【ユーザベース×ココナラ×スタイラー】
金融出身者のキャリアチェンジ成功の秘訣

登壇者

三井物産生活産業セグメントにおいて事業投資部隊に所属し、国内中間流通戦略の立案、事業投資の実行、企業再建に従事。その後、UBS証券投資銀行本部にて消費財・リテールセクターを担当し企業の財務戦略アドバイザー業務に従事。2008年に株式会社ユーザベース(UZABASE,INC)を設立し、代表取締役社長(共同経営者)に就任。企業・業界分析のための経済情報プラットフォーム「SPEEDA」とソーシャル機能を兼ね備えた、経済ニュースプラットフォーム「NewsPicks」を展開。東京、シンガポール、香港、上海、スリランカに拠点を構える。

南 章行

1975年生まれ。愛知県立旭丘高校・慶應義塾大学でラグビーに明け暮れ、1年間の休学でアメリカ留学を挟み卒業。住友銀行(現三井住友銀行)に入行後、2004年に企業買収ファンドのアドバンテッジパートナーズに転職。2009年には英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了する。帰国後、NPO法人ブラストビートの設立や、NPO法人二枚目の名刺に参加。2011年、株式会社ウェルセルフ(現株式会社ココナラ)を設立し現職。

小関 翼

東京大学大学院修了。日英のメガバンクにて法人取引・オペレーション設計等を担当後、Amazonにて決済サービス事業開発を担当。ライフスタイル分野にマーケットデザインの問題が大きいことに着目し、2015年3月にスタイラー株式会社を設立。未来の購買体験をアジアから作っていくことを目指す。Fintech、FashionTechを国内 に紹介。経産省アパレル関係委員会メンバー。

太田 智之

UBS証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券にて、テクノロジー分野の企業を対象に、M&A (企業の合併・買収)アドバイザリー、エクイティ・デットファイナンス等、約14年に渡り投資銀行業務に従事。案件のオリジネーションから実行までサポート、クロスボーダーを中心に広範な地域でM&A案件を数多く成約に導く。シリコンバレーオフィスでの勤務経験も持つ。2017年1月、株式会社ユーザベースに参画。

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8月某日、株式会社ユーザベースに集結したのは、金融業界から起業家にキャリアチェンジした、同社代表取締役(共同経営者)新野良介氏、ココナラ代表取締役・南章行氏、スタイラー代表取締役・小関翼氏の3人。

ユーザベース社で事業開発担当執行役員を担う太田智之氏がファシリテータを務めながら、起業家3名が自身の経験談をもとに、金融業界からの転職や、経営者として金融業界出身者を採用する際に感じることを語ってくれた。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
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金融関係者こそ、会社の枠から飛び出て新しい人に会え

太田今日は金融機関出身で、スタートアップを立ち上げられている南さんと小関さんにお越しいただきました。加えて、ユーザベース代表の新野も金融出身ということで、まずは3人がどんなキャリアを辿ってきて、いまどんなことにチャレンジしているのか訊かせてもらいたいと思います。

僕は大学卒業後、三井住友銀行の企業調査部に5年、アドバンテッジパートナーズという企業再生ファンドに7年半ほど勤めました。途中休職して、オックスフォードのMBAで学びました。帰国後、NPOを立ち上げたんですけど、その流れで出会った友人たちと後に起業しています。

最初に起業を考えたのは東日本大震災のころ。そのころ、企業買収の仕事で投資先に常駐してたんですけど、復旧期間中はファンド側の人間はやることが減って少し時間ができたんです。そこで自分も東北にボランティアに行ったりする中で、命があればどんなことでもできる!っていう思いが強くなりました。

(左)スタイラー株式会社代表取締役・小関翼氏
(中)ココナラ代表取締役・南章行氏
(右)株式会社ユーザベース代表取締役(共同経営者)・新野良介氏

一緒に起業した人たちとの出会いのきっかけはTwitter。それまで、会社関係以外の友だちはほとんどゼロだったので、まずは知り合いを増やすことから始めました。というのも、金融機関にいると世間とのつながりが薄くなりがちで新しい情報が入って来づらいんですよね。

MBA留学中に”The Strength of Weak Ties”(=米国の社会学者マーク・グラノウェッターが発表した社会的ネットワークに関する仮説)を知って、新規性が高く価値ある情報は、知り合いの知り合い程度のつながりが弱い人からもたらされる可能性が高いということに関心を抱き、とりあえずブログを書きまくって反応してくれた人に会ったり、面白いツイートしてる人に声かけたりってことを繰り返してるうちにユニークな人とどんどんつながっていったんです。

