少子高齢化が進むなか、「保険」は斜陽産業か?
ソフトバンクも注目するグローバルInsurTechトレンド

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グローバルでの市場規模は約540兆円と、世界的な巨大産業である「保険」。国内だけでも、生命保険と損害保険を合算し、40兆円以上の市場規模を誇る。産業としての歴史も長く、その起源を古代ギリシャ時代に求めるものもある

巨大市場と長い歴史を有する保険業界は、いま、激変期を迎えている──テクノロジーによって保険業界を変革する、「InsurTech(インシュアテック)」が勃興しているのだ。InsurTechは、北米を中心に発展し、日本でも存在感を発揮しはじめている。「旧態依然とした慣習が残る保守的な業界」というイメージは、すでに過去のものだ。人口減少によって縮小が予想されている業界“だからこそ”、多くの企業が生き残りを賭け、大胆なチャレンジを行なっている。

本記事では、海外の事例も交えながら、InsurTechの現在地を探る。一般に、「X-Tech」と呼ばれる領域はスタートアップが牽引する印象も強いが、ことInsurTechに関しては事情が違う。長年、保険業界をリードしてきた「大企業」もイノベーションの担い手となっているのだ。スタートアップから大手保険会社まで、群雄割拠のInsurTech市場の最前線をリポートする。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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スマホ完結の医療保険、「保険のあり方」を革新する家財保険──世界中で躍進するInsurTechスタートアップ

世界のInsurTech市場では、数々のスタートアップが躍進している。

2012年にニューヨークで設立されたOscar Health Insuranceは、スマホで完結する医療保険サービスを提供している。

契約者は、24時間対応可能な医師の電話診察、往診の依頼、ジェネリック医薬品の処方、一般的なワクチン投与や検査まで、無料でサービスを受けられる。ユーザーにフィットネスの実施状況を可視化するデバイスも貸与。実施状況に応じて報奨金を支払うなど、契約者の健康維持に関与することで、医療費と医療保険料を下げる取り組みも実施。

国民皆保険制度がないアメリカでは、健康保険の未加入率は10.5%に達している。個人破産の原因の66.5%が医療費に関連している点も大きな問題となっている。Oscar Health Insuranceはアメリカの医療保険が抱える問題を、テクノロジーによって解決しようとしているのだ。 2018年3月には、約180億円を追加調達し、さらに変革を加速させている。

Lemonadeも、アメリカで注目を集めるInsurTech企業のひとつだ。家財保険を取り扱う同社は、AIを活用し、加入手続きや支払い申請を効率化。それだけでなく、「保険のあり方」も変革した。

従来の保険では、保険の支払い該当がなかった場合は保険会社の利益となっていたが、同社は、未請求分をすべて慈善事業に寄付する仕組みを導入。保険料の20%を手数料として受け取ることで、収益を上げている。従来、保険加入者はリスク回避のみを目的として保険に加入してきたが、Lemonadeは保険加入に「慈善事業への貢献」を付加価値として提供するのだ。

2019年4月11日、ソフトバンクグループなどから約330億円の出資を受けると発表した同社は、今後アメリカ国外への事業拡大を進めていく方針だ。

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スタートアップに加え、大手保険会社も参戦する国内InsurTech市場

日本におけるInsurTechの先駆けは、2006年に設立されたライフネット生命だ。インターネット上で保険加入を完結させ、人件費や店舗運営にかかるコストを抑えることで、安価な保険料を実現した。

昨今は、保険営業のためのクラウド型顧客・契約管理サービスを提供するhokan、スマホ保険や1日ケガ保険といった新しい保険を提供するjustInCaseなど、InsurTechスタートアップも注目を集めている。

出典:Pixabay

スタートアップだけでなく、「大企業」もInsurTechに積極的だ。

第一生命は2019年12月、国内外のスタートアップとのInsurTechビジネス共創を目的に、グローバルなベンチャーキャピタル/アクセラレーターであるPlug and Playとのパートナーシップを締結した

住友生命も2018年7月、健康増進型保険『Vitality』の発売を開始。腕時計型のウェアラブルデバイスを用いることで、契約者の食生活や健康診断、運動などの健康増進活動をポイント化し、保険料を増減。健康を増進する活動を評価して継続を促すことで、リスクを減らすのが狙いだ。

こうした状況下で、とりわけ、InsurTechの推進を積極的に行っているのが、アフラックだ。1955年にアメリカで設立され、1958年には世界初となるがん保険を発売した同社は、InsurTechによって「保険会社」の枠組みも変容させようとしている。特色あるその動きを、さらに深く見てみよう。

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FinTech・AIからスタートアップ投資まで。「保険会社」の枠組みを変容させるアフラック

