カルチャーは事業成長の源泉。
「ユーザー起点×データ」にこだわる組織文化をどのように創り、浸透しているのかをCEO武井・CMO戸口とReBoost河合に聞く
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30名規模といまだ小規模ながら、累計約40億円の資金調達を実施し、事業・組織ともに急拡大を見せているフェーズにあるユーザーライク(旧Crunch Style)。花のサブスクサービス『bloomee(ブルーミー)』の急速成長を維持しつつ、新規事業も仕掛けていこうとする野心を、前回のインタビューで代表取締役CEOの武井亮太氏に聞いた。
今回は、取締役CMOの戸口興氏と、人事・組織のアドバイザーとしてユーザーライクをサポートしているReBoost代表取締役の河合聡一郎氏の両名も交え、『ブルーミー』の急成長を実現させた組織戦略・人事戦略に迫る。
事業成長を牽引してきた戸口氏に、「ユーザー起点」の徹底度合いや、それを実現するための組織・人事戦略をじっくり聞いた。それらの何がユーザーライク社に特有で、優れている点なのか、ラクスル創業時に人事マネジャーを務めるなど数々のスタートアップを組織・人事面でサポートしてきた河合氏の解説付きだ。
- TEXT BY SHO HIGUCHI
- PHOTO BY TOMOKO HANAI
ユーザー起点とデータドリブンが競争優位性の源泉
「ユーザー起点」が重要なことなど、ビジネスパーソンにとっては自明のことだ。しかし、「ユーザー起点」を的確に実践し続ける組織をつくれるかどうか、となると、話は違ってくる。
花のサブスクサービスで圧倒的なポジションを確立するに至ったスタートアップである、ユーザーライク。バリューの中心に掲げる「ユーザー起点」と、それを基にした「データドリブン」の緻密な戦略や意思決定により、スピード成長を実現してきた。
もちろん、マーケティングや事業開発といった現場での努力の賜物である。だが、そのための地盤整備として、組織づくりにも並々ならぬこだわりを持つのがこの企業だ。採用活動やカルチャー浸透といったさまざまな文脈において、意外にもウェットなコミュニケーションによる関係性構築を徹底することで、「ユーザー起点」と「データドリブン」を実践している。
戸口競争優位性というのは、ビジネスモデルや価格といった表面的な部分だけにとどまらないものです。一歩深く目立たない部分で、独自の強みを構築していくべきだと思います。例えば、花材の仕入れは独自データ活用と予測可能な定期的大量発注ならではの工夫ができますし、花という感性的な体験を定量的に高速で改善できるオペレーションなども可能になります。それらを組織的に実行できるカルチャーも、目立たない競争優位性の一つだと認識しています。
長期にわたってマーケットのNo.1として成長し、マーケット全体を盛り上げていきたい。そのためには、組織全体でユーザー起点で物事を考えられること、定量データに基づいて意思決定の質を高めることが重要です。そして、それらの意見をメンバー同士で率直にフィードバックし合える雰囲気が必要です。
武井ただ、定量データを常に重視していると伝えると、「冷たいコミュニケーションによる淡白な組織」というようなイメージを持たれるケースもあるんです。でも、そんなことは全くありません。
ユーザー起点やデータドリブンを、組織のカルチャーとして根付かせることによって、長い目で見た競争優位性を築こうとしています。より良いものを創るためなら、いい意味で言い合える関係性というか、ウェットなコミュニケーションも欠かすことができないはずなんです。この点は誤解もあるので、強調しておきたいですね。メンバーの関係値を、よりフランクで、より濃いものにしていく組織開発は、最重要といっても過言ではないくらいに注力しています。
順調なグロースを続けるユーザーライクの組織づくりの裏側には、「ユーザー起点」と「データドリブン」の綿密な両立、そしてそれを可能にする「メンバーのウェットなコミュニケーション」がある。
