グロースの二分類「大局的アプローチ型」「現場運用重視型」──“個性”を起点に多様なアプローチで大企業や自治体に変革のOSを組み込む『STUDIO ZERO』のチーム力に迫る
Sponsoredバックグラウンドや強みの異なる企業や自治体が手を組み、新たな事業や施策を展開していく──。こうした異色のコラボレーションは極大のインパクトをもたらす可能性に溢れている一方、実現のハードルは高い。事実、「個性がかみ合ってシナジーが生まれるなどというのは理想論だ。めったにうまくいかない」という声が、我々FastGrowの取材現場ではいまだにちらほら聞かれる。
そんな中、目を引くのは上場SaaS企業の代表格プレイドの新しい目的を持った変革組織『STUDIO ZERO』における挑戦だ。というのも、同社は、個性溢れるメンバーの知見やノウハウを活かし、「大企業や地方自治体の事業や施策に抜本的な変化をもたらす」という、理想のシナジーを次々と実現しているのだ。
その成功の大きな理由に、『STUDIO ZERO』内における多様性がある。ジェンダーだけでなく、バックグラウンドとしての人生経験や事業経験、ライフスタイルや業務マインドがバラバラなメンバーが集まっている。
クライアントとのコラボレーションと、チーム内の個性のコラボレーションを、楽しみながら実践する様子が、これまで4回の取材(1記事目、2記事目、3記事目、4記事目)でも見えてきている。今回はその中でも特に「楽しさ」を強く見出している二人のグロース請負人、藤井氏と上田氏に迫る。
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
グロースのアプローチは「大局的アプローチ型」「現場運用重視型」の2種類に分けられる
藤井グロースのアプローチには、二つのタイプがあると感じます。「まず大きな戦略を描いて、それを着実に実行・改善していくタイプ」と、「縁の下の力持ちとして、現場運用で最も必要なことを特定して構築・改善していくタイプ」です。
この二つの間にいるような人もいますが、僕は前者、上田さんは後者に振り切っていますよね。明確に違う。
上田わかりやすい分類ですね。藤井さんは間違いなく前者。私は前者は得意でないかも。後者のイメージを持ってもらえてたのは嬉しいです。まさにそんな存在でありたいと考えているので。
『STUDIO ZERO』で大企業や地方自治体のクライアントを実際に抱え、事業の立ち上げやグロースを現場で推進するこの二人。その経験に紐づけ、個々のキャラクターを楽しそうに解説し合ってくれたので、まずは耳を傾けよう。
藤井上田さんは本当に、縁の下の力持ちとして頼もしいです。たとえばデータを集めてダッシュボードにまとめることが上手なんです。事業の進化や改善につながる目的意識をはっきり持って、事業現場のみなさんが喜ぶようなかたちでビジュアライズしてくれるんです。
この動きを、上田さんほどの速さでできる人はそうそういないですよ。
上田私は、ベンチャー企業でのキャリアが長く、目の前の必要なことを一つずつ積み上げていかなければ、事業は伸びず、会社の存続も危ぶまれるという環境にいました。必然的に「まずは手を動かして、スモールスタートで進める」というのが染み付いた結果とも言えそうです。
一方で藤井さんは、フレームワークに落とし込むメタ認知力だとか、課題を特定するために仮説を言語化する力だとかを、ものすごく高いレベルで持っていますよね。しかもそれを人に伝えて動いてもらうところまでが上手い。人をワクワクさせる才能があります。羨ましいです(笑)。
この二人には「事業を的確かつスピーディーにグロースさせる力がある」という共通点があるものの、その背景には大きな違いがある。すなわち、リード文で触れた“メンバーの多様性”を感じさせる関係性でもある。
