プロセスを可視化すれば、誕生した瞬間に愛される── LiBの「憲法型」ビジョンが生まれるまで

インタビュイー
松本 洋介
  • 株式会社LiB 代表取締役 

明治大学卒業後、2003年に株式会社リクルートへ入社。全国営業MVPとして多くの受賞歴を持つ。2007年にトレンダース株式会社へ入社すると、退任時には入社当時2億強だった売り上げを約20億まで牽引。2014年4月、株式会社LiBを創業し代表取締役就任。

品川 皓亮
  • 株式会社LiB CCO 

1987年生まれ。京都大学総合人間学部へ進学し、後に法学部に転部。2013年に京都大学法科大学院を修了。TMI総合法律事務所にて弁護士として活動し、2016年8月株式会社LiBへ入社。

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「『生きる』をもっとポジティブに。」

女性のライフキャリア支援事業をメインにする株式会社LiBが、2014年の創業から掲げるミッションだ。全ての人が働くこと、生きることを楽しめる世界を目指して、女性のためのサービスを展開してきた。

創業から約5年、同社は2019年1月に経営理念を再定義した。スタートアップにとって、経営理念を変更するのはどのような意味を持つのか。代表取締役の松本洋介氏、人事部長兼CCO(チーフ・カルチャー・オフィサー)の品川皓亮氏に、インタビューを行った。

  • TEXT BY MANA WILSON
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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スタートアップにとって必要な定義

LiBが手がけるキャリア女性向け転職支援プラットフォーム「LiBzCAREER」、転職エージェントサービス「LiBzPARTNERS」の登録者数は、計17万人にも及ぶ。

2017年7月には、採用支援ツールとしては珍しい「月額制」を導入した。一般的には、転職が成立するごとに企業が成果報酬を支払うところ、同社は月額10万円で企業に合う人材がいれば何人でも採用できるというシステムに変更。限られたポジションだけではなく、企業に合った有能な人材と巡り合いやすくなるという。

その他にも、「LiBzWorkStyle」や「LiBzLIFE」といったメディア事業も展開している。

このように事業の多角化を進める中で同社は、2019年1月に経営理念を一新した。

同社がこれまで掲げていたのは、「ビジョン」「プライド」「バリュー」だった。「『生きる』をもっとポジティブに。」という創業から変わらないテーマをビジョンとし、会社の価値観をまとめたプライド、行動指針としてのバリューという枠組みだ。

それを「ミッション」「ファーストビジョン」「プライド」に再構成。あらためて同社が目指すものへ辿り着くために必要な言葉を、ゼロベースから選んでいったという。

変更以前の指針

変更後の指針

松本氏は最初に、会社の価値観を定義するときの4つの要素について説明してくれた。

1:人々が集まる目的

2:目指すゴール

3:行動指針

4:コミュニティの持つ価値観

「人々が集まる目的」や「目指すゴール」は、コミュニティの存在意義を示すもの。「行動指針」は、多種多様な人間が集まるコミュニティにおいて、ルールを定めることで効率や団結力を高める役割を果たす。そして、最後の「コミュニティの持つ価値観」を定義しておくことで共感する人々が集まり、より強固なつながりが形成されるという。

松本この4つの中には、可変なものと不変なものがあります。最も不変性が高いものは、人々が集まる目的だと思うんですよ。目的が変わればコミュニティ自体も変わってしまうからです。

今回の変更でも、僕たちはミッションである『生きるをもっとポジティブに。』という目的は変えていません。作り続ける事業がどのように変わるのかは分かりませんが、意識すべき『誰かの人生がポジティブになるのか』は変わらないからです。

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会社の価値観を生み出すプロセス

今回の経営理念の変更のきっかけとなったのが、人事部長兼CCOの品川氏。以前は弁護士として働いていたが、松本氏との出会いをきっかけに同社で事業作りに携わることになった。現在は「チーフ・カルチャー・オフィサー」として、社内の環境づくりに取り組んでいる。

品川皓亮氏

品川私が入社した頃に比べて、今の私たちが『目指したい』と感じているものはアップデートされています。これまでの経営理念は新しい目標を見据えたものではないと感じたので、あらためて言葉をアップデートして高みに向かって走り切りたいと提案しました。

品川氏は、まず「なぜ経営理念を考え直すのか」「それぞれの定義はどのような役割を果たすのか」といった文言ではない価値観の部分を経営陣と共有。そこで決まった方向性をもとに全社合宿で社員と議論も行いながら、品川氏自身が内容や実際の文言を整理したという。

企業が経営理念を定め、言語化するときのプロセスにはいろいろな方法がある。社員全員の意見を聞くスタイル、社長の一存で決めるスタイル、経営陣だけで話し合うスタイルなど多様だ。その中で今回、品川氏がこのようなプロセスを選んだ理由を聞いた。

品川ヒントを探すため社員や経営陣と話し合いをすることもありましたが、全ての人の意見を反映させたからといっていいものができるわけではないと思っていました。見据えるのは10年や50年先の未来です。全社員が100%同意するような経営理念は、逆に50年耐えうるものじゃないと思うんですよ。

今の社員全員が賛成するものよりも、違和感があるぐらいがちょうどいいと考えていたので、考えを深めるためにヒアリングはしつつも、それだけに頼るということは意図的にしませんでした。

2年前に営業も知らない状態で入社した私にとって、CCOというポジションも、経営理念の作成も初めての取り組み。そのため、まずは他社を徹底的に調べることから始めました。

ミッションやビジョンの役割を理念として学ぶことを大切にしながらも、勢いのあるベンチャーや、老舗の大手企業など300社ほどを全部並べてみたんです。抽象化できたものをグルーピングして、その中からLiBに合っているやり方を検討する方法で進めましたね。

