CPOのロールモデル、すでに多様化?──CPO協会ワカマツ氏の考察と、注目スタートアップのロールモデルを一挙特集

インタビュイー
ケン ワカマツ
  • DCM Ventures Venture Partner 
  • 一般社団法人日本CPO協会 代表理事/Founder 
  • Sansan株式会社 顧問 

⽶国カリフォルニア州オレンジカウンティ⽣まれ、カリフォルニア⼤学バークレー校出⾝。⼤学卒業後、エンジニアとしてMacromediaに⼊社。その後、Kodak、Adobe、Ciscoを経てSalesforceに⼊社。2016年、Salesforce Japanに出向し、プロダクトマネジャーの責任者として、プロダクトマネジメントチームを⽴ち上げる。 2020年、AI交通費精算サービスを提供する株式会社metrolyに参画。2021年、一般社団法人日本CPO協会を設立。2022年、DCMに入社。DCMのシード投資プログラム、DCM Atlas参加企業のプロダクト開発を支援。

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日本でも増えてきたプロダクトマネージャー(PdM)。それに伴い、CPOも増えている。が、そもそもCPOとはなんだろうか?

VPoPとの違いは?CTOとのすみ分けは?どんな人がCPOになれる?そんな疑問を抱きながら、解消できる情報にはなかなか出会いにくいのが現状だ。それもそのはず、日本においては、まだまだスタートアップエコシステムが未熟なため、会社によって取り組み方が大きく異なるからだ。

一方で、シリコンバレーのスタートアップエコシステムを見れば、PdMの成長環境は非常に整備されていることがわかる。その結果としてCPOやVPoPの存在も多い。

そこで、日本CPO協会ケンワカマツ氏をお招きし、プロダクトマネジメントをめぐる日米の違いや、国内スタートアップの現場課題について詳しく聞いた。さらに、ワカマツ氏とFastGrowがそれぞれ考える、日本のスタートアップにおけるCPO人材ロールモデルの特集も合わせて掲載している。

プロダクト開発に関わるすべてのスタートアップパーソンにとって、改めてマクロな理解を進める一助となれば幸いだ。

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CPO(PdM)育成環境、日米はエコシステム化度合いに大きな差が:ワカマツ氏インタビュー前編

──CPOという立場が、日本のスタートアップでもかなり増えてきています。ワカマツさんとしては、どのタイミングで置かれるべき役職だと考えていますか?

ワカマツスタートアップのフェーズに対して、「この段階でCPOが必要である」と一概に言えるものではありません。それよりも、「どの段階で、プロダクトの責任者という存在が必要であるか」という問いを考えるべきです。

CPOという肩書は、多くの場合、プロダクトの責任者であると同時に役員(経営陣 )なので、創業したときにたまたま創業メンバーがプロダクトを中心に役割を担うようなかたちなら、すぐに設置されますよね。そうでなくても、創業メンバー2人のうち1人がテクノロジー担当だった場合にもう1人がCEO兼CPOとなっているパターンはあり得ます。といってもこの場合には、CPOというタイトルをつけないパターンが多いと思います。

──実際に、CEO兼CPOって、日本ではどなたがあたりますか?

ワカマツ日本CPO協会の理事にもなっているEventHubのCEO山本理恵さん。CEOでもあり、プロダクトの責任を持っている。事業運営もやっているし、経営もしているし、プロダクトの責任者でもあるというようなイメージ。

何にせよ、創業初期だとしても、プロダクトのことをちゃんとプロダクトとして考える人間、つまり責任者は、必要だと思います。

もし、創業者のCEOがエンジニア出身だった場合には、理想的なプロダクト中心の企業というよりは、開発中心のプロダクト企業になりがちで、PMFやグロースに向けて少し困難が生じるとも言えるところはあるかもしれません。

──日本では、エンジニア出身、あるいはビジネスサイド出身のCEOが牽引するスタートアップが少なくありません。どうすべきでしょうか?

