「次のネットスケープを創る」
VR×不動産で急成長。
VRプラットフォーマーを目指すナーブ多田が描く“次の当たり前”とは?

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インタビュイー
多田 英起

1979年生まれ。ITコンサルティングを経験後、IT受託開発を10年以上行っており、技術を活用した新しいソリューションをテーマに KDDI社との共同特許をはじめ、オープンスタックシェアNo.1の米ミランティス社とのJVの構築などを行う。
ライフスタイルに特化したVR事業(ナーブ事業)をスピンアウトして、国内最大のVRプラットフォームを構築し現在に至る。

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VR。誕生初期こそゲーム領域で活用されることが多かったが、今ではあらゆる分野で活用が進む。

その最前線リードするのが、「VR内見™」というサービスを提供する2015年設立のナーブだ。

大手不動産会社での導入も続々決定している「VR内見™」であるが、代表多田の視線は、不動産業界からはるか先を見据えていた。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「米国に行けばネットスケープが創れると思った」

ナーブ代表である多田の起業家としての原点は、高校時代に遡る。「学生時代は将来のことを何も考えていなかった」と振り返る彼は、日本の高校卒業後、急遽アメリカの大学に進学した。

多田当時ネットスケープが米国で破竹の勢いで成長していたんです。自分も米国に行けばこんな企業を作れる。そう思った時、気づいたら米国大学しか受験していませんでした。

イリノイ大学の学生であったマーク・アンドリーセンが、後のネットスケープコミュニケーションズを創設したことを知った多田は、「米国の大学で学べば世界を変えられる企業が作れるのか」と触発された。

しかし、いざ米国大学に入学してみると、現実は多田の想像から程遠かった。

多田ものすごく少数の、特定の人たちががんばっていただけで、アメリカの大学に行けばみんながああいう風になれるわけじゃない。そう現地で初めて気付いたんです。授業のレベルも低いと感じましたね。C入門だとか、プログラミングの基礎だとか、知っていることばかりでした。

コンピュータへの関心も幼少期から高かった。高校時代からC言語にも触れ、定期的に再起動が必要だったWindows98のメモリ解放ツールを作ったこともある。

「自分の方がインターネットをわかっている」。そう思ううちに、ITへの興味が薄れた。替わって、未知の世界であるビジネス、中でもファイナンス(金融)に強い関心を抱くようになる。

渡米時に入学したボストンの大学からロサンゼルスのUCLAに編入しファイナンスを学び、米国のバンク・オブ・アメリカ(当時)にて金融のキャリアを歩み始めた。

多田30代くらいでナスダック上場企業の役員になって、40代で社長になるという、エリートキャリアを歩むんだろうなと想像していました。

しかしそんな多田の元に、突然の知らせが入る。就職してから数か月後のある日、日本にいた父親が倒れた。勤務先を退職後、急きょ帰国。亡くなるまでの約2年間、一切仕事をせず看病を続けた。

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金融から再びITの世界へ

東京でITベンチャーが盛り上がっている──。仕事のブランクを2年経験した後、そんな噂を耳にした多田は、大阪から上京することを決意。当時流行していたiモード向けサイト制作・コンテンツ企画の受託を請け負う渋谷のベンチャー企業に入社した。

しかし、20名前後の少数精鋭で新しいものを生み出す楽しい日々は、そう長くは続かなかった。入社から1年半が経過した頃、経営は悪化。「辞めるしかなくなっちゃたんで」と淡々と、表情1つ変えずに語る多田は、意外にもメンバーへの情に厚く、懐が深い。

多田突然の出来事だったので、次の職が見つかっていない当時の部下2人を一緒に雇ってもらうことを条件に、エーピーコミュニケーションズにジョインすることにしました。

同社には「自分も3年間は勤務」する、という約束をして後輩2人と一緒に入社した。

多田3年経ったら本当に自分は辞めて好きなことをしようと思っていたんですが、辞めるという話をしたら、3か月間好きなことしていいからもう少し残って欲しいといわれたので、それだったら、ということで新規事業を始めたんです。

手がけた事業は、技術に特色を持った元請け事業及び新規事業を行うその中でも、国内系のキャリアと連携し、キャリア・クラウドを構築する新規事業もその中の一つで印象的な事業の一つだ。業界の追い風も受け、瞬く間に拡大した。多田自身も、結果的には10年もの間、エーピーコミュニケーションズに腰を据えることとなった。

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人生を変えたVR体験。そしてナーブ設立へ

事業が順調だったとある2012年、初めてVRを体験した。

多田最初に体験した瞬間の感動は今でも忘れません。VRをうまく活用すれば、絶対に世の中が変わると思った。

「やりたい!」と思った時の行動力、意思決定の早さは、起業家としての多田の天性の才だろう。VRの魅力に取り憑かれた彼は、kinectでVRの世界を自由に歩ける仕組みを、世界で初めて業務に取り入れた。

