なぜ激動の動画市場で成長を続けられるのか?
累計40億調達のオープンエイトの強さは、「揺るがぬコアバリュー」にあり
通信に革命を起こす「5G」の時代が、いよいよ到来する。
4Gを遥かに上回る高速・大容量通信を実現する次世代無線通信システムで、私たちを取り巻くコンテンツはよりリッチになる。テキストや画像だけでなく、動画や3Dなども気軽に閲覧できるようになると、メディアのあり方は大きく変わるだろう。特に動画コンテンツの急速な広がりを、すでに肌で感じている人も多いはずだ。
通信のあり方が大きく変わることを予見し、2015年に動画を主軸とする事業を立ち上げたのが、株式会社オープンエイト代表取締役社長兼CEOの髙松雄康氏だ。国内最大規模の女性向けスマートフォン動画マーケティングプラットフォーム「OPEN8 AD Platform」や、800万人のユーザーを抱えるおでかけ動画マガジン「LeTRONC(ルトロン)」などを展開する同社は、昨年9月に15億円を調達し、累計調達額は40億円にのぼる。
設立以降、激動の動画領域で成長し続けるオープンエイトの強みはどこにあるのか。変化の激しい領域でビジネスを成長させるための秘訣を、高松氏に訊いた。
- TEXT BY YUKO TAKANO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「情報発信の格差をなくしたい」動画領域で成長を続けるオープンエイトの事業戦略
2019年4月から5年目を迎えるオープンエイトは、AI、データベース、配信技術からなるコアテクノロジーをエンジンとして「マーケティング」「メディア」「SaaS」の3事業を推進している。
マーケティング事業では、日本最大規模の女性系動画マーケティングプラットフォーム「OPEN8 AD Platform」を提供。ユーザーに有益な広告を配信するため、信頼性の高いメディアを選定し、各メディアのコンテンツにマッチした広告を配信できる基盤を構築した。配信先メディアの月間ユニークユーザー数は合計で1億を超え、20代~40代女性の多くにリーチできる。
メディア事業では、おでかけ動画メディア「LeTORONC(ルトロン)」を運営し、おでかけスポットや宿泊施設、飲食店情報など「おでかけ」に関する様々なカテゴリを網羅。約1万本もの動画コンテンツを提供している。ルトロンが目指すのは汎用性の高いコンテンツのストックだ。「おでかけ」は生活の可処分時間の多くを占める。その領域でコンテンツをストックしておけば、「将来的に有益なデータベースになるはずだ」と踏んだ。
また「ライフスタイルに革新を起こす」というビジョンを実現するためにも「おでかけ」領域は絶対におさえたかったという。
高松2016年5月にリリースして以降、ルトロンでは高品質な動画を効率的に制作するために試行錯誤を続けてきました。結果、品質を維持しつつ年間約1万本の動画を制作できる体制を構築できたんです。ここに行き着くまでにかなりのコストと時間をかけたため、簡単に真似できる領域ではないと思いますね。
SaaS事業では、AIを活用した自動動画編集クラウド「VIDEO BRAIN(ビデオブレイン)」を提供。素材やテキストデータを入稿すればAIが動画を自動で生成する。生成された動画に編集を加えることも可能だ。
高松私たちは、情報発信の格差をなくしたいんです。今後、流通するコンテンツはどんどんリッチ化していきます。そうなると、潤沢な予算がある企業が有利になりますよね。
一方でVIDEO BRAINは、月額15万円で誰でも簡単に高品質な動画を作成できるツールです。規模関係なく、あらゆる企業に導入していただけるようサービス設計しました。特に、予算も人材も不足しがちな地方企業での活用を見込んでいます。
20年後も生き残るために必要なのは、「絶対に揺るがないコアバリュー」
全ての事業を支えるのは、「データベース」「AI」「配信技術」の3つのテクノロジーだ。
これらのテクノロジーは、オープンエイトのコアバリューでもある。同社は「広告配信の会社でもメディアの会社でもなく、テクノロジーの会社だ」と高松氏は力説する。
高松10年後も20年後も生き残る企業になるためには、コアになる財産を築く必要があります。起業したら、資金繰りに困るタイミングは必ずあるし、何かしら無理をしなければいけない時が何度も訪れる。そこで立ち戻れるコアバリューがないと、企業は簡単に壊れてしまいます。当社の場合は、その財産が「テクノロジー」でした。
創業当初から、情報がリッチ化する時代を見据え、動画やAIに関するテクノロジーを磨いてきた。博報堂やアイスタイルでビジネスサイドに従事してきた高松氏だからこそ、「インターネットの世界で勝つためにはテクノロジーが必須」と感覚的に理解していたのだ。実現したい世界があっても、技術がなければ何も生み出せない。
