「そのファームは、どんなコンサルティングが多いのか?」
JMACが教える、コンサルファームのポジショニング・マップと業務比率
18年12月、日本能率協会コンサルティング(以下、JMAC)のコンサルタント6名によるトークセッションが行われた。テーマはシンプルかつストレート。ビジネスの複雑化と高速化が進行する中で、期待が一層高まっているコンサルティングという事業について、正しく理解をしていこうというもの。とりわけこの業界では戦略系、IT系など「●●系」の形容詞が付けられがちであったり、「外資>国内」の印象が強かったり、というようにイメージ先行で語られる感が強い。そこで76年もの歴史を持つJMACにリアルな実態を聞き、同社自体の位置づけや意義についても認識を新たにしていく場となった。
- TEXT BY NAOKI MORIKAWA
- PHOTO BY TAKESHI SONODA
規模・機能・KPI・組織体制……すべてにおいて多様なコンサルティング業界
日本能率協会コンサルティング(以下、JMAC)経営企画室長の富永峰郎氏インタビューが大きな反響を呼んだことから開催が決定した今回のトークセッション。コンサル志望の学生を中心に、数十名の参加者が集った会場で、まずは経営コンサルティング事業本部長・大谷羊平氏が登壇。コンサルティング業界の全体像と棲み分けについて、マップを用いながら分解してくれた。
大谷一口に「コンサルティングファーム」と言っても、実はプレーヤーの数は非常に多いですし、サービスの内容や対象となる業種および機能にも様々な特性があることを知っておくべきでしょう。
そう語りながら、大谷氏は縦軸に企業規模の大小、横軸に「戦略寄り↔実行寄り」を用いた座標を提示。総研系、外資総合系、戦略ファーム、専門ブティックファーム、オペレーション系、R&D系、人事系、日系生産系、AI-IoTベンチャー等々のポジショニングをマッピングして見せた。
大谷クライアントとなる企業にしてみれば、相談したい事柄に応じて、そこに強みを持つファームを選択していくわけです。組織改編を目指すならここ、経営戦略に集中するならここ、R&Dで成果を求めるならここ、というように。当然、各ファームが提供するサービスもそれによって大きく違ってきますし、そうなれば「何によって収益を得るのか」も違ってくるわけです。
そう説明をしながら、今度は「●●系」ごとに異なってくる売上構造の比較対象図を示す大谷氏。純粋なコンサルティング部分の比率が高い戦略系や人材系に対し、総研系や総合系がシステム構築・導入フィーで売上の多くを構築している点などを解説。以上の流れの中、JMAC自体は中規模ファームであり、戦略から実行までの幅広い分野を担っている点や、売上の大部分をピュアなコンサルティングによって上げている特性なども示していった。
大谷今日この会場に来られた皆さんの多くは、コンサルティング業界に強い関心を持っているのだと思いますが、実はこんなにも多様性があるということです。組織の構築についても、例えば国内系ファームの多くは機能型です。戦略策定、マーケティング、トランスフォーメーション(組織変革)、オペレーションというように、果たすべき機能によって部門が分けられている。
一方、伝統的な外資系ファームに多いのがマーケット型。ハイテク、金融、ヘルスケア、消費財というようにクライアントの業種・業態に合わせた部門構成をしています。さらに言えば、近年ではこの機能型とマーケット型をクロスオーバーさせた組織が増えてもいます。我々JMACもまた、機能別組織に加え、顧客の課題解決を支援していくために、各専門家をプロジェクト目的に応じて編成しながらお客様の要望に応えようとしています。
大谷氏は加えて、コンサルタントの職位や給与体系における違いも解説。さらに、キャリア形成に関わる企業文化の違いにも触れていった。「Up or Out」すなわち、一定期間内にマネージャーやパートナー等への昇格や業績達成を成し遂げられなかった場合、外へ出て行くしかなくなるという、外資系コンサルの一般的価値基準やカルチャーに対し、JMACでは多くのコンサルタントが生涯現役を続けている違いについても示していった。
コンサルタントは、いかなる流れで課題と向き合い、どんなプロセスを経て解決に動くのか
続いて登壇した栗栖智宏氏は、まずコンサルティングのプロジェクトがどのようなプロセスを経て進行していくのかについて、その典型的なパターンを説明していった。
栗栖コンサルタントの働き方というのは、案件によっても変わってきますし、テーマやお客様のご要望によっても異なってくるため、未経験の方々にはわかりづらくなっていると思います。JMACではお客様の許諾を得て、完結したコンサルティング事例を自社サイトで公開をしています。 それでもなお「イメージしづらい」という声が聞こえてきます。そこで、今日はこれまで私が担当したプロジェクトの中から、参考になりそうなものを紹介できればと思います。
これまで製造業を中心に100社以上の案件を担ってきた栗栖氏は、こう前置きをした上で、実際に手がけたコンサルティングプロジェクトの全体像を分解していく。
栗栖コンサルティング支援を開始するに当りお客様への提案活動(営業活動)を行います。コンサルティングの引合いパターンは大きく分けて3つあります。1つ目は過去のお客様からの問合せです。JMACは70年以上に渡るコンサルティング支援を通じて豊富な顧客基盤を有しています。JMACのコンサルティングサービスを認知頂いているお客様からお声かけを頂くパターンが1つ目です。
2つ目は、JMACからの情報発信です。実際にJMACが手掛けた成功事例やコンサルティングメソッドのセミナーを行い、セミナーに参加頂いたお客様へ提案活動を行うものです。3つ目はパートナーからの紹介です。金融機関やファンドなど外部パートナーを経由して案件紹介を獲得します。
