調達額では測れない!FastGrowだから知っている、大型調達スタートアップ経営者4人の知られざる魅力
日本経済の長期低迷とは裏腹に、昨今の国内スタートアップの資金調達は空前の活況を見せる。直近2021年の調達状況は前年比約50%増の8000億円を超えるともみられ、調達のプレスリリースをほぼ毎日のように目にする日々だ。
ただここで注目すべきは、実は調達社数自体は大きく伸びていないということ。つまり1社あたりの資金調達額が大型化しているのだ。実際「10億円以上の資金調達リリースが珍しくなくなってきた」と感じる読者も多いのではないだろうか。
ひとえに海外マネー/優秀な人が流入するようになったから、とその要因を市場の変化に見るのは簡単。だがせっかくなら少し違った角度から、大型調達を実現できる理由を探りたい。そんな想いから今回は、FastGrowが直近特に熱い視線を送るFLUX、Micoworks、ユアマイスター、ユーザーライクの4社をピックアップ。
リサーチを進めるうちに(取材を進めるうちに)、調達額やそのプレスリリース内容からだけでは窺い知ることのできない経営者の魅力、そして「大型スタートアップと呼ばれる企業の特徴」が見えてきた。
FLUX 永井氏:「シリコンバレーの起業家が持つ素養を全て持ち合わせる」。ディープダイブとベイン流メンバーエンゲージの二刀流で、国内最速ARR10億円到達にひた走る
DNX Venturesの倉林陽氏に「国内最速でARR10億円を達成するだろう」と言わしめるFLUX。2021年3月にシリーズAにて10億円の資金調達を実施。言わずもがな同社の事業・組織戦略の秀逸さは目を見張るものがある。ただ、今回はそんなFLUX代表取締役CEO永井元治氏個人にスポットライトを当ててみよう。
同氏の魅力の一つはなんと言っても、「ディープダイブスキル」とも形容できる、短期間での精密な情報収集・分析力だ。前職ベイン・アンド・カンパニー(以下ベイン)に所属した2年半の間で約10のプロジェクトに携わり、特にM&A案件に関わる中でのデューデリジェンスの経験などから、よく知らない業界や企業のことを1~2週間という短期間で調べ上げ、現状分析や将来予想を精度高くまとめる能力を培ったという。
FLUX創業期においてはその力を遺憾なく発揮し、時には小さくない投資も厭わず、適切なタイミングで一流のプロフェッショナルを巻き込み事業・組織を成長させてきた。
「事業領域であるデジタルマーケティングに関して、創業時は全くもって未知の領域」と語る同氏が、わずか4年足らずのうち当分野のリーディングカンパニーを率いるまでに成長を遂げた事実が、彼のディープダイブスキルの高さを証明する。
また本場アメリカ仕込みの組織作りを体得している点も注目だ。何を隠そう、ベインはアメリカにおいて「働きやすい企業」ランキングトップクラス入りを続けているほど、強固な組織カルチャーを持つのだ。
事実、ベイン流メンバーエンゲージメントを如実に再現するFLUXは、幅広い業界・バックグラウンドを持つ優秀なメンバーを惹きつける。トップダウンとボトムダウンを組み合わせ、緻密に構築されたバリューのもと、誰もが最大限のパフォーマンスを発揮できる、そんな理想の組織をアーリーステージで体現する企業は多くないだろう。
永井氏の思想をもっと深く知りたい方はこちら
Micoworks 山田氏:「人たらし」が武器。シリーズAで12億円調達、T2D3へ一直線
20歳で1社目の会社を起業。以来、彼が立ち上げたビジネスの数は数十にのぼる。もちろん途中でクローズした事業も少なくないが、そのうちのいくつかは軌道に乗せてきた。中でも「LINEで就活」を売りにした学生向けの就活支援サービス『digmee』、それにより蓄積したノウハウを活かし、横展開を図った新卒採用管理サービス『HR PRIME』はリリースから2年、売上も利益も着実に積み重ねていた。実績は申し分ない。
そして起業家歴10年目、ちょうど30歳を迎えた今、あの前田ヒロ氏をして「こんな急成長は、ほかのSaaSスタートアップでもなかなか見ない」と言わしめるほどの起業家となった。今回はそんな山田氏の“起業家として”ではなく“人間として”の魅力に迫りたい。
その経歴、まさに「生まれながらの」あるいは「天性の」なんたるや、か──。否、そんな枕詞は似つかわしくない。自身を「本当に至って平凡な人間」とすら形容するこの人物の最大の武器は、その「人たらし力」にある。不思議と、多くの人を惹き付けてきた。それも国内の超大物達をだ。
