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世界の起業家たちが乗り出す「教育・学校ディスラプション」、
人工知能時代の新たな能力を求めて

細谷 元
  • Livit ライター 

シンガポール在住ライター。主にアジア、中東地域のテック動向をウォッチ。仮想通貨、ドローン、金融工学、機械学習など実践を通じて知識・スキルを吸収中。

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インターネットだけでなくロボット、人工知能と先端テクノロジーの進化・普及が加速するにともない、世の中の変化スピードも速まっている。

一方、変化があまり起こっていない領域も存在する。

その1つが「教育・学校」ではないだろうか。

数十年間ほとんど変わらない状況が続いている。

世界の先端を走り、さまざまな領域をディスラプトしてきた多くの起業家たちにとって、この状況は好ましいものではないようだ。

既存の教育・学校制度に疑問を持つ起業家たちは自ら学校を立ち上げ、これまで不活発だった教育・学校分野のディスラプションに乗り出している。

イーロン・マスク氏が、自身の子どもたちのためにプライベートスクール「Ad Astra」を立ち上げたのは有名な話であるが、この他にも教育・学校ディスラプションを進めようとしている起業家たちが存在する。

起業家たちがこのような取り組みを通じて何を実現しようとしているのか。

世界で起こる教育・学校ディスラプションの現状をお伝えしたい。

  • TEXT BY GEN HOSOYA
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オンライン教育革命をもたらしたカーン・アカデミー創設者の学校

世界中で4000万人が利用しているといわれるオンライン教育プラットフォーム「カーン・アカデミー」。YouTube動画で、簡単な算数から、大学生向けの高等数学、生物、物理、歴史、経済学など幅広いトピックを学べるプラットフォームだ。

カーン・アカデミーの創設者、サルマン・カーン氏はマサチューセッツ工科大学で電子工学、コンピューターサイエンス、数学を学び、ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得。その後2003年、アナリストとしてヘッジファンドに就職した。

その仕事をしながら、親戚の子どもに勉強を教えるために、YouTubeに動画をアップしていたが、その動画の内容が非常に分かりやすいと一気に人気を集めることになる。カーン・アカデミーの動画はこれまでに12億回以上再生されているという。

そんなカーン氏が2014年にカリフォルニア・マウンテンビューに開校したのが「カーン・ラボ・スクール」。カーン・ラボ・スクール(KLS)は、既存の教育・学校システムが産業革命時代から続く古いものであるという認識のもと、新しい教育を模索する学校だ。

産業革命、大量生産・大量消費の時代では、画一的な人材を生み出すことが教育の1つの目的であったが、21世紀の新しい教育は、アントレプレナーシップ、創造性、クリティカル思考などを育て、子どもをエンパワーすることが重要であると説く。

カーン・ラボ・スクール(カーン・ラボ・スクールウェブサイトより)

KLSでは、年齢による学年分けはなく、さまざまな分野の知識・スキルなどでグループピングされる。生徒は「パーソナライズ学習」のプロセスに沿って、自身で学習の内容やスピードを決めることができるという。

カリキュラムは、英語、数学、プログラミング、科学、世界の言語、ウェルネスで構成されている。たとえばプログラミングでは、カーン・アカデミーの動画を活用した自習に加え、ロボットづくり、マインクラフトの改造、そしてjQueryを使ったウェブページ製作まで行う。

自律的に学習する能力を養う一方で、他の生徒とのコミュニケーションや創作プロジェクトも積極的に行い、多くの実験的な取り組みを通して新しい教育を模索していく。これが「ラボ」と名がつく所以である。

人工知能やロボットの登場でこれまで十分とされてきたスキルセットでは通用しなくなるが、KLSではそんな時代でも通用する能力を開発していく考えだ。

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起業に年齢は関係ない、アントレプレナー小学校

KLSが注目するように「アントレプレナーシップ」というのは新しい教育における重要なキーワードになっていくのかもしれない。

企業価値200億ドル、世界中でコワーキングスペース事業を展開するWeWorkはこのほどアントレプレナーシップに重点を置いたプライベート小学校「WeGrow」を開校する計画を明らかにした。現在、ニューヨークで少人数の子どもを対象にカリキュラムの試験運用を行っている。

WeWorkの共同創業者アダム・ノイマン氏と彼の妻レベッカ・ノイマン氏が自分たちの子どものために学校を探したが、ヌーマン夫妻が求める教育を行っている学校を見つけることができず、このことがきっかけとなりWeGrowのコンセプトが生まれたという。

夫妻が学校に求めるもの、それは子どもの精神や心を養い、成長を促進し、子どもの内発的なモチベーション、創造性を高め、それを起業というアウトプットに出せる環境だ。起業には年齢は関係ないという考えが根底にあるようだ。

現在行われている試験プログラムでは、1週間に最低1日、あるスタートアップのオフィス内で、算数や理科・科学に加え、「需要と供給」などビジネス関連のレクチャーが実施されているという。また大企業でも最近取り入れられているマインドフルネス、ヨガ、瞑想などもカリキュラムに含まれるようだ。

この先、WeGrowはWeWorkのスタートアップコミュニティーのネットワークを生かして、子どもたちのアントレプレナーシップを養っていく計画だ。たとえば、デザインに興味にある子どもであれば、コミュニティー内のデザインのプロが講師・メンターとなり、その子どものスキルを伸ばし、ビジネスにつなげられるように支援していく。

WeWorkオフィス(WeWorkプレスキットより)

伝統的な教育制度のなかで育ってきた層にとって、小学校から起業なんて早すぎるのではないかと考えてしまうひともいるかもしれない。しかし、Z世代など新しい世代の価値観は、これまでの尺度では測れないものと考えるほうがよいだろう。なぜなら、新しい世代は生まれたときからスマートフォンやタブレットに触れ、早い段階でソーシャルメディアなどから多様な価値観を吸収しているからだ。

新しい世代は、これまでの世代が考えていたほど起業を特別なものとは思っていないのかもしれない。実際、10歳で自身のファッションブランドを立ち上げた女の子や9歳でネクタイブランドを立ち上げた男の子など米国では活躍する若い起業家が増えている印象だ。こうした新しい価値観が生まれるなかで、その価値観に呼応する教育が生まれるのは必然的と考えることもできる。

時代の変化が激しくなっている今、多くのひとが持つ伝統的な教育への違和感はこれまで以上に大きくなり、それはさらに教育・学校ディスラプションの流れを加速させるはずだ。

こちらの記事は2017年12月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

細谷 元

シンガポール在住ライター。主にアジア、中東地域のテック動向をウォッチ。仮想通貨、ドローン、金融工学、機械学習など実践を通じて知識・スキルを吸収中。

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