実際にコンサルティングを受注した後の、クライアント企業へのコンサルティングプロセスを栗栖氏は解説していった
栗栖コンサルティング契約期間は新規テーマでは3ヶ月が一般的です。3ヶ月の契約期間の間に現状分析、目標設定、改革マスタープラン策定を行います。そして、改革プロジェクトの実践支援で6ヶ月~1年間の契約を結び、成果創出まで支援を行います。プロジェクトによっては、モデル事業部門で行った改革活動を、全社に横展開する形で2年、3年と継続支援を行うこともあります。これが、JMACのコンサルタントの1つの典型的な働き方ということになります。
後半は、多彩なJMACの過去事例から、テーマや解決手法の異なるケースを次々に紹介。機能横断型の次世代商品開発を支援したケースや、新規ビジネスモデル構築のためにプロフィットデザイン手法と呼ばれるものを活用したケース、人事制度の改訂や働き方改革を担ったケースなどなどを示し、コンサルティングの幅の広さ、奥行きの深さを伝えるとともに、JMACがそうした多様なプロジェクトをカバーしている点も示していった。
若手コンサルタントたちのリアルな働き方と、それぞれのやりがい
トークセッション3つめのパートでは、入社2〜3年目の若手コンサルタント4名が、それぞれの担当プロジェクトの内容と、そこで果たしている役割について解説をしていった。
田淵愛子氏は、企業の人事部門を対象にしたHRM改革に携わっているが、自身の1週間のタイムテーブルを公開しながら、日々どのような職務を、どのくらいの時間をかけながら担っているのかを説明。
学生時代に高分子絶縁材料の研究に取り組んできた小髙大祐氏は、メーカー研究職への道ではなく、技術開発に精通したコンサルタントとして、もの作り企業に貢献するべく入社。JMACの技術戦略センターにて、10年先を見据えた技術開発と向き合っている様子を示した。
三鍋遼大氏はサプライチェーン革新センターに所属。物流・ロジスティクスの最適化設計支援を、大手メーカーの現場に入り込んで実行していく働き方について、その面白味と苦労とを伝達。
こうして2時間に及ぶプログラムを通じ、コンサル業界の実態、仕事の進め方、担う役割の多様性や、リアルな働き方などなどが紹介された後、最後は質疑応答の時間。
コンサルティングファームに入ってみて、もしくはJMACに入ってみて、入社前のイメージと何かギャップを感じたことはありますか?
三鍋私は以前から起業や経営者になることを目標にしていて、それでコンサル業界に入りました。JMACを選択したのは、自分の裁量で仕事が出来そうだったからですが、今その通り実現していますので、ギャップは感じていません。
小髙どうしてもコンサル業界って「Up or Out」の殺伐としたイメージが付きまとっているので、多少は覚悟もしていたんですが、JMACにはそういう価値観はありませんし、社内のムードも温かで穏やか。ですから、良い意味でのギャップを感じているところです。
田淵私も良い意味でのギャップを感じていますね。2年目の若手だろうとなんだろうと、先輩がたは当たり前に裁量を任せてくれますし。
小髙働き方もすごく自由です。もちろん果たすべき責任は大きいのですが、2人が口を揃えて言っていたように、裁量を任せてくれる社風のおかげで、すごくやりがいを感じています。
クライアント企業と信頼関係を築く、という話題はよく聞くのですが、実際はどんな風に関係が深まっていくのでしょうか?
三鍋私の場合、お客様のところに入り込むような機会が多いので、ちょっとした人間性の表れみたいな部分で間柄が変わっていきますね。あるとき、お客様の担当者が会議の時間に遅れてきたことがあったんですが、「忙しそうですけれど、大丈夫ですか?」と声をかけたら、それをきっかけにすごく距離が縮まりました。
田淵それ、すごく共感します。ほんとにちょっとしたことが大切な気がします。私の場合は、お客様の業界固有の共通語というか、頻繁に使う単語を意識的に真似して使ったりするうちに、みなさんが「あいつはウチの人間だ」みたいに捉えてくれて。そういうことの積み重ねが、他のファームよりも長期的に続いたりすることで、信頼関係というのも作られていくような気がしています。
大谷実を言うと、その逆パターン、つまりこちら側がお客様のことを「ウチの会社」と呼ぶのが、伝統的に浸透しているんですよね。普通であればお客様の会社のことを「御社」というのが一般的かと思いますが、JMACメンバーは「ウチの会社」って言うんです。もちろん、時には言いにくいことを言うのがコンサルタントの責務の1つではあるのですが、特に我々JMACが携わるプロジェクトはお客様サイドの経営陣のみならず、現場に近づいていくアプローチが大切になってくるケースが非常に多い。
僕らがどんな心理で接しているのか、現場の皆さんは敏感に察知しますから、やっぱりお客様の会社や事業を心から「好きだな」と思うことは大切になってきます。ともに目標に向かっていく仲間として絆を作り、そのうえで「外の人」としてのスタンスもキープする。そういう姿勢が信頼関係を長く続けていく秘訣だと思っています。
数々の質問への回答が終わると、会場内は自然な流れでフリートークへ。来場者の熱心な質問に6人の登壇者がフランクに答えていく時間となった。70年を超える歴史を持つ数少ない日系ファームであり、なおかつピュアにコンサルティングによる価値提供にこだわり、幅広い領域をカバーするJMACだからこそ、来場者たちの質問は絶えることがなかった。
こちらの記事は2019年02月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
森川 直樹
写真
園田 武士
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