連載イノベーション・メカニズム

大きな「不条理」の解消こそ、イノベーションだ──業界慣習に疑問を持ち続けたユーザーライクに、産業アップデートのノウハウを学ぶ

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インタビュイー
武井 亮太

宇都宮大学教育学部卒、新卒ベンチャーバンク、その後HRスタートアップの事業グロースを経て、花き産業への可能性を感じ2014年9月に株式会社Crunch Style(現ユーザーライク株式会社)を創業。もともとは教師を目指していたが、より多くの人へ影響を与えたいという想いから起業に至る。ユーザー起点でサステイナブルな産業構造へと花き業界をアップデートし、花を飾る文化を日本中に普及を目指し、2016年6月より花のサブスクリプションサービス「ブルーミー(bloomee)」を開始。

徳谷 智史

企業変革請負人。人財・組織開発のプロフェッショナル。京都大学卒業後、大手戦略コンサルティング会社に入社。国内PJリーダーを経験後、アジアオフィスを立ち上げ代表に就任。その後、「いまだない価値を創り出し、人が本来持つ可能性を実現し合う世界を創る」べく、エッグフォワードを設立。総合商社、メガバンク、戦略コンサルなど、業界トップ企業から、先進スタートアップまで企業変革/投資を手がける。近年は、AI等を活用したHR Tech分野の取り組み、事業開発や、個の価値を最大化する意志決定・キャリア支援サービスみんなのエージェント他を運営。高校・大学などの教育機関支援にも携わる。NewsPicksキャリア分野プロフェッサー。東洋経済Online連載、著書「いま、決める力」、Podcast「経営中毒~誰にも言えない社長の孤独」メインMC等

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なんとなく閉塞感を覚えるこの時代。人々が欲しているのは、既存の枠組みに、抜本的な変革をもたらし、新たなライフスタイルを創造する──、そんなイノベーションではないだろうか。日本でもさまざまなスタートアップが「市場が抱える根深い課題を解決する!」と高らかに宣言して立ち上がるようになった。だが実際に成果を創出しているのはほんのひと握りというところだろう。

今回はその「ひと握り」のなかでも、まさに「イノベーションの構造をつくった」と言えるスタートアップに迫りたい。お花が自宅に届くサブスクリプションサービス『bloomee(ブルーミー)』を展開する、ユーザーライクだ。エッグフォワード代表取締役社長の徳谷智史氏が、その裏側を徹底解剖する連載「イノベーション・メカニズム」。2回目のゲストとして、代表取締役CEOの武井亮太氏をお招きした。

事業の急成長と同時に、花き産業・業界に大きな変化を促し、実現させてきている。徳谷氏はその「産業変革をもたらしたイノベーションの実現構造」を読み解き、その要因として、「ユーザー起点というミッション」と「創業者のゼロベース思考」を挙げた。その内容を、じっくり探っていこう。

  • TEXT BY REI ICHINOSE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「レガシー産業におけるイノベーション」を、実践的な形で構造化

徳谷氏がこの記事で解き明かしていくのは、「旧来の慣習や仕組みなどが原因で変化が起きにくい産業・業界において、イノベーションを地道に実現していくための構造論だ。まず直球で、その裏側にある具体的な考え方から探っていく。

徳谷言うなれば、「レガシー」とも言われるような産業を内部からじわじわ変革させたのがユーザーライクさんですよね。しかもそれをBtoCサブスクリプションサービスで実現しているというのが面白いです。間違いなく、他のスタートアップも参考にできるイノベーションの構造が隠れているんだろうなと感じています。

産業や市場に対する働きかけに、非常にユニークで素晴らしいものがあるはず。それを思い切り解き明かしていきたいと思っています(笑)。

武井ありがとうございます。

イノベーションと言ってもらえるようなカッコいいことを私たちが成し遂げられているとしたら、それは「不条理な負」を解消した部分があるからなのかなと思っています。

徳谷「不条理な負」って、あまり聞かない、興味深い言葉ですね。

武井ユーザーさんはお花について、「もっと安くて気軽に手に取れるとうれしい」と感じているんです。でもそれが実現されていない現状があった。もしかしたら産業や市場に、それを妨げるかのような内情があるのかもしれない。市場を運営しているみなさんが悪いとかでは決してありません。良い取り組みを新たに創出する余地がどこかにあるはずだと思ったんです。