河合単なるサブスクではなく、本当に革新的な事業をしていると感じます。花き業界を根本から変革することで、エンドユーザーであるお花の購入者一人ひとりが、より彩りのある生活を送ることができるように考えられているんです。
そのために、徹底した定量データの収集と分析・活用をしている。しかもメンバー全員が自然に意識して、より良い業界の在り方を探っています。
経営陣が「データドリブンだ」あるいは「ユーザー起点だ」と掲げていたとしても、それが組織全体に浸透しているスタートアップはそう多くない。そもそも、「データドリブンだ」などと伝えるだけでは、おそらくそう簡単には浸透していかないのだろう。
ではどうすればいいのか。そのヒントがユーザーライクにある。「ウェットなコミュニケーション」による組織開発と同時に推進することで、中長期目線に立った理想の事業・組織展開を実現しているのだ。
この点で、ユーザーライクというスタートアップは明らかにユニークだ。このように、いまやカルチャーとしてしっかり浸透しているこの強みを、今回は多面的に解剖していく。
表面的に見えづらい競争優位性「組織カルチャー」
まずは「ユーザー起点」について、先日の武井氏単独インタビューで語られたこだわりをさらに深堀りするかたちで聞いていきたい。
戸口「ユーザー起点」の私たちなりの定義をお伝えすると、「事業のグロースと、ユーザーさんの嬉しいを、両立できること」です。
ユーザーさんと話して要望や希望を知ることは重要ですが、そのまま鵜呑みにしてサービスに反映させては「ユーザー起点を実践できている」とは言えません。
どう解釈して何を課題と定義するのか、具体的にどういう手段で解決すべきなのか。一人のユーザーさんから発見した新たな仮説を、定量データと付き合わせ、事業のグロースを目指します。
個人レベルでこの視座を獲得するだけでは、持続的なグロースは望めません。組織レベルでしっかり根付かせる必要があります。だから社内でしつこいくらいに伝えつつ、メンバー同士で良い意味で言い合えるような関係性を目指しています。
河合特徴的なのが、全職種において、ユーザーヒアリングを行っているという取り組みの存在かなと思います。マーケターやプロダクトマネジャー(PdM)が行うのはよくあるケースですが、エンジニアやデザイナー、さらにはHRや経理を担当するメンバーまでがユーザーヒアリングを行っている会社は稀有です。ここまでユーザーさんに対しての感度と解像度を上げ、情報を取り続けることに真摯に向き合うことを徹底している会社は、少ないなと思います。
でもそれを続けているから、ユーザーライクさんはいま、独自のポジションを確立できていると思います。戸口さんがおっしゃるように、「事業のグロース」のための実践を、組織で進めることができているからかなと。
全メンバーがユーザーヒアリングを行う組織という特徴。その背景にあるのは、「事業グロースを至上命題としたユーザー起点の思想」だ。
戸口象徴的な事例があります。ある社内メンバーの奥さんが『ブルーミー』のユーザーさんで、普段の何気ない会話で「同梱されている花材カードが汚れていた」という指摘があったそうなんです。それを聞いたメンバーが、写真付きで社内Slackで伝えてくれたんですよね。
そしたら、梱包工場の責任者が即座にキャッチして、当日中に出荷工場のオペレーションを見直し改善したんです。ユーザーさんの声を全メンバーが大切にしており、うれしい話も改善点も日常的に交わしている関係性だからこそ、部門や立場を越えたこうした連携が自然発生します。これがユーザーライクらしさだと思っています。
武井でも正直、数年前までは、メンバー全員が「ユーザー起点」ということを意識しているわけでもありませんでした。転機となったのが、ミッションとバリューをリニューアルしたタイミング。戸口が入社から1年ほど経った頃で、「じゃあ、それを体現して示していこう」という流れをつくってくれました。そこからマネージャーも含め、浸透に向けて全社的に協力し続けてきました。
