「会社がぶっ壊れる瞬間」を何度も乗り越えた。
前向きに“点と点”をつなげてきたFabeeeに聞く、「諦めない」奥義
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「成功とは成功するまでやり続けること」──かの有名な松下幸之助氏の言葉だ。しかしながら多くの人は、一度大きな挫折を経験してしまうと、次の一歩を踏み出すのに臆病になるものである。
大半のスタートアップが夢叶わず破れていくこの世界ではなおさら、「自分には起業の才能がなかった」と諦め、人知れず舞台を降りてしまう起業家も少なくないだろう。
この記事で取り上げるのは、創業11年目にして今なお新たな挑戦を続けるFabeeeの創業者・佐々木淳氏だ。同社は「オンラインとオフラインの境界線のない世界を実現する」という大きなビジョンを掲げ、高い技術力を持ったエンジニアを組織して、企業のDX支援や技術開発を手がけている。
「何年後かはわからないけれど、車が空を飛び、人々がロボットと共存する未来は必ずやってくる。その時僕は、その世界の中心に居たいんです」。生き生きとそう語る佐々木氏の目は、真っ直ぐと未来の「成功」を見つめている。
ある時は中国でまさかの“裏切り”に遭って全てを失い、またある時は「これからプロダクトが伸びていくぞ!」というタイミングで突然サービス停止に追い込まれた。何度も挫折と絶望を味わいながら、なぜ諦めることなく新たな挑戦へと立ち向かっていけるのか? 11年分の“悔しさ”の物語について、佐々木氏と取締役CTOの杉森由政氏に伺った。
- TEXT BY MARIKO FUJITA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
“会社が自然にぶっ壊れた瞬間”を、10年で2回見た
今年で創業12年目となるFabeeeは、企業へのエンジニア派遣やDX推進支援といった事業を中心に成長してきた。2021年現在、DX支援からITプロフェッショナルによる技術支援、経営層特化型AI研修プログラムなど、多角的に企業のデジタルシフトを支援している。取引先の企業規模は大小さまざまで、業界も不動産や金融から、オフィス家具メーカー、工場、そして行政まで幅広いという。
主要な提供サービス
DX支援サービス「Fabeee DX」 |
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初年度で累計20社、半期で黒字化。民間企業だけでなく行政とのプロジェクトや、ホワイトペーパーリリース後にエンタープライズ企業からのお問い合わせも増加 |
リモート開発サービス「Fabeee Anyplace」 |
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コロナ禍が追い風となり取引社数が増加 |
ITプロフェッショナルによる技術支援サービス「Fabeee Tech PARTNERS」 |
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累計取引社数300社 |
さまざまな企業規模の競合がひしめくこの領域で同社が武器にしてきたのは、幅広い領域をカバーするハイレベルなエンジニア人材である。
佐々木AIやブロックチェーンなどの先端技術については、それぞれの領域に特化したSIerが多い中、Fabeeeの強みはAIとブロックチェーン両方の領域でハイレベルなパフォーマンスを出せるエンジニアが揃っている点です。モノを作るうえで最も重要なのは、やはり人の部分が大きいと思っていて。最先端の技術を扱える優秀な人材を確保することには、力を入れています。
また、コンサルから開発、その後の保守・運用まで、シームレスに対応できる点も、組織としての強みなのではないかと思います。
しかしながら、ここで湧いてくるのは、「Fabeeeはどのようにして優秀なエンジニア人材を確保しているのか?」という疑問だ。ただでさえエンジニア人材が不足していると言われる中、AIやブロックチェーンなどの先端技術を扱えるエンジニアとなれば、大手企業からも引っ張りだこだろう。
この疑問に杉森氏は、「佐々木氏の描くビジョンに魅力を感じて入社する人が多い」と答える。
杉森「オンラインとオフラインの境界線のない世界を実現する」というビジョンに共感して入ってきてくれる人が多いと感じます。なかなか抽象的なビジョンだとは思うのですが、要するに、一昔前から見たスマホのように、IoTを“技術”と意識せず、生活と一体化したモノとして自然に使う世界のことです。