ワカマツやはり、早い段階でプロダクトの責任者を入れた方が、「売れるプロダクト」が早くできるとは思います。BtoB SaaSの事業であれば、売れるプロダクトをできるだけ早く作る必要があります。

顧客をよくよく理解している経営者やプロダクト責任者がいれば、「顧客にとって必要なもの」を優先的につくっていくことができます。一方で、「こういうニーズがあるだろう」とエンジニアが考えて、バッと突き進んでつくってしまうと、バランスが崩れる可能性もあります。

例えば、エンジニアがテクニカルであればあるほど、「100%の状態のプロダクトをつくらないとだめだ、基盤が100%じゃなきゃ駄目だ」というような考えを持ちがちだと思うんですね。「ちゃんと作らなきゃ」と。

でも、スタートアップのフェーズで、まだPMFが定かではないとか、まだはっきりとPMFとは言えない状況では、100%を出すよりも大切なことがあります。プロダクトを表現したようなプランだけを出して、本当に売れるかどうかっていうのをヒアリングなどで確かめ、あとから100%にするっていうやり方もあるわけですよね。

そういう意思決定を、プロダクト責任者ができるように、組織を設計すべきなんです。エンジニアに対して、「そこまでやらなくていいからとりあえずここまではちゃんとやって下さい」と伝える部分ですね。それを担うのが、CPOであったりVPoPであったりするわけです。

──CPOというか、経験のあるプロダクト責任者が、創業フェーズからいるに越したことはない、そういう認識ですね。

ワカマツはい、プロダクトの責任者はできるだけ早くいた方がいいと思います。特にBtoBビジネスの場合ですと、やっぱりCEOは経営のこともしっかり考えなきゃいけないし、CTOはアップタイムの高い安定したサービスであることや、データが破損されないセキュアなサービスであることなどを考えなきゃいけない。

そうなると、売れるプロダクトをつくることだけを考える責任者は、いたほうがいい。

──プロダクトマネージャー(PdM)を増やすべきタイミングは、どう考えるべきですか?

ワカマツ今の日本のスタートアップを見ていると、結構早い段階で二つ目・三つ目のプロダクトを作って、どんどんマーケットに出していくっていうかたちになってきていますよね。そうなると、プロダクトの責任者が、複数のプロダクトそれぞれを担うPdMを見ながら、ビジネスのビジョンに複数プロダクトのビジョンをアラインさせる考え方をしていかないといけない。

さらには、つくったものをその後も必要に応じて変容できるようなビジョンを持っていくことができると、優秀なCPO/VPoPだといえますね。

──CPOやVPoP、さらにPdMの存在で、アメリカとの違いはどのような状況なんでしょうか?

ワカマツアメリカでも、CPOというタイトルは、共同創業者が名乗るパターンが多いですね。経営陣ではない場合は、VPoPになるケースが多いです。

CPOがいなくてVPoPしかいない会社で、シリーズBまで成長する会社もあります。

──それで言うとやっぱり、別にアメリカのCPOの設置具合と日本の設置具合の違いって、数は少ないけれども、傾向としてすごい違うとかそういうことはなさそうなんですか。

ワカマツ基本的には、一緒だと思います。ただやっぱり、CPOが必要な規模の会社がアメリカの方が断然多いとは思います。

だから、CPOになり得るPdM人材も、そもそも非常に多いですね。日本と比べると。

──なるほど。アメリカの話も念頭に置きつつ、日本の現状を改めて確認させてください。プロダクト責任者として活躍する人材が増えるために、どのようなことを知っておく必要があるでしょうか?

ワカマツたとえば、BtoBプロダクトにおけるPdMの役割って、結構複雑なんですよ。

──複雑?

ワカマツtoCのプロダクトを作るときって、UIや機能をどんどん変えても、ユーザーが何となく発見して、使って、慣れていってくれる割合が大きいです。

たとえばFacebookというプロダクトなら、「『いいね!』機能ができました」とか、「コメントにコメントができるようになりました」あるいは「Messengerができました」とかっていうのがわかると、「これ便利じゃん」って言ってみんな使い出すじゃないですか。特にお金も払わなくていいし。

でもtoBって、プロダクトが進化するとき、いちいち利用者に伝える必要があるんですよね。GTM、Go-to-Marketが必要になります。

たとえば3ヶ間、プロダクトをつくっている人と営業担当者があまり会話していない状況になっていたとすると、その3ヶ月間のプロダクトの進化が、営業から顧客に伝わっていない恐れがあるんです。逆の言い方をすれば、営業の売り方が、3ヶ月前のプロダクトをそのまま売り続けているかもしれないということですね。

