リーダーは算盤を弾くが、算盤を弾いてもリーダーにはなれない──ココナラ&一休の経営陣が説く、“情熱のリーダーシップ論”
ベンチャー、スタートアップの第一線で活躍する人たちに対して、「リーダーにはどのような資質が必要なのか」と問いかけると、どう答えるだろうか。
「まずは、自ら意思決定する場数を踏むこと」。そう答えるのは、ココナラ代表取締役会長の南氏だ。
2022年2月に開催されたFastGrow Conference 2022のセッション『今求められるリーダーとは何か?自分らしくありながら周囲を活かす、これからのリーダーシップ論』では、まさにこのリーダーに求められる資質について語られた。
登壇したのは、ココナラ代表取締役会長の南章行氏、ココナラ代表取締役社長CEOの鈴木歩氏、一休代表取締役社長の榊淳氏だ。今回は三者三様のキャリアを踏まえつつ、「良いリーダーとは何か?」「そのリーダーとなるための条件とは?」といった、“リーダー”にまつわるあらゆる疑問について話をうかがった。
- TEXT BY YUI TSUJINO
誰もリーダーを目指してキャリアを選んじゃいない
ベンチャー企業の経営者として、日々現場でリーダーシップを発揮している3者。セッション冒頭、「皆さんのキャリア変遷に、リーダーとなる素質が隠されているのでは?」とモデレーターが尋ねると、「リーダーになろうと思ってキャリアを選んだことはない」と南氏は語る。
南そもそも私のキャリアを話すと「なぜ、そのタイミングで?」と疑問に思われることが多いかもしれません。
なぜなら、アジア危機の影響で銀行が潰れているなか、1999年に住友銀行(現三井住友銀行)に入行。2004年に住友銀行で「出世コース確実」と言われていたタイミングで、企業買収ファンド・ドバンテッジパートナーズに転職。今となっては企業買収ファンドの存在はメジャーなものになりましたが、当時の日本ではまだまだ数が少なく、マイナーな存在でした。
南私は理想から逆算してキャリアを選ぶのではなく、その都度「面白そう!頑張れそう!」と思ったものを選んできたんです。
ただ、振り返ってみれば、「一人ひとりが“自分のストーリー”を生きていく世の中をつくる」ことに注力してきたのかなと思います。企業買収ファンドを選んだのは、「どの企業においても、そこに属する人が経営難や倒産などといった不安を抱かずに、安心して働けるような社会になってほしい」と思ったから。また、ココナラを始めたのも、「世の中の誰もが自分らしく生きられる社会になってほしい」と思ったからです。
そんな南氏のキャリアを踏まえて、「企業買収ファンドが世の中でメジャーになる前にジョインしていることからも、南さんのキャリアは時代を先取りしてるようにみえます。そうした意思決定をする上で何かコツはありますか?」と榊氏が疑問を投げかけた。
南一番のコツは、“リスクに惑わされずに飛び込めるかどうか”だと思います。
日本に企業買収ファンドが増えたとき、次なるキャリアパスとしてこうしたファンドへの転職が気になった人は多かったと思います。でも、まだまだそこでキャリアを積む成功事例がなく、「リスクが大きい…」と感じて飛び込めなかった人が殆どだったのかなと。対して、私は他人よりもリスクを気にせず、「面白い」と思ったものに飛び込んだだけです。
理屈や計算といったものではなく、直感でキャリアを選択してきた南氏。次に、2020年9月にココナラ代表取締役CEOに就任した鈴木氏は、「自分自身が心地いいと思える環境を選んできた」と自身のキャリア軸を語った。
鈴木私が新卒で入社したリクルートは「ワクワクしている人のそばで働きたい」という想いで選択しました。
鈴木また、南さんとの出会いは、転職エージェントの紹介でしたね。南さんと初めて会った時は、一緒に飲みながら幼稚園から大学生までのエピソードを話して、帰り際に「君と働きたい」と言われたことを覚えています。まさに冒頭に申し上げた通り、心地よい気分で「この会社に入ろう」と思えたんです(笑)。
