隠れグローバルカンパニーの出現。26歳が海外支社長を務める、コンテンツ領域のスタートアップ「クオン」の全貌
コンテンツ事業を展開しているクオン。日本、アメリカ、中国、韓国、タイ、シンガポールなど各国のチャットアプリと提携して、「ベタックマ」「ぴよまる」「ビジネスフィッシュ」などの自社キャラクターを提供。すでに世界で数億人が利用している。この事業を支えているのは20代や30代の若手だ。中国とタイの支社長は26歳が任されているという。クオンとは一体何者なのか。代表の水野和寛氏に話を聞いた。後半では、中国支社長の佐藤宗高氏とタイ支社長の奥川真人氏の対談もお届けする。
- TEXT BY TOMOMI TAMURA
- PHOTO BY TOMOKO HANAI
スタンプは世界26億DL、送信回数は240億回超え
まずはクオンの事業内容から教えてください。
水野僕はガラケーのデコメ時代から、インターネットのコンテンツ事業に携わってきました。スマホとチャットアプリが登場したことで、スタンプを起点としたグローバルなコンテンツ事業を作りたいと思ってクオンを創業しました。
LINEやKakaoTalkカカオトーク、Facebook、WeChatなど世界各地のチャットアプリと連携しており、現在スタンプのダウンロード数は無料スタンプで26億、有料スタンプでも400万のダウンロードを誇ります。世界のチャット人口は450億人と言われているのですが、クオンのスタンプの送信回数は2450億回以上あり、試算では「世界のチャットツールユーザーの99%の人がクオンのスタンプを見たことがある」ほど、グローバルでの認知が進んでいます。
水野キャラクターは社内のクリエイターが制作しているオリジナルで、「インターネット発のキャラクター会社」として日本と中国、タイの3拠点、総勢35名で成長を続けているところです。
事業成長のカギは、ネットカルチャーを持つ若手に任せること
まさに、グローバルなインターネット発のキャラクター会社ですね。この成長を実現させるために、クオンでは若手に裁量を与えていると伺いました。
水野日本のキャラクター産業自体は歴史が古いのですが、我々はインターネット発のキャラクター会社なので、ネットカルチャーを持つ若手が事業をやるべきだと考えているんです。長くインターネットビジネスに身を置いているので、若い感性を持つ人が新しいビジネスを切り開いていくのが当たり前だと思っていて。たとえば、TikTokなど新しいメディアにコンテンツを提供するのは若い感性がないと難しいでしょうし、仮にコンテンツが流行ったとしてもなぜ流行ったのかがわからないでしょう。だからクオンでは、若い人に裁量権を与えない限り、事業は成長しないと思っています。
実際、中国支社を立ち上げた佐藤も、タイ支社を立ち上げた奥川も26歳ですし、数億DLのキャラを担うクリエイターでもっとも若手は23歳。若手にはどんどん任せています。それから、日本はキャラクター産業があるので商流がありますが、中国やタイはキャラクタービジネスに強い既存プレイヤーもおらず、ブルーオーシャンです。キャラクターが好きな人はたくさんいるけれど、海賊版が多くて産業やビジネスとしては存在していませんでした。
だから佐藤や奥川はキャラクターを使ってどんなプロモーションをするかなどを現地企業と一緒に考え、市場を開拓しています。ネットカルチャーを持ち、商流にとらわれない海外企業は、イベントや映像、Web、SNSなど立体的に考えながら、新しい取り組みを次々と形にしている。日本のビジネスモデルをそのまま持っていくのではなく、各国で受け入れられる産業作りを任せています。
日本のクリエイティブ力は、グローバルでチャンスあり
今後、どのようにキャラクタービジネスを展開されていくのでしょうか?
水野まずはアジア全域での認知度を広めていきます。その次は最近人気が出ている中南米やヨーロッパに展開し、最後に北米へと広めたいと考えています。好まれるキャラクターには地域差があり、可愛すぎるとアジアでは子供向けになりますが、中南米では20代30代の女性が好んだりするんですね。
そういった地域性も視野に入れたキャラクター作りをしたいと考えています。キャラクターは日本で流行ったものが半年から1年遅れでアジアに広まり、それから数年遅れで他の地域に広がる傾向があります。このタイムラグにグローバルで戦うチャンスが眠っている。日本の強みでもあるクリエイティブ力を強みに、ビジネスを拡大したいと思っています。
インターンなのに海外出張も。本当に裁量を渡されるクオン
現在26歳の佐藤さんと奥川さんは、それぞれ単身で中国とタイで支社を立ち上げ、キャラクタービジネスを展開されています。まずは、なぜクオンを選んだのか、その理由から教えてください。
佐藤僕は大学生のときにクオンでインターンをしていました。「裁量権を若手に与える」「海外展開をする」と言う企業は多いですが、入社してみたら実情は異なるケースもあると思うんです。だけどクオンはインターンでも海外出張に行ったり、新規事業立ち上げを任されたりした。「本当に若手に裁量を与えてくれる会社だ」と実感しましたね。
その後、僕は起業をしたのですが、あるとき水野から「中国支社の立ち上げをやらないか」と連絡をもらって、「やります」と即答。クオンに入社し直しました。その後の半年間、日本でキャラクターやライセンスビジネスに関して学び、2018年8月に中国支社立ち上げのために上海に移住しました。