ユーザーさんに徹底して寄り添うマーケターだった戸口が、その思想を広げ、浸透させるため、組織づくりに動き続けてくれているわけです。
戸口ユーザーさんと直接話して、実在するニーズの解像度を上げること。この優先度は、絶対に下げてはならない。施策として普遍的に重要なんです、ユーザーヒアリングというのは。
最も大切にしている「ユーザー起点」を、根本から支えるものですから。
執拗なほどに繰り返し説かれる、ユーザーヒアリングへの想い。
真の「ユーザー起点」は、実在するユーザーにヒアリングしなければ、実現できない。言葉にしてみれば当たり前のことのように思えるが、実践できていないスタートアップも多いだろう。それを敢えて、ユーザーライクは徹底している。
戸口私がユーザーヒアリングの重要性を学んだのは、大学時代に複数社でインターンしていたのですが、特に2社からの経験が大きいです。
一社はUX分析のコンサルティングで、もう一社はCtoCサービスを運営している企業でした。
UX分析では、リリースやリニューアルに向け、サービスを実際に顧客に使って貰い、その行動を分析をして改善提案をするんですが、驚くほど多くのサービスが顧客を起点にしてつくられていないことを感じていました。
つくり手としての視点のみで、機能やUI/UXをつくってしまっていて、実際の顧客が価値と感じていなかった事例を多く見てきました。
もう一社のCtoCスタートアップは、当時シリーズBかCのフェーズで、全社的に顧客起点にこだわっており、ユーザーヒアリングも行っていました。「それ、ユーザーさん的にはどうなの?」と機能開発や施策の主語がすべて顧客だったんですよね。
これらがいまにつながるマーケターとしての原体験です。
それ以来、どこの企業でもどのプロジェクトでも、顧客から物事を見て考える「ユーザー起点」と、それに必要なユーザーヒアリングを実施してきました。
河合単に「やろう!」と言うだけでは、なかなか浸透しづらいですよね。「ユーザー起点」の定義や、「なぜ必要なのか?」と言った背景を、繰り返し伝え続けているから、浸透している。そうした時間のかかる地道な取り組みを当たり前のように続けていらっしゃるのが、武井さんと戸口さんの経営者としての強みだと感じます。
こうしたことを何年も続けるのって、組織が大きくなると本当に難しいんですよね。
戸口「ユーザー起点」の私たちなりの定義を改めてお伝えすると、「事業のグロースと、ユーザーさんの嬉しいを、両立できること」です。
よく勘違いされるのですが、「ユーザーさんが嬉しければ(事業成長しなくても)良い」なんてことはあり得ません。常に両方を満たす意思決定を目指す必要があります。
こうした意識を強く持って、全員がユーザーさんに向き合うから、結果として良い改善が進み、事業のグロースを続けられるんです。
戸口「より良いユーザーヒアリング」のための仕組みも整えています。ある仮説や課題感から、こういうユーザーさんにヒアリングしたい、という要望があればどんな部署の人でも、次の週には数人のユーザーさんと話す予定がGoogleカレンダーにセットされます。
また、ヒアリングのフォーマットや、ヒアリングから出た新しい仮説や施策、分析の整理といった情報共有の仕組みも改善が続いています。
こうした仕組み化を泥臭く増やしてきたことにより、データドリブンな戦略や意思決定が可能になっている。経営陣もメンバークラスも全員が、起案・提案時には必ず定量データによるシミュレーションを行っているのだが、その背景にあるユーザーヒアリングの裏付けは大きな意味を持っている。
この「ユーザー起点」と「データドリブン」のかけ合わせが、先ほど戸口氏の言葉にあった「競争優位性の源泉」となるのだろう。その流れを次に追っていきたい。
目指すのは「共創型のマーケットリーダー」
