起業を10倍速で体験できる環境、知ってる?
スタートアップ・スタジオの仕事を知らずに、事業を語ってはいけない理由
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起業家は孤独な戦いの連続だ。業界に風穴を開ける新事業を興す場合、必ず逆風も受ける。仮説検証を繰り返しながら細かな改善を重ね、人材確保や資金調達に奔走し、思い切って決断を下したにも関わらず社内で孤立することも。VCから資金調達に成功すればファイナンス面の余裕ができる一方で、プロダクトや事業の成長スピードを高める必要性に迫られる。そんな起業家に対して違った面から支援を行うのが、スタートアップ・スタジオという存在だ。
まだ日本では馴染みのないスタートアップ関連組織の形態かもしれない。だが、シリコンバレーを始めとしたスタートアップカルチャーの最先端では既に注目度が高い。コミュニティを形成しながら注力事業を決め、仮説検証やプロダクト開発、はたまた資金調達や法人化まで徹底的に支援。起業家たちが孤独に競争し出し抜き合う時代から、共創し波及効果で起業家が成長し合う時代へと変わりつつある。
スタートアップ・スタジオで事業立ち上げを行う際には、「誰がどんな課題/欲望を持っているか」や「その課題/欲望はどんな機能があれば解決できるか」といった「仮説」を立て、大きなコストをかけることなく仮説を実証するための「検証」を行う。コンセプトを決め、ユーザー事前募集のフォームを掲載したLPを作成し、プレスリリースを打って反応が大きかった場合に初めてプロダクトをつくり始めるといった具合だ。昨今ではSNSなど既存サービスを活用することも多い。
起業のために最重要となるこの「プロダクトの仮説検証」を、高速で進める。起業家にとっては、いわばドラゴンボールでいう“精神と時の部屋”のような環境が、このスタートアップ・スタジオにはある。だが、詳しく知っている人はそう多くないのでは。そこで、エンターテインメント領域を中心に、広く起業家を支援するスタートアップ・スタジオ、Studio ENTREを取材。代表の山口哲一氏と、同氏が開催していた音楽ビジネス講座「ニューミドルマン養成講座」に大学時代に参加してからの付き合いだというコミュニティマネージャーの中村ひろき氏に、スタートアップ・スタジオについて詳細に語ってもらった。
- TEXT BY YUKI KAMINUMA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
“仮説検証のプロ”が「成功する起業」を実現
シリコンバレーから生まれたスタートアップ・スタジオ。日本でも徐々に増えつつあるが、そもそも「スタートアップ・スタジオ」という単語自体に馴染みのない読者もいるかもしれない。まずはStudio ENTREの2人に、スタートアップ・スタジオそのものについて教えてもらった。
山口 “スタジオ”という名前は、ハリウッドの映画スタジオに由来します。日本でスタジオと言うと「撮影や録音をする場所」として解釈する人が多いですよね。そのイメージとは異なりますが、作品をゼロから創るという共通点はありますね。
ハリウッドでなぜ、世界的にヒットする映画が多く生み出されるのかご存知ですか?もちろん、ノウハウ・人脈・情報・資金がある、それはそうなのですが、制作手法に一番の秘密があるんです。これらのアセットを一箇所に集めて、同時並行で映画のパイロット版を制作させて、そこから実際に資金を大きく投入する作品を選ぶのです。重要なのが、「まずは小さく始める」ということ。
「小さく始める」と聞いて、ピンとくる方もいるかもしれない。ビジネスにおいて新しく事業を始めようとするときと、共通点があるのでは?と感じたのではないだろうか。そう、その点を徹底して「起業」に活かす活動こそが、スタートアップ・スタジオの本質だ。
山口ハリウッドスタジオでいうパイロット版、すなわち「トレーラー」と呼ばれる、数分程度の短い映像の中で、高い評価を得たものだけが、実際に映画として制作されることになるわけです。現場で仮説検証を繰り返しながら進めることで、常に良い作品を生み出し続ける、そんなエコシステムともいうべきモデルが、映画におけるハリウッドスタジオです。
同様に、事業アイデアをいくつも小さく具体化させて成功可能性の高いスタートアップをつくり続けるのが、スタートアップ・スタジオです。
