浅田 慎二
One Capital株式会社
代表取締役CEO, General Partner伊藤忠商事株式会社および伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社(ITV)にて、メルカリ、ユーザベース、Box、Muse&Co、WHILL、TokyoOtakuMode、Fab等国内外ITベンチャーへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。 2015年3月よりセールスフォース・ベンチャーズ 日本代表に就任しSansan、freee、Visional、Goodpatch、Yappli、フレクト、Andpad、カケハシ、スタディスト等B2Bクラウド企業へ投資。2020年4月にOne Capital株式会社を創業、代表取締役CEOに就任。慶應義塾大学経済学部卒業、マサチューセッツ工科大学にてMBA取得。
創業メンバーの理想的な構成・役割分担があれば教えてください。
スタートアップ創業メンバーに重要な要素は3つあります。「共通の課題意識」「性格補完」「スキル補完」の3つです。
まず、創業者メンバー同士で共通の課題意識を持っていることが最も重要です。どんなに優秀なチームでも何を解決しようとしているかが揃っていないことには機能しません。自分が解きたい課題を明確にし、それに心から共感してくれるメンバーを見つけることが大切です。
また、性格的な補完も大事だと思います。お笑い芸人を例にすると、ボケとツッコミという相反する立場の2人ですが、補完関係があると成り立ちますよね。真逆でも良くないし、反対に、まったく同じ性質の2人でもダメです。
最後に、スキル的に補完し合える関係であることも重要です。エンジニアとビジネスサイドの比率なども含みます。戦略と実行などスキルセットをお互いに補完し合えるメンバーであることが大切です。
浅田 慎二氏の回答
投資家への相談はどのタイミングがベストなのでしょうか?
いくつかの業界に興味・仮説があるのですが、具体的なビジネスモデルまでは、まだあまりきちんとした納得できる仮説が立っていません。このような状況でも、投資家へ相談しても構わないのでしょうか。もちろん、事前のデスクトップリサーチ・最低限の想定ユーザー向けのインタビューは実施予定です。
調達には6ヶ月ほどかかるので、そこから逆算することが大切です。調達のタイミングで自分がアクセスしたい投資家に初めて会うよりは、早めにカジュアルな雑談でも良いのでコンタクトを取っておく方が良いと思います。ただ、そのときに良い印象を残しておくことはもちろん大切です。
良いインプレションの構成要素は2つあります。「なぜそのプロダクトつくっているのか」「ターゲットが明確か」の2つです。大きなリスクをとって起業している訳なので、起業家はそれぞれ独自のストーリーを必ず持っています。ですから「なぜ今」「あなたが」「このプロダクトをつくっているのか」というストーリーを一番知りたいですね。
また、ターゲティングの明確さも大事です。このセンス感は対話を重ねていけば分かるものなので、事前にしっかりとどのセグメントを狙うのか明確にしておくことが重要です。またモックも準備しておくのが良いと思います。パワーポイントで説明する人が多いですが、パワーポイントではなかなか伝わりません。手書きでもいいですし、ノーコードでも作成できるので準備しておかない手はないですね。
浅田 慎二氏の回答
シード投資の場合、何をみますか?
こちらの質問でも回答しましたが、「なぜそのプロダクトつくっているのか」「ターゲットが明確か」の2つは重視して見るポイントです。起業して、そのプロダクトをつくっている背景にあるストーリーは最も知りたい点ですね。
浅田 慎二氏の回答
今年の投資テーマを教えてください。また特に注目している領域やビジネスモデル、手法などがあれば知りたいです。
幅広くいうと「SaaS」です笑。Vertical、Horizontal問わず全てのSaaSの全市場が魅力的です。アーリーステージで次のカテゴリーリーダーになれる「可能性」に投資したいと思います。
そのために、noteにもまとめましたがソーシングの一環として各社のファーストビューを徹底的にリサーチしたり、実務視点でのリサーチに重きをおいています。マクロトレンドリサーチより、ミクロ(実務視点)リサーチを重ねた方が、伸びている会社の共通点が見えてくるからです。もちろん気になる企業があれば、自分たちからDMしてコンタクトを取ったりもしています。
浅田 慎二氏の回答
日本のスタートアップは世界で通用すると思いますか?特にSaaSスタートアップの可能性について、具体的なハードルと合わせてお答えいただけると幸いです。
通用する可能性はもちろんあると思います。一方で、Step by Stepでグローバル展開に成功した企業のケーススタディをもっと分析する必要があると感じています。物事は必ず段階的に進むので、着実な事業基盤を作らずに掛け声だけでGo グローバルは言うまでもないですが、当然実現しません。