コアテクノロジーを磨く一方で、必ずしも動画とAIにこだわっているわけではない。
高松「リッチコンテンツ=動画」ではありません。テキスト、画像、動画、3D、4D…コンテンツは、どんどん体感できる形に変化しています。あくまでも、そうした形態変化のプロセスの中で、いま多くの方が必要としている形式が「動画」だと考えているだけです。
動画に取り組むにあたり、絶対にストック型が生き残ると思っていました。動画をストックすることで構築される巨大なデータベースの活用は、創業当初から考えているテーマです。動画データベースを人力で解析するのは不可能なので、手段として「AI」を用いているというわけです。AIについては、人がやらなくていいことを代替するためのツールだと捉えているに過ぎず、固執しているわけではありません。
また、ベンチャーだからこそ出せる「スピード感」も重視しなければいけないという。実際にVIDEO BRAINは3ヶ月弱で開発、バリュエーションを出すまでに至った。
高松特に、大きな市場でベンチャーとして勝負するなら、圧倒的なスピード感が必要でしょう。当社も、スピード感はどこにも負けない自信があります。大きな企業が1歩進むのに1年かかるとしたら、僕らの場合は1ヶ月で1歩進める。つまり11歩先を行けるわけです。逆に、大企業が1歩進む間に12歩進める自信がないなら、その事業をスタートアップで手がけるのはやめたほうがいい。
大企業には資金力もリソースも勝てませんが、スピードだけは唯一上回れる可能性がある。スタートアップならではの武器を最大限活用するべきです。
「ニーズが生まれていない=チャンス」。自分が信じた領域で戦い続けたやつが勝つ
オープンエイトが成長できた大きな要因として、コアバリューとスピード感だけでなく、情報のリッチ化を見越し、いち早く動画ビジネスに取り組んだ高松氏自身の先見性も挙げられる。ただし、重要なのは先読みする力ではなく、「自分が信じる領域でどれだけ戦い続けられるか」だという。
高松ベンチャーとして勝つなら、まだ市場が生まれていない場所で戦うべきです。未知の領域で勝つポイントは、信じてやり続けること。動画広告配信ネットワークや動画メディアでも必ず勝てると信じてきました。最終的には、諦めないやつが勝つんです。
新規事業であるVIDEO BRAINもそうだ。「どんな企業でも、動画を平等に作れる」世界を作ろうとしているが、現状のニーズはそれほど大きくないという。特に地方では、動画の重要性を認識できている企業はごく少数だ。
しかしこの状態は、高松氏にとってはチャンスでしかない。
高松まだニーズが生まれていないということは、僕たちが市場を形成できる余地があるということ。動画活用の重要性を、営業活動を通して1社ずつ地道に啓蒙していきます。むしろ、市場を作る気概がなければベンチャーとは言えないでしょうね。
一方で、会社は想いだけでは作れないこともまた事実だ。ヒト・モノ・カネをコントロールしきるのは、経験が浅いうちはほぼ不可能だ。だからこそ「チャレンジし続けて経験を蓄積するべきだ」と高松氏は力説する。
高松若い人はどんどん起業して、どんどん失敗すればいい。その経験は資産になって、事業の成功確率を高めてくれます。僕自身、これまでの社会人経験で多くの失敗を積み重ねてきました。途中で諦めたものもたくさんあります。でも、それらの経験を経たからこそ今がある。まずは経験しないと何も始まりません。
オープンエイトが今の地位を築けた要因は「揺るがないコアバリュー」「スピード感」「諦めない強さ」の3つだった。高松氏は今後も引き続き、リッチコンテンツに関する情報発信の格差をなくすことにフォーカスしていくという。
今後、AI、AR/VRなどの最新テクノロジーによって、あらゆる領域で革新が起きるだろう。それはつまり、高松氏の言葉に倣うならば、市場を形成できるチャンスが無数に転がっていることを意味する。そのなかで何を信じ、コミットし続けられるのか。
新たな市場に踏み出す時、高松氏の「信じて諦めない」マインドセットを参考にしたい。
こちらの記事は2019年05月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
高野 優子
フリーの編集、ライター。Web制作会社、Webマーケティングツール開発会社でディレクターを担当後、フリーランスとして独立。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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