300名規模でも“ミッション実現の進捗はまだ1%未満”──必ず訪れるパラダイムシフトを好機と捉え、挑む人口減少社会への価値貢献
ベンチャー・スタートアップを志望する成長意欲の高いビジネスパーソンが望むような環境は、必ずしも広く名の知れた企業にあるとは限らない。表向きには急成長を遂げている企業でも、一度プロダクトが成熟の域に入ってしまえば、活躍の幅や成長機会が得られないことも少なくない。では、本当に飛び込むべき成長環境は一体どこに存在するのだろうか?
「正直、ミッションの達成率は1%にも満たない」と語るのは、ネクストビート人事マネジャーの早川直樹氏だ。保育士専門の転職支援サービス「保育士バンク!」などを運営する同社は、子育て支援の領域で確かな実績を残し、他の領域でも着実にその裾野を広げている。それにも関わらず早川氏の発言が謙虚なのは、彼らが「人口減少社会の課題解決」という、近い将来に必ず訪れるパラダイムシフトの先を見据えているからに他ならない。
なぜネクストビートは人口減少社会にこだわり、社会課題の解決に本気で向き合い続けるのか?経済合理性と社会貢献性の両方を追求し成長を続ける、同社だからこその戦略とそこに拡がる成長環境を探ってみた。
- TEXT BY ICHIMOTO MAI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY KEISUKE SHIMADA
直面する課題から目を背けず、真摯に人口減少社会と向き合う
早川日本の総人口は2100年に6000万人まで減少すると言われています。そんな危機的な状況にありながらこの問題にアプローチしないのは、次世代への責任の先送りではないでしょうか?人口減少は、日本が抱えるさまざまな課題の中で最も深刻なものだと認識しています。
早川氏は、冒頭からこう切り出した。
ネクストビートは現在、「ライフイベント」「地方創生」「グローバル」の3つの事業ドメインを設定し、提供するサービスは全て「人口減少社会の課題解決」というミッションに紐づいている。
例えば、創業期から注力してきたライフイベント領域では、将来的に子育て支援のtoC事業を統合しプラットフォーム化する構想がある。その上で、出会いや結婚、出産、介護といった分野の事業にも裾野を広げていく計画だ。
ライフイベント
- キズナメディア(育てるを考えるメディア)
- キズナコネクト(保育園・幼稚園向けICT業務管理システム)
- キズナシッター(ベビーシッターマッチングサービス)
- キズナウェブパック(保育施設向けホームページ制作)
- 保育士バンク!(保育士専門の転職支援サービス)
- 保育士就活バンク!(保育士・幼稚園教諭を目指す学生向け就活応援サイト)
地方創生
- おもてなしHR(宿泊業界専門の就職・転職支援サービス)
グローバル
- (今後展開予定)
早川今後、人口減少がさらに進行すれば、さまざまなパラダイムシフトが起こるでしょう。それに伴い発生する新たな課題、需要、マーケットに対して、既存領域の枠組みにとらわれず、次々と新規事業を展開していくのが我々の基本方針です。
「人口減少社会の課題解決」という壮大なミッションを掲げ、それに紐づく事業を展開している背景には、ネクストビート創業者であり代表の三原誠司氏の強い想いがある。
三原氏は人材業界を7年ほど経験する中で、組織において社員が数字の達成だけに目を向けて働かなくてはいけない状況に違和感を覚えていた。2013年にネクストビートを設立したのは、「社員一人ひとりが、社会のどの課題を解決するための仕事なのかを、日々感じながら働ける会社をつくりたい」という理由からだ。
人口減少社会における課題の解決に着目したのも、人材業界での経験が大きく影響している。労働人口が潤沢だった昔に比べると、企業が求める高いスペックの人材は集まりづらくなっており、医療や介護といった社会インフラを支える職種においても例外ではなかった。
早川単純に一つのポジションを4、5人で奪い合うような企業が多いのか、誰でもいいから採用したいというスタンスの企業が多いのかでは、間違いなく企業の競争力に差が生まれます。そうした状況を放っておけば、企業だけでなく国全体が機能不全に陥ってしまう──。三原はそんな状況に強い危機感を抱いています。
ワークフォースの減少が日本にもたらす深刻な影響を、リアルに感じてきた三原氏。それだけに彼のビジョン実現への想いは強いものがあると、早川氏が教えてくれた。
成長のために派手さはいらない?
直向きに追求するオペレーショナル・エクセレンス
2021年で設立から8年目を迎えたネクストビート。ミッションに対する現在の進捗はどの程度なのだろうか?
早川ミッションの達成率は1%にも満たない状態です。保育分野ではプレゼンスを発揮していますが、ライフイベント全体では価値提供できていない領域は多いです。地方創生領域の事業はまだ「おもてなしHR」だけですし、グローバルに関してもこれから。設定した事業ドメインに対してやるべきことは山ほどあります。
早川氏の発言は驚くほど謙虚で、想像以上に厳しい自己評価だった。しかし、それはミッションの実現を真に目指していることの裏返しだろう。
実際にネクストビートは人口減少社会の課題に対して、全く太刀打ちできていないわけではない。むしろ複数の領域で一定の成果を挙げている。
「保育士バンク!」の登録者数は累計30万人超、子育て情報メディア「キズナ」のUUは月間250万人、保育園・幼稚園向け業務管理ツールのキズナコネクトは継続利用率96%──。こうした数字からも、同社が確かな存在感を示しているのは明らかだ。
創業期から続く「保育士バンク!」は、決して参入障壁が高い事業領域とは言えない。だが、ネクストビートは他社の追従を許さず先頭を走り続けてきた。早期にPMFを実現できた理由を、早川氏はこう説明する。
早川一言で言うとオペレーショナル・エクセレンスへのこだわりです。どんな事業でも、「プロダクトの開発力」「デザインのクオリティ」「マーケティングの効率性」「セールスの合理性」の4つの掛け合わせにより競争優位が生まれます。ネクストビートが一定のシェアを獲得できているのは、これらが少しずつ他社のプロダクトを上回っていたからでしょう。
では、早期から競争優位な状況を作れたのはなぜなのだろうか?
早川1つ目は、オールインハウスでの事業開発です。プロダクト開発、デザイン、マーケティング、セールスオペレーションに至るまで、当社では基本的に外注を行なっていません。それによって社内に知見が蓄積されるとともに、スピーディーな事業活動が可能になります。
2つ目は、人材の多様性です。創業初期のスタートアップには似たようなバックグラウンドの人が多く集まりがちですが、我々は最初から職種の多様性を重視してきました。複数の領域からプロフェッショナルが集まった結果、質の高いプロダクトづくりの体制を早くから整備できたのです。
その結果、事業を超えたノウハウの共有はもちろん、既存サービスのユーザーが同社の新たなサービスも利用するなど、収益に直結する事業間シナジーが生まれている。
オールインハウスでの開発、優秀な人材の採用、複数事業のシナジー……。確かに、これらの要素は企業が成長する上で強みとなるのは間違いない。しかし、他にも同じような強みを持ち合わせている企業は少なくなさそうだ。
「ネクストビート成長の裏側には、他にも特別な要素があるのではないか?」。 率直にそんな問いをぶつけてみると、早川氏は落ち着いた様子でこう答えた。
早川確かに、いかにも普通に聞こえてしまうかもしれませんね(笑)。でも、実際にこうした要素を強みにできるまでやり切れている企業って、どのくらいあるのでしょうか? それ以前にチームビルディングで躓いてしまう組織が大半のような気がします。
大切なのは、当たり前のことを当たり前にやり切る実行力が伴った組織であるかどうか。それだけの力が備わった会社なのかどうかは、当社の経営陣と話せばすぐに理解してもらえるはずです。
好機を見極め、スピーディーに事業開発を推し進める
当たり前のように変化を求められる時代に、持続的な成長を実現する。そのためには既存事業の強さだけではなく、攻めの姿勢が重要なのは言うまでもない。早川氏は今後の戦略について「明確なタイムラインが引かれているわけではない」としつつ、次のように語った。
早川早期にマネタイズしやすいHR事業を中心に、中長期的な投資が必要なSaaSやCtoCマッチングプラットフォームなどの新規事業を推し進めていくのが基本戦略です。事業を創り、参入するタイミングを見誤らないために重視しているのはマクロトレンドです。人口減少に紐づく領域で今後どのようなパラダイムシフトが起こるのか?それによって、我々がいつ、どんな事業に挑むのかは変わります。
マクロトレンドを的確に捉えて事業参入の好機を逃さない。これはすでに創業当時から確立されていたアプローチだ。「保育士バンク!」はネクストビート創業の前年、2012年8月に「子ども・子育て関連3法」が参議院で可決された流れを受けて誕生した。また、地方創生の領域にドメインを広げたのも、2015年に地方創生大臣のポストが創設され、社会が過疎化に伴う地域社会の課題に目を向け始めたからに他ならない。
先述したオールインハウスでの開発に加えビジネスモデルの多様性も、スムーズに事業開発を推し進めるための鍵となっているという。
早川当社のビジネスモデルはHR系事業、SaaS、WEBメディア、CtoCマッチングプラットフォーム事業、WEB制作や映像制作受託事業等、多岐に渡っています。そのため今まで磨き込んできたビジネスモデルを、比較的容易に他の事業ドメインに展開することが可能です。