MISTER MINITの社長をやってる迫君とかRettyのCFOをやってた奥田君とか、そのおかげで知り合ったメンバーはみんな当時は若くて、商社やコンサルティングファーム、投資銀行に在籍している人が多かったけれど、自らその枠から一歩飛び出て発信してつながっていった人たちは後にいろんな業界でリーダーになっていて。そう考えると、自分から声を掛けておもしろそうな人とつながっていくってキャリアアップしたり、起業を目指したりする上で結構重要だと思います。

ココナラも、会社や家庭の外でも誰かの役に立ちたい!と社会とのつながりを求めてる人たちにきっかけを得られる場所を提供したいと思って始めたサービスです。

ココナラ - みんなの得意を売り買い スキルのフリーマーケット

小関僕は三菱東京UFJ、ロイズ・バンキング・グループを経てAmazonに勤めた後に起業してるんですけど、そもそもなんで三菱東京UFJに入ったかというと、大学でインターネットの研究をしていたので、今でいうFintechみたいなことやりたかったんです。

ただ実際入社してみると、ITを駆使してリテール向けにもっといいサービス提供しましょうよって言っても、一般的な銀行員のキャリアから外れるし、「そんなことできるの?」、「どれだけIT投資かかるんだ?」とといった雰囲気でした。だから、イギリスのロイズバンクに移ってオンラインのリテール商品を担当したり、Amazonでペイメント事業に携わったりするに至りました。

でも、このままだと金融の人間っぽくなっちゃうから自分でサービスやりたい。そう思って始めたのがFACYです。コンセプトは、「未来の購買体験を創造する」こと。ファッション分野では、アイテムを購入したいユーザーと、アイテムを販売しているショップを直接つなげるアプリですね。

つながりでファッションを楽しくする | STYLER Inc.

小関ユーザーは、検索エンジンだとうまく探せない抽象的なニーズを、「こんなアイテムがほしい」「この靴と似たやつがほしい」などのリアルタイムのニーズを投稿して、ショップ店員がアイドルタイム(お客さんの接客をしていない隙間時間)を利用して自分の店舗のアイテムを提案していく、という仕組みです。

ユーザーは店舗にあるアイテムが可視化できますし、気に入ったアイテムはそのまま購入したり、店舗に取り置いたりできます。現在、月間のユーザー数が50万に達しており、更にユーザーとショップのやりとりを記事化して、様々なメディアに配信もしています。

新野ユーザベースは3人で創業したんですが、僕がなんで起業したかというと、うちの家系は親父もおじいちゃんも、ひいおじいちゃんも事業やってたので、無意識のうちに自分もそうするんだと思い込んでいたところがありますね。大学生時代は家業を手伝うため、兄貴の会社でレストランをしていて、僕も三井物産に入社する3日前までその店で働いていました。

新野入社後はだいたい3年を目安に独立しようと心に決めていたのですが、3年目が近づいたら、まだ何も身につけてないし、育ててくれた会社に何の恩返しもできてないということに気付き、結局5年間、三井物産で働きました。

その後、起業の原資を稼ぐために外資系投資銀行であるUBS証券に転職しました。UBSで出会った梅田が創業メンバーの1人ですし、UBSでの経験が、現在のSPEEDAのアイデアの源泉にもなっています。

これまでのキャリアで中小企業(レストラン)も日本の大企業や外資系の金融機関、スタートアップも全部経験してるし、その間にはリーマンショックをはじめとする大変なこともいろいろありましたね。

SPEEDA紹介動画 from Akira Aiba on Vimeo.

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「自分が周りをハッピーにできること」を求めてキャリアチェンジ

太田みなさんがこれまで、キャリアチェンジや起業を考えたのにはなにかきっかけがあったんですか?