いわゆるMVP(Minimum Viable Product、必要最低限の機能だけを搭載した製品)をつくっては、ユーザーに提供し、フィードバックを吸い上げ、プロダクトの改善を素早く回していく。この仮説検証サイクルを高速で繰り返し、良い事業アイデアを数多く見つけていくわけだ。
中村いまや、起業家支援の仕組みは様々なものがあります。ファイナンス面が分かりやすく、VCやCVCが増え続けています。事業支援の面でも、バックオフィス支援やリード獲得といった業務の効率化サービスが星の数ほど存在しています。
ですが、“事業づくりそのもの”は、多くの場合は起業家が孤独に行っています。良い創業メンバーを見つけられれば良いですが、それは簡単なことではありません。僕らスタートアップ・スタジオは、ここに寄り添っています。事業の成功のために必要なことはなんでも一緒に行っていくのが僕らの基本的なスタンスです。
「まだプロダクトがなく、A4一枚のアイデアだけで出資を受けた」と美談のように語る例を見たことがあるかもしれない。もちろん素晴らしい話だが、誰もがこのようにうまくいくわけではない。スタートアップ・スタジオは、いうなればこのような例の真逆をいく。
徹底した仮説検証を繰り返し、事業の可能性を客観的に見極めた上で起業(法人化)を進める。つまり、成功確率が高いアイデアだけが法人化につながるという仕組みなのだ。だから、スタートアップ・スタジオのスタッフは“仮説検証のプロ”になるわけで、ここは「事業立ち上げに最も特化した環境」とも言えるかもしれない。
世に「事業創造カンパニー」を謳う企業は多い。その多くが事業会社であり、企業として成長を続けることを目的に、新規事業開発を進めている場合がほとんどだ。企業としてのひとつのあり方ではあるが、スタートアップ・スタジオは一線を画す。シナジーなど、既存企業内では求められてしまう制約に縛られることなく、世の中への「価値の創造」が常に目的になる。
「事業を立ち上げること」自体は目的ではない。事業立ち上げを通して「社会に価値を生み出し続けること」が目的になる。そんなスタートアップの価値観には人によって向き不向きもある。検証の過程で対象の起業家が不向きに気付き「前向きに起業を諦める」ということすらあり得るのだ。
山口「起業したい!」と言って私たちのもとに来たけれど、数カ月で「私は起業に向いていませんでした!」と気づいていった人も過去にいます。これ、良かったですよね?だって、最初の思いのまま突っ走って、デットでもエクイティでも資金を調達して、1年以上がんばってから「やりたいことと違いました」となるよりも、とにかく無駄が少ないじゃないですか。リスタートするにしたって若いほうがいいに決まっています。
スタートアップ・スタジオが日本でもっと広がっていけば、より多くの人が自分の歩むべき道を見つけることができるようになる。結果として、多くの人が納得して社会に対する価値を創出することになります。
スタートアップ・スタジオの「コミュニティ観」が起業を加速
quantum(クオンタム)やCreww(クルー)、ガイアックスなど、日本にも続々とスタートアップ・スタジオが誕生している。スタートアップへの興味関心の高い読者なら存在は知っている方もいるだろうが、その違いまで理解しているだろうか。
共通しているのは「仮説検証をとにかくしっかりやろう」という点。ビジネスモデルという観点から大まかに分類すれば、受託型とエクイティ型の2つがあると言われる。
スタートアップ・スタジオの大まかな分類
受託型 |
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コンサルティングファームなどが事業立ち上げを支援し、法人化したのちに本業で利益を創出する形態 |
Sun Asterisk、quantum、Crewwなど |
エクイティ型 |
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事業立ち上げ・法人化に積極的に関わることで創業時に株を持ち、イグジットによるキャピタルゲインで利益を創出する形態 |
ガイアックス、XTech、Studio ENTREなど |
山口こうした分け方は、確かに言われてはいることですが、基本的なマインドや姿勢はみんな同じなんですよ。起業家に向き合う姿勢はみな同じ。集まる起業家の雰囲気が少しずつ違うだけかもしれません。
サイバーエージェントが、子会社をつくるような形で、新規事業を次々に起こしていますよね?スタートアップ・スタジオはあのイメージに近いと思います。
