1980年代から“レガシー変革”に取り組むパイオニアが明かす、イノベーション創出ノウハウ
Sponsoredレガシー産業にテクノロジーを持ち込み、業界変革へ挑むスタートアップが次々と頭角を表している。2018年5月に東証マザーズに上場したラクスル株式会社や、2018年12月に約10.2億円の資金調達を実施したキャディ株式会社、2019年3月にGoogleとの連携を果たした株式会社トレタの名も浮かぶ。
一方で、30年以上前からレガシー産業にITソリューションを持ち込み、「商習慣を変革する」イノベーションを起こし続けてきた企業がある。1985年に世界初の中古車TVオークション事業をスタートし、現在は中古車のみならず切り花やブランド品など多岐に渡る商品のBtoBオークション事業を展開する、株式会社オークネットだ。
レーザーディスクや衛星通信・インターネットなど、時代の最先端技術を活用してきた同社は、2019年4月に経営コンサルティングファームの株式会社コーポレイトディレクション(以下、CDI)と共同出資し、戦略コンサルティング機能に特化したジョイントベンチャー・株式会社ストラテジックインサイト(以下、SII)を設立した。
本記事では、オークネット代表の藤崎清孝氏と、CDI代表の石井光太郎氏にインタビュー。一見すると別領域でビジネスを行う二社がジョイントベンチャーを設立した背景を掘り下げ、新たなイノベーション創出の形を追究する。
「事業を次々と立ち上げることこそが“本業”」というオークネットのカルチャーを伺うなかで、既存のアセットを活かしながら企業内で新規事業を立ち上げること=「社内起業」のポテンシャルと難しさ、そしてジョイントベンチャーによる社内起業の仕組みづくりへの挑戦まで、話は広がっていく。
- TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
1980年代にネットオークションを浸透させた鍵は、業界に関わる一人ひとりの業務やニーズに対する深い洞察
1985年当時、TVオークションの仕組みはまさに「イノベーション」だった。出品される自動車の車両画像や情報を、専用端末を通じて競売に掛けた。高価な商品である中古車を、現物が見えない状態で流通させることに成功したのだ。
TVオークションの原点は、藤崎氏の実兄であり、オークネット創業者である藤崎眞孝氏が手がけていた中古車販売業にさかのぼる。
藤崎オークネットの前身の会社では、中古車販売をやっていました。そこで、商品の仕入れや余剰在庫の処分にかなり苦労していたんですね。当時から中古車のオークション場はありましたが、毎日のようにオークション会場に赴き、一日中競りに参加するという、非常に大変な思いをしていた。
一方で、同時期にシステムの開発・販売を手掛けるグループ会社も運営していまして、その知見との掛け算で、「通信技術を活用して情報だけで中古車の売買ができる仕組み」という発想が生まれました。「これができれば便利で、しかも業界のためにもなる」との想いでスタートしたものがTVオークションです。
“レガシー産業変革”のパイオニアである藤崎氏は、「業界に関わる人々が本当に新しい仕組みを求めているのかを熟慮し、受け入れてもらうための最適な形で提供することが重要だ」と指摘する。
藤崎商習慣を変えるというのは非常に大変なことです。習慣を変えることを、業界自体が求めているのかどうか。そこに対する洞察がないと、イノベーションを起こすことは難しい。
当時、中古車販売の業界に身を置く者として、わざわざオークション場に行かずとも中古車を取引できる仕組みに対するニーズは強く感じていました。当然、全く新しい仕組みですから、サービスを発表すると「業界を壊す気か」と大量の反対意見が出るわけです。ただ、それと同時に驚く数の応募が来ましたからね。だからこそ「これは行けるぞ」と思うことができた。業界に眠る「隠れたニーズ」を正しく捉えるということが一番重要ですよね。
ただ、ニーズを捉えるだけでは不十分で、日々の業務のなかでシステムを使ってもらわなければいけない。そのためのサービス開発も非常に大切です。当時、アナログな中古車販売の業者でPCに慣れている人などほとんどおらず、キーボードを見ただけで拒否反応を起こすような人ばかりの業界でした。それでも使ってもらえるよう、あえて親しみやすい「TV」を名前に冠して、「テレビのように簡単に」を売り文句に、2つのボタンとジョイスティックだけで操作できる専用デバイスをつくりました。そこまで徹底したからこそ、初めに賛同してくれた会員さんの心を掴むことができ、そこから業界全体に浸透させていくこともできたのだと思います。
“新規事業の創出”こそが、オークネットの「本業」
オークネットと共にSIIを立ち上げたのは、日本初の独立系経営戦略コンサルティングファームとして、オークネットと同じ1980年代に設立されたCDIだ。CDI代表であり、SII代表取締役に就任した石井氏は、4年間オークネットにコンサルティングを実施してきた。同氏は「新規事業の創出が“日常”になっているのが、オークネットの凄さだ」と力説する。