改めて出自を紹介すると、藤井氏は博報堂でブランド戦略や社内ベンチャー経営を経験。上田氏はデザイナーとしてキャリアをスタートした後、オイシックス・ラ・大地では事業責任を背負うに至っている。なお前回までの取材に登場したメンバーはリクルートとサイバーエージェントを経た石井氏、TOTOやアクセンチュアを経た久保田氏、そしてプレイドで『KARTE』のCS(カスタマーサクセス)を担ってきた新田氏と、バラエティに富んだチームとなっている。
それぞれの個性を存分に活かし、互いに学びや刺激を受け合いながら、クライアント企業における変革を進めているのだ。
そんなSTUDIO ZEROメンバーの個性とクライアントのコラボレーションから生まれる科学反応を、実際のグロースに関する事例を基に見ていこう。
思い付きや根性はNG。
グロースさせたければ常に「空(事実)、雨(解釈)、傘(解決策)」に立ち返れ
プレイドによるオープンイノベーションの代表例が、三井物産とのジョイントベンチャーであるドットミーだ。『Cycle.me(サイクルミー)』というD2Cブランドをメイン事業として、全国に商品を展開している。
この事業の立ち上げにおいて、上田氏のグローススタイルである“現場運用重視型”、かつ“ファクトベースの論理的なアプローチ”が活きる。
上田いかにして“レバレッジポイント”を見つけるか、つまりそのフェーズで注力すべき指標はどれか見極めて、そこに適切なリソースを投下する判断を、ファクトに基づいて行うこと。ここに強いこだわりを持って、さまざまな事業に向き合ってきました。
まずは事業における目標と現在地を明確にして、ギャップを可視化する。ここまでは、程度の差こそあれ、だいたいの現場で行われます。ですが、このギャップを埋めていくためのアクションのアイデアは、なんとなくの思い付きや気合いで乗り切ろう的なプランが発案されているケースを良く見ることがあります。こうしたプランを実行すると、大抵は、やった結果が、追っていた指標の改善に関連してなかった、という振り返りになります。
そこで重要になるのが、「空・雨・傘」という思考フレームワークだという。ご存知の読者も多いだろうが、このフレームワークは問題解決や意思決定を簡潔に分析するモデルとして重宝される。空(事実)、雨(解釈)、傘(解決策)の三段階で構成され、問題の根本原因を明確にし、最適な対策を見つけるための指針だ。
上田空を眺めて、雨が降っていたら、傘をさす。このシンプルなロジカルシンキングが、事業推進時に忘れられがちだと感じています。一見考えるとシンプルなことなのに、なんともったいない。
事業グロースで大事なことは、まずは空を眺める、つまり「そこにどんなファクトがあるのか」をしっかり見つめることだと思います。そもそも、事業において「ファクト」となるものは二通りしかありません。定量の「数字」と定性の「お客様の声」です。この二つが揃うまでは、本当に効果が高いアクションプランは作りづらいと思っています。
たとえば、『Cycle.me(サイクルミー)』の事業の立ち上げフェーズでは、当然訪問客数や定期会員が限られており、定量データからの分析は難易度が高い状況がありました。そこで、ECサイトのパフォーマンス分析には、個々とn=1の意味が同じなので「訪問者の行動をn=1で把握する仕組み」を採用し、会員ページで休止を選ぶ方はどういう行動をされてるのか観察できるようにしました。
また、継続期間が長い顧客が増えたタイミングで、ユーザーインタビューも実施していきました。このように、一見非効率に思えるかもしれませんが、事業開始直後は顧客一人ひとりの行動やご意見から多くを学ぶことで、迅速な軌道修正が可能となるのです。
顧客の行動や意見といった「ファクト」がしっかりと集まった状態で、次のステップである「解釈」「解決策」へと進むことが肝要だと、上田氏は続ける。
上田「ファクト」が集まってきたら、次はチームメンバー皆でそれを眺めます。ちゃんと整理して眺めると、チームメンバーは必ず「こうなった背景は〇〇なのでは?」といったように推察を始めます。決して根拠のない勘からではなく、ファクトを基にした、顧客心理に関する推察の議論が生まれるんです。