同じように、カスタマーサクセスの人も、新しい機能が出てるのを知らずに、旧来の使い方を説明してしまっている可能性があります。実はすでに、もっと便利な機能があるかもしれないのに。

SaaSプロダクトって、常にイノベーションと改善が含まれるはずなんですけれど、それをちゃんと周知しなくちゃいけない。プロダクトの進化を社内、社外に伝えて、プロダクトを定着化させる責任は、PdMにある。

だからPdMが、ちゃんとセールスのイネーブルメントをしなきゃいけないし、CSやテックサポートのイネーブルメントもしないといけない。役割が非常に多くなっていくんです。

──なるほどですね。BtoBのプロダクト責任者のお仕事は、「プロダクトが売れ続けるように進化し続ける」っていうような言い方ができそうですね。そのためには、プロダクト開発のところだけ見ればいいんじゃなくて、セールスのイネーブルメント、CSのイネーブルメントやマーケティングとかも含めて、GTMをしっかり見なければいけないと。

ワカマツマーケティングもそうですね。例えばChatGPTを導入したのに、誰にも知らされてなかったら、便利に使うことができないので、もったいない(笑)。

あとPRもそうですね。プレスリリースで「○○の機能が出た」というのを、PdMは書いてもらえるように動く必要があります。

こうしたことを、経営者がいつまでもできるかっていうと、結構、早い段階で大変になってきますよね。

──プロダクト責任者が考えるべきことがたくさんあって、しっかり優先度をつけて取り組まなければならないということがわかってきました。そうなると、創業メンバーにPdM人材がいるかいないかで、グロースのスピードも変わってきそうですね。あとでCPO/VPoPを採用しようとしても、そもそも見つけるのが大変ですし、採用直後はスピードダウンしてしまうのではないかなと感じたのですが、実態はどうなのでしょう?

ワカマツそうですね。ポジションに限らず、責任者レイヤーで誰か新しい人を入れると絶対に1時的にはスピードダウンします。これはしょうがないですね。でも、その後のスケールするスピードは速くなります。

特にスタートアップの場合はそうなんですが、会社のフェーズによって課題になってくるところが変わってくるんですよ。例えばエンジニアが増えると、今まで創業メンバーのエンジニア1人が書いていたものを指示を伝えて皆につくってもらわなきゃいけない。これがエンジニアリングマネージャー(EM)の課題ですね。

その状況における課題をプロダクト観点で見ると、1チームから2チームになりつつ、1つのコードベースを同時に進行させるわけです。プロダクトマネジメントの難度は当然、高くなります。開発できる機能は増えますが、依存関係も増えます。しかもその後も、チームは増えるわけですから。

自律した開発チームを複数同時に管理した経験あるプロダクト責任者がいると、その後に新しいプロダクトや機能を開発する際のスケールするスピードは早く、スムーズに開発が進みます。

──新しいチームに、比較的スムーズに入っていけるPdMもいるのでしょうか?

ワカマツ外から入ってきても、すぐにバリューを出せることはあると思います。アメリカではそういうケースが増えています。

というのも、プロダクト開発の進め方が似ていれば、人が入れ替わってもシステムが同じであれば求められていることはそんなに変わらないはずなんですね。シリコンバレーの強さは、プロダクトマネジメントやエンジニアリングを、大規模なテックカンパニーで担ってきた人たちがとても多くなっていて、システムが似ていることにあります。Facebook(Meta)、Google、AWS、Oracle、Workday……そういった企業において、システマチックで、ロール&レスポンシビリティがはっきりした環境に身を置いてきた人が今ではたくさんいます。加えて、2~3年という周期で転職していく人が多いので、組織側も人の入れ替わりに慣れていますね。

特に大事なのは、ロール&レスポンシビリティ(役割と責任)がはっきりしていることですね。シード~アーリーフェーズは曖昧になりがちですが、ここがはっきりすれば、人が入れ替わったり増えたりしても対応しやすい。