奥川僕は中学3年の頃からタイに住んでいました。タイの大学に進み、就職もタイに進出している日本企業で働きたいと考えていたんです。ただ、募集があるのはメーカーの工場勤務ばかり。そんななか、アジアのデジタルコンテンツ市場を狙っているクオンと出会い、入社を即決。約2年は日本で学び、その後タイに戻って支社を立ち上げました。
自分たちで意思決定をしながら、現地で事業をつくる
支社を立ち上げ、ビジネスを作っていくにあたって大変だったことは何でしょうか。
佐藤クオンという社名は知られていなくても、キャラクターがある程度認知されていたので、実は大変だったことが思い当たらないんですよね(笑)。たぶん、意思決定も任されていたことが大きいんだと思います。
中国に渡ってから、まずは日系企業に営業していたのですが、中国支社でOKが出ても日本の本社からNGが出るなど、何も決まらないという経験をたくさんしました。だから、日系企業へのアプローチは2ヶ月で諦めて、中国や香港、台湾の現地企業への営業にシフトしました。すると案件が次々と決まるようになって。
以前展示会で知り合い、「すぐ一緒に取り組みたいが、(中国支社という)法人名義がないと契約締結が難しい」と言われていた企業にアプローチをし直したこともあって、順調に事業も軌道に乗りました。もちろん、いろんな企業を調べてリスト化し、とにかく電話をかけてアポイントを取るなど、泥臭いこともたくさんしてきた結果です。
奥川タイもキャラクターの認知度が高かったので、僕も苦労したことはあまり思いつきませんね(笑)。それに、タイに行く前からキャラクター市場はユニバーサルやサンリオなどの大企業が占めており、新参のキャラクターがコラボしようとするとバーターになることはわかっていました。
だから、日本企業向けのSNSマーケティング事業を作って、そこでマネタイズしながらキャラクターの認知度拡大に注力してきました。
それぞれに意思決定をしながら、ゼロイチの事業を作ってきたのですね。
佐藤そうですね。僕はこの1年で事業を2つ作りました。1つが、中国のキャラクターを海外展開する事業。中国は、中国の中だけでビジネスが成り立つケースが多く、海外展開しようという発想があまりないんですね。だからそこに対して海外展開の提案をしています。
もう1つは、自社のオリジナルキャラクターを日本のクリエイターに作ってもらいたいという企業ニーズが多かったことから、日本のクリエイターたちを束ねて事業化しています。
中国企業は日本人のクリエイティブをリスペクトしているので、支払われる単価は日本と比較にならないくらい高いんです。しかも、中国企業が日本のクリエイターへの報酬の低さに危機的を感じてくれているので、クオンが媒介者になることで、日本のクリエイターのグローバルでの価値を高めたいと思っています。
タイの空港をベタックマがジャック。キャラクターのコラボは次々と
アジアでキャラクターを広める取り組みとして、具体的な事例を教えてください。
佐藤中国では、ローソンのスイーツを買うとグッズ交換ができるプロモーションを展開しています。
佐藤また、香港では大塚製薬とコラボし、オロナミンCのウェブCMにベタックマを起用。日本の本社を通さずに、現地法人の決済権を持つ方々と直接やり取りしています。
佐藤他にも、香港のショッピングモールとベタックマをコラボさせたり、グッズ販売やイベントを実施するなど、1年で10社以上との取り組みが実現しました。こうした、いろんな新しい取り組みをゼロイチで作っていけるのは純粋に楽しいです。特に中国はメール文化がなく、チャットですべて完結するため意思決定も早い。僕のようなせっかちな人には、中国でのビジネスが肌に合っていますね(笑)。
奥川タイでは全土の空港にサイネージを使ったベタックマのミニゲームを設置しました。これは展示会で知り合った広告代理店から、「キャラクターを使って面白いことができないか」と言われたことがきっかけで実現した企画。1週間で6000人がプレイする、人気コンテンツになりました。
奥川他にも、テレビ番組とのコラボも実現しており、タイの大手通信会社や大手ゲーム会社とのコラボも進めているところです。
奥川タイではFacebookメッセンジャーのスタンプが人気で、人口約7,000万人のうち約2,000万人がダウンロードしてくれています。これを、「クオンという会社が展開している」という事実として広めるのが、今後の課題ですね。
最後に、クオンではどんな人が活躍できると思いますか?
佐藤ゼロイチで事業を作りたい人や、本当に裁量権のある仕事をしたい人は面白い経験を積めると思います。普段から新しいメディアやSNSなどを使っている人や、クリエイターと向き合ってコンテンツ産業を盛り上げたい人も活躍できると思います。
奥川僕みたいに、もともと海外に住んでいた経験がある人も、クオンなら働きやすいと思いますよ。今、僕らはタイと中国でビジネスをしていますが、東南アジア全域から問い合わせが来ることも多々あるんです。
だから、本当にグローバルでビジネスをしたい人には最適だと思います。もちろん、日本国内でもやるべきことはたくさんあるので、コンテンツ、クリエイター、キャラクターなどのキーワードにピンときた人はぜひ話を聞きにきて欲しいです。
クオンではメンバーを募集しています
こちらの記事は2019年02月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
田村 朋美
写真
花井 智子
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