石井オークネットの歴史を伺うと、いろんな事業にチャレンジする歴史そのものなんですよね。TVオークションを手掛ける前も含めて、おそらく50年近くの間、新しい事業を生み出し続けている。それが当たり前で、言ってみれば「事業を生み出すことこそがオークネットのビジネスである」という感覚に近いものが、会社の企業風土や精神風土のなかにあるように思います。
多くの会社にとって、新規事業は「従来やってきたこととは違う、特別なこと」だと認識されています。しかしオークネットの場合、新規事業をつくり出すことがもはや「日常」の風景として捉えられている。「大きな“城”を築いて、守りきる」という発想で既存の事業に居着くことを良しとしない。ここがオークネットの凄さじゃないかと思います。
藤崎イノベーションを起こし続けなければ、うちは生き残れないと考えているんですよ。ですから、この認識が当たり前になっているような企業文化づくりは強く意識しています。どれだけ「これは!」と思うアイデアでも、「100に1つ」しか上手くいかないのが新規事業というものです。だからこそ、1度や2度の失敗にとやかく言わない。むしろ挑戦して失敗したこと自体が非常に価値のある経験なんです。だからこそ、社員には「失敗を恐れずにとにかく挑戦しなさい」と常々言っています。
オークネットではすべての事業部門に、イノベーション創出に特化した「事業戦略室」という組織をつくりました。もうとにかく「次のサービス」「次のビジネス」を考えることが仕事だぞ、と。これも新しいことに積極的に挑戦するカルチャーを根付かせるための取り組みのひとつです。
創業以来、新規事業創出の起点となる着想は、藤崎氏を中心にトップ層が生み出してきた。しかし、トップ層の「個人技」に依拠した事業創出に限界も感じているという。
藤崎事業創出といっても、「新しい事業の着想を得る」部分はトップダウンがメインだったんですね。私自身がアイデアを出していた時期がしばらく続き、そのうち役員クラスからアイデアが出て来るようになり、そうして事業が生まれてきた。しかし、トップの「個の発想力」に依存した事業の創出を続けても、オークネットは成長し続けられないでしょう。事業アイデアの「タネ」となる着想を得るプロセス自体を、会社全体のノウハウとして継承していかなければいけません。
“身内の第三者”を志向するCDIとなら、「着想が生まれる仕組み」を構築できる
「着想を得るプロセス」のノウハウ化は非常に難しい課題だが、「それ自体もイノベーティブな挑戦のひとつだと考えている。CDIと共に歩むことで達成できるはずだ」と藤崎氏は語る。
藤崎どんなにイノベーティブな事業創出を成し遂げた組織でも、5〜10年経てば既存のサービスを運営するだけになってしまい、イノベーションを起こせなくなる。事業アイデア創出の壁を乗り越えるためには、違う角度や、外部からの知見が必要なことが多いんです。CDIさんとの4年間のお付き合いを経て、この会社となら、事業アイデアのタネとなる着想が生まれる「仕組み」をつくることができるのではないかと思い、SIIを立ち上げることにしました。
あえてSIIという会社を設立したのは、CDIさんとコンサルティング事業を手がけるなかで得られる業界の「潜在ニーズ」への気づきを、(オークネット社内の)各事業戦略室にフィードバックするため。そういうニーズに対して「うちはどんなサービスを提供できるか」を常に考えることが、新しい事業やサービスのアイデアにつながっていく。この経験がノウハウとして積み上げられていくことで、着想が生まれる仕組みができるのでないかと。
さらに、コンサルティングファームを持つことで、事業領域のさらなる拡大も可能です。近年、弊社のクライアントの方々から、テクノロジーを活用した業務効率化のコンサルティングを期待されることが増えました。彼らにぴったり合ったシステムを提案できれば、会員サービスの拡大にもつながりますし、オークネットとしての新たな新規事業の創出につながる知見も蓄積されていくはずです。
一方、石井氏はオークネットを「CDIを、とてもうまく使ってくれる会社」と表現する。コンサルティング業に従事していると、クライアントから「アイデア出しや戦略の策定だけでなく、実行まで支援してほしい」と伝えられることが多いという。しかし、オークネットは真逆だった。
石井藤崎さんとお仕事をご一緒していて印象深いのは、我々が事業を直接動かそうとすると、「実行は私たちでできる。一緒にやりたいのは事業アイデアを生むことなんだ」と引き戻されること。そうこうしている間に「次のアイデアを出してくれ」とお題が来る(笑)。
新規事業には、できなさそうなことでも「“いける”と思うまで考え続ける」面があると思います。できることだけを考えていても、新規事業は決して生まれない。藤崎さんは、とにかく「無理難題を突破しろ」とおっしゃる方で(笑)。一見すると無理難題に思える着想なのだけれど、オークネットが実現するための視点や発想を、藤崎さんは一貫して私たちに求めてくださっている。
私たちコンサルタントは事業の「当事者」でなく「第三者」です。それでいて「ヨソ者」ではダメで、「身内」のような、親しみを感じられる存在でなければならない。この距離の取り方がコンサルティングの難しいところなんですけど、「身内の第三者」という価値をよくわかってくださっているオークネットさんとならば、「当事者」にさらに一歩近づいて、オークネットの未来に私たち自身もコミットできる環境を作ったほうが、もっと良い仕事ができると思ったんです。