その後も既存事業の傍ら、VRを活用したビジネスを拡張すべく、様々な事業会社との提携を実現させるため奔走したが、最終的には同VR事業だけをナーブ社としてスピンアウトさせた。

多田大企業と一緒に進めては、事業が成功するイメージが湧かなかったんです。それに、VR事業に多額投資してもらったとしても、その他の既存事業に関わる社員300人を巻き込んで派手に失敗するわけにはいかないでしょう。

ナーブとして独立し、VRのプラットフォーマーになる。そう覚悟を決めた多田だが、元手となる資金はなかった。そんなとき、アイリッジ代表の小田から「資金調達すればいいじゃん」とアドバイスを受けた。

そこから、起業家としての多田の人生が幕を開けた。作ったこともない事業計画を、Excelを叩いて作り続ける日々が始まった。

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検討します=却下。スピードある意思決定が成功のカギ

大企業内での新規事業責任者と、スタートアップの代表の両方を務めた経験を持つ多田は、スタートアップが大企業に勝てる要素を、“使える金額の大きさ”と“成功するまで辞めない熱意”だと分析する。

多田世間の人はだいたい誤解していますが、スタートアップやベンチャーの方が、うまくいくかよくわからない、いわゆる“新しい”コトに自由かつ即座に投資できる額は大きいんです。

大企業の新規事業部門で1億円以上の決済を今すぐできるとかいう話って聞かないですよね?スタートアップなら可能です。会社全体で見れば大企業のほうがキャッシュリッチかもしれないけど、新規領域に投資する額はスタートアップのほうが大きい。

しかも、ベンチャーには“想い”がある。売り上げがずっと立たなくても撤退しないでしょ。大きな勝負を一気に仕掛けられるし、厳しい状況になっても諦めない。これがスタートアップが大企業に勝てる理由です。

「それに加えて」、ともう1点付け加える。

多田日本の大企業のスピード感では、世界で勝負できません。『しっかりシミュレーションして、1年後に形にしていきましょう』というのでは話にならない。アメリカではみんな、『この1か月で勝負が決まる』というスピード感で勝負しているんです。同じ1年の間に、日本企業の12倍も本気で勝負されていたら、勝ち目なんてありませんよ。

たしかに今でも大手企業のほとんどは、予算の拠出や意思決定に証拠・データを求めるエビデンス主義だ。そんな風潮を多田は「時間がもったいないし、意味がない」と熱を込めて批判する。

多田今でもうちは、“検討する=却下”というカルチャーを貫いてます。検討してる間に競合他社が実行してしまって負けるなんてバカらしいじゃないですか。

米国のスタートアップに引けを取らないスピード感で突き進むナーブであるが、設立当初はしばらく売り上げが伸びず、倒産の危機も幾度となく経験している。「普通の会社ならVRから撤退しているでしょうね。でも独立してやっているナーブだったからこそ、最後までやりたいことに集中できました」

逃げずにやり続けた結果、2017年5月から、「Jカーブ」と呼ぶにふさわしい事業拡大の転機が訪れた。「この1年の間に、VRが世の中に浸透してきたんだと思います。本当にJカーブって存在するんだ!って感じられたのは新しい発見だった」と笑いながら多田は振り返る。

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採用も事業領域も。失敗から成功パターンを学び続ける

これまでの成長の過程で経験したいくつもの失敗が、今のナーブを作っている。採用もその1つだ。

多田2016年に資金調達がうまくいって社員を大幅に増やしたときは、うまい採用ができなかった。採用したメンバーが営業に行った先のクライアントからも『担当の方が来社されないのですが…』とクレームが入って、散々でした。

資金調達直後は世間からの注目度が高い分、ミーハーな、新しいモノが好きなだけの入社志願者が増える傾向にある。結局、そのタイミングで入社したメンバーは現在ひとりも在籍していないが、「その後に入社したメンバーはものすごく優秀で助かった」

「どれだけ人が不足しても、一切採用には妥協しない」。そういった同社の文化は、この失敗に端を発する。

多田今ではエンジニアなら、paiza Sランク以外は採用しません。努力すれば越えられる壁すら越えられない人に、前例がないVRビジネスなんて創れませんから。ビジネスサイドのメンバーにも、VRを活用した『誰も体験したことがない』新しいサービスを、相手にわかりやすく伝えられる高度なコミュニケーションスキルを求めています。

VR内見™」が今のように日の目を見るまで、分野選択に失敗したこともあった。「VRフィットネス」。創業時に「ジムに通うのって面倒だよね」という思い付きから生まれたアイデアであったが、運動して汗をかくとレンズが曇るため、長時間楽しんでもらうことが難しかった。