Studio ENTREでは、スタジオとして関わることに合意できた事業アイデアについて、事業化への道を探ります。プロダクトを小さくつくり、仮説検証を繰り返し、スケールすると見込めたタイミングで法人化します。創業時に株を持つことで、後々のイグジットの際にキャピタルゲインを得る、というビジネスモデルを取っています。
ところで、起業やイグジットの支援と言うと、日本ではVCが中心であり、年々その数も知名度も出資金額も増加している。VCとはどう役割を住み分けるのか。山口氏はスタートアップ・スタジオの根幹に“コミュニティ形成”があることを指摘する。
山口VCは広くポートフォリオをとる中で、その周辺に結果として起業家コミュニティの形成が行われています。ただ、同じ出資元を持つからと言って、必ずしも仲良くなって情報を頻繁に交換するようになるわけではないのが現実でしょう。
一方で、スタートアップ・スタジオはそもそも法人化以前に、個人を中心にした起業家候補コミュニティができています。これがベースにあるので、起業家同士がもともと顔見知りです。そして成功例が出れば、コミュニティ自体が活性化し刺激も受ける。波及効果が大きく異なります。メンターや関連領域の事業会社も含めて、起業家を中心としたコミュニティをつくっていきたいと思っています。
もちろん、VCの皆さんもそのコミュニティと関わっていただきたいです。VCが増え、出資が盛り上がってきたからこそ、起業を考える人も増えてきたというのは、明らかな事実。その環境を前提にしたときにエコシステムの中で必要となってきているのがスタートアップ・スタジオなのです。
「諦め」も「ピボット」も時には重要、これが事業
音楽業界でコンテンツプロデューサーとしてキャリアを築き、『世界を変える80年代生まれの起業家』や『新時代ミュージックビジネス最終講義』など著書も多い山口氏。自身で起業したり、大企業で新規事業を立ち上げたりといった選択肢もありそうなものだ。しかし山口氏は「スタートアップ・スタジオこそ、自分が人生をかけて取り組みたいことだった」と力を込める。
そう思わせたのが、スタートアップ・スタジオの先駆け、All Turtlesの存在だ。Evernote共同創業者・元CEOのフィル・リービン氏が2017年にシリコンバレーで立ち上げた。
山口シリコンバレーって、Googleのような超メガベンチャーをつくるのに長けている土地ではありますが、多様性は少ないとも言えたんです。それを指摘したのがフィルの発言「1兆円規模のベンチャー企業を1社生み出すよりも、1千億円の企業を10社つくったほうが世の中のためになるのではないか」。たしかにそうだと思いません?それを実現するために、今のスタートアップ・スタジオの仕組みが必要だと考えた。この思想にとても影響を受けました。
私は、スタートアップというカルチャーがそもそも好きなんです。社会の構造を変えていくには若いスタートアップの力が欠かせない。ずっとエンタメ業界に身を置いてきて、そのレガシーさを身をもって体験してきています。本当にまだまだ無駄の多い業界なんです。
でも、業界人に変わるよう促しても、それは非常に難しいこと。中から変化を働きかけるだけでは、うんともすんとも動きません。でもなんとか変えたいという想いを持っています。そのためには、外側から若者が自由にやりたいことをやっていくうちに、業界の内側でも大きな影響力を持てるようになっていくという仕組みが必要です。
私がスタートアップ・スタジオを立ち上げれば、エンタメ業界で培ってきた知見や人脈を活かし、大きな変化を起こしていけると感じました。
このStudio ENTREがさしあたり目指すのは、年間で10件の事業化と、そのうち半数以上の法人化だ。「仮説検証をたくさん行う中で成功したものを法人化するのだから、もっと良い数字を残せる構造にできる」とも言いつつ、謙虚に見積もる。だが、他の環境であれば、同時に携われる事業は普通、ひとつだけ。ここなら10もの事業に携われる。つまり10倍速で事業開発を経験できるのだ。推進も撤退も、10倍速で経験できる。
また、検証が上手く行かなかったものについては、撤退すなわち「諦めること」も重要という思想も特徴的だ。
山口先ほど「向いてないと分かった」という例を紹介しましたが、もしダメだったら、諦めることだって重要。何でもかんでも無理矢理に法人化したって結局上手くいかないでしょう?