そうして「解釈」が済んではじめて、「解決策」を決めて、動く。このように進めれば、例えある「解釈」に基づいて「解決策」をいくつか実施してもうまくいかない場合、別の「解釈」にスイッチすれば良い。それでもダメならもう一ステップ戻って「ファクト」を立ち帰れば良い。
ロジカルな思考フレームに則っているからこそ、チームが納得感を持ちながらクイックにPDCAを回すことが可能となるんです。
現場の思い付き起点ではなく、顧客の行動・意見といったファクトをベースに議論を始めることこそ本当のグロース活動である、と上田氏は強調する。それを立ち上げフェーズから意識し、上田氏は組織に“OS”として組み込もうとしたわけだ。
これにより、ドットミーの事業はその後も着実に成長し、既存顧客の期待値を超えるべく商品開発を継続的に進められている。
また、前職のオイシックス・ラ・大地でグロースを担った経験もかなり強く活きていると振り返る。
上田EC事業の売り上げをなかなか伸ばせずにいた頃がありました。PC向けだけでなくスマホ向けの機能強化がトレンドになり、他社ECではスマホでの新規獲得割合が増えている中、弊社はPCの方が依然と多い状態があり、社内でも焦りが募っていました。いろいろなマーケティング施策を検討し、試し始めたのですが、なかなか大きな改善は見られず……。
そこで、何か延長線にない解決策は無いものかと考えて、海外事例を英語でいろいろ検索してみたんです。するとAmazon.comの実践例として「ページの読み込み速度が売上を大きく左右する」というものが見つかりました。試しに計測してみると、私たちのページを開くのに30秒ほどかかっていました。「これはまずい」とお客様に見えない負荷をかけていることに気づいたのです。
複数回の試行錯誤の末、改善を図ると、最終的にはコンバージョンレートが3倍くらいに高まったんです。
上田氏は「お客様の環境は日々変わっていくもので、今までの延長線で上手く行き続けることはない、常にお客様を知り続け、自分たちも変わり続ける必要があるんだと痛感した」と振り返る。そしてこの姿勢は、今のポジションになっても変わらず強く意識している。
上田『STUDIO ZERO』の一員として事業支援に入った際に重要視していることは、「私が答えを出してもクライアントの持続的な事業成長に貢献した状態にはならない」ということです。
“顧客を知ることの重要性”に気づいてもらえたメンバーの数を増やしていくことが、組織を生まれ変わらせ、継続的な事業成長につながると信じています。現場のメンバーたちが、エンドユーザーとの関係性の中で、新たに答えを見つけたり考えたりできるようになっていかなければ、持続的なグロースなんて望めないですよね。
なので、私はあくまで推進者ではなく伴走者のような立ち回りで、組織自体がより強くなるように努めています。
藤井まさに上田さんらしい仕事ぶりだなと思って聞いていました。自身が前線に立ちつつ、“縁の下”にもいて、組織自体をアップデートしていくような感じですね。
上田また、同時に意識しているのが、「レビュー方法とタイミングを明確にしてからチャレンジを遂行すること」です。
その施策が、目標に対して良い結果をもたらしたのか、そうでないのか、チーム全体が定量・定性の両面でクリアに把握できる状態になっているのが理想の状態。そうなっていれば、失敗したように見える施策があってもそれは“意味のある試行”だったと振り返ることができ、次に活かすラーニングまですぐに言語化されます。
ここまでに見た、理路整然とした上田氏の理論に、面食らった読者もいるかもしれない。前職も含めて事業をグロースさせてきた経験に裏打ちされており、藤井氏あるいは『STUDIO ZERO』代表の仁科氏らも全幅の信頼を置く。