課題を捉え、解消するためにどのようなアプローチが重要か、手探りで地道に続けて仲間を増やしてきた結果が今、出始めているのかなと思います。

徳谷なるほど。こうした産業では、生産者さんや流通業者さん、小売事業者さんといった流れ、いわゆるバリューチェーンが、ステークホルダーの数も多くて複雑です。しかも歴史も長いので、それぞれの仕組みがしっかり固まっています。良くも悪くも、簡単には崩れないというか、変化が生まれにくい。

産業の成り立ちを俯瞰しながら、「不条理な負」を捉え、カギとなるステークホルダー、言い換えるなら「業界のキーパーソン」の存在を突き止めた。そして正論だけではなく、順序立てて、地道に働きかけることで、一緒に変化をつくる仲間を増やしてきた。

このように口で言うのは簡単なことで、現場はものすごく大変な繰り返しだったと思いますが(苦笑)。

他の産業においても変革を実現していく、そのためのイノベーション・メカニズムを解き明かそうとする徳谷氏。まず注目したのは長いバリューチェーンと、多様なステークホルダーだ。

もちろん、徳谷氏がすでに指摘するように、実際に進めることが何よりも難しい。なぜユーザーライクはここまで進むことができたのか。

次のセクションから具体的に確認し、メカニズムを学んでいこう。

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業界構造上の「どうしようもない課題」を、異なる角度やタイミングから、順序立てて解消

「不条理な負」をどのように見つけ、どのようにアプローチしていくのか。この方法論を知りたいという読者はおそらく少なくないだろう。徳谷氏が切り込むのも、もちろんこの点だ。すると見えてきたのはやはり、「業界における構造の裏側」だった。

徳谷ところで「不条理な負」は、花き産業の流通全体のところどころにおそらく存在しているものですよね。ステークホルダーさんそれぞれがいる中で、課題発見の流れをお聞きできますか?

武井はい。生産者さんや市場関係者さん、卸売業者さんといった長い流通経路にかかわるステークホルダーのみなさんとお話をしていると、「生産者さんはああ言っている」「お花屋さんはこう言っている」というように、ユーザーさん以外のお話が多く出てくることに気が付きました。私たちが「不条理」を感じた要因の一つが、ここにあります。

徳谷なるほど。ユーザー視点ではなく、それぞれ都合に起因する不条理があったと。そうした課題感を持つようになって、それからどのようにアプローチしていったんですか?乗り越えてきた壁や取り組みについていくつか具体的にお聞きしたいです。

武井はい、象徴的な事例が三つあります。

一つ目は、販売店さんとの関係構築です。「ユーザーさんがお花を身近なものと感じるようになるためには、当然価格が安くなる必要がある」ということを、ユーザーさんの声と共に販売店に伝え続けたのですが、理想論だけでは足りないと感じました。

そこで「安ければ身近に感じてもらえる」ということを実際に示すため、身銭を切って安く提供し、証明しようとしたことが何度もあります(笑)。結果としてちゃんと売れて、納得していただけたので、良い取り組みでした。

徳谷そういうこともあったんですね……。価格感度の仮説を検証した。つまり、価格が下がればどの程度、顧客層が拡大できるのかを身をもって検証した、と同時に取り組みの本気度を示すということでしょうか。創業時のキャッシュはものすごく重要だと思いますので、武井さんたちの強い意志を、改めて感じます。

武井短期的には投資回収できないものでしたが、花き業界で仲間を増やし、事業を拡大していくために、欠かせないステップだったと振り返っています。

業界の外から課題を指摘するなんてことなら、誰にだってできる。そうではなく、どれだけ踏み込んで、自分ごと化して、現場の人たち以上の熱量で取り組むことができるか。ユーザーライクは、「身銭を切る」という行為で熱量や本気度を示し、かつ、ロジックが成り立つことも伝えたのだ。徳谷氏も納得の表情を見せる。

武井もう一つは、市場における新たな「規格」の実現です。ユーザーさんへの価値提供をより大きく、よりスピーディーにするため、従来よりも茎の長さが短いお花を市場で新たに取り扱えるようにしたんです。