藤崎世にあるコンサルティング会社の大半は、あるフレームワークに沿って支援を行います。しかし、CDIは弊社が手がける事業の細部まで深く知ろうとし、得た情報を活用しながら事業創出を進めていく手法を取っています。非常に新鮮だったし、信用ができると思いました。
石井自分たちが得意なソリューションを売ろうとすることを、僕は「医者が薬屋になっている」と喩えます。「胃潰瘍の薬を持っていますよ」と謳うコンサルティング会社は、胃潰瘍に苦しむ会社を探し始めるんですよ。あまつさえ、胃潰瘍じゃない人にも胃潰瘍の薬を売ろうとする会社もある。
一方で私たちは、クライアントが何に苦しんでいるのかをよく聞き、一人ひとりに最適な治療を施したいんです。「胃が痛い」といっても、食べ物から不摂生、仕事のストレスまで、様々な原因がありますよね。薬屋になったほうが会社の規模は大きくなりますが、「安易に薬を売るようになったら、コンサルタントとして終わりだぞ」とCDIのメンバーにも口を酸っぱくして伝えているんですよ。
あえてジョイントベンチャーで「やんちゃな会社を目指す」
1980年代から約35年間コンサルティング業に従事し、数多くの日本企業で内実を目にしてきた石井氏は、「日本企業にはもっと新規事業が生まれてもおかしくない」と言う。しかし、なかなか実現しないのは「既存企業のなかで新しく挑戦することが、根本的に難しいからだ」と話す。
石井企業のなかで新しいことに挑戦することは、根本的な難しさ、矛盾をはらんでいると思います。単に「新しいことを考えて、やればよい」わけではなく、さまざまな軋轢や慣性を乗り越えないといけない。新規事業は、初めは「金食い虫」と社内から後ろ指をさされ、事業がうまく行き出せば、今度は「私たちが助けてあげたからできたんだ」と言われてしまうんです。
一方で、ひとりの人間が新しいアイデアを持ってゼロから起業するためには、事業づくりのノウハウだけでなく、人脈や資金を手に入れる必要があるので、大変な苦労があります。それを考えると、やはり豊富なアセットを持つ既存の企業のなかで事業を興すことには大きなアドバンテージがあるわけですよね。
企業が持っている資産を活用し、周囲の人や組織を巻き込みながら、組織のなかで新しい事業を作っていく。SIIは、これまでなかなか実現できなかったこうした「社内起業」のあり方を実践する最先端の場だと思っています。オークネットの内部組織としてではなく、ジョイントベンチャーとしてSIIを切り出したのは、そのほうが自走しやすいと考えた面もあるんです。最初から自走させるのは難しいけれど、オークネット流にもCDI流にも染まらず、独自のカルチャーを築き上げ、新しい組織体に育ってほしい。
ただの一子会社だと面白みがありませんからね。「わがままな末っ子だけど、面白いことをするね」と言われるようなやんちゃな会社にしていきたいです(笑)。
藤崎氏も「SIIはオークネットからスピンアウトさせ、自走できる組織をつくらなければいけない」と石井氏の発言に賛同する。続けて石井氏は、「“起業家か、会社員か”という二項対立を超えて、SIIをこれからのイノベーション時代に必要な“新しい企業人”を育むゆりかごにしたい」と話す。
石井新しい事業をつくるには、発想は斬新でないといけない。それと同時に、仲間や組織、あるいはクライアントを動かすための強い意志というか、組織人としての確固たる「人間性」をもちあわせてないといけない。その両方を備えた人たちに活躍してもらいたいですね。従来の会社組織のあり方からただ逃げ出すのではなく、「自らの力で従来の組織の殻を破り、自分の考えを実現していきたい」と静かに燃える情熱をもった若き大人のビジネスマンに、ぜひ仲間に加わってほしいです。
藤崎コンサルティング会社であるSIIで、単なるコンサルタントに収まらず、自身が主体となってビジネスを具現化していける“事業家”的なメンバーを求めています。事業を一身に背負うことに面白さを感じられる人がいれば、ぜひ参画してほしいですね。
新規事業の開発に意欲的に取り組んできたオークネットが、CDIと共に、あえてグループ内に戦略コンサルティングファームを立ち上げるという試みの背景には、「着想が生まれる仕組みづくり」と「事業領域のさらなる拡大・進化」への狙いがあった。石井氏が話したように、SIIは二社のカルチャーが交わる点に生まれたジョイントベンチャーとして、今までの日本企業にはない事業創出のベストプラクティスを形作るのかもしれない。
求められるハードルは高いが、ある程度の実績を積み、更に「自分の手で、自分の考えを実現したい」と考えている人がいるとすれば、SIIはその格好の舞台になるのではないだろうか。
【開催済】本記事では紹介しきれなかった「事業家の条件」をプロと実践者が解き明かす特別キックオフイベント
こちらの記事は2019年06月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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