では一方の藤井氏はというと、冒頭でも触れた通り、まさにこれとは対照的な立ち回りでグロースを牽引する人物だ。こちらも、具体例を交えて見ていこう。
支援の立場でも、遠慮なく最前線へ。
グロース戦略を浸透するための、プランナーとしての矜持
上田グロース支援に関するプロジェクトで、藤井さんはかなり最前線まで自ら身を乗り出していますよね。
藤井グロースを目的に伴走するとき、手段は問わないんです。もし支援先のステークホルダーと議論・伴走が必要であれば率先して進める必要があるし、もし支援先の別部署を巻き込む必要があれば、全社向けのワークショップもやる。ユーザーインタビューもやるし、全方位でアプローチしなくちゃいけないと思ってるんです。
根っからのプランナーであり、豊富な施策アイデアを披露しては、他者を巻き込みながら自ら大胆に推進していく藤井氏。上田氏が一目置く、大きな強みだ(グロース(案件について語られた藤井氏のイベントのレポート記事もあるので合わせて参照されたい)。
藤井誤解を恐れずに言えば、プロジェクトの主導権をまずは自らの手で握り、牽引していきたいという想いが強いんです。なので、前に出るべきだと思ったら出ます。支援先の事業のメンバーとして、当然お客様の声を直接聞くべきだし、いろんなメンバーとも交流する必要があります。
以前、ある企業でマーケチームと自社データを分析して、グロース戦略を構想するプロジェクトがありました。定性・定量の両面からニーズを探索して、戦略方針を決定しました。プロジェクトメンバーと会話をする中で、この戦略はマーケチームだけのものではなく、全社で意識する内容ではないかという話があったんです。
結果、セールス・開発・CSチームなど全社員参加型のワークショップを開催して、戦略の浸透と各チームの実行案を考える場を作りました。
ステークホルダーを広く交えて、より大きくグロースするアイデアを具現化し、自らの手で実行していく。これが藤井氏のスタイルだ。
藤井以前から「戦略の攻略本をつくり、その内容を組織に浸透する」という意識で支援に取り組んできました。この「浸透」まで推進して初めて、「自分が大きな介在価値を出せた」と感じられるんです。
さきほどの「マーケ以外のメンバーも巻き込んだ」という裏には、「この攻略本を、より多くの人に使ってもらいたい」という想いがあります。
先ほどは上田氏の動きに対して「組織自体をアップデートしていく」と評したが、藤井氏も「より多くの人に攻略本を使ってもらいたい」と考えており、ここに『STUDIO ZERO』の特徴が感じられる。外部から支援して一つの課題を解決したら終わり、ではないのだ。
「左脳ベース」と「右脳ベース」のコラボレーションで、チームの価値はさらに大きく
この二人には共通点も見られつつ、明確な違いもある。今、同じ目的で同じ事業を向きながらも、アプローチの取り方の差異が興味深い。
代表の仁科氏が指摘したのは、情報収集が「左脳ベース」なのか「右脳ベース」という違い。その前提に、二人のキャリア上の出自がある。どういうことだろうか。二人と共に考察を進める。
藤井僕が戦略や企画(プランニング)を出自としている一方で、上田さんはデザイナーとしての経験がキャリアのスタートにあります。この違いによるものは大きいみたいですね。
デザイナーって、「暗黙知を形式知にするプロ」なんだと思うんです。ロゴデザイン一つとっても、まだ見えていない価値を形にするということですよね。デザイナー自身の意志が現れるより前にまず、“まだ見えていないけれど生まれ始めているもの”を捉えることが必要。今の上田さんは“ビジネスをデザインする人”という感じでしょうか。
上田たしかに私は、新しいプロジェクトが走り出して、お客様の現場でいろいろ聞いたり眺めたりし始める中で、「ここをこうすればいいのかな?」といった全体デザインの方向性をまず考えていますね。
藤井ちなみにその中で、お客様からどんなことを言われるのが特に嬉しいですか?