シリコンバレーのスタートアップは、仕組みとして、「この会社の規模だったらこういうことができる」が見えやすくなってきています。「シードフェーズだったら、こういうことが求められる」「グロースフェーズでは、こういう人が必要」「大きくスケールさせるフェーズなら、こういうロール&レスポンシビリティを理解している人が求められる」といったことが、はっきりしてきています。そんなエコシステムになっているんですね。

──なるほど。やっぱり日本と一番差が大きいのは、そのエコシステムの形成でしょうか。

ワカマツそう感じます。日本ももちろん、楽天であったり、DeNAやfreeeであったり、そういうところで経験された方たちが、どんどん新しい会社をつくっていますよね。エコシステムがあることにはある。

ただやっぱり、アメリカは数と規模が多いので、その分だけやっぱり人材が増え、相乗効果で強くなっています。

──なるほどですね。さらに言えば、そういう経験をしたPdM人材が自ら起業していけば、創業期からCPOのように動き、いい形でプロダクトをつくれるスタートアップになるわけですね。

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経営ビジョンも大事だが、実現するPdMのすごさももっと伝えたい:ワカマツ氏インタビュー後編

──日本のCPOやVPoP、あるいはPdMまで含め、ロールモデルになるような方として、どなたが思い浮かびますか?

ワカマツやはり、いいプロダクトをつくっている裏には、絶対に良いプロダクト責任者がいる。例えば僕が日本で使っていたプロダクトでやはりいいなと思うのはfreee。

VPoPの宮田善孝さんは、CPO協会でも一緒に仕事させてもらっていて、プロダクトマネジメントの知見と実践力を強く感じます。顧客のニーズを理解して、それをビジネスに持っていけるんです。

ユーザーとしても私は当初、経理のプロダクトとして利用していました。その後に人事法務、労務も使うようになって、シナジーがめちゃくちゃ良かった。共有しているデータやプロセスを入力する二度手間は全くなかった。プロダクトマネジメントが活きる部分ですよね。

──ほかに、「これはすごい」と思うプロダクトには何がありますか?

ワカマツそうですね、toCでは、メルカリはやっぱり面白い。

物を売って得たお金が、メルペイというシステムですぐに利用できる。この展開は、簡単じゃないですよね。しかもそこからカードやメルコインといったさまざまな方面に展開を進めています。もちろん、そうしたビジョンはそもそも経営が持っていたのだと思うんですけど、実際にプロダクト化するCPOを始めとしたPdMのみなさんはすごい。

──CPO協会の理事にもなられていて、今はRABOにジョインされている元メルペイCPO伊豫健夫さんを始めとした、プロダクト責任者さんたちの力と言えそうですね。メルカリの場合、山田進太郎さんとか小泉文明さんといった経営トップに目が行きがちですけど、それを実際にちゃんと売れるもの・広がるものとして実現してるプロダクトのメンバーはすごいことをしている、というのはまだまだ知られていくべきだと言えるのでしょう。最後に、そういったCPO/VPoPとしての活躍をするために、どのような環境でどのような経験を積むべきなのか、お考えをお聞きできますか?

ワカマツプロダクトマネージャーになるには、やはり「元エンジニア」っていうのが王道ではあるんですよね。開発チームの平均点きな作業量を表すベロシティや、プロダクトのクオリティが経験で分かる。最近、子どもたちのなりたい職業で「エンジニア」と答える人がどんどん増えているみたいじゃないですか。素晴らしいことだと感じています。

日本はまだ、ソフトウェアエンジニアがそんなにたくさんいるわけではありません。特にアメリカに比べると、スタートアップのプロダクト開発を経験している人が非常に少ない。まずはここが増えてほしいですね。

僕も、そもそもそんな課題意識から、「日本にはもっと強いプロダクト責任者がたくさん生まれないといけない」と思って、CPO協会を立ち上げました。

──ちなみに、王道以外もこれから増えますか?