例えば、保育園向けに開発したキズナコネクトのアセットを使い、宿泊業界向けに労務管理システムを提供したり、子育て世代向けウェブメディアのノウハウを生かして、観光客向けのローカルメディアをつくることもできます。これまで育んだきた強固な事業基盤を活用することで、他の領域でもスピーディーに事業開発を推し進めることができます。
これまでは三原氏が事業開発の舵取りをしてきたが、2021年から新規事業のプランニングコンテストを始めた。第一回にも関わらず、なんと300人程の社員の中から60を超える応募があったという。
早川優勝者のプランは具体的に検討を進めるべく、本人にも経営会議に参加してもらっています。またコンテストと並行して、三原や事業開発を経験したメンバーとのパネルディスカッションなども実施しました。事業立案のノウハウを学べる機会を設けたことで、会社全体で事業創出の機運が一気に高まっています。
これからジョインするメンバーが事業責任者となれる可能性は大いにあり、その挑戦のフィールドは国内だけに限らない。すでに海外でもリサーチを進めており、現地の制度や社会構造をインプットする目的も兼ねて、できるだけ早い進出のタイミングを探っているという。
早川シンガポールではすでに人口減少の課題に直面しており、日本だけの問題ではありません。海外でも国内と同様にまずはHR領域で足場を固めながら、CtoCのシェアリングエコノミー型のビジネスを展開していく構想です。
事業活動の成否をわける、経済合理性と社会貢献性のバランス
壮大なビジョンの実現に向けて着実に前進するネクストビート。共に働く仲間には「経済合理性と社会貢献性の両方をバランスよく追求できるマインドを求めている」と早川氏は語る。
早川経済合理性と社会貢献性は両方とも重要ですが、そのどちらかに思考が偏ってしまう人が多い気がします。ネクストビートでは経済合理性の追求はもちろん、その活動がどのような社会課題の解決につながるのかにも強くこだわっています。両方のバランスを重視しているのは、それがそのまま事業活動の結果に反映されるからです。
あえて上場を目指していないことからも、同社の徹底したスタンスを窺い知ることができる。短期的な利益追求に過度に意識が向かない状況に身を置き、事業の本質を見失わないようにしているのだ。
また、社員には「より良い社会を築きたい」という想いが必須である一方で、ビジネスパーソンとしての成長志向も求めている。今後、事業が続々と生まれる中で、どのような成長環境があるのだろうか。
早川将来的に事業の立ち上げや起業を目指す方にとって、他職種の業務内容を詳しく知れることは大いに役に立つと思います。ネクストビートでは職種間の距離が近いので、例えばマーケティング職として入社したとしても、エンジニアやセールス、経営企画のメンバーがどんな業務をどのような意図で進めているのかが非常によく見えます。
また、ビジネスモデルの多様性も当社の成長環境の魅力です。特にSaaS領域でワンプロダクトの企業だと、どうしても細部の改善だけを追求する思考になりがちです。しかし、ネクストビートでは業界もビジネスモデルもターゲットも異なる事業が並存しているので、視野を広く保つことは必要不可欠です。自ずとビジネスパーソンとしての総合力が鍛えられるでしょう。
前職の延長線上のような仕事しか任せてもらえず、転職しても自分の世界をなかなか広げられなかった経験のある人は少なくないだろう。
早川入社後は経験のない業務もやっていただくことになると思います。ただ、当社のCxOをはじめ、前職と全く同じ仕事だけをやっている人はいませんから、あまり心配せずに成長機会と捉えてもらえれば幸いです。「入社したらなんとか着地します」というスタンスで大丈夫です。
「人口減少問題の課題解決」という難しくも不可避な課題に立ち向かうからこそ、やるべきことは無数にある。現在のネクストビートを、「1%しかビジョン達成に近づいていない」と捉えるか、「まだ99%も成長の余地がある」と受け止めるか──。
自分のスキルアップも、社会貢献も妥協したくない。そんなエネルギー溢れるメンバーの心の中に、ネクストビート成長の原動力を見た。
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こちらの記事は2021年06月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
フリーライター。1987年生まれ。東京都在住。一橋大学社会学部卒業後、メガバンク、総合PR会社などを経て2019年3月よりフリーランス。関心はビジネス全般、キャリア、ジェンダー、多様性、生きづらさ、サステナビリティなど。
写真
藤田 慎一郎
編集
島田 啓佑
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