上田関わっている人たちに「この仕事が楽しくて仕方がない」と感じてもらえると嬉しいですね。そんな状態をつくるために、全体をデザインしたいというイメージです。
上田氏はこのように、「左脳ベース」で情報をしっかりと捉え、ファクトに基づいて緻密に全体をデザインしようとする。一方の藤井氏は「右脳ベース」で、過去の経験則から導き出された直感や思い付きを起点にしたアクションで、スピーディーに仮説を検証していこうとする。
藤井僕はファクトをしっかり積み上げるよりも前に、「こうなっていくと良さそうだ!」という意志を強く持ち、アクションを始めます。うまく進めばとてもスピーディーに成果につながります。
もちろん百発百中というわけにはいきませんから、仮説が間違っていそうな感覚を覚えればすぐに方針の転換を考え、リスクを最小限に抑えようとします。
上田事業の方向性を藤井さんと話していると、いつも私が考えるよりだいぶ先のことまで描かれていることに驚かされます。わかりやすく比較するなら、私が「今あるファクトから考えられる未来」を客観的に示すという姿勢で取り組む一方で、藤井さんは「今あるファクトで見える範疇を超え、目指すべき姿とそこまでの道のり」を主観的に示すという姿勢だというイメージですね。
藤井モノを新しくつくって、お客様やエンドユーザーに早くそれを見てほしい。そして小さな成果を生み出して、それを基にどんどん前に進みたい。そんな感覚が、前職時代に培われました。常に複数の案件を持つ中では、一つひとつを緻密にデザインしていくよりも、まず小さくてもいいから成果を出すことを重要視していたんです。
そして『STUDIO ZERO』では、この二人が別々に取り組むのではなく、同じプロジェクトで互いの長所を活かし合っている。
藤井僕が一人で突っ走って仮説を並べ立ててわーっと喋る傍らで、上田さんがものすごいスピードでファクトのビジュアライズをしてくれる。
ファクトって、何でもかんでも可視化して並べればいいわけじゃなくて、重要性や緊急性の観点から優先度の高いものを選んでいく必要がありますよね。プロジェクトが新たに始まったタイミングではこの判断がとても難しくて、僕はたいてい後回しにするのですが、上田さんはその見極めが早くて的確なんです。
上田後回しというか、藤井さんの脳内にはそれらが何となくあって、右脳でシミュレーションしているのだと思うんです。
私はそれを、いち早くみんなで共有したい、というイメージですね。プロジェクトメンバーができるだけ早いフェーズからそれらを一緒に見て考えられるようにという意識を強く持っているので、敢えて最初に時間をかけて取り組むんです。
藤井上田さんのおかげで、僕一人が突っ走るという状態にならず、メンバーみんなに“CX思考”がインストールされた状態になっていくんです。
「自治体DX」が表した、『STUDIO ZERO』の本質である“多様性”と“コラボレーション”
この二人はすでに、さまざまな案件で手を取り合い、新たな事業グロースを生み出してきた。『STUDIO ZERO』のクライアントは大企業が中心であり、この社会に与えるインパクトも大きなものばかりだ。
そんな中でも特に新しいチャレンジとして取り組むのが、自治体のDXだ。プレイドが社全体で取り組んできた「CXの向上」を、一般市民を広く対象として進める、STUDIO ZEROとしても思い入れの強いプロジェクトだ。
上田プレイドのCXプラットフォーム『KARTE』を活用して、とある地方自治体の市民体験を向上させるというプロジェクト。具体的にまず取り組んだのは、主に市役所のホームページで行われてきた、移住や子育てに関する情報を伝える施策の改善と進化です。
数十万人規模という市民を抱え、大企業に負けず劣らずさまざまな施策を推進するその市役所。ですが実際に支援を始めて驚いたのが「現場に目標がない」ということでした。ホームページだけでなくLINEアカウントの運用なども始めていたのですが、どこに向かってどのような数値を達成していくのか、という観点があまり明確化されていなかったんです。
その一方で、職員一人ひとりのバイタリティやホスピタリティには非常に強いものがある。これらがもっと活かされるようにしないともったいない。そう感じて、俄然やる気が出てきました。
『STUDIO ZERO』が取り組んだのは、市役所職員の仕事量を増やすことなく、市民が得るべき情報を的確に受け取れるデジタル体験を構築し、市役所全体が活性化するようなオンラインメディアとしての市役所HPをつくっていくこと。
上田行政のHPの多くが、情報こそたくさん載っているものの、「しっかり書いてあるから見ておいてね」というスタンスに見えてしまっています。もちろん、まずはそういう状態にあることも大事なのですが、そこから一歩進んで「効率的に市民と市役所がオンラインコミュニケーションをとれる状態」を構築することができるはずだと感じました。
