となって、自分が心の底から共感できるMVVを実現していく方が、より幸福感を得ながら生きていけるのではと感じています。

「自己成長を鮮明に感じられる」

「世の中への価値貢献を強く感じられる」

MVVが浸透する組織で働くことで、こうしたメリットが得られる。そしてそれは、トリドリとidentifyにおいても言えることなのだろう。

では、そんな両社のような組織に今、ジョインすることで得られる成長機会、挑戦機会とは、どんなものが挙げられるのだろうか。また、そこに求められる人材要件とは──。

金子トリドリでは、MVVに共感しつつ、能力がある人にはどんどん見合ったポジションを渡していきたいと考えています。僕たちは上場したとはいえ、まだまだスタートアップと同じマインドで事業や組織づくりをしています。ですから、安定ではなく、「革新」を好む人をこそ求めています。

僕たちの仕事は、世間からはYouTuberやインフルエンサーと共に仕事ができて、トレンディなイメージを抱かれがちです(笑)。しかし、実態としてはそうした派手な側面に寄るのではなく、「インフルエンス・プラットフォーム」という、むしろ黒子役として、プロダクト側の立場で世の中に新たな価値を創出していきたいと考えています。

時代を変革していくのに必要なことは、決してキラキラとした仕事だけではありません。そうした泥臭さも厭わずにチャレンジしたいという人であれば、インフルエンサーマーケティングが未経験の方でも大歓迎です!

鬼山identifyは、今がまさにゼロイチフェーズの最中であり、ポジションは空席ばかりです。実際に、入社して9ヶ月でマネージャーに昇進した人もいます。本人の努力次第で、成長できる機会(ポジション)を提供できる環境がここにはあります。

事業や組織自体がどんどんスケールアップしていく臨場感を肌で感じながら、自分自身の成長も強く実感できる。まだまだ未成熟なスタートアップだからこそ、事業を伸ばしながら、組織づくりも同時に担っていける。こうした点に興味がある人であれば、楽しんで活躍できると思います。

また、私たちの組織では「リスペクト」という言葉が現場で飛び交うことがあります。

実際にバリューの1つ「関わるすべての人をリスペクトする」でも謳っているのですが、これは仕事への向き合い方にも通じています。というのも、私たちが取り組むリボン型の事業モデルでは、クライアントとクリエイター、そして一緒に働く仲間、3つのステークホルダーがいます。

例えば、よかれと思ってクライアントばかりに気を使い、クリエイター側へのサービスが手薄になってしまうとどうなるでしょうか。クリエイター側からの不満が高まれば、結果としてコンテンツのクオリティにネガティブな影響が生じてしまう。もちろん、逆も然りです。

私たちはクライアントとクリエイター、そして仲間へのリスペクトを大事にしながら事業を行っています。双方への敬意をきちんと持てる、バランス感覚のある方と一緒に仕事がしたいですね。

MVVと事業・組織がアラインした時、そこには強力なドライブがかかり、急成長が実現できる。そのためにも、経営者はあらためて「飾り」ではなく、言行一致したMVVを示す必要がある。それが実現されている環境には、自ずと優秀な人材が集まり、働くメンバーの視点から見ても、挑戦する機会に溢れた魅力的な環境となるのだろう。

今回登壇してくれたトリドリとidentify、両社は間違いなくMVVを重視した企業であり、そこが起点となり今後も急成長を遂げていくだろう。本記事を読み、両社のような組織でキャリアを積んでいくことに興味を持った人は、是非その中に飛び込んでみてはいかがだろうか。

こちらの記事は2023年10月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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