震災がひとつのきっかけではありますが、それ以前に、当時35、36歳だったんですけど、世の中が“個の時代”になっていく中でこのままファンドにいてもな……という思いはずっとありましたね。

僕はもともと三井物産に入りたくて、そのために慶應(義塾)大学の経済学部だけ受けて、入学後英語を学ぶために留学までしたんですけど、大学三年生で山一證券が潰れたその日に、金融業界に行くことを考え始めました。どういうことかというと、倒産だとかリストラだとかによって行き場がなくなる個人を救いたいと思ったんです。

だから企業再生がやりたくて、大手日系金融機関の中で一番再生に実績があると思った住友銀行に入ったけど、当時は(三井)住友も(企業体力が)弱っていたのでファンドに移り、さらにMBAに行ってる間にリーマンショックが起きて、周りのみんなが大変そうな時代になってきたんで、自分が周りの人のためにできるアクションを取ってみようと思い、最初はブラストビートという若者向けのNPOを作り、その流れで個人とNPOをマッチングするNPO法人である「二枚目の名刺」という団体設立に関わった。

そうしたら、そのNPOを通して所属する会社以外での社会活動に関わってくれた人たちが、目で見てわかるくらい、肌で感じられるくらい活き活きしていったんですよね。

それで、自分らしく人の役に立てることがこんなに嬉しいものなのか、だったら会社員や主婦の人たちが外部の人たちに役立てる世界を作ろう、そうしたらみんなもっと元気になって日本にも活気が戻るはず、と思ったことがココナラ誕生につながってます。もはや僕にとって「個が活きる力を獲得すること」はライフワークともいえますね。

小関日本では金融機関に限らず、大企業ってあんまり自分でキャリアを選べないんですよ。クールビズじゃないと自分で服装も選べないくらいなので。たとえば僕も、今でいうFintechをやりたいと思っていたけど、残っていても出来たと思わない。だったら自分でやればいい、っていう発想ですね。それに、なんとなく大手企業で長年過ごすよりも、スタートアップから自分で大企業を作る方が、自発的に周りをハッピーにする仕事をしている充実感を持てて、絶対人生面白いですよ。

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ビジネスは総合格闘技。起業するなら金融機関での経験は忘れるべし

太田今日このイベントに参加してくださってる方はみなさん金融業界の方ということで、中には将来起業を考えている方もいると思うんですが、ご登壇の皆さんは振り返ってみて、金融業界での経験は起業時に活かされましたと思いますか?

ファシリテーター:株式会社ユーザベースSPEEDA日本事業統括 執行役員・太田智之氏

起業するにあたっての直接的な知識やスキルでいったら、活用できたのは体得したスキルの5~10%くらいでしょうか。でも、金融業界での経験が無駄ってわけじゃないんです。

私が声を大にして伝えたいのは「起業直後は金融業界での経験を忘れろ」ということ。会社のフェーズによって必要なスキルが変わるのは皆さんもなんとなくわかると思うんですが、金融知識が必要になるのって会社がある程度軌道に乗ってきてからなんですよ。

営業もマーケティングも、なんなら自分でゴミ出しもしなきゃいけない創業直後じゃないんです。これまでのキャリアを否定するようで中々難しいとは思うんですけど、起業した瞬間は金融経験を忘れろ、と私はみなさんに声を大にして伝えたいですね。

小関それはおっしゃる通りです。ビジネスって総合格闘技みたいなものなので、役に立たないことがないっちゃない。だけど、フェーズ次第では自分の知識や経験が逆に足枷になることも多いということは認識したほうがいいと思います。

新野たしかに大企業や金融機関での経験も大事だと思いますが、起業したかったりスタートアップに関わりたい人はすぐに飛び込んだ方がいいかもしれないですね。、「まずは金融機関に入って社会全体を学んで、次はマーケティング学ぶためにリクルートに入って……」なんて言っていて起業した人は少ないですし、基本的に起業したい人はそんなこと考えずに起業しちゃうんじゃないかなと(笑)

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過去の自分を捨てろ。「アンラーニングできるかどうか」が転職のカギ

太田ではここで、少し目線を変えてご回答いただきたいんですが、(金融業界)経験者を採用する側、経営者としての立場から、会場の皆さんに何か伝えておきたいことはありますか?