「茎の短い花は売れない」という固定観念があり、生産者さんも市場運営者さんもこれまでは廃棄してしまっていたお花があったんです。でも、『ブルーミー』のユーザーさんにしてみれば、贈答用ではなく、自宅で小さく飾るだけなので、短くても全く問題ない。なので私たちの販売量も多くなってきたタイミングで実際に話を持ち掛け、ニーズがあることを具体的に示すことで実現できました。これは、業界全体で廃棄を減らすことができたという点でも良かったですね。

徳谷要は、慣習で無理だと言っている理由がなぜなのかを徹底的に深堀りすることが大事なのでしょうね。当たり前だった課題を深堀りすると、解決の糸口が見えてきたと。今回で言えば、そもそも違う顧客セグメントを狙うことで、解消する道筋を描けたということなのかなと。

武井はい。そして最後の一つは、自社工場の設置です。これはシンプルで、事業拡大に伴って、より効率的かつ安価な商品提供を実現するために流通を一部ショートカットするような仕組みを構築したということですね。ただ、業界内で関係構築が不十分だったら、仕入れができなくなるといった事態も起こり得るので、慎重に進める必要があることだとも思います。

徳谷なるほど。流通構造の課題をどのタイミングで解消しに行くのか、ですね!やはり、さまざまなステークホルダーさんとの関係性を地道に構築してきた後だからこそ、一つひとつの変化を実現し、産業変革をかたちづくってこれたのだと感じました。泥臭く取り組み続けて、イノベーションを実現した。素晴らしいストーリーですね!

ただ、こうしてみると、お花の流通って、生産から出荷、卸、仕入れ、小売りといったかたちがあってものすごく複雑ですよね。その中で、市場における「不条理」を少しずつ乗り越えた。

それがなぜできたのかというと、「価格が過剰に上がってしまう」、その裏側にある「廃棄」や、「過剰な流通構造」つまり、表面上の複数の課題がある中でその因果関係を特定していること。更に、その上で、廃棄の裏側にある、茎の規格にもあったように、何故「その課題が課題のままであるのか」をゼロベースで深堀している点が非常に興味深いです。

徳谷ただ、更に重要なのは、どのタイミングで、ステークホルダーさんの協力を得るかという観点。そこまで打算的だったわけではなかったと思いますが、影響力の大きな市場運営企業さんや卸売業者さんというステークホルダーとのつながりを強化することで、じわじわと前進してきたのかなと。

また、自社工場は「卸」や「仕入れ」の従来工程を変化させていますが、武井さんがおっしゃる通り、市場関係者さんや農家さんとの関係性をしっかり構築したうえでなければ進められない取り組みのはず。

ステークホルダーさんに寄り添い、地道に取り組んできた。時間はそれなりにかかったかもしれませんが、まさにお手本のような産業DXだと感じます。

ここまで、ユーザーライクが取り組んできた流れを聞き、その「構造」の美しさと、ステークホルダーを巻き込む「地道」さを脳内でイメージして「まさにお手本」と称した徳谷氏。

歴史ある複雑な事業領域だからこそ、とにかく関係性の構築が必要になる。地道に取り組んできたことが、時間はかかったとしても大きな意味を持つようになっていく。そんな構造が見えてきた。

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理想のアプローチ法は、「ユーザー起点」と「ゼロベース思考」

さて、徳谷氏による「構造」の解明は進んできたが、まだまだ気になる点はある。「なぜできたのか?」という観点で、さらなる秘密もあるはずだ。そう、先に触れた「ユーザー起点」と「ゼロベース思考」について、ここから深く聞いていく。

徳谷ところで、そもそも『ブルーミー』って、ものすごくユーザーに寄り添ったサービスですよね。この点も、変革の実現に大きく影響を及ぼしていそうです。

武井はい。僕らは常に「ユーザーさん」と言うかたちで、“さん付け”にしています。これは、丁寧に呼んでいるというだけではありません。

花き市場という大きな事業領域の中で、日々、さまざまなステークホルダーとやり取りをしています。目指すことに共感してもらうためにも、主語が僕らになるのではなく「ユーザーさん」になるよう、強く意識しています。

徳谷すごく興味深い。共感を呼び、仲間を増やしていくために、非常に重要なことですね。歴史ある産業・業界に変化をもたらすためのアプローチとして、一つの理想形だと感じます。