スタートアップではよく掲げられる「データドリブン」という事業マインド。だが、ユーザーライクの徹底ぶりは並大抵のものではない。その裏側には、花き業界において目指している姿がある。それは、ディスラプトするのではなく、共創を生み出し続けるマーケットリーダーという姿だ。
戸口感覚的な直感を補強するためにも、定量データに基づいた意思決定が必要です。
お花ですから、買う人は「なんとなくきれいだ」と感じて買うことが多いし、花屋さんも生産者さんも「これがきれいだからお客さんに受けそう」と感覚に頼らざるを得ないところがある。そういう世界で、私たちはいままで存在しなかったデータを生成し分析することで、「最近の○○な人は、○○な理由で、○○なお花が好きです」と伝えていくことができるようになります。いまの顧客に求められている花の生産に注力できるようになると。
武井歴史の長い花き業界において、こんなプレイヤーはいなかったわけです。いま私たちは、生産者さん・市場・エンドユーザーさんがすべてつながる一気通貫の定量データを組み上げ、蓄積しています。史上初の試みだと思って取り組んでいるところです。
花き業界では、購入も生産も感性に基づいて行われる、つまり定量データは扱われにくい、というのは読者も想像しやすい話だろう。そこに大きな社会的意義が眠っていると、ユーザーライクは睨んだわけだ。
戸口例えば、何月で、どの花材が、どのくらいの品質として届けられて、ユーザーさんはどのくらい喜んでくれるのかを、それこそ産地単位で見えるようになってくるんです。
その花材の色味や花材を組み合わせた花のアレンジも、顧客層によって受けが違うし、同じ顧客層でもタイミングによって変わって行きますよね。
だから、誤解を恐れずに言えば、「自分が本当に好きだと感じるお花を届けたい」といった気持ちを活かせる場ではないかもしれません。そういった気持ち以前に、ユーザーさんが求めるお花はどういったものなのか、それを定量的に再現性を持たせるから多くの人に届けられるようになる。
そうした事業推進で目指すのは、花き業界のマーケットリーダーというポジションだ。リーダーといっても、単にトップシェアの存在になるということではない。「マーケット自体を良くしながら、全体を大きくしていく存在」を目指している。
戸口業界の変革者というと、ディスラプターというイメージを持つ人もいますよね。確かに、旧来の慣習や価値観、あるいはビジネスの生態系などを壊した方が良い業界もあるかと思います。
ですが、私たちが事業を展開している花き業界は、そういった市場ではないと考えてます。旧来のプレイヤーや事業をディスラプトするのではなく、同じ目的を持った同志として巻き込み、より良い業界やサービス開発を一緒につくっていく動きができると思っています。
お花を生産するのも、流通させるのも、以前から悪戦苦闘して改善を重ねてきたプロがいます。こうした存在との共創によって、私たちのデータはさらに活きる。日常的にお花を楽しむ生活者がもっと増えていく。
武井常に生活者、すなわちエンドユーザーさんのところから逆算していることを明確に示そうとしています。だから、生産者さんや市場関係者さんたちの理解が得やすく、新しい取り組みへの協力もいただきやすい関係性を少しずつ構築できているんです。
ミッションに掲げる「ユーザーさんの、うれしいを創る」を、お花という商材を通して実現することを考えても、従来のプレイヤーさんたちを巻き込んだほうが絶対に速いですしね。
以前から存在する花き関連の大企業とも、共創の模索は始まっている。すでに、マーケットリーダーとしての動きも活発になりつつあるのだ。このことが、強い競争優位性を裏付けていると見ることもできるだろう。
データドリブンだからこそ、実は必要な「ウェットな関係性」
さて、ここまで「ユーザー起点」と「データドリブン」に迫ってきた。ただし、これらを支えるものとして改めて強調されるのが、「ウェットなコミュニケーション」だ。
だが冒頭、「誤解も生じている」と武井氏から語られた。一体どういうことなのだろうか?
