連載私がやめた3カ条

「社長会」はエゴでした──Fabeee佐々木淳の「やめ3」

インタビュイー
佐々木 淳

大学卒業後、2004年にシーズクリエイト株式会社に入社。不動産会社の営業部門に配属されたことを機に、まずはトップセールスの道を切り開こうと決意し、営業活動に従事。同年、新規開拓部門においてトップセールスになり、MVP賞を受賞。
2006年には、営業経験を活かし、株式会社ウィルオブ・ワークにて最年少コンサルタントとしてのポジションを獲得し、数々のプロジェクトを企画・参画する。そこでは、多くの転職希望者支援する事業を展開し、同グループ内においてMVP受賞。
その後、WEB業界に特化した人材紹介の企画・立上げを行う事業を展開し、フォトメの事業の礎を築く。
そこで得た事業スキルを活かし、満を持して2010年に20代で株式会社フォトメ(現:Fabeee株式会社)を創業。同代表取締役に就任(現任)。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」略して「やめ3」。

今回のゲストは、企業への伴走型DX支援事業を展開する、Fabeee株式会社代表取締役CEO、佐々木淳氏だ。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
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佐々木淳氏とは?
不撓不屈のDX推進家

以前、FastGrawで取り上げた記事でも触れられているように、数々の挫折と絶望を味わいながらも、果敢に新たな挑戦に立ち向かい続ける佐々木氏。不動産会社の営業を経験し、人材コンサルティング企業を経て2010年に創業したFabeeeは「オンラインとオフラインの境界線のない世界を実現する」というビジョンを掲げ、企業のDX支援や技術開発を手がけている。

Fabeeeの存在感の礎となっているのは高いスキルを持ったITプロフェッショナル人材といっても過言ではない。柱となっている事業には、コンサルティングからデータ分析、開発まで専門家がワンストップで支援する『バンソウ DX』である。

創業から12年。成長を続けるFabeeeは、階段を一段のぼるために必要な壁に向き合っていた。その壁は会社だけではなく、また佐々木氏自身にとっても乗り越えるべきものだという。さらなる成長のため、覚悟を持ってやめたものとは。佐々木氏の話から紐解いていく。

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スキル重視の採用をやめた

採用において、中途採用であれば候補者のスキルを重視するのは当たり前と言っても過言ではないかもしれない。高いスキルを持った人材に入社してもらえれば、即戦力となりより事業の成長速度をあげられるだろう。それが専門職の採用となればなおさらだ。しかし、佐々木氏は「スキル重視の採用をやめた」と断言する。その理由は、一体何なのか。

佐々木チームスポーツで例えると優秀なプレイヤーが1人いたとしても、周りが付いてこられなければ試合には勝てません。スキル重視で採用をしていたときは、優秀なプレイヤーの主張に僕らがアジャストしていく感覚だったんです。新たな経験者を採用するときも、この感覚に近かった。ですからこれまでは、ベンチャーとして何度も方向性が切り替わった瞬間に、メンバーからは「やりたいことが合わない」といった声が上がることもありました。

ですから、入社して短期間で事業の拡大にインパクトを与えられそうなスキルを重視する採用ではなく、Fabeeeのビジョンを長期的に追い続けられることのできる人が必要だと思ったんです。

スキルの代わりに佐々木氏が重要視するようになったのは、ビジョンやバリューへの共感だ。冒頭で「試合に勝てない」と表現したことに合わせ、佐々木氏は次のように語る。

佐々木私が監督だとしたら、1選手のスキルより、どんなビジョンをチームに掲げ、どういう価値観やルールをチームにもたらせば大会で優勝できるかという観点を重要視すべきだと考えました。

自分のやりたいことを実現できる環境を会社に作ってもらうのではなく、会社の枠組みに自分のやりたいことを合わせていける人を採りたい。それができるのは、会社のビジョンやバリューに共感してくれている人でしょう。その中でも、特に若手採用を積極的にしていきたいと思っています。

Fabeeeの掲げるビジョンは「オンラインとオフラインの境界線のない世界を実現する」だ。社内では"社内副業制度”という文化があり、社内で公募されてる業務をこなしたらインセンティブがもらえるものがある。これもオンラインの業務成果がオフラインの幸福度に結びつくよう設計されたものだ。こうした施策に加え、採用方針も変えることで、メンバーへのビジョンの浸透度はさらに高まりそうだ。