徳谷ユーザーライクさんの歩みはまさに、「産業DXというイノベーションを、構造化」した例だと、先ほどから何度か確認させていただいています。

業界課題を指摘するだけなら、外部からできるかもしれません。でもそうではなく武井さんたちは、創業者の意志と、そこから生まれたミッションに忠実に取り組み続けて、少しずつ確実に変化を促してきた。

その中でポイントになったのが、課題を常に「ユーザー起点」で捉えて語ることだったんですね。そして創業者が業界について知見を持たずゼロベースで向き合っていたことですね。

武井そうですね。偉そうに指摘しても何も進まないので、「ユーザー起点」をとにかく意識することで、仲間を少しずつ増やしていったということになります。

まずは関係性構築の裏側にあった重要な思想が見えてきた。ミッション「ユーザーさんの、うれしいを創る」からバリューにも落とし込まれている、「ユーザー起点」の考え方だ。

これが徹底されているから、「部外者が偉そうに課題を指摘してきた」という受け止めにならず、仲間づくりができたというわけなのだろう。

そしてもう一つ、「ゼロベース思考」は、武井氏が以前から花に強い興味があったわけでもないという意外な事実に基づくものだ。

徳谷ところで、「不条理な負」って、どのように見つけてこれたのでしょう?

武井「これ、本当に変えられないんだっけ?」って思うようなこと、時々ありませんか?うちで言えば「お花を低価格で、自宅に配送するって、本当にできないんだっけ?」と何度も問いかけてきました。

なんで変わっていないのかを調べ、探っていくと、実は本気でやれば変えられることだったりする。これまでの関係や文化、慣習といったしがらみのせいで変わってこなかっただけのことだったりするんです。

徳谷面白いですね。でももうちょっと深く聞かせてください。なぜ、何度も問いかけて、課題にたどり着けたのでしょうか?

武井私が「花」のことをほとんど知らずに、このマーケットで起業したからかもしれませんね(笑)。

徳谷あれ、花がお好きだったわけじゃないんでしたっけ?

武井はい、正直に言うと、当時は特別好きというほどではありませんでした……。でもだからこそ、この業界で起業することを決断できました。

というのも、「ビジネスで関わりを持っていた範囲や、趣味として知見があるような領域では、起業しない」と決めていたんです。自分が業界や商材に詳しかったり、好きだったりすると、さまざまな意思決定においてどうしても良くないバイアスがかかってしまう気がしていたので。

脳内にある固定観念や前例をぬぐいながらビジネスを進めるより、知識が乏しい業界でゼロベースから積み上げていく。このほうが、大きなインパクトを生み出す事業となるまでのスピードを、むしろ速められるかもしれないと考えていました。

徳谷めちゃくちゃ面白いですね!「不条理な負」に着目できたのは、バイアスを持たない業界に身を置いたためなんですね。ゼロベースで業界の構造を捉えられたということですね。

好きな業界であっても、ゼロベースで捉えたら良いのかもしれないですが、武井さんもおっしゃったように、バイアスがかかってしまいやすい。

ここで「知見や経験を全く持たない業界やマーケットで起業してうまくいくなんて、偶然ではないのか?」といった疑問を持つ読者もいるだろう。だが徳谷氏に言わせれば、そんなことはまったくない。

徳谷業界に関する経験や知識がなくても、事業は生み出せます。

むしろ私は、「ビジネスは、思い描いた以上にはならない」という考えを持っていて、前提知識がないことがプラスに働く事例も知っています。

起業家や経営者は「いつかこうなったらいいな」と議論して、ミッションやビジョンを掲げますよね?これらを大きなものにする際に、前提知識がその邪魔をする可能性があります。武井さんは、そうした事態を避けることができる状態だったわけですね。

武井そうですね。まあ、さすがに花き事業者さんたちからは当初、「価格の相場をぜんぜん知らないじゃないか」だとか「花の価値をわかっているのか?」だとかいったご指摘もいただいてしまっていましたが(苦笑)。

徳谷今でこそ笑い話のように振り返ることができると思いますが、そこは大変だったでしょうね……。

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「再現性ある構造」×「胆力」が、イノベーションの必須条件

ユーザーライク流のイノベーションについて、そのメカニズム(構造)が解明されてきた。最後に徳谷氏が投げかけるのが、「再現性」についての議論だ。

徳谷ユーザーライクさんは既に、難しい領域でイノベーションを起こしつつある。この構造は、同様にしがらみの多そうな産業の領域でも再現できる要素を持っているのだろうと感じます。