その実現が加速していけば、やがてはSF映画の世界が現実になる。僕らはどのみちそんな未来が来るなら、今から取り組んでそこに向かっておこうと考えていて。その思想に共感する人たちが自然に集まってきてくれていますね。
佐々木の発想は、一見すると全く論理的じゃないんですよね。ただ、よくよく考えてみると、間のステップがいくつか抜けているだけで、中身は意外と筋が通っている。その抜けたステップを補いながら一緒に構想できる人にとっては、面白さを感じてもらえているんじゃないかと思います。
杉森氏の隣で笑いながら相槌を打つ代表の佐々木氏は、たしかに独特のオーラを持つ人物だ。話した相手瞬時に虜にしまうような、“人たらしの才能”とでも言うべき魅力を持っている印象を受けた。そんな人格を形作った背景について彼は、「本当はすごくビビっているんですよ」と照れ笑いながら口を開く。
佐々木よく組織では「事業とは破壊と再生」と言いますけど、僕はこの10年間の間に、会社が自然にぶっ壊れた瞬間を2回見ているんですよ。
そう、Fabeeeを創業してからの11年間の歩みは、決して順風満帆なものではなかった。普通ならもう諦めてしまいたくなるような大きな挫折を何度も乗り越えて、ようやく今の安定的な事業体制を築き上げてきたのである。次のセクションからは、佐々木氏が企業に至るまでの経緯と、事業の軌跡を振り返る。
起業家志望の小学生が、「IT」に目覚めるまで
佐々木氏は大学を卒業後、不動産を扱う会社で営業を経験。その後2社目で人材紹介の会社に入社し、独立・起業というキャリアパスを経ている。一見つながりのないようにも見えるこの経歴に対して、「そもそもなぜ起業しようと思ったのか」という質問を投げかけると、こんな答えが返ってきた──「起業家になることは、小学生の頃から決めていました」。
佐々木僕はけっこうなおばあちゃん子だったんですが、その祖母がブティックを何店舗か経営していました。母親がお店の手伝いをしていたこともあり、物を仕入れて売る、お会計をしてお客さんに商品を渡す、といった“ビジネス”が日常のとても身近なところにあったんです。ですから自分も、「将来は自分で事業をやりたい」と、その時から自然に思っていました。
しかしその後サッカーに出会い、高校3年生までひたすらサッカー漬けの日々を送ったという。
起業や経営に対して、再び関心が向きはじめたのは、大学に入ってからだ。当時仲の良かった先輩の父親がコンサルティング会社を経営しており、その仕事を手伝わせてもらう中で、さまざまなビジネスを“裏側”から見る経験をしたという。
佐々木コンサルに入っている清掃会社の課題を探るため、閉園後の大手テーマパークに行って清掃をしたり、上場前の有名メディア企業に行って、そこで朝まで働いている人にインタビューしてみたりと、普通はなかなかできないような経験をさせてもらいました。いろんなビジネスの現場に直に触れるうちに、自分ももう一度起業の道を目指したい気持ちが湧いてきたんです。
起業を目指すにあたっては、「大きなお金が動くマーケットを見た方が良いよ」とアドバイスを受け、新卒では金融業界と不動産業界を志望。晴れて不動産会社の営業職に就くと、「3年以内にトップ営業マンになる」と目標を立てた。
佐々木2年10ヶ月目で、無事トップの営業成績を残せたので、すみやかに辞表を出して退職しました。次の会社も決まっていない状態で、です。そして次は「経営のことを知りたい」と思い、経営コンサルティングの会社をひたすら受けました。
そうして内定した会社のうちの1つが、人材コンサルティングの会社だった。面接官だった部長の「次の会社に行った後でも良い、ずっと待っているから」という言葉に胸を打たれ、入社を決めたという。
独立の転機が訪れたのは、IT業界向け人材紹介事業の立ち上げを任されたときのことだ。日々IT業界の転職志望者と関わる中で、「IT業界は面白い、めちゃくちゃすごい人たちがいる」と、俄然興味を惹かれた。
それと同時に、本当はIT業界のことをほとんど何も知らないにもかかわらず、知ったかぶりで転職志望者に求人紹介をしている自分に「ほとほと嫌気が差した」という。「自分の力で成果を出してこの“ダサさ”を何とかしよう」と独立を決意した。
中国での“ソースコード丸パクリ事件”、業界団体からの圧力……波乱万丈の起業家人生
独立を果たした後、最初に着手したのは「フォトメ」という、昨今のInstagramと類似した写真ウェブサービス事業の立ち上げだ。会社名もサービス名と同じ「フォトメ」で、2010年4月に会社を設立した。
佐々木独立しようかと右往左往していた時期、転職志望者の一人で、大手外食チェーンのクリエイティブディレクターも務めたフォトグラファーの方がいたんです。その方と独立についてディスカッションするうちに、「俺がサポートしてやるから今起業しろ」と背中を押され、起業に踏み切りました。