実はスタートアップにおいて“一旦諦める”というのは、難しいけれどものすごく重要なことです。起業や資金調達自体が目的になってはいけません。いわゆる「ピボット」が必要になることもある。でも一度法人化して資金調達を行えば、事業を簡単には断念できなくなる。
社会に変革をもたらすような事業を生み出して大きくしていくために、最短で最適な方法は何なのか、常に考え続け、軌道修正をしていく必要がある。そのためには“諦める”というタイミングにもどこかで必ず出会うはず。
山口もし事業を諦めることになっても、コミュニティへの刺激や波及効果は必ずある。起業家の経験一つひとつや、私たちの投資は、スタートアップエコシステムのどこかで活かされます。それはコミュニティありきのスタートアップ・スタジオならではの部分ですよね。
余計なプレッシャーを背負うことなく、ニコニコしながら“辞める”決断すらできてしまう。そうやって、次に向かって早くリスタートすることも重要なんです。
シリーズAまで徹底支援する「起業修行」
さてここで本題。そんなスタートアップ・スタジオのメンバーがどのような人物で、具体的にどのようなことをしているのか、イメージは湧くだろうか?そのキーワードとして山口氏・中村氏が挙げたのが「起業修行」だ。
山口私たちは起業家コミュニティを形成しつつ、集まった起業家たちとともに徹底した事業開発をしていきます。つまり、事業の推進を通して、「起業の疑似体験」をし続けられるということ。 一口に起業と言っても、事業内容や役職によって適性は全く異なるもの。toBかtoCか、ターゲットユーザーの属性は何か、市場はブルーオーシャンかレッドオーシャンか、など変数が無数にあります。一つの事業会社ではたいてい一つのビジネスモデルにしか携われませんが、スタートアップ・スタジオでは様々なビジネスモデルの事業開発を同時並行で経験できる。「起業」に関わる自身のキャリアに活かすことができます。 スタッフの具体的な事業内容としては、プロダクトのプロトタイプ製作やユーザーヒアリングはもちろん、マーケティングや広報などまで様々です。創業初期では手が回らないことの多い業務まで手伝いながら、事業を実現させていきます。Studio ENTREの二大業務
新規事業開発(ビジネス・ディベロップメント)
若い起業家が持ち寄ったり、集まってディスカッションしたりする中で、生まれた事業アイデアを吟味して、成功の足掛かりが見えたものについて事業化を図る。小さくプロダクトをつくり、仮説検証・ユーザーヒアリングを行い、スケールの見込みがあれば資金計画策定と法人化まで一気に進める。
コミュニティ活性化(イベント・WEB施策など)
一緒に事業創造を行う起業家や事業家のタマゴを探し、エコシステムを構成するメンバーとして誘い入れたり、集まって事業アイデアについてディスカッションしたりする。知見やノウハウなどのアセット共有を目指し、起業のためのエコシステムを活性化させていく。
もちろん山口氏自身も事業開発現場に身を置いているのだが、さらに最前線で頭と手を動かすのが中村氏だ。
大学時代にインディーズレーベルの立ち上げや自身の音楽活動の傍ら、スタートアップでの事業開発まで経験してきた。そのまま音楽業界の企業に就職しようとしていたものの、若手が活躍できると感じる場所を見つけることができず不安を募らせる。
そんな時にボランティアとして東京で参加したフィンランド発祥のスタートアップイベント「SLUSH ASIA 2015」で衝撃を受ける。
中村若手起業家が次々に登壇して自信満々に事業アイデアについて語り、投資を勝ち取っていく。初めて見た光景に、とても興奮しました。こんな世界があるのか、と衝撃を受けましたね。新しいサービスや仕組みが生まれる場所に居続けたいと思うようになりました。
そうして「事業開発経験を積みたい」と考え、DMM.comに入社。webディレクターとして勤務しながら、いくつかの新規事業の立ち上げに携わった。その後、音楽関連のスタートアップに転職したのち、大学時代から交流のあった山口氏の誘いでStudio ENTREヘジョインを決めた。
中村僕はとにかく、0から1を生み出すのが好きなんです。何を立ち上げるにしても、自分1人なら一つしかやれないけれど、スタートアップ・スタジオであれば様々な事業に触れられる。自分で企画に参加してやり方を考え、事業が広がっていくところまで見られるので、最高の環境ですね。
実は、近々Studio ENTRE発の第一弾スタートアップとして法人化する音楽ライブ配信サービスの事業構想は、僕が数年前から趣味のように描いていた事業でもあるんです。勝手につくっていた事業計画が、今回の事業を考える上でのたたき台になりました(笑)。
事業化を目指すと決まれば、山口氏や中村氏による事業へのコミットはもはや創業メンバーの一員かのよう。課題発見のためのユーザーヒアリングや、仮説を検証しながらのブラッシュアップにもかなり献身的だ。
山口事業化する場合は、ENTRE内に期間限定の事業部がつくられるようなイメージです。法人化を見据えて事業に必要なことや予算を決め、創業チームの組成から支援することもあります。
シード時期のVCからの資金調達はもちろん、シリーズAでの資金調達までの道筋をなるべく具体的に描くことになります。社会に変化を及ぼすところまで目指すのなら、プロダクトが狙う市場を決めるシリーズAまではしっかり見通せていないと厳しい。だから私たちは、責任感を持って起業家をそこまで支えます。