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誕生を心待ちにされる経営理念にするために

同社が経営理念を変更するプロセスにおいて特徴的なのは「開示」だ。2019年1月に発表する前の3ヶ月間で「これまでの課題」や「ミッション、ビジョン、プライドがどのような役割を持っているのか」などを、全社合宿を使って社員と徹底的に議論を行った*)。

*)全社合宿の様子は、同社がWantedly上に公開しているブログに詳細が記されている。

この時点ではまだ具体的な文言はできあがっていなかったが、社員と価値観を共有して同じ方向を向くことができた。実際に言葉を紡ぐ作業と、社内への浸透に向けた取り組みを同時並行で進めるという品川氏のやり方に、松本氏も学んだことがあるという。

松本なぜ今、変える必要があるのか、どう変えていくのか、というプロセスから開示することによって共感性が高まっていったんですよね。社員は1月の発表時に初めて新しい経営理念を聞いたはずなんですけど、その前に方向性は話し合っていたので『ああ、この言葉になったのか!』という反応でした。

ミッションやビジョンは、全員が使わなきゃ意味がない。だから、できあがった時点で、全員にとって愛着がある状況を作ることができたのがよかったと思っています。

子どもの出産みたいなものですかね。だんだんお腹が大きくなってきて、動き始めたり性別がわかったり。生まれる前からそういう段階を見ているから、生まれた時に『待ってたよ』となる。

プロセスを可視化することで、生まれた時には愛されている。そういう、みんなに誕生を心待ちにされるような生み出し方をしてあげると、経営理念は輝くと思います。

松本洋介氏

今後、こうして作り上げた経営理念を同社はどのように社内へ深く浸透させていくのか。

その一つの手段として、松本氏は「スローガン型」ではなく、「憲法型」の経営理念にすることを挙げた。社長自身ですらミッション、ビジョン、プライドをもとに意思決定を行うという考え方だ。

松本今回の変更では、とにかく属人性をなくしたかったんです。遠くない将来にIPOも視野に入れているので、世の中のインフラになろうという組織が社長の感情で揺れてしまうなんて、公共性のかけらもないですよね。社長の感情ではなく、経営理念という憲法によって会社が動いていると伝えられるようにしたかったんです。

品川氏は、「ミッションやビジョンの浸透にはハードとソフトの2つの施策が必要になる」と語った。

品川ハードというのは浸透させたい経営側が整えられること。評価や表彰、採用基準に至るまでしっかりとぶらさずに『憲法』に沿って決めることで、常に実感してもらう機会を増やします。思わず掲げたくなるような可愛いデザインで視覚的にも訴えることなどもハードと言えますね。

それから嫌な感情とリンクさせないことは意識していくつもりです。『100回唱和させる』とかではなくて、楽しい思い出とつなげていきたい。

一方で、ソフトは人の気持ちや意識をどう変えていくかということです。グループリーダーなどの影響力を持つメンバーが同じ意識を持つこと。

まずは彼らがミッションやビジョンを『自分のもの』として100%腹落ちさせ、他のメンバーに伝えていくことが大切です。全員一度に浸透させるというよりは、段階を踏んで浸透させていくことを目指しています。

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みんながほしい未来を目指すための武器として

松本氏は、最後に「共感性」という言葉を挙げた。嘘か本当か分からない情報が溢れ、飛び交う多くの情報に疲れた人々は「信頼できるものを大事にしたい」という価値観を持つようになっている。そのため、事業を展開するうえでも「共感性」が重要になるという。

松本オンラインサロンやサブスクリプション型のサービスが盛り上がっているのも近いと思いますが、事業も一度お付き合いしたお客様と長く付き合うことで結びつきがより強くなるのかなと。

個人も同じ。会社の看板や規模を重視するのではなくて、自分が共感できる企業で働きたいという人が増えている。スタートアップは、まさにその典型ですよね。

スタートアップは強い目的意識でつながっていて、多様性の中にも強い同属性があります。そのときに一番の指針になるのが、ミッションやビジョンです。

だからこそ、曖昧なものではなくて『これ、私のこと指してるな』とか『僕とは合わないな』と人々がわかるような、はっきりとコミュニティの色やキャラクターが出るものの言語化を進めることが必要です。これは採用にも、組織のエネルギーを高めていくことにもつながると思うんですよね。

同社は今後、新たな経営理念を通じて社会にどのようなメッセージを発していくのか。

松本『できるか分からないけど、実現できたら素敵だよね』という未来に懸けるのがスタートアップだと、僕は思っています。日本はこれから少子高齢化が進み、労働人口が減っていきますが、その中で男女がフェアに活躍できる社会にすることによって日本のエネルギーを高めていきたい。

そして『男女どちらに生まれても、自分の努力によって自己実現が叶う』という希望が持てる国にしていくために、LiBの役割は大きいと思っています。

僕たちがやるのは、そういう国や世論と向き合うことなんです。だからLiBだけが儲かればいいとか、こうあるべきだと唱えていればいいという話ではなくて、多くの方々に『そういう社会にしていきたいよね』という共感を持ってもらえるかを重要視しています。

これからはより多くの方々に、僕たちが叶えようとしている世界に共感してもらえるような経営をしていきたいと思っています。そのときに武器になるのが、この新しい経営理念なんです。

こちらの記事は2019年08月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

ウィルソン 麻菜

1990年東京都生まれ。製造業や野菜販売の仕事を経て「物の向こうにいる人を伝えたい」という思いからライターに。職人や作り手に会いに行くのが好きで取材・発信をしています。エシカル、食べること、民族衣装が好きです。

写真

藤田 慎一郎

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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