連載0→1創世記
コモディティ化した“車”を
最高のエンターテインメントに!
MiddleFieldが目指す自動車業界の刷新
近年、車に興味を持たない若者も増えており、もはや車は、時代遅れの趣味になりつつあるのかもしれない。
しかし、モータースポーツに関わるメディア・EC事業を行うMiddleFieldは、車を“最高のエンターテインメント”にすると宣言する。
大手企業がトップを独占し、新規参入のハードルの高い自動車業界において、同社の武器となっているのは、あふれんばかりの“車愛”だ。
- TEXT BY MISA HARADA
- PHOTO BY YUKI IKEDA
車に対する愛で共感しあった、CEOとCOO
CEOの中山翔太とCOOの片岡伶介は、Facebook上のモータースポーツ・コミュニティを通じて知り合った。しかし、お互いの第一印象は、「なんか怖い」(中山)「まったく儲からなさそうな話をしている」(片岡)という少々微妙なものだった……。そんな2人がなぜ唯一無二のパートナーになったのか?
いったん、中山と片岡、それぞれのキャリアを紹介しよう。中山は新卒で入った会社で、全くやりがいを感じられず、数カ月で辞めてしまった。そんなとき、知人から紹介されたのが、チューニングパーツの製造・販売などを行うSARDだった。
もともと「普通程度の車好き」でしかなかった中山だが、“LEXUS TEAM SARD”として、トヨタ/レクサス車両で国内外のカーレースにも挑戦している同社で働く中で、車の魅力に目覚めていく。
そして、モータースポーツのファンやレーサー、スポンサーと接するうちに、モータースポーツ業界が抱えている課題にも気づいた。それらを解決できないかと、起業を考えるようになった。
一方の片岡は、高卒でSUBARU(当時・富士重工業)に自動車開発エンジニアとして入社。20歳頃から自らレースに挑戦するようになったほど、車にどっぷりな生活を送っていた。
その後、トヨタ自動車とSUBARUが共同開発した「86」と「BRZ」で、憧れのスポーツカー開発に携わることができた。「やりきった」と感じた片岡は、知り合いの紹介つてでWeb系のHP制作会社に転職するも、社長が失踪したことにより、背負わなくてもいい700万円もの借金を背負うことに。
それから借金返済のために、フリーランスとして飲食店の立ち上げやコンサルティングなど幅広い分野で馬車馬のように働いた。ようやく返済が終わり、「やっぱりレースが好きだ」と感じた片岡は、車やバイクをテーマにしたWebメディア「Motorz-モーターズ-」を始める。
そんなとき、Facebook上のモータースポーツに関するコミュニティを通じて出会ったのが、中山だった。
お互い車業界でビジネスを志す身。それでは初対面となるとき……となったのだが、大変な苦労を経験したせいで人間不信のような状態になっていた片岡のことを、中山は「なんか怖い」、レーサーを囲むオンラインサロンの構想を話す中山のことを、片岡は「まったく儲からなさそうな話をしている」と感じたのだった。
さて、ここで話は最初に戻る。そんな2人がなぜ唯一無二のパートナーになったのか?それは、両者ともに生粋の“車バカ”だったからだ。
中山僕は、新しいモータースポーツを作りたい。片岡は、自分で車作りたい。「じゃあ、片岡が作った新しい車で新しいレースができたら、めっちゃ面白くね?」と子どもみたいに盛り上がったんです。お金の儲け方じゃなくて、お互い作りたい世界の話で共感しあえました。
片岡具体的な事業の話じゃなくて、「こんなレースやりたい」で1時間くらい盛り上がっていたからね(笑)。
大手通販サイトが車パーツの扱いに苦戦している理由
中山は、「車でワクワクする人が少なくなった」と業界が抱える問題を指摘する。
中山今は車を家電の一種くらいにしか思っていない人が多いんじゃないでしょうか。かつては憧れのアイテムだったけど、ある意味、コモディティ化してしまったんですよね。そして、みんなが車に慣れすぎた結果、「別に持たなくていい」と感じる層も拡大しました。それは社会の流れだから仕方ないと思うんですけど、僕らは車をエンターテインメントに昇華したいんです。
MiddleFieldの掲げるビジョンは、「クルマを最高のエンターテイメントに!」。そのため同社が運営するWebメディア「Motorz-モーターズ-」では、モータースポーツについて紹介するなど、車やバイクに関する情報発信を行っている。
また、ECカタログ「モガタレ」では、これまで今までネット上で探すのが難しかった車のカスタマイズに関する情報を集約し、情報提供~販売、部品の取り付けまでをトータルサポートすることで、“車をいじる楽しみ”をより身近なものにしていく。
中山も片岡も、知見を溜めて万全の状態で起業したわけではない。2人は「マーケットとか全然考えていなかった」と振り返る。それでも、わからないことはひとつひとつ調べて、「ヒト無し、カネ無し、プロダクト無し」というスタート前のスタートアップ/チームを対象にしたサポートプログラム「Reality Program」や「朝日新聞アクセラレータープログラム」にも参加。
