連載bellFace Inside Sales Meetup 2019
画面越しの営業で、商談時間は4分の1に。
オンラインセールスの登場から紐解く、営業組織の展望【エン・ジャパン×クラウドサイン】
HubSpotやMarketoに代表されるツールをはじめ、マーケティングに活かされるテクノロジーは進化を続けている。しかし、セールスに関しては未だ「電話」と「訪問」が主流であり、テクノロジー活用の余地が大きく残されている。
そんな中、技術革新のひとつとして萌芽が現れつつあるのが、「オンラインセールス」だ。2019年1月、「経営」「マネジメント」「現場」の3つの視点から営業変革を追求するイベント「bellFace Inside Sales Meetup 2019〜インサイドセールスの先駆者たち〜」が開催された。本記事では『SESSION #1 経営から営業を変革する』で行われたパネルトークの様子をレポートする。
登壇したのは、エン・ジャパン代表取締役社長の鈴木孝二氏と、弁護士ドットコム執行役員でありクラウドサイン事業部を管掌する橘大地氏だ。両社では営業生産性を高めるためにオンラインセールスを導入した結果、CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得費用)が削減され、営業成績が大きく伸びたという。
オンライン商談による時間削減の効果から、訪問商談とオンライン商談の使い分け方、これからのセールスに求められる姿勢など、新しいセールスの形についての包括的な議論が行われた。
- TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
商談にかかる時間が、従来の4分の1に
オンライン会議ツール「bellFace」をはじめとしたサービスを用いることで、得意先を訪問せずとも成約が望めるオンラインセールス。
フィールドセールス中心の体制から、オンラインセールスの導入によって、エン・ジャパンは4年間でセールス一人当たりの売り上げを1.5倍まで成長させたという。同社が営業組織の変革を行った目的は、数あるセールス業務でもっとも大きな割合を占めていた「移動時間」の削減であった。
オンラインセールス中心の体制への移行がスムーズに進んだという同社には、国内でオンラインセールスの概念が一般的になり始めた2015年よりも前から、企業への訪問回数を極力減らすために電話をフル活用した営業活動を行っていた背景がある。
鈴木自社プロダクトを開発する以前、エン・ジャパンでは代理店として他社プロダクトを提案していました。直販のセールスや競合他社を超える結果を出すためには、圧倒的に効率化するほかなく、受注以外の営業活動はすべて電話で行っていたんです。
相手の顔も見えない状況下でお客さまの課題を聞き出し、商品の利点を伝えることに特化した営業組織だったため、オンラインセールスの導入も順調に進んだのだと認識しています。
一方、もともと弁護士と顧客のマッチングプラットフォーム事業がメインであった弁護士ドットコムでは、クラウドサインの開発に際して、BtoB営業組織の立ち上げをイチから行ったという。立ち上げを進めるなかで、「リードタイムが長大化し、CACが高くなりやすい」というプロダクト特有の課題が浮かび上がった。
そこでオンラインセールスの活用を進めたところ、CACを低く抑えることに成功し、クラウドサイン事業はリリースから3年で3万社のユーザーを獲得できたという。
橘「法務部の承認フローを介さずに契約書の処理はできない」というクラウドサインの特徴上、成約に向けて顧客企業の複数部門から承認を得る必要がありました。たとえば、顧客企業の人事部門にクラウドサインを利用してもらう場合、人事部門だけでなく法務部の承認も必要なんです。さらに、訪問回数がかさんでしまうだけでなく、片方の部署では承認されたがもう一方の部署では承認されず、時間を大幅にロスしてしまうケースも発生する。
そういった状況で、オンラインセールス導入によって移動時間の削減を推進したところ、1回の訪問商談を行う時間で4回のオンライン商談が行えるようになり、CACを大きく抑えられるようになったんです。
訪問しなくても、受注確率と単価は下がらない