ワカマツ例えばですけど、Gunosy創業者の福島良典さん(現LayerX代表取締役CEO)は元エンジニアで経営者になっています。海外で言えばMetaのマーク・ザッカーバーグさんもそうですよね。

このように、今までロールモデルと呼ばれるようなPdMは、エンジニア出身が多かったわけですが、そうでなければPdMになれないわけでは決してありません。

プロダクトマネージメントにはエンジニアリング、ビジネス、そしてデザインとユーザビリティの3つの要素(プロダクトトライアングル)のバランスが必要だと言われています。1人のPdMが全てのスペシャリストでなくても、PdMチームのメンバーがそれぞれのスペシャリストであるチームを構成していく流れがシリコンバレーにはあります。

PdMは営業やマーケティングを実際に進める必要があるかもしれませんし、最低限、ビジネスサイドのそうした担当者さんたちと密接なコミュニケーションをとっていく必要があります。

ユーザーの体験を理解しなければならないという観点、UXデザインのバックグラウンドも活きてくる。メルペイのCPOをやっている成澤真由美さんは、元UXデザイナーでした。

要するに、プロダクトのまわりで関連した仕事をしている人たちがPdMになるっていうのは、全然あり得るんですよ。

ほかにも、コンサルタントからPdMというパスもある。freeeの宮田さんはアクセンチュアでコンサルタントをしていましたよね。

良いCPOになるためにはどういうスキルが必要かっていうと、プレイヤーではなく、マネージャーのスキルが必要です。会社のビジョンを複数のプロダクトで実現する実行力。経営陣とのアラインしながら、マーケティング、営業、CSと連携してプロダクトの社外のイバンジェリストになる。チームの育成、採用能力も必要になります。

──ワカマツさんご存じの中でも、すでにエンジニア以外の出自のPdMが多くいるわけですね。

ワカマツはい、CPO協会の理事もさまざまなバッグラウンドの人がプロダクト責任者になって、ロールモデルになっています。

──ありがとうございます。

次のセクションからは、今注目すべき日本のCPO人材にフォーカスを当てる。

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リクルートから介護スタートアップへ。
巨大市場のDXを、プロダクトマネジメントで推し進める──Rehab for JAPAN若林一寿

『ホットペッパービューティー』と『SUUMO』を知らないビジネスパーソンは、ほとんどいないはず。誰もが認める、日本を代表するtoCプロダクトと言える。この二つ、さらには『Airレジ』も含めた、リクルートの数十に上るプロダクトのデザインを担ってきた──。

それが、介護リハビリテックスタートアップのRehab for JAPANで執行役員CPOを努める若林一寿氏だ。

左が若林氏、右は同社取締役COOの池上晋介氏

先のワカマツ氏インタビューでも言及された「UXデザイン」を、リクルートのさまざまな事業現場で磨いてきた。リードデザイナーや執行役員といった役職も経験した。さらにさかのぼれば、アビームコンサルティングでのコンサルタント経験まで持つ。そんな経歴をひっさげ、介護スタートアップのCPOに就任したのが2020年8月だ。

就任を知らせるプレスリリースには、「プロダクトマネージャーとしてUXデザインとプロダクトマネジメントの双方の役割を担ってきた中で、事業成長に直結する極めて実践的なUXデザイン手法を確立し、リクルートの数々のプロダクト価値を向上させてきた中心人物」とある。

FastGrowが以前取材した際にも、まさに広い視野・高い視座からの業界分析・プロダクトビジョン策定を進めている印象を持った。当時の発言を引用しよう。

一般的に「レガシーな産業」と括られてしまうような介護業界に対しては、現場の抵抗があるのでSaaSで勝負するのは難しいと思われることも少なくありません。

ただ、様々なプロダクトに関わってきた我々からすると、正しくデザインされているプロダクトが入ってきていない、というだけなんですね。現場で働いている人は今の状態でも業務は行えるので、中途半端なプロダクトを見せられても切り替える必要がないですよね。

そこをRehab は変えていきたいですし、目指す「高齢者の生活を変えること」のために、現場の方の事務作業を圧倒的に楽にすることがスタートラインだと考えてます。

──FastGrow『とにかく“イケてるプロダクト”を創ろう──「美容サロンのネット予約」というDXを成した2人が、介護SaaSで躍動するワケ』から引用

Rehab for JAPANはこの2023年2月、シリーズDラウンドとして約11億円の調達を発表。これまでの主力プロダクト『リハプラン』を『Rehab Cloud』とリニューアルし、プラットフォーム型に進化させているほか、オンラインリハビリといった新たなプロダクトも生み出している。