リクルートライフスタイル元代表取締役社長の冨塚優氏に始まり、LayerX代表取締役CEOの福島良典氏、THE GUILD代表取締役の深津貴之氏、ビジョナル取締役CTOの竹内真氏など、まさに超一流の事業家たちがディスカッションパートナーとして彼を支えている。一体何が、これほどまでに、界隈の大物たちを惹きつけるのかだろうか。その答えは、「やりきり力」と「素直さ」だ。
育成に携わったことのある人間であればご存知の通り、「自分にエゴがなく、言われたことは素直に聞いて、柔軟に変化できる」そんな後輩は、もし仮に特筆すべきものがなくとも、自然と応援してあげたくなるものだ。そして気づけば、その人は誰よりも優秀になっている。日本トップクラスの事業家と言ってももちろん人間、山田氏のひたむきな姿に胸打たれ、利害関係をも超越した、いわば無償のエールを送ってしまうのではと想像してしまう。
事実、多忙を極めることが容易に予測される前述の投資家たちだが、かなりの高頻度で山田氏の壁打ちに応じているという。さらにこの日本トップクラスの株主や投資家たちとのディスカッションの場には、山田氏のみならずMicoworksのリーダー以上のメンバーの参加も許されている。「投資家と起業家」という立場だけでは語ることができない、山田氏の人を惹きつける力により培われた信頼関係と確信せざるをえない。
今や気づけば、山田氏自身もこの先輩たちと同じ世界に、確実に足を踏み入れようとしている。そうだ、ここで冒頭の言及を修正しよう。「始めは」至って平凡な人間。そんな枕詞が、きっと相応しい。いつしか夢見た偉大な起業家と肩を並べる、いや追い越すまで、折れずに真っ直ぐ進み続ける。そう期待してしまう。
山田氏の思想をもっと深く知りたい方はこちら
ユアマイスター 星野氏:楽天最年少役員候補のキャリアは捨てても、失わない「信用力」
2022年1月に総額23億円の資金調達を行い、一躍界隈にその名を轟かせたユアマイスター。その代表取締役社長・星野貴之氏の経歴は実に華やかだ。新卒で入社した楽天において、営業部門で当時全国1位の成績を残し、当時最年少で社内の幹部候補生に選出。副社長執行役員でもある山田善久氏の目に留まり、IR部門に抜擢される。グロービス経営大学院でMBAを取得後、一念発起、ユアマイスターを創業した。
もう満腹?だが残念、まだまだ彼の伝説は終わらない。シード投資のレジェンドとも呼ばれるインキュベイトファンド(IF)ジェネラルパートナーの赤浦徹氏から、「事業アイデアがなくとも、君が起業するなら1億円出資する」と言われたのである。
星野氏を知るものは口を揃えてこう語る。「楽天三木谷氏の会社でECと経営を学び、ソフトバンク孫氏の後継者育成を目的としたアカデミアで学び、サイバーエージェント藤田氏から出資を受けた。まさに日本を代表する3名の経営者の、そのDNAを濃く強く受け継いでいる」と。
サラブレット、血統主義、まさに王道少年漫画の主人公なり!...かと思いきや、決して彼は初めから起業家としての才に恵まれていたわけではない。彼をここまでの人物にしたもの、それは一見過剰とも言えるほどの“ひたむきさ”である。今回はそんな星野氏の意外すぎる一面をご紹介しよう。
第一にご紹介するのは同氏の「忠実さ(まめさ)」だ。ただ連絡が早い、なんてものではない。ユアマイスターCEOとして抱える使命やその責務は膨大だ。伸びる事業、拡大し続ける組織、ややもすると認知していない従業員の1人や2人がいてもなんらおかしくない...…。そんな我々の浅はかな予想は、彼と対面する僅かな時間を通して180度覆されることとなる。
なんと毎日欠かさずメンバーの日報に目を通し、さらに多くの場合、個別にコメントまで残しているという。ユアマイスターの現在の規模は80人を超える。この一見過剰とも思えるメンバーへの配慮が、社内における凄まじい求心力を産んでいる。
そして、こうした取り組みは決して社内にとどまるものではない。取材終了後、我々取材陣に感謝の言葉をmessengerにて投げかけてくれた、がそのスピードもとにかく早い、かつ懇切丁寧。おそらく全てのステークホルダーに対して同様に接しているのだろうと容易に推測できる。
第二に、当人はその華やかな経歴など全く気にも止めないほど「泥臭く」事業を伸ばしてきた点に注目したい。