そこでまず実施したのが、先ほどから話しているような「ファクトの可視化」です。ダッシュボードをつくり、ホームページ上での来訪者のアクションや、LINEアカウントでのやりとりをつなげて捉えられるようにしました。
すると、HP上のアクションを見て、職員さんたちがまずはLINE上でのコミュニケーションの改善をいろいろと図ってくれるようになりました。長年の経験を基にしてファクトを見つめれば「こういう情報提供がこの市民には必要だろう」ということがすぐにわかるみたいです。さすがだなと感じました。
そしてしばらく経つと、LINE上でコミュニケーションをとれる市民の数が目に見えて大きく増えるようになっていきました。つまり、HPでの情報伝達だけでは不十分な市民が、スムーズにLINEでのやり取りへと遷移していくような状態になってきたんです。
藤井ファクトをわかりやすく示し、考えを整理して施策を検討できるようにする。事業会社向けに発揮してきた上田さんの強みがここでも活きて、同じように成果につながったんですね。
それに、市役所ともなると毎日ものすごい数のアクセスやコンバージョンがあるわけじゃないですか。その中で一つひとつに向き合い、市民の姿をイメージしてアクションを起こしているわけだと思うので、すごく良い兆候なんじゃないかなと感じました。
上田「行政では、何か別のやり方が必要なんじゃないか」と思っていた部分もありますが、ベースは同じでいいのだと実感しました。
これまでは、ベースとなる考え方や、ファクトの整理ツールがなかっただけ。外から丁寧に持ち込むことで大きく前進することがわかりました。ここからこの動きを加速させ、市役所全体に効果を波及させていくのが楽しみです。
『STUDIO ZERO』全体でも、この施策には大きな手ごたえを感じているという。参考にしているのがランチェスター戦略などで語られる「存在目標値」だ。あるコミュニティにおいてほんの6.8%まででも、その存在の認知度を増やすことができれば、全体の中で存在が認められるというもの。
その自治体の正規職員数は2000~3000人ほど。つまりその6.8%は170人前後となる。
ここまででまずは、子育てや移住を支援する部署の職員十数人の意識が変わり、データを基にした行動を進められるようになった。この人数を地道な取り組みで増やしていき、170人を超えれば、そこから大多数へ伝播していく期待も高まる。
上田この「存在目標値」170人は遠いようで、意外と近い気がしています。今の手ごたえからすれば、1〜2年ほどで達成できるかもしれません。
藤井僕だったら、熱量を伝播させるために、象徴的だったコンバージョンの一事例を額縁に入れて飾りましょう!とか言いますね(笑)。
上田その発想はなかったです(笑)。いいですね、検討します。なんでもかんでもデジタルでやればいいわけでもありませんからね。
『STUDIO ZERO』としては大企業を支援する案件が多くなっていますが、今回のこの自治体との取り組みは間違いなく、全国に伝播させるべき象徴的な成果を生み出せていると思います。今は一部の市民の皆様だけしか対象にならないのが口惜しいです。これから自治体DXを広げていくためにもさらにスピードアップして、成果を積み上げていきます。
これまでもすでに4本の記事で、『STUDIO ZERO』の取り組みに迫ってきた(1記事目、2記事目、3記事目、4記事目)。上田氏も最後に言及した通り、その多くが大企業をクライアントとした案件をベースにしたものだった。
新たな展開として、ここ1年ほど取り組んできた行政の案件に今回は迫ったわけだが、何か特別なことを新たにしているわけではないことがわかる。あくまでプレイドらしく、あるいは『STUDIO ZERO』らしく、藤井氏や上田氏の個性や意志をいかんなく発揮し、チームの多様性を基にして本質的な支援を探る。そして一つずつ、成果を積み上げる。
一人ひとりの意志を基にした、地に足の着いた支援で、着実かつ持続的なグロースを実現するのがこのチームの強みであり、この二人を筆頭に全メンバーが持ち合わせる強みなのだろう。
メンバーの経歴や実績を見れば、なんとなく「優秀そうな陣容だ」というイメージを持つだろう。だが、単に地頭が良いだとか、ビジネス経験が豊富だとか、そうした部分だけを見ては本質を見誤る。「現場」への熱い想いを大切にしながらも、必要なことを冷静に見極め、チームとしてのコラボレーションから最大限の提供価値を探る。それが『STUDIO ZERO』なのだ。
こちらの記事は2023年12月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
写真
藤田 慎一郎
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