連載アプリコットベンチャーズ|株式会社カブク
一番活躍しているタイミングで起業せよ──「ものづくりの民主化」株式会社カブク稲田
「ものづくりの民主化」をビジョンに、2013年に博報堂から起業。
オンデマンド製造サービス「Kabuku Connect」や3Dプリントプロダクトマーケットプレイス「Rinkak」を運営し、創業4年で大手老舗メーカーからのM&Aを受け、ビジョンの更なる実現に向け邁進をしている株式会社カブク代表取締役CEO 稲田 雅彦氏。
今回は稲田氏にインタビューを行い、全3回に渡って創業準備のプロセスから起業後の実体験などを紐解いていく。
大手企業・事業会社からの起業を検討している方にとって参考になれば幸いである。
第1回では、博報堂時代の仕事内容や起業を決意したきっかけを伺った。
(この記事はApricot Ventures Interviewからの転載です)
- EDIT BY JUNYA MORI
てんでばらばらなキャリアでも、最後には活きる
博報堂ではどのような仕事をしていましたか?
稲田博報堂には新卒で入社しました。大学院では人工知能、機械学習の研究をしていたので、広告会社、クリエイティブ業界に入ると言うと教授からは不思議に思われていましたね。ただ、デジタルの広告の世界では、GoogleやFacebook含め多様なスタートアップが立ち上がり、ビッグデータ、AI、データサイエンス、ニューロサイエンスなどの技術を活用する動きがどんどん出て来ていたので、自分としてはすごく自然でした。
またチームラボやRhizomatiksなど、テクノロジー×クリエイティブで今ではすごく有名になられていますが、当時はようやくマーケティングコミュニケーションにもこうしたテクノロジー×マーケティングという流れが来つつある状況でした。
私の出身の大阪では、親戚にも商売人も多く、商売には近江商人の考えがベースとしてあります。近江商人の経営哲学のひとつとして「三方良し」という考え方があり、自分にとっても、相手にとっても、世間にとっても良い商売を行うことを良しとする考え方です。
そんな環境もあってか、自分で事業を興すことに興味はありました。ただ、人工知能の研究をしていた研究室時代では、起業のことは興味があっても実行しませんでした。大学にもアントレプレナー道場というものがあり、起業はこういうものかなというのがわかりましたが、起業への解像度がまだ足りないと思っていました。今からすると自分ゴト化が弱かったんですね。
その上では、自分の研究だけでなく、テクノロジー×クリエイティブの活動も多くやっていたので、テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングが自分としても非常に合っており、ここに力を入れようとしていた博報堂への入社を決めました。
博報堂のデジタル化を担う特殊部隊の様な組織の一期生として配属され、クライアントの事業立ち上げから、テレビCM、雑誌、イベント、Web、アプリ開発など、プロモーション領域の枠を超えて何でもやっていました。その後、事業アライアンスや、グループ企業を含めた全社での社内起業制度の運営も担当。複数企業の事業サポート、企業運営にも携わっていました。
一見すると、てんでばらばらなキャリアですが、レイヤーの高い仕事から低い仕事、幅広い業界の戦略策定からエグゼキューションまで、最後には活きると、がむしゃらに突き進んでやっていました。
一番印象に残っているのはどんな事業ですか?
稲田印象に残っているのは、会社に入った年に手掛けさせて頂き、大きな成果が出た宅配ピザ・アプリのスマホ事業立ち上げ、アプリ開発案件です。2009年ごろ、ちょうどiPhone3Gが出始めた時にアプリをリリースしました。
当時はアプリをリリースする企業はまだほとんどなく、位置情報を利用していち早く今で言うと「位置情報サービス」アプリを開発しました。花見会場や海、公園など、どこにでも届くという仕組みがユーザーに受け入れられ、またBuzz施策などの戦略的PRも効果的に仕掛けることができ、2年で売上総額が10億円を突破しました。
会社のホープになること
どのタイミングで起業を考えたのでしょうか?
稲田起業は学生時代からも考えていたのですが、いざ辞めていもいいと思えたタイミングは社内外からの評価も得られたタイミングですね。
サイバーエージェントの藤田晋社長が「渋谷ではたらく社長の告白」や他のインタビュー記事で、「活躍して会社のホープになり、周囲にとって辞めてほしくない状況になったタイミングで辞めるべき。それまではがむしゃらに邁進し、少なくとも社内で活躍し、成果を出し続けられなければ、外に出て成果を出し、活躍出来るはずはない。」というニュアンスの表現があったと記憶していて、まさにそうだなと思っていました。
都合よく経験やノウハウを身につけて辞めても外に出て成功しないなと。業界は違えど懸命にもがいて成長し、成果を出し続け、辞めてほしくない会社のホープになることが何よりの自信になると思いました。それなりに多くの業界賞を頂き、クライアントの売上にも貢献できた。自社やクライアントとの新規事業立ち上げや、社内起業家支援制度など多様なプロジェクトにも貢献できた。こうしたタイミングで、そろそろかなと考えました。
周囲からの納得や応援が得られるかは、よちよち歩きの起業の当初はすごくありがたいことです。ただ、いつ辞めるかという論点は重要な論点だと思いますが、最終的にはご利用は計画的に、周囲に反対されようが自分自身の道なので、自分自身が納得すれば、最終的にはいつでもいいと思います。
必ずしも会社を出なきゃいけないことはない
創業前に事業アイデアはありましたか?
稲田広告、クリエイティブ業界は、週末にお手伝いや自主的な活動で本業以外の他の仕事をしている人が多くて、私もイベントや企業支援などいろんな企画や事業のアイデア出しを頻繁にしていました。
そういった活動の中で、結果的にそうなりました。ものづくりは自分の東大阪の工場街とも繋がるルーツであり、東大阪の工業地帯ではピークから約30%程度工場が潰れ、さらに減り続けています。そんな製造業を元気にすることは「世間良し」であり、非常に意義深い事業でないかと。ただ、これは広告会社でやることではない。そうなると辞めて始めようと考えました。
せっかくスタートアップを始めるなら「世間良し」である社会的意義のあることをやろう。社会的インパクトのある「ものづくりの民主化」というビジョンを掲げ、今の事業に至りました。辞める必要がないくらい博報堂での仕事は毎日がエキサイティングで面白かったので、カブクを立ち上げていなければ辞めていませんでした。
ものづくり革命がスマホの次に
事業アイデアの着想のきっかけは?
稲田2009年に出たクリス・ アンダーソン著「MAKERS」という非常に有名本があります。21世紀のものづくりの革新について論じている書籍です。この中に3D CADの無償化や3Dプリンタのオープン化、3Dデータによるコミュニティ化によって、誰もがソフトウェアだけでなくハードウェアまで作れるようになり、ハードの世界がよりオープンになっていくといった内容が書かれています。
インターネットの大きなうねりの次にスマホという波が来た。MAKERSの流れがスマホの次になる大きな波ではないかとこの本を読んでワクワクしました。
3Dプリンターやオープンソースハードウェア、3DCADソフトなどは、大学の研究時代に触れていたのと、仕事でもイベントのインスタレーションやIoTガジェットを作るときなどで使っていました。
自分が博報堂にいた時代には、マーケティングにビッグデータを活用する流れや、SNS革命、スマホシフトの大きな波が起こり、協業するスタートアップが、こうした波に乗って大きく成功していくのを目の当たりにしていました。そして、ものづくりの世界でのデジタルの大きな波が来ようとしていることに対して、やるしかないと思いました。
こちらの記事は2018年08月17日に公開しており、
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1987年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後、2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、R&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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