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「社長会」をやめた

メンバーのエンゲージメントを高めるためには、社長が積極的にメンバーとコミュニケーションを取り、自分の想いを届けることが効果的だ──。そう考えて実践している経営者もいることだろう。ある程度の規模に成長するまでは、社長自らが全メンバーと1on1をしているというベンチャーも少なくない。

しかし、組織が成長していくにつれ、いつまでも個別のコミュニケーションを続けるのは困難だ。そこで、佐々木氏は社内コミュニケーションへの考え方をあらためたという。

佐々木メンバーが増えてくると、私の声を適切に届けてくれる参謀となる存在、つまり役職者が必要です。役職者がいてくれることで、より多くのメンバーに声を届け続けられるようになる。そうした参謀を育てるため、私が1on1をするのは役職者に絞りました。もちろん、コミュニケーションを全メンバーと一切しないのではなく、コミュニケーションをとる環境や、タイミングなどを考慮することに努めるようになりました。

佐々木氏が変えたのは、1on1の対象者を役職者に絞っただけではない。これまで社内コミュニケーションのために開催してきた「社長会」を取りやめ、昨秋から有志で運営する「水曜Fabeeeの会(水ファビ会)」への切り替えも行った。

佐々木社長会は、私からメンバーへの一方的なコミュニケーションになってしまう懸念点があった上、私の突発的な予定でリスケせざるを得なくなることもあります。それでは無責任だなと。ただ、楽しい会は設けたい。そこで社内に「助けてくれ」と言ったところ、5、6人の仲間が手を挙げてくれたんです。

「水ファビ会」では、いろいろなコンテンツを社員自らが企画してくれています。例えば、オンライン会議システムを使ったビブリオバトルだったり、Fabeeeを1番知っている人を決める「ファビー王選手権」だったり。最近では論破王を決めるディベート大会を行い、運営側が出すお題に対して議論しました。

1人で社長会を切り盛りする形からメンバー主体の運営に切り替えることで、メンバーのエンゲージメントを高めるだけでなく、オーナーシップの醸成にも手ごたえを感じているそうだ。

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自分が営業のクロージングするのをやめた

できる人が進める方が、短期的には業務効率やプロジェクトの成功率が高いかもしれない。しかし、組織の成長を考えたとき、いつまでも社長が先頭を切るままでいいのか。こうした葛藤は、会社を大きくさせようと試行錯誤する経営者ほど抱えるものかもしれない。佐々木氏もそうした一人だった。

しかし、佐々木氏は「目の前の数字が一時落ちたとしても、組織として成長する道」を選んだ。佐々木氏がアポ取りをし、営業の場に専門性の高いメンバーを同席させ、自らクロージングさせるこれまでの営業方法をやめたのだ。

佐々木組織として仕組み化するには、僕がボールを持っていない方がいいんですよね。そろそろ、トップだからやれる仕事を始めなければならないとも考えていたんです。でも、直近の数字を重視するなら、やっぱり自分が出ていった方がいいのが現状。ステークホルダーにも「佐々木さんが出ていくべきなんじゃないですか」と言われることがあります。正直言って不安はありますし、個人的にも会社的にも売り上げという形で結果が目視できるようになる前の段階なので、苦しいですね。事実、12年の経営経験の中で、過去には倒産しかかったこともあるんです。

ただ、僕がやるままではこれ以上の規模を目指せない。それで思い切って権限移譲をしてみたものの、弊害も目に見えてきました。予算の決裁ルートがブラックボックス化してしまい、僕が把握すべき数億円規模の予算の使い道を部長級だけで決めていた、なんてこともあります。最初からスムーズには行かないのでしょうね。しかし、これまで何度も組織化の壁にぶち当たってきている経験も踏まえ、ここを乗り越えないと自分の成長もないと思っています。しかしながら、トップ営業をゼロにするわけではなく、自分が出ていくタイミングはしっかり見極めながら、動いていきます。

一言ずつゆっくりと言葉を紡ぐ佐々木氏。腰の低さからは、ビジョンへの飽くなき探求心が垣間見える。

佐々木利潤を追求すること自体をすべてやめたわけではありませんが、ビジョンに近づくためにやめたというのが3か条の共通点ですね。

これまでに重ねてきた失敗を、もう繰り返さないために。佐々木氏が苦しみながらも決断を下した<やめ3>は、Fabeeeが組織として成長するために必要不可欠なものだった。学び続ける続けることが、成長するスタートアップであるための秘訣なのだろう。

こちらの記事は2022年03月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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