戸口よく言われますね、「データドリブンを徹底していると、社内が淡々とした会話ばかりになるのではないか?」と。ただ思うのが、データドリブンのためには、ウェットな関係性が必要なんじゃないかな、と。施策はデータを使って徹底的に議論してる一方、そもそも仲間とワイワイ良い仕事したいから集まってるわけですよね。
人間は感情的な生き物なので、自分の担当施策がチームからガンガンレビュー入って凹むみたいな(笑)。でも、それって施策に対してであって、より良いものにしたいから。これがベースの関係性がないとギクシャクしちゃうか、遠慮して言えなくなってしまう。
だから、ユーザーライクは実はものすごくウェットな組織です。互いのことを楽しいことも辛いことも気軽に雑談してるのをよく見かけます。ミーティングでは目的とアジェンダが明確にある一方で、雑談から始まるような感じ。
何せ、武井が率先してクリスマスパーティーの段取りを始めたり、コロナ前の社員合宿ではゲーム大会の企画を進めたりしていますから(笑)。なにしてんだろう(笑)。
武井データを基にした会話って、どうしても無機質で、責めるような感じになってしまうこともあります。でも、それはしょうがない面もあると思うんです。事業を前に進めるために、そうしたコミュニケーションが必要な場合もある。それはそういうものだと割り切りつつ、そうではない場面も含めて全体として、嬉しい話も辛い話も率直にできる組織を理想としています。
特に私が厳しい表情や言動ばかりしていたら、他のメンバーの緊張感が高まってしまいますよね。自分が貴重な合宿の場で変な企画をしていたら、「あ、ふざけて良いんだ」となる(笑)、こんなことをインタビューで言うのはちょっとさすがに恥ずかしいですが(笑)。
真面目にまとめなおすと、感性や感情を無視しては、組織づくりなんてできません。事業に打ち込み、成果を出し続ける組織になるために、データドリブンな意思決定と、ウェットなコミュニケーションの両立が必須ですし、すでにそうなっていますよ。
河合確かに武井さんは、とてもフランクに社員の方々と接していらっしゃいますし、楽しそうだなと思います(笑)。
ユーザーライクさんの社内コミュニケーションを見ていると、数字と感性のバランスの取り方がうまいと感じます。ウェットに関係性を構築しているから、いざデータを基により良い事業をつくる為の厳しいフィードバックがあったとしても、ネガティブな雰囲気になることなく、「どう改善していこうか?」といった前向きな心持ちで、コトに向かうことができるのだと思いますね。
データドリブンのためにこそ、ウェットなコミュニケーションが必要だと強調する3人。この考え方は、採用活動にも存分に生かされている。
河合ユーザーライクさんの採用基準はかなり高くしているように感じますね。とにかく「ユーザー起点」だけでなく、「グロース主義」「共創」を含めた3つのバリューに共感したり、または体現できたりするであろう人材しか採用しないことにこだわり続けられていらっしゃいます。この徹底力も強みだなと思います。
データドリブンを実践し続けるために妥協しない姿勢が、ここでも見て取れますね。どうしても採用基準は、選考過程でゆらぎがちですので、感心しきりです。
武井河合さんにこうして意義付けいただけるとありがたいですね。
私なりに少し補足しますと、採用選考では、経営陣だけでなくさまざまなメンバーと話をしてもらいます。「この人、めちゃくちゃ活躍しそうだから役員面接だけで採っちゃおう」みたいなことは一切していません。
逆に、経営陣が「採用したい」と思っていても、現場のメンバーが「この人は○○という点で合わないかもしれない」と指摘すれば、しっかり考え直します。結果としてオファーを見送ることもありました。現場メンバーの視点も、経営陣と同じだけ重視しているということです。
戸口現場メンバーの「違うな」という感覚はとても重要です。見逃さず、その原因を探り、最良の意思決定につなげています。過去には、なかなか出会えないCxOクラスの人材でも、お断りしたことがあります。
ちなみに、採用活動もユーザーヒアリングと同じように、定性的な情報をいかに定量化できるかを意識しています。誤解されないように捕捉しますが、コミュニケーションの取り方を点数化するという感じではなく、どんな担当者でも「フラットに複数の観点で見極められるように」という感じですね。
