自動車修理からAI搭載コーヒーマシンまで。Salesforce主催ピッチ「Dreampitch 2018」登壇企業から見る、最新の海外SaaSトレンド
クラウド型 CRM(顧客管理) ベンダー大手Salesforce.com(セールスフォース・ドットコム)が毎年開催している、世界最大級のソフトウェアカンファレンス「Dreamforce(ドリームフォース)」 。その目玉コンテンツの1つであるスタートアップピッチ「Dreampitch」が、今年も開催された。
2018年9月に開催されたDreampitchに登壇したファイナリスト3社と、惜しくも登壇のチャンスを逃したセミファイナリスト5社の計8社を紹介し、SaaSスタートアップの最新トレンドを観測していきたい。
- TEXT BY YUSUKE KANAMORI
- EDIT BY MASAKI KOIKE
“SaaSの王者”が主催するDreampitchとは?
Salesforce.comが主催する世界最大のソフトウェアカンファレンスDreamforce。
2003年以降、サンフランシスコで毎年開催されてきた。90カ国以上から総計17万人以上の人が参加登録し、CEOのMark Benioff(マーク・ベニオフ)氏やスペシャルゲストによる基調講演などが行われる。
2016年にはじまったDreampitchは、Dreamforce内のコンテンツのひとつで、選び抜かれたスタートアップによるピッチが繰り広げられる。
このピッチに参加するための主な条件は以下の3つ。現在の資本金が約7.8億円(700万ドル)未満であること、本拠地がアメリカ合衆国内にあること、そしてアプリケーションの開発・実行基盤となるクラウド型プラットフォーム「Salesforce Platform」上にシステムが構築・連携されていること。
Dreampitchに出場できるのは、予め選ばれたセミファイナリスト8社から、さらに選考を勝ち抜いた3社のみ。アイデアの革新性、市場での影響力、Salesforce Platformの活用度合いという3つの観点から選出がなされる。
ファイナリスト3社から選ばれた優勝企業は、Salesforce.comのコーポレートベンチャーキャピタルであるSalesforce Ventures(セールスフォース・ベンチャーズ)から、約2,800万円(25万ドル)の投資を受けられる。
以下では、優勝企業を含めたファイナリスト3社に、惜しくもDreampitchへの出場を逃したセミファイナリスト5社、計8社のスタートアップを紹介していく。
1. 優勝企業:自動車修理産業を支援「CarServ」
ラウンド |
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シード |
累計調達額 |
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約2,800万円(25万ドル) |
概要
2015年に創業された「CarServ」は、機械学習を活用した自動車修理産業のオペレーティングシステムを開発・提供している。
自動車修理依頼の注文管理や、顧客情報の管理を行える。
CarServのシステムは、2010年にセールスフォース・ドットコムが買収したアプリ開発プラットフォーム「Heroku Enterprise」上で構築されている。
収益増と顧客エンゲージメント向上を両立させるためのデータ活用ソリューションを構築した点、組織としての実行能力の高さなどが評価され、見事優勝を勝ち取った。
2.ファイナリスト:車両移動版Uber Eats「Draiver」
ラウンド |
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シード |
累計調達額 |
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約2.9億円(260万ドル) |
概要
車両移動のマッチングプラットフォームを開発・提供する「Draiver」は、2013年に創業された。
Draiverは、輸送会社など車両移動のニーズを持つ企業と、空き時間を活用してお金を得たいドライバーをマッチングさせる。
ドライバーはモバイルアプリを通じて仕事を請け負い、発注側はアプリケーション上で移動中の車両の動きを管理・追跡、および料金を支払える。Uber Eatsの車両移動版といったイメージだ。
自動車による長距離移動に伴い、頻繁に車両の移動が必要になるディーラーやレンタカー会社がメインの企業顧客である。
日本の国土面積の約25倍という広大さを誇り、車両移動にかかるコストが高いアメリカならではのサービスと言えるだろう。
3.ファイナリスト:実店舗向け販促支援クラウドサービス「Radius8」
ラウンド |
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シード |
累計調達額 |
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約2.7億円(240万ドル) |
概要
「Radius8」は、小売店舗向けのO2O販促支援クラウドサービス。2015年に創業。近年EC化がますます進んでおり、小売店舗は苦況に立たされるようになっている。
「Radius8」は、Web上のデータ同様に店舗で得たデータを活用できる環境を用意することで、そうした状況を打破しようとしている。
たとえば、Radius8を活用すれば、天気、イベント、店舗販売データといったローカル情報をもとにした売れ行きの予測や、予測データを活用したレコメンデーションを行える。
また、店舗で得た顧客データをECサイトの運用にも流用できる。このように、オフラインとオンラインの情報を組み合わせることで、顧客情報を余すことなく活用できるのだ。
4.セミファイナリスト:建設業界をブロックチェーンで改革「Brickschain」
ラウンド |
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シード |
累計調達額 |
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非公開 |
概要