1974年に日本に進出したアフラックは、国内初となるがん保険を発売。その後も、安価な保険料で終身医療保障をはじめて実現した『EVER』を発売するなど、日本のがん保険や医療保険、すなわち「第三分野」の保険市場を作り上げてきた。がん保険・医療保険の保有契約件数は国内トップ。現在も市場をリードし続けている。

疾病・傷病に見舞われた場合、入院費や手術費等の治療費のみならず、差額ベッド代や交通費などの雑費、さらには休職による収入減少などの多大な経済的負担が懸念される。そのため、第三分野の保険は、社会保障の補完的な役割として重要である。さらに「人生100年時代」に差し掛かり、国の医療費問題が深刻化する中、民間の保険会社に期待される役割は大きくなる一方だ。

「生きる」に向き合い、第三分野の保険市場をリードしてきたアフラック。同社は、昨今の保険業界を取り巻く環境の変化やデジタル技術を含むテクノロジーの急速な進化を踏まえ、社会課題の解決に向けた新たな価値の創造を加速するべく、その姿を変化させようとしている。

2015年4月に策定した「Aflac VISION2024」において、「生きるための保険」のリーディングカンパニーから、「生きる」を創るリーディングカンパニーへの飛躍を掲げ、保険商品に留まらず、新たなビジネスを創造する決意を表明したのだ。

以後、アフラックは新規事業の開発を加速させてきた。2016年4月には、社会の変化を先取りし、新たな事業機会を取り込む専門組織の「事業開発室(現・新規事業推進部)」を立ち上げた。2018年1月には「デジタルイノベーション推進部」を設け、デジタル技術の研究・活用にも力を注ぐ。

そして、2018年8月、Fintechの活用及び企業価値の向上につながる新規事業の推進を加速させることを目的に、「アフラック・イノベーション・ラボ」が設立された。本社を構える新宿ではなく、多くのスタートアップやIT企業が集う渋谷エリア(南青山)にオフィスを設けた。このような姿勢からも、既存ビジネスとは一線を画す、新機軸を打ち立てようという決意が感じ取れる。

アフラック・イノベーション・ラボでは、FinTechやAIなど、先端技術を応用したビジネスが模索されている。2018年10月には、オンライン専用の健康増進型保険『アフラックの健康応援医療保険』もリリースした。

また、業界の枠組みを超えた企業連携によるエコシステムの構築も進めており、さまざまなスタートアップと協業を開始。

ここで終わらないのがアフラックの真骨頂である。2019年2月には、持株会社であるアフラック・インコーポレーテッドが、アフラック・イノベーション・パートナーズを設立。同社は、InsurTechやHealthTech、BioTechなどを中心に、ベンチャー企業の出資に関連する業務を行う。すでに、調剤薬局向けクラウド電子薬歴「Musubi」を展開するカケハシや、IoTやAIの力を活用することで保育業務の負担軽減や保育の品質を向上する「スマート保育園」の実現を目指すユニファなどへの投資実績がある。アフラック・イノベーション・ラボと連携することで、業界を超えたエコシステムを実現していこうとしているのだ。

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“イノベーティブな大企業”だからこそ実現可能な、「キャンサーエコシステム」

アフラック・イノベーション・ラボでは、「キャンサーエコシステム」の構築に注力している。「キャンサーエコシステム」とは、がんの早期発見・早期治療社会を実現するための商品・サービスや、がん罹患者が治療中も治療後も充実した人生を歩むために必要な支援を実現する「がん経験者支援プラットフォーム」の構築など、がんの予防から予後にわたる広い領域において、がんに関する課題の解決に取り組むさまざまな協業先とのパートナーシップを通じ、お客様一人ひとりに最適なソリューションを提供することを目指すものだ。

その他にも、さまざまな疾患の前触れを早期検知する「未病指標」の社会実装に向けた取り組みをはじめ、健康増進・ヘルスケア領域におけるサービス構築に向けた業務提携、出資にも積極的だ。

事業開発室を立ち上げた2016年当初は、領域にこだわらず新規事業を模索していたという。しかし、同社のコアバリューのひとつである「がんで苦しむ人々を、経済的苦難から救いたい」という創業の想いに立ち返り、新規事業の方向性を定めた。「最も長くがんと向き合い、最も多くがんと闘う方々を支援してきた」保険会社として、ヘルスケア領域を中心とした新規事業を展開し、お客様一人ひとりに最適なソリューションを提供していくことを決断したのだ。

保険業界のパイオニアとして業界を牽引してきたアフラックは、今なお歩みを止めず、新たな地平を切り開こうとしている。そこに「大企業」のおごりは存在しない。

ビジョンを実現するために、高速で事業を作り出すその姿は、スタートアップさながらだ。「生きるための保険」のリーディングカンパニーから、「生きる」を創るリーディングカンパニーへ──創業から45年、アフラックの挑戦は続く。

こちらの記事は2019年12月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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