「今思うとあり得ないですが」と付け加えながら、社内メンバーの誰1人として、実際にVRフィットネスを使っているメンバーもいなかったと多田は教えてくれた。

多田でも、『VR内見™』は違ったんです。自社オフィスの引っ越しが決まったとき、メンバー全員が候補となる建物を『VR内見™』で見たいと口を揃えて言ったんですよ。社内の人間が使いたくなるサービスだからこそ、これなら行ける、と自信が持てたんです。

そこから「VR内見™」の開発に注力したナーブであったが、どこのスタートアップも経験する通り、サービス導入は思ったようにうまく進まなかった。「VR内見™」を不動産会社が導入するためには、賃貸サイトに掲載する写真とは別に、新たに物件内を撮影し直さなければならなかったからだ。「手間がかかる」と導入に至らなかったり、導入されても実際にユーザーが利用できる状態にならなかったりという事態が頻発した。

多田撮影が面倒だというなら、その手間を省けば導入してもらえるはず。

そう信じたナーブメンバーは、不動産会社側が通常業務を行うと「VR内見™」を導入できる状態が手間なく作れるよう、サービス導入フローを再構築した。風向きが変わったのは、そこからだった。導入企業が急増し、VR内見™のアクティブ率(導入企業の中でサービスを利用している企業の割合)も改善した。

現在では大手企業への導入も進んでいる。17年3月には、東急リバブルが「VR内見™」を導入していることがワールドビジネスサテライト(テレビ東京)で放映され、同サービスの知名度も急上昇。現在では、三菱地所や住友不動産、大和リビングなどの大手不動産会社も導入企業の仲間入りを果たした。

VR内見™で店舗にいながらバーチャル内見を|ナーブ株式会社

多田本当に風向きが変わったとメンバーも肌で感じています。昨年導入を断られた企業から『導入したい』と声がかかるようになってきていますから。

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「内見」は序章。VRを使った“コト売り”のプラットフォームを完成させる

しかし、1つのサービスがヒットし始めてもなお、両手を上げて喜ぶことをしないのが多田という男のようだ。「1秒でも早く描いている未来を実現したいんです。そのための投資は惜しみません」。そう語る彼の頭の中には、次なる展開が既に描かれている。

多田創業当時は、『VRでなんでもできます』と言っても理解されませんでした。でも、特定業界での成功事例が1つあれば、世間もイメージが湧いて、同様の成功事例が生まれていくと思った。だからまずは1分野で成功したくて、不動産を深堀りしたんです。これからどんどん別の分野にVRを持ち込んで行きます。

17年10月には、ニッセイ・キャピタル、Spiral Ventures Japan、三菱地所、ギガプライスから総額4.6億円の資金調達も完了。「VR内見™」をはじめ、更なるサービスラインナップの拡大にアクセルを踏んでいる。

ナーブ社の最終目標は「VRを活用したコト売りのプラットフォーマーになること」。不動産領域の内見に限らず、ウェディング、旅行、ファッションなど、VRを活用したビジネスプラットフォームを創る構想だ。

多田VRが出始めのころはその特性を理解できる人は少なかったけど、今やVRは当たり前のように認知されました。当たり前になると、携帯やメールみたいに、それが無かった社会が思い出せなくなるんです。僕らはVRを使って次の“購買の当たり前”を創っていきたいと考えています。

既に不動産の次なる開拓分野として、中古車市場向けのVRサービスを開発中だ。もちろん、これまで何千、何万という起業家が夢見てきた通り、次の当たり前を創ることはそう簡単なことではないだろう。しかし、「これまでずっと世界で一番新しいものを作ってきている自負はある」と多田は自信を覗かせる。

そこまでの自信を裏付ける、具体的な勝ち筋は見えているのか──。そう問うたところ、多田らしい答えが返ってきた。

多田こうすればうまくいくはず、なんて戦略は今も昔もありません。これまでも結果的にうまくいっただけ。ナーブは100回以上の失敗が積み重なってここまでこれたと思っています。シリコンバレーを見れば分かる通り、試行回数は成功するための生命線ですから。

VRがバズワードとなって久しいが、ここまで鮮明かつ強固なビジネスモデルをイメージしている人物がいるだろうか。もちろん、何がうまくいくかなんて誰にもわからない。でも、だからこそ、スピード感、試行回数が勝敗のカギを握るはずだ。

「検討に時間をかけず、早く失敗して、早く改善する」ことにフォーカスする米国流起業家、多田が率いるナーブのこれからのチャレンジに視線が集まっている。

こちらの記事は2017年11月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

写真

藤田 慎一郎

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