昨年7月には、時価総額1兆円超えを目指す起業家コミュニティ「StarBurst」のプレゼンコンテスト「Demoday#3」で優勝を果たすに至った。
しかし、車業界は名だたる大企業が並び、新規参入のハードルは高い印象だ。とはいえ、業界は課題を抱えている。とくに識者が不足しているせいで、IT化がほとんど進んでいない。だが、職人気質の人間が多いためので、ドラスティックな変革をもたらすことも難しい……。そんな高いハードルを突破できたのは、MiddleFieldに心の底から車を愛する気持ちがあったからだ。
中山多少コストがかかったとしても、足しげく通って、相手と直接お話させていただく。そういうことが意味を持つ業界なんです。
大手通販サイトも、車のパーツを扱おうとはしているんです。でも、車に対して情熱を持ったメンバーがいないので、実現していない部分が多い。僕らはそこを乗り越えていく愛を持っていますから。
車への愛だけで起業に踏み切ったぶん、苦労も多かったが、その愛が会社として最大の武器となった。片岡は、「部活感がすごいんですよ。最近やっと会社っぽくなってきた」と苦笑する。ただ、車が好きであることは入社ジョインに必須の条件というわけでもなく、マーケットが巨大でIT化の余地が大きい業界なので、そこに挑戦したい人は大歓迎だという。
パーツメーカーと連携し、自分たちで車を作る
国内で自動車ビジネスは横ばいでも、インドネシアやアフリカ、タイでは日本車が大人気。MiddleFieldは、アジア市場もターゲットとして見据えている。「モガタレ」を「車やバイクのパーツを買うならこのサイト」と国内外から評価されるサービスへと成長させて、2022年までに上場することを目指している。当然ながら上場がゴールではない。むしろ中山と片岡の「新しいレースを生み出したい」という夢は、そこから本格的なスタートを切る。
中山現在のカーレースは、どうしても“自動車メーカーのプロモーション”という側面が強いのですが、僕らは純粋なスポーツとしてのカーレースを作りたいと考えています。
目指している世界としては、「レッドブル・エアレース」がかなり近いですね。ああいう新しいレースを作りたい。
純粋なスポーツとしてのカーレースを生むために必要なことは、“自分たちで車を作ってしまうこと”。とはいえ、さすがに車をイチから全部作るのは難しい……ということ。そこで想定しているのが、MiddleFieldが開発したシャーシに、それぞれが思い思いのパーツを載せてレーシングカーを組んでいくスタイルだ。「実物大ミニ四駆」と表現すれば分かりやすいだろうか。
車に対してあふれんばかりの愛情を持つ中山だが、カーレースを熱狂的な車好きの人のためだけに提供したいわけではない。彼が理想としているのは、小学生のときアメリカで見たメジャーリーグベースボール。スタジアムには「野球を見ていない人」が多くいた。
スタジアム内には、ゲームセンターやプール、バーベキューができるスペースまで用意されていた。しかもスタジアムの観客席では、どこからかビーチボールがポンポン回ってくる。当然グラウンドにビーチボールが落ちる場合もあるが、誰も怒ることはない。その光景もメジャーリーグベースボールの一部だ。
「みんなが楽しい空間があるんだからOK」という独特な雰囲気がそこにはあった。もちろん野球自体を楽しみに来ている人も多くいたが、スタジアムの雰囲気そのものを楽しみに来ている人も多かった。
中山以前ラグビーが世界戦で脚光を浴びた時、ラグビー協会の方が「みんなにラグビーのルールを知ってもらうための取り組みをしていく」とコメントしていました。そういうアプローチも悪くはありませんが、僕らが考えるアプローチとは異なります。
だって、最初から細かいルールを覚えたくないじゃないですか(笑)。それでは裾野は広がらない。細かいルールを知るのは、本当にそのスポーツに興味をもった後でいい。
だから僕たちは車マニアを増やすのではなく、レース以外の楽しみも幅広く提供するエンターテインメント空間を作り出して、みんなが楽しめる空間を作りたい。その結果として多くの人を巻き込んで裾野を広げていこうと思うんです。
みんなが楽しめる空間を作りたい──。その想い思いは、MiddleFieldという社名にも込められている。同社にとってカーレースは、コミュニケーションを生むもの。さまざまな人々が訪れて共に楽しむ“中間地点”なのだ。
MiddleFieldでは昨年12月、フェムトグロースファンド2.0投資事業有限責任組合から総額2.5億円の資金調達を実施した。企業として順調なスタートを切ったように見えるが、ビジネスにおいても“中間地点”という意識は常に忘れない。
中山「新しいモータースポーツを作る」という夢から考えると、会社を起こすことや売り上げを出すこと、資金調達に成功することなんて通過点に過ぎません。道のりは、まだまだ長いですから。
連載0→1創世記
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