連載アプリコットベンチャーズ|株式会社カブク
地図を延々眺めても、冒険に出ないとわからない──「ものづくりの民主化」株式会社カブク稲田
「ものづくりの民主化」をビジョンに、2013年に博報堂から起業。
オンデマンド製造サービス「Kabuku Connect」や3Dプリントプロダクトマーケットプレイス「Rinkak」を運営し、創業4年で大手老舗メーカーからのM&Aを受け、ビジョンの更なる実現に向け邁進をしている株式会社カブク代表取締役CEO 稲田 雅彦氏。
今回は稲田氏にインタビューを行い、全3回に渡って創業準備のプロセスから起業後の実体験などを紐解いていく。
大手企業・事業会社からの起業を検討している方にとって参考になれば幸いである。
第2回では、起業後の生活スタイルやTips、これから起業家になる皆さんへのアドバイスを伺った。
(この記事はApricot Ventures Interviewからの転載です)
- EDIT BY JUNYA MORI
起業しても生活レベルは意外と変わらない!?
起業してから生活スタイルに変化はありましたか?
稲田前職ではそれなりにもらっていましたが、日々、松屋で牛めし生野菜セットを食べる生活だったので、生活レベルがほぼ変わらなかったのは自分でも驚きました。住まいは起業のタイミングで渋谷から神奈川県の妻の実家に引っ越してマスオさん生活をしていました。ただ、いま考えると、時間は大事なので、これから起業をされる皆さんにはオフィスから近場の安いところに引っ越すことをお勧めします(笑)。
いわゆる「嫁ブロック」はありませんでしたか?
稲田結婚してからの起業でしたが、妻にはずっと起業するという話は事前にしていたので反対はありませんでした。幸い妻も妻の実家も自営業だったので理解を得やすかったのだと思います。
共同代表や住み込みの生活はやってはいけない
創業期に、これはやってはいけないということはありますか?
稲田先輩の起業家の方々からも当初からアドバイスを受けていたことですが、共同代表はやめたほうがいいです。初期にはそういった話になりがちですが、うまくいった例はほぼありません。また、ドラマっぽくて良いのですが、同じ家でメンバー一同で住んでやるのは辞めたほうがいい。いろんな意味で本当に逃げ場が無くなり、うまくいかなくなることが多いと。確かに、なるほどなと思いますし、今でもそう思います。
プログラミングでもとにかくやってみる
カブクさんのような優秀なエンジニアの方が集まる組織はどのように作りましたか?
稲田もともと私は理系で、エンジニアであることもありますが、「大工と話すときは大工の言葉を使え」とあるように、エンジニアの思考、会話ができる様になることは重要だと思います。簡単なプログラミングは1ヶ月もあればできるようになるので、とにかくスタートアップはDIY精神(DO IT YOURSELF(人任せにせず自分でやる))が重要で、何でも自分たちで汗をかいてキャッチアップしていくのが大事です。
大学で文系だった人や社会人でもエンジニアと仕事をする縁がなかった人は、最低限の勉強をしてエンジニアコミュニティや勉強会に入っていくのがいいと思います。
大企業での経験は創業初期にはほぼ活きない
起業してから博報堂時代の経験が活きたことはありましたか?
稲田創業当初からの我々のビジョンである「ものづくりの民主化へ。」や、会社名である「カブク」、ユニークなコーポレートアイデンティティであるロゴなどは、博報堂時代のクリエイティブ、ディレクションのおかげだと思います。大きなものを考える志向性やスタンスは、すごく鍛えられましたし、今でも活きています。
実業においては立ち上げ期にはほぼ活きませんでした。クリエイティブ業界やコンサル業界などにある、関係者ヒアリングをしたり、寝食を忘れて本を十数冊読んで即座にいろいろなことをキャッチアップしたりとか、ゼロベース思考、デザインシンキング、アイデア出しを100本ノック的に死ぬほどやるなどの知的体力、ガッツが初期は一番役に立ったと言えると思います。
ただ、事業がアーリーステージからミドルステージくらいになると大企業との提携やより大きなマーケティング活動、会社としての仕組み化・運用フローの設計などを行うようになってくるので、先方のインサイトが理解できたり、なぜ仕組み化が重要か、などでは大企業の経験が活きました。
創業初期だけではないですが、起業のベースとしてすごく活きるのは、先ほどの知的体力を含むレジリエンス(折れない心、復元力)、そして体力、物理的な筋肉でした。(笑)
地図を延々眺めても、冒険に出ないと本当のところはわからない
起業のベストタイミングは?
稲田リスクが低い状況で起業するのは当然オススメです。年齢を重ねるとノウハウとかキャリアの蓄積で成功確率は上がりますが、結婚や子供など、心理的ハードルが上がり起業がどんどんしにくくなるし、自分以外に影響する要因も増えるはずです。そこのハードルは起業する時には当然超えていくべきハードルですが、やはりよく起こる論点です。
私はちょうど30歳で起業しました。年齢として節目という気持ちもあったかもしれません。博報堂での事業経験やより良いポジション、転職、MBAなどの経験を積めばより成功確率が上がるかも、という気持ちも当時もすごくありました。
ただ、足りない経験は起業してキャッチアップできるし、その方がよりダイレクトで速いとも考えました。地図を延々眺めて、起こり得るリスクや必要なスキルを延々と洗い出し、延々とスキルを事前に習得しても、冒険に出ないと本当のところはよくわかりません。冒険に出ることが重要で、最後は勇気です。
また、当時、起業家の先輩に言われて大きかった言葉は「我々はリスクはないんだよ。借金しても命までは取られないし、今の年齢であれば再就職もできる。失敗がむしろ人生やキャリアのプラスにもなる。ただし、ご利用は計画的に(笑)。」と。会社でも活躍している時に辞めてチャレンジするのであれば、万が一失敗しても出戻りの可能性もあります(笑)。
最後に起業を検討している方に一言お願いします。
稲田こんな記事読まずに今すぐやってみて欲しい(笑)。(ホンダの創業者 本田宗一郎さんが経営塾でこういった話をされていたのを思い出します)
ただ、最後は勇気。ぜひ起業家が増えて、みんなで未来の「世間良し」をつくっていければと思います。
稲田さん、ありがとうございました!
こちらの記事は2018年08月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
1987年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後、2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、R&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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