エンタメ業界は障壁が多い分ブルーオーシャン
とはいえ、FastGrow読者はこう思うかもしれない。「最近、社会を大きく変えようとしている目立ったスタートアップは、ほとんどがBtoBサービスだ。toCサービスを創出していくことに、一体どのようなやりがいがあるのか、イマイチわからない」と。
確かに最近目立つのは、レガシーな業界に革新をもたらすBtoBのSaaS事業。IT化が進まない業務を刷新させ、その業界全体にDXを浸透させることで、大きな経済インパクトを起こそうとする戦略が、スタートアップで多く見られる。
ではエンタメ業界はどうなのか?山口氏の指摘では、同様にレガシーな業務が多く残る上、コロナ禍で特に苦戦を強いられる企業が多いという。そんな中、新たなニーズを取り込むライブ配信サービスなどの台頭が話題になってもいる。そこにどのようなビジネスチャンスをやりがいがあるのか、聞いた。
山口今までエンタメ業界は特に閉鎖的で、明文化されていない慣習も多く、外部者が入ってきにくい環境にあったのは事実です。しかし今やYouTubeやNetflix、Amazon、Spotifyなど、エンタメを伝えるメディアコンテンツは世界的に市場が広がっている。日本は、コンテンツに関するデジタル化で世界から遅れをとっているのが現状です。
でもその分、スタートアップだからこそ業界の障壁をショートカットできる。つまりブルーオーシャンがあると言えます。例えば音楽CDの売り上げって、最盛期には7000億円もあった、でも今は3000億円以下で、そのうちデジタル配信のシェアは1000億円程度。つまり、そもそもの音楽への需要を考えれば、デジタル領域では6000億円もの伸びしろがあるともいえる。世界に比べて、デジタル化に大きく遅れている日本には伸びしろが残っているわけです。
業界の閉鎖的な部分を知っている私でもそう思うのですから、世界を見据えて事業をつくっていきたい起業家なら、「もっともっと伸びしろがあるじゃないですか、何してるんですか早くやりましょうよ!」とむしろ言いに来てほしいくらいです。
そんなStudio ENTREが実は、起業を支援するスタッフを募集している。そこで最後に聞いたのは、スタートアップ・スタジオはどんな人が活躍する場なのか、どんな人が向いているのだろうか、という点。
山口スタートアップ・スタジオのスタッフは、常に様々な起業家と様々なフェーズの事業を走らせていくことになります。アイデアレベルのものもあれば、具体的に事業計画を詰める段階のものもある。これらをマルチタスクで、頭を瞬時に切り替えながらやっていく必要がある。簡単ではないですが、他では得られないタフなやりがいを感じることができます。それに、起業に向けた修行としては最良の環境だとも思いますよ。
3年くらい身を置いてみると、次に何をしたいか、かなりいろいろ見えてくると思います。しかも人脈もできる。独立して起業してもいいし、ENTREから生まれた企業の創業メンバーになって飛び出てもいい。もちろん残って活躍し続けてほしいという気持ちもありますが(笑)、いずれも世のためになっていくと確信しています。
「起業したい?ならまずは起業してみよ」という言説もよく聞くが、一方で「起業が当たり前という環境に身を置くこと」も同様に重要な考え方として広く言われる。後者を突き詰めると、スタートアップ・スタジオに身を置くというのは、間違いなく面白い選択肢だろう。
山口新しい事業をつくることに興味はあるけれど自分の適性を知りたい、という方にもおすすめかもしれませんね。どんな事業で、どんな役割が自分に向いているのか、CxOならどのポジションが向いていそうか。そんなことを考えられる環境は他にないと思いますよ。
中村僕らの理想は、事業をつくるためにとにかくやるべきことをやる、しかも同時にいくつもの事業を前に進める、ということ。だからプロダクトマネジメントも、プロジェクトマネジメントも、マーケティングも何もかもディレクションできることが求められます。
自分で起業してしまうと一つしか体験できないことが、スタジオでは短期間で様々なパターンを経験できる。その分大変ですが(笑)。それを他の人より速くたくさん経験できるのがここの仕事です。
つまり、起業家だけでなく、「いつか自分がやりたいことができたら……」と思ったことが一度でもあるあなたにとっても、この環境は人より早く成長や経験ができる「精神と時の部屋」というわけだ。興味がわいてきたのではないだろうか。
であれば一度、このスタジオの門戸を叩いてみると良い。話を聞くだけでも、とにかく刺激を受けるだろうから。
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こちらの記事は2020年12月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
上沼 祐樹
KADOKAWA、ミクシィ、朝日新聞などに所属しコンテンツ制作に携わる。複業生活10年目にして大学院入学。立教大学21世紀社会デザイン研究科にて、「スポーツインライフ」を研究中。
写真
藤田 慎一郎
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