「フォトメ」という事業に対して抱いていたのは、「言語がわからなくても、世界中の人がつながれるようなコミュニティを作りたい」という想いです。たとえるなら、ディズニーランドの「イッツ・ア・スモールワールド」のような世界観ですね。
それまでずっと「起業すること」をゴールに、自分のエゴをモチベーションにして突き進んできたんですが、この頃から「社会に価値を提供したい」という方向に変わってきました。
Instagramのサービス開始が2010年10月であるから、この「フォトメ」の構想はちょうど時代を先取りしていたと言える。しかしながら結論から言えば、この最初の事業は大失敗。サービスをリリースすることすら叶わなかった。
佐々木いきなり中国に行ってしまったのが、全ての間違いでした。今だったら絶対にそんな選択はしないんですけど、当時は妙にグローバル志向だったんですよね。
その時ほとんど運命的なタイミングで中国の国営企業の社長さんと知り合うことができて、その人のツテをたどって中国の湖南省に渡りました。現地の会社とジョイントベンチャーを作って、中国でサービスを展開しようと考えたんです。
中国に渡った佐々木氏は、ありとあらゆるものの日本とのスケールの違いに圧倒された。加えて中国は「スタジオでコスプレをして撮影し、額に入れて家に飾る」という文化が生まれはじめたタイミングであり、大きなチャンスを感じたという。
佐々木日本ではすでに、スタジオで写真を撮影するような文化は成熟しきっていました。一方で中国はこれから、しかも日本とは比べ物にならないような規模で市場が成長していくというタイミング。このギャップを埋めていく作業が楽しくて、ワクワクが止まりませんでした。「中国で活躍した、フォトメの佐々木が帰ってきた!」と言われるようなマーケットを作りたいとか、妄想していましたね(笑)。
ところが中国には、日本とは比べ物にならない大きさのマーケットがある一方で、日本では考えられないようなリスクも潜んでいる。唐突に法律が改正されることをはじめ、自国ではあり得ないような中国独自の文化に翻弄される──俗に言う“チャイナリスク”というやつだ。佐々木氏もまたご多分に漏れず、リリース直前というタイミングで“まさかの事態”に直面することとなる。
佐々木プロトタイプもできて、「後はデザインを入れるだけ」というタイミングで、パートナーであった企業との折り合いが付かなくなりました。日本で生まれ育った私としては、全く想定していなかった、“コピー問題”に直面したのです。現地のお作法を知らないままに飛び込んでいたことで、結局事業は白紙になりました。「やりたいことを実現できなかった」という強烈な悔しさがありましたね。
何の成果も残せず日本に帰ることを余儀なくされた佐々木氏は、当座の運転資金を得るべく、企業向けのエンジニア派遣事業を開始した。しかし、「モノを作って世の中に一石を投じたい」という想いは消えることなく、2014年に『Footi Stream』というスポーツ動画キュレーションアプリをリリースした。
佐々木自分のバックグラウンドはスポーツにあったので、今度はスポーツを切り口に事業を着想しました。リリースしたアプリは1ヶ月間で10万近くダウンロードされ、レビューもかなりの高評価で、手応えを感じました。「これは行けるんじゃないか?」と思いましたね。
ところがこの2つ目の自社事業も、思わぬ形で頓挫する。スポーツ業界でビジネスを展開するうえでの“お作法”を知らなかったため、サービス停止に至ったのだ。
佐々木既にプレイヤーが確立している成立している市場に、新しいビジネスモデルを持ち込んだ結果、身動きを取りづらくなってしまいました。自分たちにとって新しい環境で何かを成すためには、事前調査が非常に大切だと学びました。コトをはじめること自体が成功ではなく、形にして維持していくまでが必要なのだと。
ビジネスには、いつだって想定外のトラブルがつきものだ。自分にはどうにもならない力によって、こうして事業が頓挫してしまうこともある。しかしながら、大きな挫折を二度味わってもなお、佐々木氏は次なる挑戦に向けた姿勢を崩さない。むしろ10年分の悔しさを溜めたその目の光は、いっそう力強く灯っている。
佐々木世の中に自分で構想したプロダクトを出して、それを皆が使ってくれて、対価をいただく──創業当時からずっと夢見ていたことが、この10年間で一度も実現できていないんですよ。そのことが悔しくて、悔しくて。自分の人生、なんでこんなに遠回りするんだろうって、考え続ける10年でした。
