「ミッションドリブンカンパニー」の真意──新オフィスに移転したatama plusに聞く、カルチャーの育て方

Sponsored
インタビュイー
稲田 大輔

東京大学大学院情報理工学系研究科修了。三井物産にてベネッセブラジル執行役員、海外Edtech投資等歴任し、2017年4月に大学時代の友人らと共にatama plusを創業。

関連タグ

社内に人工芝が敷かれ、「Park(公園)」をコンセプトに設計されたオフィスがある。約500坪の広さにもかかわらずワンフロアが維持され、執務スペースや打ち合わせスペースにも仕切りを置かない、オープンな空間──2020年3月に移転した、AIを活用した学習プロダクト『atama+』を提供するatama plusの新オフィスだ。

オフィスを歩くと、通路や共有スペースに、子供の3Dフィギュアや等身大パネルが置かれているのが目に留まる。「Wow students. 生徒が熱狂する学びを。」を実現するために、実際のモデルを登用し、中高生のペルソナを作成したものだった。「常にサービスの先にいる生徒の存在を意識し続けられるようにしたい」という想いがうかがえる。

本記事では、代表取締役を務める創業者の稲田大輔氏に、新オフィスの設計に込められた想いを聞く。昨今は、スタートアップが“キラキラオフィス”を構えることの是非について、議論を目にすることが増えた。一見すると華美にも思える設計の裏には、ミッションドリブンカンパニー・atama plusの、徹底したカルチャー重視の経営哲学が隠されている。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
SECTION
/

「ミッションドリブンカンパニー」が意味するもの

新オフィスの設計コンセプトは「Park(公園)」。このコンセプトには、atama plusの経営哲学のエッセンスが込められている。

設計を全面支援したブランド戦略顧問の後智仁氏は「なにか決められたことをする場所というより誰もが自由に自分の好きなことをする場所」に仕上げたと語る

なぜatama plusは「自由」を大切にするのか。稲田氏は創業理由まで遡り、丁寧に語ってくれた。

atama plus株式会社 創業者 / 代表取締役・稲田大輔氏

稲田atama plusはミッションドリブンカンパニーです。あらゆる意思決定が、「ミッション実現に近づくかどうか?」を基準になされます。

世の中のスタートアップは、大きく3パターンに分けられると思っています。

「良い事業をつくって収益を上げるために立ち上げた会社」、「良い組織をつくってメンバーが楽しむために立ち上げた会社」、そして「良いサービスをつくって世の中を変えるために立ち上げた会社」。

どれも正解だと思いますが、僕らは3つめを選択しました。教育を通じて良い社会をつくるために起業したので、創業時からずっと、ミッション実現に資することが最優先事項なんです。

ミッションもバリューも創業前に定めましたし、別の領域へのピボットなんてありえません。

稲田氏自身も、個人のミッションを強く意識して生きているという。それは、“国民総笑顔量”を増やすこと。

「笑顔を増やす仕組み」をつくりたいと考え、新卒で三井物産へ入社する道を選んだ。世界を駆け回るなかで、幼少期の過ごし方が人生に与える影響の大きさを痛感するようになる。以降、三井物産で国内外の教育事業やEdTech事業を推進するなかで、「日本や世界の教育はテクノロジーで変革できる」と確信を強めていった。

そうして2017年4月、大学時代の友人らと共にatama plusを創業したのだ。

教育を通じて社会を変えるための手段として、稲田氏はあくまでも事業をつくることを重視する。前職で教育事業の立ち上げや推進に携わるなかで、事業を通して仕組みをつくることこそが、中長期的な社会変革を実現させる最善の手法であることを実感してきたからだ。

稲田共同創業者が全員、長期的に事業を展開してきた大企業の出身なんです。リクルート出身の中下真、Microsoft出身の川原尊徳、それから三井物産出身の僕。

三井物産の初代社長・益田孝は、「眼前の利に迷い、永遠の利を忘れるごときことなく、遠大な希望を抱かれること望む」との言葉を残しています

サステナブルな事業をつくることで中長期的な社会変革を起こせることを体感してきているからこそ、目先の利益だけを追わずにミッション実現に邁進できているのだと思います。