採用する時、基本的には出身業界は関係ありません。転職してうまくいく人かどうかって、アンラーニングできるかどうかにかかっています。過去に培ってきたものをそのまま次のフィールドでも活かそうとする人ってだいたい失敗する。

新しい環境に身を置くなら、その環境でのやり方を謙虚に学ぶべき。もしかしたら新しいやりかたが間違ってることもあるかもしれないけど、私がこれまで見てきた方々を総合すると、やっぱり謙虚な姿勢で学ぶことができる人って成功するもんですよ。

だけど転職者にとって難しいことは、受け入れる企業側も「優秀な会社からきたんだからきっとすごい人なんだろな」って感じで見ちゃうんですよ。転職者ももちろん、早く成果を出さなきゃと焦るから、過去の経験しか拠り所がなくて業務上でいろんなミスマッチが起きる。

でも、「わからないから教えてください」ってしっかり言える人は時間とともに新しい環境でもきれいに成果を上げ始めるし、入社後のどこかの段階で前職での経験が活きてくるものです。35歳転職限界説とか言われますけど、その年齢を超えるとアンラーニングできる人が極端に減る、ということなんだと思います。

小関今は昔と違ってFintech系のベンチャーやスタートアップも増えているし、大手金融機関もIT×金融という領域に参入して優秀な人を求めているし、金融業界経験者の採用ニーズが高まっていますよね。金融業界に身を置く人にとっては、スタートアップや新産業領域に飛び込む、またとないチャンスだと思います。

小関僕自身も日系大手企業にも在籍しましたが、大手と違ってスタートアップの何が面白いかっていうと、事業の成長スピードに自分を重ねられることだと思うんです。そのときどきでやらなきゃいけないことってどんどん変化していくから、それこそ起業直後は物件選びやトイレ掃除もやらなきゃいけなかったのが、会社が大きくなると分業が進んで、分業が進みつつもオーナーシップが求められる。

だから、夢に向かってどんなことにも興味を持てる人、人に言われなくても成果にコミットするし、自分で目標を決めるほうが楽しく仕事できる人なんだったら、このチャンスにスタートアップに飛び込むと面白いかなと思います。

新野たしかに「生きてりゃなんとかなるか」と思える人は、スタートアップに向いているなと感じます。そう思っていれば実際なんとかなりますし、どんなに苛酷な状況に置かれてもまた立ち上がることもできます。興味があることを、すぐ行動に移せる人もスタートアップに向いていますね。南さんのように、頼まれてもいないのにNPO作っちゃう、なんて人がまさにそのタイプです(笑)。

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70歳になったら、その時の自分だから思いつくビジネスを創りたい

太田お時間も迫ってきましたので最後とさせていただきますが、お三方自身は今後どのようにビジネスを展開させていきたいとお考えですか?将来の目標や夢もあれば合わせて教えてください。

小関Amazonのようなプレイヤーでもファッションなどのライフスタイル分野でのUXデザインは不得意です。僕たちはアジア地域全体をターゲットに、ライフスタイルに関するサービスをバーティカルに提供していくことを目指しています。Amazonがコモディティなら、僕たちはライフスタイル全般に関しては最上の顧客体験を提供していこうと思っています。

僕のところにはよく学生とか学生上りの若い子が起業相談に来るんですけど、ビジネスプランって大体3つしかなくて、教育系のベンチャー、旅行関係、就活関係なんです。それが9割以上。なぜなら、人って自分が経験したことしかわからないから。だから若い子は高齢者向けのビジネスとかピンとこないんですよ。

でも逆に考えると、30歳以上じゃないとピンとこないビジネスもあるし、50歳になったら50歳の僕にしか作れないビジネスがあるはずだし、70歳の僕が、70歳による70代のためのビジネスを作ることができることだと思っていて。

自分のフェーズやタイミングに応じて、僕にしかできない気付きを元にしたビジネスを10年に1個くらい作って、自分が見たい世界を自分で作っていく、僕が生まれた意味を世の中に問うていく、っていうのが今の夢ですね。

新野僕の夢、目標について私も少しお話します。私たちの事業ミッションは「経済情報で、世界をかえる」ですが、個人レベルで一番大事なのは「幸せになる」ということだと考えています。「幸せになる」ために、自分が素晴らしいと思える仕事を、最高の仲間としたい。それが「経済情報で、世界をかえる」仕事です。

僕は幸せになるために起業したし、幸せになるために今もがんばっている。幸せになるという目標に沿って考えると、どの段階においても「自分の人生捨てたもんじゃない」って思っていたいですよね。

スタートアップでの事業なんてうまくいくときもいかないときもあって当然だけど、どんな状況に陥っても、「またやろうじゃないか」って言って周りの人にも希望を与えられる経営者でありたいと思います。人生において過酷なときというのは必ず訪れます。だったらどんな状況に置かれてるときも、その時々を楽しめる人間でありたいですね。

こちらの記事は2017年09月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

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