産業の無人化促進から、AI人材の育成まで。
東大・松尾研究室出身の注目スタートアップ5社

最先端の研究成果を活かした「ディープテック」スタートアップが増加している。Preferred Networksがユニコーンとして存在感を放ち、ABEJAのように蓄積されたビックデータを活用して技術革新を図る企業も台頭中だ。

ディープテックを手がける起業家の輩出で注目されるのが、東京大学の松尾研究室だ。AI研究の第一人者として知られる松尾豊氏がリードし、ディープラーニング、Webマイニングによるデータ分析、知識抽出などの研究を重ねてきた。

注力しているのは、AI技術の研究開発や社会実装、専門スキルを習得した人材の育成だけではない。同研究室は、若手人材が社会で活躍する機会を増やすべく、ベンチャー企業の創出にも尽力しているのだ

本記事では、松尾研究室出身のスタートアップを5社紹介する。今後ますます注目度が高まると予想される、ディープテックの“本流”を覗く。

  • TEXT BY HAYATE KAWAJIRI
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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チャットアプリの自動対話から医療画像の診断まで。豊富なアルゴリズムで企業を支援「PKSHA Technology」

PKSHA Technology

PKSHA Technologyは、さまざまなジャンルのアルゴリズム研究を行う技術者・研究者が集まり、2012年に創業された。松尾豊氏も技術顧問を務めている。

同社は主にソフトウェアやハードウェア向けにアルゴリズムの一部を提供する「ライセンス事業」と、自社のアルゴリズムを活用した「自社ソフトウェア販売事業」を展開。事業はチャットアプリの自動対話、ECサイトにおける商品レコメンドサービス、画像・映像識別エンジンによる医療画像の診断など、多岐にわたっている。

サービスの導入先には、トヨタ自動車、NTTドコモ、LINE、リクルートホールディングスといった大企業が連なる。

創業者の上野山勝也氏は、ボストン コンサルティング グループで経験を積み、GREE Internationalの立ち上げに創業メンバーとして参画。松尾研究室で博士号を取得し、助教授として教鞭を取っていたこともある。

2017年9月には東証マザーズへの上場を果たしている。 2019年8月時点の時価総額は1,500億円を超えており、監査法人トーマツによる企業の収益に基づく成長率ランキング「デロイト トウシュ トーマツ リミテッド 日本テクノロジー Fast 50」に3年連続でランクインした。

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ショベルカーからパスタ計量器まで、あらゆる機械の自動化を目指す「DeepX」

PR TIMES

DeepXは、東京大学大学院で工学系研究科長賞を受賞した那須野薫氏が代表を務める、2016年創業のAIスタートアップ。あらゆる機械の無人化・自動化を目指し、画像認識や強化学習を活用した技術開発を行う。実装する機能の設計からアルゴリズムの開発まで、一気通貫して手がけているのが特徴的だ。

同社はショベルカーの無人化からパスタの盛り付け自動化まで、幅広い領域における取り組みを行っている。2019年には深層強化学習向けのオープンソースソフトウェア「machina(マキナ)」をGitHub上に公開した。本ソフトウェアを使用することで、同社が行なってきた自動化プロセスの一部を利用できるという

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ヒトの認識アルゴリズムに強みを持ち、画像認識サービスを展開する「ACES」

PR TIMES

ACESは、「アルゴリズムで、社会はもっとシンプルになる。」ことをミッションに2017年に創業された。メンバー6名のうち、代表の田村浩一郎氏を含む3名は松尾研究室の出身者であり、現在も博士課程に在籍している。深層学習を用いた画像認識技術を中心に、AIアルゴリズムソリューションの提供や、APIによるアルゴリズムパッケージの共同研究を行っている。

2019年5月には、後述するAI技術に特化したVCファンド「Deep30」などから資金調達を実施。同月に、ヒューマンセンシングを活用した画像認識サービス「SHARON」の提供を発表した。同サービスは、ヒトの認識アルゴリズムに強みを持った組み込み型の画像認識アルゴリズムパッケージであり、ヒトの心の動き把握や身体動作を伴うパフォーマンスの分析などに活用されている。

同社はこれまで電通、テレビ東京、エムスリーといった、大手クライアントとの共同研究・開発を進めてきた。SHARONの登場により、ユーザーは従来よりも安価で簡単に画像認識アルゴリズムの利用ができるようになったという

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企業研修や教育機関で活躍。松尾研究室が監修・制作した教育コンテンツを扱う「NABLAS」

NABLAS株式会社

NABLASは松尾研究室のメンバーが中心となって設立した、AI技術の総合研究所だ。松尾研究室が開発したAI人材の教育コンテンツを、学外向けに提供する事業を展開する。

2018年からは深層学習の研究開発や、技術の導入に関するコンサルティングにも着手している。同タイミングで、2018年にNABLASへと社名変更し、松尾研究室リサーチディレクターの中山浩太郎氏が代表取締役に就任した。

同社が提供する教育コンテンツは、演習が中心となっている。個人向けだけではなく、企業での研修や教育機関といった法人向けにも展開。初心者を想定したAI人材の育成コンテンツ「iLect Edu」から、プロフェッショナルのデータサイエンティスト・AI研究者向けの「iLect Pro」まで、各ユーザーのレベルに合わせてパッケージを用意しているのが特徴だ。

「データサイエンティスト育成講座」や「Deep Learning基礎講座」など、東京大学松尾研究室が監修・制作したコンテンツも多い。教育コンテンツを扱う会社として唯一、同研究室から公式のライセンスを受けている。

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コンサル、スタートアップ出身者が設立。AI特化のベンチャーキャピタル「Deep30」

Deep30

最後に紹介するのは、松尾研究室発でありながら、ディープテックスタートアップの後方支援を手がける“変わり種”の企業だ。

Deep30はAI技術に特化したスタートアップを支援するべく、2018年に松尾研究室からスピンアウトして設立されたベンチャーキャピタル。シードステージを中心に、深層学習やコンピューターサイエンスに強みがある起業家へ投資している。

代表の田添聡士氏は、ボストン コンサルティング グループや株式会社じげんを経て、松尾研究室に運営メンバーとして参画。産学連携案件の精査や研究資金の調達などを一手に担っている。

松尾研究室の出身者が立ち上げた、ディープテックスタートアップ5社を紹介した。研究室での学びが事業の強みになっているものの、必ずしも創業者の経歴はアカデミックに閉じているわけでなく、学外での経験も今日の活躍の礎となっていることが伺える。

AI分野で成果を残す松尾研究室から、今後どのようなスタートアップが生まれていくのか。動向を追うことで、国内のAI系スタートアップの新たな動きが見えてくるだろう。

こちらの記事は2019年09月13日に公開しており、
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執筆

川尻 疾風

ライター・編集者(モメンタム・ホース所属)。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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