河合定性情報と定量情報を行ったり来たりしながら、現場と経営陣の意見をフラットに扱う。この点で、すごく立体的に情報を判断する会社だな、と。このデータドリブンかつ、綿密でありながら意思決定はフラットというのも、なかなかに希少だなと思います。
「競争優位性」の源泉を保つ、逆算と先回りの組織
ここまで見てきたように、「ユーザー起点」と「データドリブン」を、ウェットかつ率直なコミュニケーションによって実践しているユーザーライク。他社には決してマネのできない「真に強い競争優位性」を、じっくりとつくり上げてきているのだ。
そしてその裏には、1回目の起業らしからぬ、卓越した組織設計の姿勢があると、多くのスタートアップの人事組織を見てきた河合氏は言う。
河合スタートアップの事業運営は、マーケットや自社組織も含め、変数が多く、非常にスピード感があります。それに合わせつつ、同時に少し先を見据えて組織をつくり、変えていく必要がある。どちらかが良いだけでは、順調に伸びていかないんですよね。当然ですが、事業と組織、両方重要です。
そうなると、「こういう事業をつくりたいから、組織をいまはこうしていこう。そして、1~2年後を見据えると、逆算で、おそらくいつまでに、こうしておかねばならない」といった、強い想像力や意思決定が必要になってきます。
そのあたりについても武井さん、戸口さんのお二人はバランス良く理解をされていて、的確に対策を打ってきています。フェーズに合わせて必要最小限の職種しか置かないようにする、あるいは、数年先の組織に合う人材の採用を先んじて始める、などですね。バリューなどを改定したり、評価制度を見直したりするといった動きもそうでしょう。
何か大きなトラブルなどが発生してからの対処ではなく、短期と中長期を見ながらの舵取りは、なかなかに大変で難しい。経営におけるこの凄さが、多くの人に伝わると嬉しいですね(笑)。
武井さんは1回目の起業にも関わらず、こうした組織創りへの意識の高さはもちろん、未来への対策スピードも早いなと思います。まるで2週目の起業家のようですね。学習能力の高さとも言えるかもしれません。
武井事業戦略と組織戦略は両輪であると頭ではわかりつつも、たいていの会社では組織づくりに回すリソースが少ないじゃないですか。そのバランスの悪さは、以前勤めていた企業でも強く感じていました。
「良いアイデアがあっても、人の働きかたが良くないと事業は伸びない」と思っていたので、組織とカルチャーは最初から丁寧につくり込んでいこうとしていました。この仮説に基づいて、採用は慎重に、カルチャー浸透は大胆に取り組んで、いまのところは良い手ごたえを感じています。
スタートアップ人事のプロフェッショナルである河合氏は、多くのスタートアップ起業家がいる中でも、特に組織・人事戦略に長けている起業家について言及。話題は人事戦略の要諦にも及んだ。
河合様々な要素があると思いますが、変化の早いスタートアップにおいて組織づくりのポイントを突き詰めると、事業ビジョンから逆算した組織図をイメージし必要な職種の特定と、決して妥協しない質の高い採用、の2点に収斂されると思っています。
武井さんは常に「いま、自分たちはこれくらいのフェーズにいるから、先を見据えると、こう言った経験値を持ったポジションの人が必要だよね」と逆算して考えて、本当に自社にフィットしている人だけ採用されている。採用へのこだわりや、PDCAのスピード、そして熱量がすごい。だから、組織の足腰が強いんですね。
戸口河合さんがアドバイザーとしてジョインしてくれてから、組織に自信を持てるようになりました。他の先輩スタートアップの成功も失敗も間近に見てきた知見をお借りできるわけですから、こんなにありがたいことはない。こればかりは、どんなに学んでも、どんなに意識を高く持とうとしても、追いつかないところですよね。
以前から、次のような指摘も少なくない。「起業家は、事業が得意な人こそ多いが、組織に強い人は多くない」と。武井氏らも、もともとは事業づくりを得意としていたはずだ。だが、持続的な事業成長のため、組織に対しても妥協せず、河合氏とのパートナーシップでさらにドライブをかけようとまでしている。
創業数年の若いスタートアップながら、隙のない事業・組織展開を見せているユーザーライク。だがもちろん、課題もある。最後に、河合氏による分析も交えながら、将来のさらなる発展に向けたチャレンジに迫りたい。