想像してほしい、ユアマイスターが扱う事業はハウスクリーニングや修理のプロフェッショナルとユーザーをつなぐプラットフォーム。「堅気の職人」とも呼ばれるプロフェッショナル人材たちから認められなければ話は始まらない。当然それは「ただ単に、サービスが素晴らしいから」というだけでは不十分であろう。片や、東京からいきなりやってきた若手起業家、そもそも「信用を得る」ためにはどれほどの努力が必要であっただろうか──。
想像に難くないが、彼の信念は固い。事実、創業当初は本当に泥臭く、足繁く職人の作業現場に同席したり、工房に立ち寄ったりしながら、職人たちとの信用関係の構築に努めたという。
決して彼のキャリアが眩しいからではない。関わるパートナー全てを魅了するのは、その「忠実さ」と「泥臭さ」だ。調達額からは決して垣間見えないそんな星野氏の魅力、いかがだっただろう。
星野氏の思想をもっと深く知りたい方はこちら
ユーザーライク 武井氏:CEOが事業責任を大胆に移譲。累計40億調達のスタートアップに浸透する、フラットな組織・経営陣の秘密
データ活用が進むイメージは弱く、なおかつ先進的な上場企業がほぼないという「花き業界」で起業、30名規模ながら累計約40億円もの資金調達を実施し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進を続ける、『bloomee」運営企業のユーザーライク。
連日何かと話題にこと欠かない同社ではあるが、その組織の内情は実に魅力に満ち溢れている。少数精鋭にありがちなトップダウンでのスピーディーな意思決定の体制が強み、かと思いきや、驚くことなかれその実態は異常と形容できるほど“フラット”だ。カギは権限移譲にあり、と結論付けてしまうのは容易い、ただ今回はそんな組織の体現に成功した同社代表武井氏の魅力に迫りたい。
ユーザーライクの信念は首尾貫徹して「ユーザー起点×データドリブン」だ。それが組織のカルチャーを育て、同社の最大の競合優位性をも築く。こちらに関してはこの記事が詳しいが、今回はそのカルチャーの根源となる武井氏自身の思想に注目しよう。
その信条、第一にすべからく権限移譲を厭わざるべしとあり。ややもすれば大胆すぎるほどに、権限移譲を厭わない。この理念は会社の利益の根源でもあるビジネスサイド、つまり事業責任の大部分をCMOの戸口氏に移譲しているという経営体制に如実に現れている。無論P/Lに直接かかわる難しい意思決定までもだ。
第二に現場・経営陣問わず意見は常にフラットに扱うべしとあり。これに関しては“採用”にその特性が存分に発揮されているといえよう。経営陣が「ぜひ採用したい」と思ったCxOクラスの人材を、現場のメンバーが「この人は○○という点で合わないかもしれない」と指摘したために、オファーを見送った。現場メンバーの視点も、経営陣と同じだけ重視しているという「驚くほどのフラットさ」がここに現れている。
とはいえ権限移譲やフラット化した組織は、有事の際のトップダウン勅命という、まさに創業期の調整弁とも言える機能を鈍らせてしまうのではないだろうか。これに対し、あくまでも「フラットに複数の観点で見極められるように」するための手段であると武井氏は強調する。なるほど、武井氏が作り出した「ユーザー起点」×「データドリブン」という組織文化は決してマーケティングやプロダクト開発の文脈だけに当てはまるものではない。その影響は組織内のあらゆる意思決定スタイルまでにも及んでいるのだろう。
しかしながら誤解してはならない。「データドリブン」なカルチャーを徹底するからこそ、意外にも「ウェットなコミュニケーション」も、武井氏が大事にしているカルチャーだ。社内メンバーからも、「社内行事は武井さんが一番楽しそう」という声が漏れ聞こえてくることからも、「データドリブン」=「人間関係もドライ」ということでは全くない、ということがよくわかる。このあたりの武井氏のバランス感覚も、ユーザーライクの躍進を支えている秘訣の1つであろう。
武井氏の思想をもっと深く知りたい方はこちら
日々数百件と発信されるプレスリリース、そこにはなかなか載りにくい企業の魅力。そして、調達額の多寡では決して測れない大型調達企業の経営者の魅力。いかがだっただろうか。
こちらの記事は2022年04月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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