続いて、議論のテーマは「営業活動における、訪問の価値」に移った。鈴木氏は、「訪問するかしないかは瑣末な問題で、商談における時間の使い方にこそ着目すべき」と話す。実際にエン・ジャパンでは、オンライン中心の体制に移行したことで商談件数が増えた一方で、受注確率や案件あたりの単価は、訪問営業を中心にしていたときと大きな違いはないという。
鈴木訪問かオンラインかといった形式はさして重要ではなく、「相手と共有する時間をいかに価値あるものにできるか」を考えるべきです。オンラインセールスの本質的な利点も、商談の価値を最大化できる点にある。社員が目の前で営業している様子を監督でき、録画をもとにした振り返りも行えるので、商談時間内に提供できる価値を洗練させやすいんです。
対して橘氏は「オンライン商談はCACを低く抑えられる利点がある一方で、顧客と密接な関係を構築するには訪問商談のほうが優れており、提供するサービスや顧客の特性によって両者を使い分けるべき」と持論を示す。
クラウドサインの月間固定費用は月額1万円と低く設定されているが、サービス機能を一回使用するごとに200円の使用料が課される料金体系になっており、顧客企業の規模によってLTV(Life Time Value:顧客がサービスに対して支払う生涯合計金額の指標)は大きく変わる。
こうしたプロダクト特性から、大規模な企業に対しては、むやみにCACを抑えようとするよりも、継続利用してもらうためにリソースを投下するほうが高い投資対効果を期待できる。
橘社員数が500名に至らない企業との商談の場合、オンラインセールスが契約締結までを行う一方で、社員数が500名以上の規模の企業の場合、CACが大きくなっても問題ないため、訪問商談を行っている。とはいえ500名以上の企業でも、初回の商談のみ訪問して2回目以降はオンラインにするなど、ケースバイケースで対応を変化させてはいます。
しかし、これはあくまでクラウドサインの場合であり、提供するサービスによっては、すべて訪問営業の方が良い場合もあれば、反対に基本的にはオンライン商談の方が望ましい場合もあります。顧客を獲得するのにどれだけのコストをかけられるかを算出し、適切なセールス手法を選択することが大切なのではないでしょうか。
商品の魅力を伝えるだけのセールスは、動画に取って替わられる
パネルトークの終盤、今後のセールスに求められる役割や必要なスキルについて、展望が語られた。鈴木氏は、「セールスが商品を販売する必要がない時代が到来する」と話す。
鈴木セールスに求められる能力は、テンプレート的な営業トークで「商品の魅力を伝える力」ではなく、「顧客の疑問や課題を解消する力」へと変化していくと考えています。これまでは、セールスのゴールは商品を売ることでしたが、それはもはやスタート地点でしかなくなる。顧客が抱える課題を解決していくことで売上を獲得できる営業組織へと変化できるかが鍵だと思います。
橘氏も鈴木氏に同意を示した上で、「テクノロジーについての知識が豊富な人材の価値が上がる」と見解を述べる。
橘営業活動において、人間が紋切り型のセールストークを行う必要はなくなり、動画などを用いることが主流になると思います。人間が機械と比べて優れているのは、インタラクティブな質疑応答ができる点です。だからこそ、顧客の大まかな質問に対して適切に回答できる力の重要性が上がるのではないでしょうか。
加えて、マーケターの転職市場でMarketoを活用できる人材が求められるように、セールスにおいてはbellFaceなどの最新ツールを使いこなせる人材の市場価値が高くなる時代になると思います。
訪問に割り当てられていた時間を大きく削減でき、高い生産性が見込めるオンラインセールス。労働人口が減少しているマクロな社会背景も鑑みると、より効率的なセールス手法が主流になっていくことは間違いないだろう。また時間削減によって効率的な商談を実行するだけでなく、画面録画などを駆使して振り返りを徹底することで、営業組織の地力も底上げされていくはずだ。
こちらの記事は2019年03月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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