でも、2020年代に突入したいま、ようやくプロダクトを世に送り出す段階に来ました。強いビジョンを持ち、それを現実世界のニーズと符合させることの重要性を学び、実行したからです。諦めない限り、点と点はつながる。“目の前のにんじん”だけが目指すものとは限らず、愚直にやり続けていくプロセスの中に、自分が実現したいことのヒントがあるんです。さまざまな失敗を一通り経験してきたので、今度こそビジョンの実現に向かって真っ直ぐ進んでいきます。
「非エンジニアでも、システムと対話するだけでプログラムが作れる」世界を実現する
挫折と忍耐の季節を経て、第二創業へ向け大きな一歩を踏み出したFabeee。これから手始めに取り組むのは、社内向けのローコード・ノーコードのプラットフォーム開発だ。
佐々木目指しているのは、エンジニアではない僕のような人間が、システムと対話するだけでプログラムを作れる世界です。非エンジニアがクリエイティブな思考を持って、エンジンに話しかけて、それがプログラムとして生成できたら、オンラインとオフラインの境界が1つ無くなりますよね。
そのためのファーストステップとして、ローコードと呼ばれる、今までは100%自分で書かなければいけなかったコードを30%くらいの労力で書けるような仕組みの開発に、全社として取り組んでいます。
また、具体的にローコード・ノーコードのプラットフォームを開発する手法について、杉森氏は次のように補足する。
杉森クライアントからあるシステムについて開発の依頼を受けた後に、また別の会社から似たようなシステムの開発を依頼されるケースがありますが、その際それぞれのコードに、被る部分が必ず発生すると思います。
であれば、その「被る部分」とはどこなのか。次の開発の際に、簡単に使いやすくする方法はないのか。それらを突き詰めていけば、最小限のコードでクライアントが実現したいことを実現できる。これが、僕らの考えるローコードの概念です。世の中で一般にローコード・ノーコードと呼ばれているものとは、少し異なるとは思います。
この方法でローコード・ノーコードのプラットフォームを作るためには、システムやコードに関する大量のデータを収集していく必要がある。そのため今後は「ALICE」と名付けた、独自のデータ収集フレームワークを使って、DX支援事業で発生した知見を蓄積していくという。
また、この社内向けプラットフォームは、いずれSaaSなどのプロダクトとして一般展開する構想だと語る。来期以降Fabeeeは、ローコード・ノーコードのプラットフォーム開発への注力とIPOを見据えた体制強化のため、採用にも力を入れていくという。
杉森ローコード・ノーコードって、やっぱり面白い仕組みだと思うんですよね。設計書さえあればシステムが出来るというのは、エンジニアにとっての夢でもあるというか。もちろん「それができちゃったらエンジニアの仕事が無くなっちゃうじゃん」と考える人もいると思うのですが、そうした矛盾についてのディスカッションも含めて、実際に作っていくことができるのは魅力に感じます。
「何かをやりたい」と言った時にすぐにそれが全員に伝わって、「面白いね!」と自然に賛同し、さまざまな視点からアイデアをくれるメンバーがいる点はFabeeeの魅力だと思います。とにかく、メンバーを巻き込みやすい。主体的に何かに取り組みたいと思っている人にとっては、すごく良い環境でしょう。うちには稟議はありませんから。「やりたい」と思ったらまずやってみて、上手く行かなかった点については、後から考えればいいというスタンスです。
佐々木サントリー創業者の「やってみなはれ」という格言がありますが、まさにそのような精神です。メンバーの「やりたい」という気持ちを尊重する文化は常に大切にしていて、「オンラインとオフラインの境界線のない世界」につながるものであれば、「NO」と言うメンバーは誰もいません。このビジョンに共感してくれる方がいたら、ぜひ一緒に未来を作りましょう。
これまで数々の失敗を経験してきたからこそ、挑戦を恐れず、どんな失敗も明日の糧にしていく文化がFabeeeにはある。他の会社なら「デカすぎる」と笑われるであろう壮大なビジョンを、一緒に目指せる仲間もいる。
もし、あなたのどこかに「SF映画の世界を、自分の手で実現できたらな」というキラキラした夢が眠っているなら、勇気を出してFabeeeの扉を叩いてみて欲しい。
こちらの記事は2021年03月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
藤田マリ子
写真
藤田 慎一郎
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