南鈴木と会って一番知りたかったのは、鈴木がどんな判断軸で、どんな意思決定をする人なのかということでした。そして、その考えを知るには、「彼の生い立ちを深ぼることが最も確実だろう」と考えて話を聞いていました。そこで十分に彼の思考特性を掴めたので、当時はCOOを欲していたにもかかわらず、リクルートでどんな仕事をしてきたかという仕事の話はほぼ聞かなかったんですね(笑)。
鈴木氏においても、“ワクワク”や“心地よさ”といった主観的要素を軸にキャリアの意思決定をおこなっている点が印象的だ。そして最後は榊氏。2014年から一休 取締役副社長、2016年2月から代表取締役社長を務める同氏は、「好きなことや得意なことを軸にキャリアを選んできたが、うまくいかなかったことも多々ある」と語る。
榊大学のときにコンピュータサイエンスが好きだったこともあり、1997年に第一勧業銀行(現みずほ銀行)でトレーディング業務に従事しました。その中で外資系のビジネスパーソンらの優秀さに惹かれ、自身もスキルを高めるべく米スタンフォード大学大学院に留学。サイエンティフィック・コンピューティングを学びました。
榊でも、うまくいかなかったことも多いですよ。留学後は、外資系投資銀行でトレーダーになろうと思ったのですが、転職が思う結果に結びつかず、縁あってボストンコンサルティンググループにコンサルタントとして勤めることになりました。つまり、大学院で身につけた知見を発揮する機会はすぐには得られなかったんです。
そこから2013年に一休へ入社。念願のデータサイエンスに携われるチャンスを得ました。うまくいかないこともありましたが、紆余曲折を経た結果、ようやく好きなことができる環境に巡り合うことができました。
ココナラの両名とは対照的に、思うようにキャリアを進めることができない時期もあったと述べる榊氏。経歴を見れば誰もが羨むキャリアを辿っているようにも見えるが、必ずしもそうではなかった。
そして、興味深い点としては3者のいずれもが、“リーダーを意識したキャリア形成はしていない”という点ではないだろうか。それでは引き続き、そんな彼らに、リーダーが持ちうる資質やその見極め方についての見解をうかがっていこう。
暗い顔をするならリーダー失格。
“ポジティブさ”こそリーダーの務め
採用面接などで、目の前の人物が“リーダーになれる素質をもっているか”を判断する機会も多いであろうこの3者。実際に、採用の現場ではどのようにリーダーシップの是非を見極めているのかを聞いてみた。
南“自分で意思決定をして、結果を受け止められているか”を見ます。リーダーの仕事は、誰かに言われたことをやるものではありません。自分で意思決定したことを実行し、結果を受け入れないといけません。なので、成功体験よりも、“どんな意思決定をして、そこから何を学んだか”を重要視しています。
南氏の発言を受け、大きく頷く鈴木氏は「どれだけマネジメント経験を積んできたかよりも、マネジメント経験を通じて何を学んだかが大事」と意見を重ねる。
鈴木どれだけ決断してきたか、また、成功も失敗も糧にできているかが大事です。「あなたはどんなリーダーですか?」と聞いたときに、「100人をマネジメントしてきました!」と答える人がいますが、それはアピールポイントにならないと考えています。それよりも、そこでの成功や失敗から何を学びとったかが最も重要だと考えています。
両氏の発言に加え、リーダーといえば、“逆境に陥ったときにいかにチームを引っ張っていけるか”も大切なポイント。ここでは一休を例に取ってみてみよう。
2020年4月、新型コロナウイルス感染症の影響で、訪日外国人数は前年同月比マイナス99.9%まで落ち込んだ。宿泊やレストランの予約サイト『一休』でも、一時はキャンセルが相次ぎ、予約の純増がゼロになったのだ。
そんな未曾有の危機のなか、リーダーとしてどのような振る舞いを意識していたのかを榊氏に聞いてみた。
榊逆境のなかで意識したことは、とにかく明るく、周りを励ますことです。
新型コロナウイルス感染症の影響で、従業員の精神的な落ち込みは深刻なものがありましたから。ひとつの例ですが、一休はヤフーグループの一員で、ヤフーではコロナ禍においてマスクが非常に売れていました。なので、「母体となる企業がしっかりと安定していれば、我々も潰れるということはないだろう」とポジティブに受け止めていました。
榊氏の「逆境こそ明るく振る舞う」という発言に、南氏は強く同意する。
南企業買収ファンドにいた頃、買収交渉から契約までをリーダーとして担当することがありました。でも、初めての仕事でうまくいかずに、とても落ち込んだ時があったんです。そんなときに、「リーダーが暗い顔をしていたらメンバーも落ち込む。そんな状態なら君はもうミーティングに出なくていい」と上司であるパートナーに言われました。
そこからは、どんなにしんどいときでもオロオロしない。まずは一旦笑って、冷静になってから打ち手を考えるようになりましたね。
また、鈴木氏は「弊社では南が明るいキャラでムードを盛り立てる役回りなので、私は事業がしんどい時こそ、そんな南の裏で誰よりも手を動かすようにしている」と互いの立ち位置について明示してみせた。
鈴木とにかく問題が発生している現場で最優先に動くようにしています。私が忙しそうにしていたら、周りのメンバーも「何か打ち手があるんだろうな」と希望が持てますので。
南鈴木は、事業がしんどいときにこそ頼りになりますね。忙しそうにすると言っても、慌てふためいてるわけではなく、できることを冷静に、片っ端から試していくんです。そうやって高速でPDCAを回していくなかに、少しずつ課題が解決されていき、逆境を乗り越えられるといったことがこれまで何度もありましたね。
組織の長たる南氏と榊氏からは、「前向きに、組織を明るく盛り立てる」といった姿勢が発せられた。たしかに、トップが顔色を悪くしていては好転する事態もうまくいかなくなる。このように、事業内容やキャリアなどまったく異なる属性であるリーダーたちが共通の姿勢を貫いているところを見ると、リーダーとしての在り方の核が見えてくるだろう。
スタイルは自由。
ただし、“チームの幸せ”というゴールはブレるな
困難時の振る舞いから派生し、今度は「そもそも良いリーダーとはどんな人物か?」とモデレーターが投げかけた。
榊氏は小学生、高校生、大学生と歳を重ねるごとにリーダー像が変化していくことを、スポーツに例えて語ってみせた。
榊まず、小学生のリーダーは、サッカーが上手な人。高校生になると、サッカーが上手でなくとも、チームメンバーの話を聞けたり、「〇〇が言うなら話を聞いてみよう」とチームメンバーから思われる人がリーダーになる傾向があります。また、アメフトで有名な京都大学のアメフト部部長は、「スキルがあるよりも、キャプテンシーがあったり、試合に勝ちたいという気持ちが誰よりも強い人がリーダーになる」と言ってました。
“チームメイトに正しいことが言えるのか”、“リーダーの話を聞きたいとチームメイトから思われるか”、“勝ちに貪欲になれるか”。この3つがリーダーシップの要素なのではと考えています。
ついで南氏はボスとリーダーの違いから、リーダーシップについて持論を述べる。
南まず、リーダーとボスとでは役割が異なります。ボスは上に立ってメンバーに指示を出しますが、リーダーは先頭に立って向かうべき方向をメンバーに示します。そして、メンバーの強みを引き出すのもリーダーの役割です。チームメンバーの得意なことを把握し、力を発揮できる環境を整えてあげることも重要な仕事ではないでしょうか。
最後に鈴木氏は、「どんなリーダースタイルであれ、チームの幸せにコミットすることが大事だ」と述べる。
鈴木ビジョンを掲げてチームを引っ張ったり、とにかく褒めてメンバーのスキルを伸ばしたり、厳しく接して各自の成長にコミットしたり。どんなリーダーシップの取り方でもいいので、結果的に組織のメンバーが幸せで、成長実感を持てていることが大事だと思います。
鈴木氏が語る通り、リーダーのスタイルに固定の解はなく、千差万別だ。一方で、チームメンバーの幸せにコミットするためにも、“自身がどういうリーダーシップ・スタイルを取るタイプなのか”を把握しておくことも重要だろう。その答えの見つけ方を、次の最終章で紐解いていきたい。
情熱を注げる場所で、とことん意思決定の打席にたて
南自分に合ったリーダーシップ・スタイルというのは、その人の“意思決定の仕方”と、“意思決定する数”によって確立されていきます。前者は“人をどう励ますか”、“どう動かすか”などを考え、行動に移すなかで“メンバーを褒めてスキルを伸ばすスタイル”や“メンバーに厳しく接して成長にコミットするスタイル”といった具合に、自身のリーダーとしてのスタイルが見えてきます。
後者の“意思決定の数”については、日常のちょっとしたことで良いんです。会議のなかで「自分はこう思います」と発言したり、宴会部長に立候補してみたりと、“自分で決めて、自分で行動する”。そうした取り組みを重ねるなかに、やはり自らのリーダーとしてのスタイルが見出されていきます。
自身のリーダーとしてのスタイルは、チームやメンバーに対しての振る舞い方を認識し、自ら意思決定する場数を踏むことで見えてくると南氏は語った。
続く鈴木氏は同じ質問に対し、「自分が情熱を注げる領域を見つけることが最も大事だ」と述べた。
鈴木そもそもとして、「自分で意思決定しよう、していきたい」と思える領域を見つけることが何より大事だと考えています。組織のビジョンを誰よりも信じられる人が社長になるように、自分が誰より情熱を注げる領域を見つけ、そこでリーダーになるのがチームにとっても自身にとっても一番幸せな選択でしょう。
鈴木そうした没頭できる領域さえ見つかれば、あとは南さんの言うように意思決定の場数を踏みながら自身のスタイルを確立していく。このようにして自身のリーダーシップの取り方が見えてくるのではないかと思っています。
ココナラの両名からリーダーシップ・スタイルの確立方法を伺ったところで、まもなくセッションは終わりの時間に。最後は、南氏、鈴木氏、榊氏それぞれの口から、リーダーになりたい視聴者へメッセージが送られた。
南情熱を注げる領域を見つけるには、行動し続けないといけません。相対的に「この環境、この分野が好きだな」と思う選択肢を取っていくうちに、自身の情熱を注げる領域が見つかってきます。そこに行き当たるまで、ひたすら行動、行動、行動で動いてみてはいかがでしょうか。
鈴木「どうやったらよいリーダーになれるだろうか…」と考えて行動することはもちろん重要なのですが、かといって焦る必要はありません。自分が「好きだな」と感じることに120%コミットしていく。そうしていくうちに、必ずリーダーとしてのスタイルが見えてくるでしょう。
私たちココナラが成し遂げようとしていることは、世の中に新たなエコシステムを浸透させることです。ご興味ある方はぜひお気軽にお声がけください!
榊お二人が語ってくれたように、まずは情熱。これを惜しみなく注げる場所を見つけましょう。もし、一休にその情熱を傾けられそうなものがあったら、いつでも歓迎します。
未だ飲食・旅行業界の景気は厳しいですが、そんななかでも現在の一休では、年間の売上が増加傾向にあります。「こんなご時世だからこそ、飲食や観光業界を元気にしたい」という想いを持つ方がいましたら、ぜひ声をかけてください。一緒にこの業界を牽引するリーダーとなって、盛り上げていきましょう。
今回、三者三様の立場や観点から、リーダーにまつわる様々な見解をうかがってきた。いずれの問いに対してもそれぞれが自身の経験をもとに主張を展開。明日のリーダーを目指す読者にとっても学びある回になったと思う。
そして、リーダーとは計算の上で狙ってなるものではなく、むしろ逆。理屈抜きに楽しめる、情熱を注げる領域を見つけることが、結果的に自信をリーダーに導くきっかけとなることを知った。ここまで分かれば、あとは読者も自ずと切り開いていけるだろう。“次代のリーダー”という道(ロード)を──。
こちらの記事は2022年04月25日に公開しており、
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執筆
辻野 結衣
1997年生まれ、東京都在住。関西大学政策創造学部卒業し、2020年4月からinquireに所属。関心はビジネス全般、生きづらさ、サステナビレイティ、政治哲学など。
連載FastGrow Conference 2022
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