2017年に創業された「Brickschain」は、建設業界向けにブロックチェーン技術を活用したクラウドベースのソフトウェアを提供している。
Brickschainを活用することで、ブロックチェーン上に建築の全工程と指示プロセスが、半永久的に記録される。
資料やデータをBrickchainにまとめることにより、関係者間のコミュニケーションコスト削減、データの改ざんリスクの低減が可能になる。
また、作業工程が保管されるので、不動産としての信頼度や価値が向上する効果もある。
SlackやDropbox、Amazon Web Servicesなど一部の外部システムとの連携も可能で、複数システムを行き来することなく、Brickschain上で建設作業に伴うすべてのデータを利用できる状態を目指している。
5.セミファイナリスト:医療系技術企業のための販促プラットフォーム「Careyovance」
ラウンド |
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シード |
累計調達額 |
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非公開 |
概要
「Careyovance」は、医師や病院を顧客に持つ医療技術企業のための、販売促進プラットフォーム。2014年に創業。
Careyovanceを使えば、複数の情報リソースから医療関連データを集約的に整理・更新できるようになり、医療技術企業が顧客先の管理・顧客ごとの最適なマーケティング施策を設計、測定することが可能となる。
シンプルにまとめられた医療関連データや、分析機能やレポート機能を活用し、医師や病院のインサイトを明らかにできるのだ。
6.セミファイナリスト:健康管理マネジメントシステム「Health Hero」
ラウンド |
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シード |
累計調達額 |
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約1.3億円(120万ドル) |
概要
2014年に創業された「Health Hero」は、デバイスを問わず使用できる健康管理マネジメントシステムを提供している。
ヘルスケア業界向け顧客管理システム「Salesforce Health Cloud」上で構築されており、企業の福利厚生としても、治療中や退院後の患者自身が健康を管理するために使用するツールとしても使える。
ブラウザ版、スマホアプリの両方で提供しており、デバイスを問わずにどこでも使用できることも特徴だ。
健康に寄与する行動を取るとポイントがもらえ、モチベーションアップに役立つポイント制度や、一人ではなくチームとして健康管理にチャレンジできる機能、健康上のリスクを査定してくれる機能などが備わっている。
7.セミファイナリスト:会議用のコラボレーションツール「Hugo」
ラウンド |
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シード |
累計調達額 |
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非公開 |
概要
「Hugo」は、会議用のチームコラボレーションソフトウェアを提供している。2017年に創業された。
オンライン上での議事録作成や共有が可能になることで、出席する会議を40%程度削減できる。
また、作業履歴をSalesforce上にログとして残したり、Hugoの議事録上にユーザー名を「@マーク」を付けてメンションすると、Slackに通知を飛ばしたりすることもできる。
他にも、Googleカレンダーと連携しカレンダー上に議事録を書くことや、GitHub、Trello、HubSpotといった20以上のクラウドアプリケーションとの連携が可能だ。
8.セミファイナリスト:AI搭載のコーヒーマシン「Seva Coffee」
ラウンド |
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シード |
累計調達額 |
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1,700万円(15万ドル) |
概要
2012年にDeepak Boggavarapuが創業した「Seva Coffee」は、自分好みの味を高速で自動抽出してくれる、AI搭載のコーヒーマシンを提供している。最小限の包装で2年間利用可能だ。
完全堆肥化が可能なカプセルを使用しており、環境にも優しい。コーヒーを作るプロセスが高速で、全ての工程が数分で完了する。
そして、Salesforce Platform上に構築されたAIの分析により、コーヒーを自分好みの味にカスタマイズできる。
他ツールとの連携機能の活用と、リード獲得手法の工夫がカギ
ここまで、Dreampitchで輝いた8社を見てきた。
印象的だったのは、他ツールとの連携機能が搭載されているSaaSが多かった点だ。自社で全ての機能をゼロからから作るのではなく、プラグインや連携の形を取ることで、開発のスピード感を高めているのではないだろうか。
また、8社のWEBサイトを見ると、各社のリード獲得戦略に違いがあることも分かる。たとえば、Health Heroはメールアドレスや電話番号の取得にとどまらず、無料デモのためのアポイントメント日程調整機能を実装している。
一方でHugoは、いきなりデモ登録やお問い合わせのフォームを置くのではなく、営業やカスタマーサクセスなど部署ごとに議事録のテンプレートをダウンロードしてもらうことで、潜在顧客からのリード獲得をはかっている。
こうしたトレンドも参考に、日本のSaaS市場がさらなる盛り上がりを見せることを期待したい。
こちらの記事は2018年12月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
金森 悠介
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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