SECTION
/

ルール作成ではなくカルチャーづくりに投資。
ワンフロアオフィスを維持し続ける理由

ミッション実現のために、atama plusが重視しているのが「カルチャー」だ。atama plusの目指すカルチャーを、稲田氏は「ミッションの実現に向かって、全員が同じ方向を向いている状態」と定義する。

稲田みんなが一丸になっている状態さえ実現できれば、細かいルールを定める必要もなくなります。たくさんのルールでがんじがらめにしなくても、ミッションに向かって各々が自律して働ける状態が理想です。

たくさんのルールが無くとも、みんなが居心地の良いように協調し、思い思いに行動できる環境をつくるための取り組み──それがatama plusにとっての「カルチャーづくり」なんです。

ミッション実現に向かってメンバーがフラットに議論し続けられる状況を保つため、数百人規模になっても、壁のないワンフロアのオフィスを維持するつもりだという。

バリューである「Wow students. 生徒が熱狂する学びを。」を実現するため、ユーザーである「生徒」を意識し続けられるよう、ペルソナの3Dフィギュアや等身大パネルも設置している。

創業時より考案されていたペルソナの等身大パネル。高校生の藤井真一くん(左)と、中学生の藤井純二くん(右)と、名付けられ、実際のモデルを登用している。学力や部活、趣味、性格などを言語化し、現場の声をもとにアジャイルに更新されている。
提供:atama plus株式会社

とはいえ、闇雲に多額の資金をかけることはしない。「常識をさておいて発想し、お金ではなく知恵を投資する」が、atama plusのカルチャーづくりのコンセプトだ。新オフィスにも、至るところでカルチャーづくりのための工夫が凝らされている。

約500坪の広さにもかかわらずワンフロアが維持され、人工芝が敷きつめられている。社内は全面的に土足禁止だ。
提供:atama plus株式会社

SECTION
/

施策だけ真似ても失敗に終わる。
“正攻法”なきカルチャーづくりの旅路

こうした施策を、表面上だけ真似ても意味はない。なぜなら稲田氏によると、カルチャーは「日々変化し続けるもの」で、新しい社員が一人増えるだけで変わっていくからだ。

稲田カルチャーは、庭のようなもの。特定の期間につくり上げ、完成したら変わらない建造物とは違うんです。

放っておくと雑草が生えて荒れるので、常に手入れし、育て続けなければいけない。カルチャーづくりはガーデニングなんです。

カルチャーづくりに方法論や正攻法は存在しません。世の中でセオリーとされている施策をそのまま取り入れても、うまくいかないと思います。

会社によって背景や目指したい方向性がぜんぜん違うのは当たり前のこと。それぞれが考え抜き、理想のカルチャーとそれを作る方法を模索し続ける必要があります。

そもそも、すべての会社が「ミッションの実現に向かって、全員が同じ方向を見ている状態」を目指すべきでもないという。「会社の目的によっては、『みんなで楽しく生きよう』『大儲けしよう』といったカルチャーを目指すことが正解となるケースもある」と稲田氏。

atama plusがカルチャーづくりにおいて大切にしているのが、行動指針のひとつでもある「Think beyond. 常識は、さておき。」だ。

世間の常識にとらわれず、小さなイノベーションを起こし続ける。オフィスの土足禁止、購買ルールの廃止、いつでも寝てよい……これらはすべて、ミッション実現のためのベストな手段をたどる中で編み出された。

稲田たとえば、ペルソナの実写化や3Dモデルの作成は、キャッチーなので多くの会社さんが興味を持ってくれています。でも、他の会社でこれをそのまま実施しても、おそらくほとんど使われずに終わってしまうでしょう。

ペルソナを実写化したことは、「Wow students. 生徒が熱狂する学びを。」というバリューを意識し続けるための方法を、僕たちの会社なりに模索した結果に過ぎません。「藤井真一くん」と「藤井純二くん」の人物像は、創業時からずっと社員みんなの意識の中にあります。

「その機能は、真一くんを熱狂させられる?」「その機能があれば、純二くんは勉強を続けられる?」という議論が、当たり前のようになされています。これほど浸透している状態ではじめて、イメージの解像度をより高めるために、実写化や3Dモデル作成に踏み切ったんです。