理論的には間違いなく再現性がある、そんなメカニズムになっているように感じるので、最後にこの点を解明していきたいです。

武井「再現性」は私も大切だと思っています、実践が伴っていないのでこれから検証というところですが……。この観点で、私たちは花き業界での経験を違う業界に横展開したいと思っています。これまでチャレンジしてきたイノベーションに、再現性を持たせ、広げていきたい。

「ユーザーさんの、うれしいを創る」というミッションにこだわるからには当たり前なのですが。

ただ、「横展開」と言葉にするのは簡単で、おそらく実際にはものすごく難しい。

ここまでは四苦八苦してなんとか成功をつくってきたわけなのですが、偶発的な要素も少なからずあったのではないかと感じます。だから、全く同じことを全く同じように進めただけでは、再現されないのでしょう。

徳谷そうかもしれませんが、それでも、花き業界で実現してきたことを横展開していくのは、とても面白いチャレンジになると思います。違う領域でも必ず通用しうる経験と強みを、ユーザーライクさんは備えていると思いました。それが、ミッションに紐づくバリューの「ユーザー起点」への強いこだわりと、武井さんたちが持つ「ゼロベース思考」でしょう。

徳谷氏はユーザーライクの強みを改めて確認しつつ、今後あり得る流れについて思考を巡らせる。指摘したのは、「構造」には再現性がある一方で、ビジネスモデルといった部分で変化は必要になるという点だ。

徳谷もちろん、武井さんがおっしゃるように、簡単では決してないでしょうね。今回ブルーミーで低価格のモデルが実現できたのも、従来の「都度売り切り」の花の販売モデルから、サブスクリプションに変えたからですね。顧客の中長期でのLTVをベースに収益が考えられるようになったからこそ、1回あたりの単価を下げても収支が成り立つようになったということ。

とはいえ、「他の不条理の負を、サブスクリプションのデリバリービジネスという形で解決します」というビジネスモデルの部分も、どこかを変える必要が出てくるかもしれません。

でも「ステークホルダーが多くて不条理の負を抱える業界を変え、最終的にBtoCのユーザーにメリットが届く」というメカニズムを横展開していく挑戦。これは、他の業界でも十分可能だと思っています。

今日のお話にもありましたが、そういうところこそ、ユーザーは多く、裾野は広い。

武井ありがとうございます。横展開できる仕組みをつくれていたとしても、結局説得していくのはゼロからなので、泥臭い積み上げは必須になりますね。

徳谷そうですよね。対話を繰り返し、地道に関係を創ってきたことがある意味で最大の差別化だったのかもしれませんね。ブルーミーについても、今後はより一層、ディフェンスを意識していく必要がありそうですね。競合との闘いが本格化しそうです。

すでに業界にイノベーションを起こしてしまっているので、ゼロベースというスタンスでのメリットを得にくくなる。自ら、「不条理な負」を捉えるのが難しくなってしまいそうですね。いわゆるイノベーションのジレンマです。

武井そうですね。私自身の思考を改めてアップデートしたり、新たに業界外の人の意見を取り入れる仕組みを整えたり、といった取り組みが必要になりそうです。闇雲にやり続けるのではなく、いつまでも業界全体を俯瞰的に捉え、トライする。

私たちは何者でもない。これまで業界を作ってきた方々がいたからこそ今がある事を忘れず、いつまでもステークホルダー全体へのリスペクトを大切にしていきたいです。

「横展開」は非常に楽しみな構想だが、口で言うほど簡単なことでは決してない。それでも、期待せずにはいられない。そんな想いを抱かせる「イノベーションの構造」が、ユーザーライクのこれまでのストーリーから読み取れる。これが徳谷氏による最後のまとめだ。

この「構造」はきっと、読者諸君も広く応用できるものだろう。実直に挑み続けることができれば、産業DXというイノベーションを起こすことだって夢じゃない。

もっとも、「人並外れた胆力」こそがおそらく最も不可欠なものなのであり、これを持ち合わせる人物がほとんどいないということが日本の、そして世界の課題なのだが。

こちらの記事は2022年11月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

いちのせ れい

写真

藤田 慎一郎

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