例えば、対面営業が大事なBtoB商材を扱っているセールスフォースは各国に拠点を構え、Wetなコミュニケーションを重視した営業活動を行っています。日本のヘッドを務める小出伸一氏はIBMやヒューレット・パッカードなどの外資で実績を残してきた人物です。このようなケーススタディからも各国に拠点を構え、グローバルで通用するネイティブ人材をヘッドにするなど、Step by Stepでやるべきことは見えてきますよね。
また、一概にSaaSといってもセグメントによってグローバルへの進出のしやすさは変わります。コミュニケーション、コラボレーションツールなどは万国共通なので比較的グローバル展開できる可能性は高いです。一方でCRMなどは各国の営業習慣が異なるため、ハードルがあるように感じます。
浅田 慎二氏の回答
2021年の国内SaaSはどのような変化、トレンドが生まれそうでしょうか?(SaaS×マーケットプレイスなど)
これまでに引き続き、Vertical SaaS・Horizontal SaaSの活躍が見られると思います。グローバル全体のマクロトレンドでいうと、アメリカではエンジニア向けSaaSがますます台頭する年になるのではないでしょうか。グローバルにおける未上場の有望なクラウド企業を掲載したForbes Cloud 100によると、昨年は上位10社中5社をエンジニア向けのSaaSが占めていました。大型資金調達し、さらにIPOしたことで注目されたSnowflakeも、AWS、Azure、GCPといったGAFAMが提供するエンジニア向け開発基盤市場に切り込もうとしていますよね。
一方で、日本ではVertical・Horizontal SaaSのトレンドが続くと感じています。これまでのGAFAMによる開発基盤を新たにリプレイスするためには開発人員が大量に必要になります。そのためには巨額の資金が必要になりますが、国内スタートアップにそれだけの資金が流れ込まないからです。国内では昨年に続いて業界特化型のVertical SaaS、業界横断型のHorizontal SaaSに注目が集まる年になるのではないでしょうか。
浅田 慎二氏の回答
なぜVCになろうと思ったのでしょうか?
投資先にすることが多いアドバイスや指摘で、普遍的に意味がある(投げかけるだけでも価値が出やすい)と思われる発言や投げかけがあれば教えてください。いわゆるキークエスチョン的なものです。
シード期・プレシリーズAラウンドの投資先には「Focus」という言葉を頻繁に掛けています。キャッシュ・時間は有限であり、シード期のスタートアップの賞味期限は意外に短いので。特にフォーカスするべき対象は3つで、「ターゲット」「ソリューション」「チーム」です。この3つそれぞれにおいてしっかりとフォーカスすることがシード期においては非常に重要になります。
シリーズA以降の投資先については「Time to sell」「Time to use」「Time to value」の3つを短縮するようにとアドバイスしています。早く受注し、早く使ってもらい、早く価値を感じてもらうためにはどうすれば良いかと議論を重ねるようにしています。
浅田 慎二氏の回答
マーケット選定において、「勝てる領域」と「好きな領域」のどちらを選択するべきでしょうか?市場自体の成長性や自身のキャリアバックグラウンドなどを考慮して、勝つことができそうな領域を狙うのがセオリーでしょうか。
VCの皆さんは未来に投資していると思うのですが、どのように「これから伸びるマーケット」を見つけているのでしょうか?非現実的な未来予測の話ではなく、よく言われている「半歩先」のイメージです。事業をつくるにあたっては、この半歩先を見据えることが大事だと思っているので、参考にさせていただきたいです。
浅田 慎二氏の回答
起業家はどの程度「リサーチ」をするべきでしょうか?
スタートアップは、よく行動力や行動量、またスピードが重要だと言われていると思います。しかし、世の中で検証済みの仮説や市場の有無などはリサーチである程度調べられると思うので、事業を正しいレールに乗せるには重要だと思っています。ここまではスタート前に調べるべき、という要素はありますでしょうか。
ここまでという基準はなく、徹底的にリサーチするべきです。興味のあるマーケットと顧客が抱えるペインについて、深くリサーチする必要があると思います。
例えば先日ツイートもしましたが、今は開発エンジニアに占めるデザイナーの比率が年々高くなっており、プロダクトのUI/UXで勝負が分かれる時代であることがリサーチするとわかります。そうすれば、自社の採用においても各ポジションをどのくらいの比率で採用するべきかに応用できますよね。自分の中でここまでという基準を設けず、徹底的にリサーチすることが大切ですし、その深さが勝負の分かれ目だと思います。