SECTION
/

どんなに優秀な人でも、
カルチャーが壊れるリスクがあれば採らない

atama plusがカルチャーを徹底して重視する姿勢は、採用方針にも表れている。

目先の人手不足の解消を我慢してでも、カルチャーフィットを重視する採用方針を貫いてきた。

「成長しそうな会社だから」「キャリアアップにつながりそうだから」「ストックオプションで稼げそうだから」──そんな考えが強い人は、どんなに優秀なビジネスパーソンやエンジニアであろうと、採用してこなかった。

稲田優秀な人を採らないという意思決定を下すのは、本当に難しい。でも、一丸となってミッション実現に向かっていくカルチャーが壊れる可能性を、少しでも生じさせたくなかった。

だから、どれだけ人が足りなくても、どれだけ優秀な人でも、カルチャーにフィットしなければ採用しないようにしてきました。

もちろん、決断を誤ったこともあります。内定から入社までの間に、カルチャーが合わないことが判明した人がいました。そのときは、時間をかけて話し合い、双方納得したうえで入社しないという結論に至りました。

それ以来、採用時点でのカルチャーフィットに対する意識を、より一層強くしています。

カルチャーを育てるため、ミッション、バリューの策定・浸透にも力を入れる。

現在のミッションとバリュー、そして行動指針は以下の通りだ。

ミッション

教育に、人に、社会に、次の可能性を。

バリュー

Wow students.

生徒が熱狂する学びを。

Think beyond.

常識は、さておき。

Speak up.

話そう、とことん。

Love fun.

楽しくなくっちゃ。

これらは、創業前につくられていた理念を、創業1年後に、当時20人強の在籍メンバー全員でブラッシュアップしたもの。「atama plusの働き方で良いと思うポイント」「次世代にも継承していきたい要素」を全員で洗い出し、3ヶ月以上かけて、洗練された表現に落とし込んでいった。

壁に大きくプリントして社内に掲げているほか、会議室名にそのまま使ったり、各種制度名に含めたりと、浸透を図っている。

「これでWow studentsするかな」「もっとSpeak upしよう」「それThink beyondだね」と、日常会話でも自然と使われている。

とはいえ、100人近くまでメンバーが増えてくると、文言の解釈に個人差が生まれてくる。たとえば、「Speak up. 話そう、とことん。」の「とことん」の程度についての認識を、あまりコミュニケーションを取らない他部署のメンバーと揃えることは難しい。

現在は、解釈のすれ違いを生むグレーゾーンを最小限にすべく、カルチャーをより解像度高く言語化することに取り組んでいるという。

SECTION
/

カルチャーを「みんな」で育むために、
全員で試行錯誤し続ける

今後は、カルチャーの構築プロセスにもメスを入れていくという。

稲田これまで、個々のメンバーがボトムアップで会社を良くしていく組織風土のもと、カルチャー構築を進めてきました。一定の浸透はできていましたが、ファシリテートを担当する「カルチャーチーム」が推進していた面が大きく、限界も感じるようになっていて。

ミッションに向かって邁進しているのはみんな同じなんです。今後はより一層、みんなでカルチャーを育んでいく風土を実現していきたい。

こうした想いから、職種横断でのタスクフォースをつくり、全員でもっと良い会社をつくり上げていくための方法を議論しました。

その結果として生み出されたのが、「プチアタマ」と呼ばれる期間限定の職種横断チームをつくること。プチアタマは、会社の全メンバーが感じている課題をヒアリングしたうえで、「いま会社として解くべき課題」について全社投票を行う。

初回は「もっとポジティブなフィードバックをしあえる環境にしたい」「会議が増えてきたので効率化したい」といった課題が挙がった。その中で最も票を集めたのが「もっと未来について議論する場がほしい」という要望だった。

ミッション実現に向けて、これからの教育のあるべき姿を議論する場を設けることが、最重要課題として選ばれたのだ。

そしてプチアタマがこの課題について検討した結果、未来の教育について全社員で議論する「ミライ・シナリオ」の開催が決定。そこで議論された個々の社員の「未来への想い」をポストイットに書いてオフィス内に掲示するという。

日々の業務に取り組んでいる中で、中長期的なミッションへの想いに立ち返られるようにすることが狙いだ。

稲田僕はプチアタマですら、ファシリテーターに過ぎないと思っています。会社の課題を、みんなで解いていくカルチャーを徹底したいんです。

各々が自由に動いているうちに、ミッション実現に近づいていく。それこそが、atama plusが目指している姿ですから。

こちらの記事は2020年04月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

写真

藤田 慎一郎

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン