狂えてこそ経営者だ!──Pairs運営のエウレカ石橋準也が語る、非連続的な事業成長に必要な「経営者の素質条件」

登壇者
石橋 準也

2013年に株式会社エウレカに入社。2016年に代表取締役CEOに就任し、Pairsの世界展開を担う。また2019年6月、親会社であるMatch Groupの日本・台湾エリアのゼネラルマネージャーに就任。

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経営者に求められる素養は事業成長のフェーズによって異なる。非連続的な成長を実現させる経営者の条件を探るべく、累計会員数1,000万人超える『Pairs』を運営するエウレカ代表・石橋準也氏を招いたトークイベントを開催。

FastGrowの別記事で掘り下げたように、石橋氏は2代目CEOに着任。エウレカがMatch Groupにジョインしたことを機に、創業者の赤坂優氏から経営のバトンを渡された。1年半で会員数を約2倍に成長させるなど、10→100/100→1000フェーズを牽引してきた石橋氏は、「狂気」こそが経営者の資質だと語った。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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炎上案件の鎮火に貢献も、待っていたのは「叱責」だった

石橋何があっても、目標達成を第一に考えて行動する。その過程で他者と衝突したとしても、ときには自らの正義を優先させる。誤解を恐れずに言えば、そんな理不尽さこそが、経営者に必要な「狂気」だと思います。

前任の赤坂氏より、エウレカのCEOのバトンを渡された理由も「狂気を持っているから」と伝えられたという。

石橋氏が初めて経営者の狂気に触れたのは、エウレカ入社後のこと。エンジニアとして2013年にジョインした石橋氏は、Pairsの開発を担当していた。当時のエウレカは受託開発事業も行っていたが、ある案件が大炎上。エンジニア総出で火消しにあたり、石橋氏も開発そっちのけでコミットした。昼夜を問わない鎮火作業が実を結んだのは、2ヶ月後だった。

案件がクローズした1週間後には、赤坂氏との評価面談が控えていた。危機を乗り越えたにもかかわらず、予想外の叱責を受けた。

株式会社エウレカ 代表取締役CEO・石橋準也氏

石橋「なぜPairsの開発が進んでいないのか?」と詰められました。正直、「なに言ってるんだ…」と思いましたね。大炎上案件にかかりきりだったことも赤坂は知っています。「こんな会社では働けない」と辞めることも一瞬考えました。

しかし、よくよく考えると「これが経営者のあるべき姿なんだ」と。Pairsは、エウレカの社運を賭けたサービス。経営者にとっては、Pairsがサービスとして成長することが最優先。目的を達成するために突き進んでいく「狂気」の重要性を知った瞬間でした。

そもそも、石橋氏がエウレカにジョインしたのは「逃げ」だったという。

前職で新規事業の立ち上げを担当し、黒字化には成功したものの、思うようには成長させられなかった。経営者としてのノウハウを身につけようとエウレカに転職したが、「事業から逃げたかったんだと思います」と振り返る。

そして、赤坂氏から突きつけられた、Pairsを伸ばせていない現実。前職から自身に変化がないことを痛感し、一気にスイッチが入った。

石橋もう後はない。ここで逃げたら、逃げることが癖になってしまう。今のステージで何の成果も残せていない。そんな何者でもない自分を受け入れ、自分の時間はもちろん自分より優秀な周囲に積極的に頼るなど自分や会社の持てるアセットを総動員してやりきらねばならないと思いました。

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0→1、1→10、10→100。それぞれのフェーズで経営者に求められる条件

「狂気を見せる相手は選ばなくてはならない」ともいう。組織が小さく、メンバー全員が経営者のパーソナリティーを理解できているフェーズであれば、常に狂気を見せ、時には独善的なリーダーシップで組織を引っ張っていくことも有効だ。

組織が拡大し、メンバーから経営者の顔が見えにくくなったら、狂気を見せる相手を限定していく。単に傍若無人な経営者だと誤認され、求心力が低下してしまうからだ。石橋氏も、現在では自分をよく知る経営チームと、自らがマネジメントするチーム以外には、狂気的な一面は見せていない。パーソナリティの信頼があってこそ機能する方法だからだ。

石橋“カメレオン経営者”でなければ、事業を伸ばし続けられません。経営者は会社のフェーズごとに、自らの役割と振る舞いを変化させていく必要があるんです。

0→1フェーズの経営者に求められるのは、経営戦略を達成するために最も重要な「キー・サクセス・ファクター」(以下、KSF)の発見と決定だ。特に立ち上げフェーズでは、無数の変数が存在するなかで、ヴィジョナリーにKSFを設定することが求められる。だからこそ、必要とあらば独裁的に決定することもある。

PairsではKSFに「マッチング数」を設定し、会員獲得のための広告や宣伝に、競合の何倍ものコストを費やした。その方針にメンバー全員が納得していたわけではなかったが、経営者として「決め切った」ことが、事業成長の要因となったのだ。

1→10フェーズでは「右腕となる存在を採用し権限を移譲すること」が求められる。徐々にメンバーが増えてくると、経営者だけでマネジメントを行い続けることは難しくなる。とはいえ、闇雲に権限移譲を進め、不適切な人物をマネジメント層にアサインしたり、カバーすべき膨大な領域に対して何人もそれぞれのプロフェッショナルを採用したりすることは、組織の崩壊を招く。

マルチタスクをこなせ、幅広い領域をマネジメントできる「右腕」を見つけなければいけない。

10→100フェーズでは、「チームビルディング」が最大のポイントだ。石橋氏がCEOに就任した際のフェーズだった。当時の経営陣であった石橋氏ともう一人の取締役で、経営チームの組成、ミドルマネジメントの成長、組織カルチャーの醸成に取り掛かったという。

組織の拡大に伴い、多くの無駄が生まれ始めるフェーズでもあるため、体制やプロセスを整備してオペレーションを最適化したり、OPEX(事業運営費)のマネジメントへの注力も必要になる。

また、事業の型が見えていくフェーズでもあるので、事業への投資額の判断や、迅速に追加投資を意思決定するために判断基準を整備することも必要になる。

石橋ドロップアウトしてしまう起業家が多いのもこのフェーズです。起業家や経営者は“事業好き”が多いので、組織のパフォーマンスを最大化するための基盤づくりに大幅な工数を割くようになると、フラストレーションがたまりやすいんです。

しかし、どのようなフェーズでも会社を牽引できる経営者になるためには、チームビルディングやプロセスの最適化、投資判断の基準構築を避けては通れません。

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100→1000フェーズで必要なのは、ワールドクラスの経営チーム

そして、現在のエウレカは、100→1000フェーズに入った。

石橋幸いにも、エウレカはスタートアップ、レイトスタートアップとしてのスケールフェーズを抜け、さらなる事業拡大フェーズに入ることができました。

ここからは、事業の成長だけでなく、マーケットに向き合わなければいけません。その一環として、いわゆるESG経営に取り組む必要も出てきます。

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(統制・統治)の頭文字を取ったもので、グローバル経営において押さえておきたい、企業の中長期的な成長に必要とされている要素だ。

石橋ESGに本気で向き合うには、ワールドクラスの経営チームが必要です。すべての経営陣が、それぞれのスペシャリティにおいて世界で戦えるレベルの能力を持ち、向き合うべき課題と戦っていかなければいけません。

ほとんどの会社は、このフェーズにはたどり着けないので、経験豊富な経営者も少ないです。

またアメリカのように、このフェーズを乗り切った経営者が投資家になってコーチングしているケースが多いかというと、そういう訳でもありません。すると、せっかくこのフェーズに入れても、残念ながら途中で退場することになってしまいます。

Match Groupは、経験が豊富な経営者たちを擁する、まさにワールドクラスの会社。ここに来て、参画したことが、さらに大きな意味をもつことになりました。もちろん、乗り切れるかどうかは、自分を筆頭とする経営陣の胆力次第ではあります。

「Governance」は当然として、とりわけ、エウレカが向き合うのは「Social」にあたる未婚・晩婚化問題だ。

2018年に結婚したカップルのおよそ9組に1組が、マッチングサービスで出会っている。しかし、石橋氏は「まだ未婚・晩婚化問題の解決を推し進めたとはいえない」と危機感を露わにする。「出会いを求めているものの、積極的に行動を起こしているわけではない層」にはリーチできていないからだ。

ユーザーの裾野を広げることは、事業のサスティナビリティ獲得のためにも不可欠。現在は、この層の利用者数向上に注力している。

もちろん通常のプロダクト開発やマーケティング活動で実現していくこともあるが、それだけでは不十分。アライアンス、関係省庁・メディアとの交渉、事業の多角化とその成功など、ありとあらゆる経営活動を通して実現していく必要がある。

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非連続的な成長につながる「過剰な要求」

エウレカのCEOであると同時に、親会社であるMatch Groupの日本・台湾エリアのGMでもある石橋氏。同グループのAPACエリアを統括する上司がいるが、とにかく求められるレベルは高い。ただ、経営者としてのスキルを高めるためにも、「要求水準が高い人と働くこと」が大切だと話す。

石橋エウレカを伸ばすためなら、我々のキャパシティを無視して、膨大な量の観点やToDoを提示してきます。しかも、ひとつでもできていないことがあれば理由を問われる。あまりにもその姿勢が厳しいので、このままでは僕が辞めてしまうのではないかと心配していた人もいました(笑)。

でも、ハイレベルな要求がないと、経営者としても大きな成長は遂げられない。人は、自らにとって快適な環境を求めてしまいがちですから、無理矢理にでも不快な状況へ引きずり出してくれる存在が必要です。その不快な環境を、快適な状況に作り変えようと努力するときに、人は最も成長できると思っています。

また、事業や組織の課題に主体的に取り組んでいくことも有効だ。多忙な経営者は、メンバーが課題だと思っていることに気づいていないか、気づいていても緊急度の高い案件を優先し、手を付けられずにいることが少なくないそうだ。

石橋氏もCTO時代、緊急ではないが中長期的に重要になるであろう役割を、自ら手を挙げ推進。ミドルマネジメント層のレベルアップと、カルチャー醸成のための評価制度などを用いた行動規範の醸成プロジェクトだ。その時点では、他の経営陣が解決策を持っていたわけではないので、推進は石橋氏に一任された。結果として、自らの考えで施策を講じられ、組織づくりの実践経験を積めたのだ。

「経営者を目指すのであれば」と前置きして、石橋氏は避けるべき環境を語る。「ボールを拾おうとしても拾わせてもらえない環境」は離れるべきだという。経営における重要な課題解決をすべて上司が自分で行おうとする、もしくは手を挙げても上司から止められてしまう環境は、成長の障壁となる。

しかし、「任せられない環境」を生み出す原因が、上司ではなく自身の努力不足な場合もある。石橋氏は、任せてもらえる環境を創出するため、スキルはもちろんのこと、信頼をいち早く獲得することにも力を注いできた。

石橋新しいチームに入ったときは、あえて自分に高いハードルを設定していました。「こんなことできない?」と言われ、1週間かかりそうだと思っても、3日で仕上げるように努力する。

実際は徹夜していても、なんの苦労もしていないように、最高速度で仕事を仕上げるんです。スタートダッシュで信頼を獲得すれば、さらに大きな仕事を任せてもらえ、良いサイクルが生まれますから。

経営陣が解決を任せたくなる課題に気がつくためには、経営陣が考えていることを「汲み取る力」を身につけることも必要だ。常に二段階上の目線、すなわち「上司の上司」の立場で物事を考え、業務を遂行することが、「汲み取る力」を身につけるための近道だという。

石橋僕自身、常に僕の「上司の上司」であるMatch GroupのCEOの目線でエウレカの経営課題に向き合っています。僕がこれまで接してきたメンバーを例にとっても、経営目線を身につけていくメンバーは常に「なんでこの上司はこういう指示を出すのか?」「自分の上司はその上司からどんな指示を受けているのか?」を考えて、自分なりの最適解を提示する人でした。

少ない会話の中からその企業が置かれている状況を察知し、社長や経営陣が求めていることを汲み取って動ける人材は貴重な存在。そうして経営陣が感じた課題に能動的に向き合える人が、未来の経営を担う人材になれるのではないでしょうか。

こちらの記事は2020年01月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

写真

藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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