事業・プロダクトの提供価値が大きく、かつ複雑になる中、CPOの手腕がより一層問われるフェーズとなった。だが、リクルートという、巨大プラットフォームをいくつも抱える企業の経験があれば、まさにお手本のようなマネジメントを見せてくれるのだろう。

さらなる事業成長が、どのように示されるのか、楽しみだ。

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「複数プロダクト開発」のお手本となる難しいチャレンジが、まだまだ続く──SmartHR安達隆

過去に『急成長プロダクトを牽引する者たち──SmartHR安達氏、dely奥原氏など、フォローしておきたいPdM 5選』でも取り上げたように、知見・ノウハウの発信に意欲的な、SmartHRの執行役員VP of Product、安達隆氏。自身も日本CPO協会の理事を務める。

同じく理事を務める松栄友希氏を2022年末に迎え入れるなど、多くの凄腕PdMを抱えるSmartHRのプロダクトチームを統括している。

同社の基幹プロダクト『SmartHR』は、非常に多くの機能を抱えており、「複数のプロダクトの集合体」のようなかたちで開発が進められている。大きく分ければ「人事労務」と「タレントマネジメント」の二つとなり、それぞれの中で、0→1から1→10のさまざまなプロダクト開発が走っている状態だ。

そんな複雑な状態を、的確に全体統括するというだけで目が回りそうだ。日本でこの規模のプロダクトマネジメントを担うCPOはそう多くないはずで、手探り状態ながら、安達氏はさまざまな仕組み化・構造化に取り組む。

何も今更“注目のCPO人材”として取り上げるまでもない安達氏を、敢えて取り上げたのは、やはりこの「プロダクトマネジメントが複雑化するタイミングを、いかに乗り越えていくのか」という点で、先進的な挑戦を続け、成果も残しているためだ。

ワカマツ氏の指摘に、「ビジネスのビジョンに複数プロダクトのビジョンをアラインさせる考え方をしていかないといけない」とあった。この壁に、安達氏はすでに何度もぶつかっているわけだ。しかも、ビジネス全体を統括する代表取締役の交代まで、SmartHRでは起こっていた。

にもかかわらず(という言い方は不適切かもしれないが)、ご存じの通り、未上場ながらARRは100億円を超えており、現在の成長を牽引しているのは「第2のプロダクト」と呼べるタレントマネジメント領域だ。しかも、さらなるプロダクトの仕込みも進んでいるという。

「SmartHRのプロダクトマネジメントは、すでに完成されたものである」といったイメージを抱いている読者がもしいたとしたら……声を大にして、伝えたい。「どのSaaS企業よりも、先進的なチャレンジを続けているのが、SmartHRのプロダクトチームなのだ」と。そしてその様子を定期的に紹介してくれるのが、安達氏による発信なのだと。

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「ザ・ロールモデルCPO」が、次はどんなプロダクトを生み出す?──RABO伊豫健夫

最後に紹介したいのが、伊豫健夫氏。ワカマツ氏のインタビューでも登場した、日本CPO協会の理事であり、メルペイでCPOを務めていた。現在は、『catlog』を展開するRABOの執行役員CPOだ。

パナソニックから野村総合研究所を経て、リクルートに入社。その後2015年、上場前のメルカリにジョインし、PdMとしての道を本格的に歩み始めた。

つまり、日本におけるPdMの先駆者として経営人材となった一人と言えるわけだ。

メルカリでは、US版メルカリのプロダクトマネジメントや、国内版メルカリ全体のプロダクトマネジメントを担った後、メルペイの初期にCPOとなった。

そんな伊豫氏がこの2023年4月からジョインしたRABOでは、新たな挑戦に胸を大きく躍らせているようだ。

ワカマツ氏のインタビュー内容から見るに、伊豫氏は典型的なCPOロールモデルと言えよう。メルカリという、日本を代表するプロダクトカンパニーで、立ち上げやグロースなどさまざまなフェーズの経験を積み、経営層も担った後に、より若いスタートアップでCPOを務めることになった。今、挑戦しているのはおそらく、『catlog』を、『メルカリ』よりもすごいプロダクトにしていくということだろう。

RABOの成長が、どのように加速していくのか、今後の展開が気になるばかりだ。

こちらの記事は2023年06月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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