ミドル層の成長機会に自信あり。
成長のためにフィードバックし合える環境
「事業と組織を両輪でまわすべき」とよく言われる。ユーザーライクでは、武井氏と戸口氏の思想の中で、事業と組織の結びつきが非常に強固なものになっていると感じられる。実際に、toCサブスクサービス『ブルーミー』は順調に成長し、優秀なメンバーも増え続けている。
上場前にして、既に隙のない企業という印象も受ける。だが、スタートアップ人事のプロである河合氏には、今後の鍵を握る組織面での課題が見えている。
河合今後、新規事業をいくつも仕掛けていくにあたり、組織も拡張していく中で、鍵となるのがミドル層の育成です。武井さんや戸口さんら経営陣の思想をしっかりと受け継いだミドルを採用することももちろんですが、「ユーザーライクさんにおいては、どういうミッションを持つのがミドル層なのか」と言う定義も含めて、継続的に育成ができるかどうか。
事業部長クラス、マネージャークラスをきちんと育成する仕組みが出来上がっていくと、さらに成長角度が上がっていくだろうなと思います。
この指摘を待っていたとでも言うかのように、武井氏は「育成」や「支援」に対する想いを述べる。
武井「長く活躍してほしい」という気持ちが強くあります。一人ひとりのメンバーがやりがいを感じ続け、長く活躍してもらうことが、今後の成長をさらに確実なものにしてくれるはずですから。
もちろんスタートアップですから、ある程度の事業経験を持つ人の採用が中心です。でも、何歳になっても成長はできるはずですし、そういう気持ちを持っている人と一緒に仕事をしたい。だから、CxOやマネジメント層に対しても“育成”や“支援”のような想いを持って、厳しいフィードバックも受けることができる環境にしようとしていますね。
経験豊富なメンバーにも、さらなる成長を求めている、と受け取ることもできる。やはり採用ハードルは高いように感じられる。具体的に、どういった人物が活躍していくのだろうか。
河合トップクラスの事業創造環境があるベンチャーで経験を積み、社内表彰されたり、仕事のベースができていてエース級の活躍をしていたりする一方で、現職では担える役割やその拡張の幅が限られていて、スピーディに自分の役割を拡張し、ポテンシャルを発揮する場を求めている、健全な“飢え”をお持ちの方。そんなイメージを持っています。
「あなたがさらに躍動する場所は、ユーザーライクさんだと思いますよ」と教えてあげたいですね。
武井ゆくゆくはユーザーライク自体も、「新規事業がうまい会社」と言われるような、事業創造のチャンスにあふれる組織にしたい。そのためには、事業や経営のプロフェッショナルが愛着を持ちつつ、新たなチャンスを得続ける環境をつくることが必須ですよね。プロフェッショナルが長く在籍する組織なら、事業創造もそれだけ長く続けることができるはずだと思っています。
そのために、メンバー同士が高め合う関係性になる仕組みを構築しています。
戸口「ユーザーにとことん向き合いたい」というのはもちろん、「事業にコミットしたい」「一段上の実力をつけたい」という思いがある人には多くの成長機会を提供できる環境だと思います。
事業成長を追い求める上で余計な障害もないし、仲間がみんな本気でフィードバックしてくれるので、そういう方は実力がどんどん上がっていくと思います。カジュアル面談でもこの雰囲気は十分に感じられますし、今後はイベント開催なども通して伝えていく予定です。事業に本気で向き合いたいと、少しでも“健全な飢え”のような感情を覚えているかたがいたら、ぜひ話をしたいです。
経営陣が懸命に先回りして、長期的視点での競争優位性を構築しようとしている。なぜここまで組織づくりにコミットできるのか。「それは、データドリブンであり、ユーザー起点だから」という哲学に、常に立ち戻るのがユーザーライクだ。
どんな議論でも、ブレることなく、データドリブンでのユーザー起点を徹底する。そんな組織を、さらに拡大させ、強固にしていく稀有な機会が、いま、ここにある。
こちらの記事は2022年03月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
樋口 正
写真
花井 智子
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