DEEPCOREが注目!AIスタートアップ3社が登場──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
今回は、AI領域に特化して、起業家支援を行うベンチャーキャピタル・DEEPCOREとのコラボレーション企画として、DEEPCOREの投資先のみが集まる限定回を開催した。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、SOUNDRAW株式会社、株式会社コーピー、メドメイン株式会社の3社(登壇順)だ。DEEPCOREの雨宮かすみ氏も登壇し、各スタートアップにおける事業の魅力を語った。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY RYOTARO WASHIO
DEEPCORE
技術開発と産業課題の解決を支援する。
AI特化型VC。2号ファンドの設立を発表

DEEPCOREは、シード及びアーリーステージのAI領域のスタートアップに特化し、投資を行うベンチャーキャピタルだ。なかでもディープラーニング技術とその周辺技術を応用するビジネスへの投資に注力しており、ハンズオン支援を実施。支援の対象はプロダクトを持たないプレイヤーにも及び、解決したい産業課題とプロダクトの素案がDEEPCOREに持ち込まれ、プレイヤーと共にブラッシュアップすることで事業化に至った例もある。
DEEPCOREの投資先は61社(2021年10月末時点)。先日2号ファンドの設立を発表しており、更に支援を拡大していく。
また、AIエンジニアを中心としたコミュニティ『KERNEL』を運営。技術者・研究者を企業やや研究機関とつなげ、世界的なビジネスを展開する起業家の輩出を目指す。コミュニティのメンバーは、作業スペースや最新鋭のAIコンピューティング・クラウドを利用したり、輪読会・勉強会などのイベント、企業・研究機関との共同実証実験に参加したりすることができ、メンバー同士が切磋琢磨できる環境を用意している。
最先端技術のビジネス応用や社会実装をサポートする存在として、期待されている。
SOUNDRAW
作曲を民主化する、AI作曲サービス

最初に登壇したのは、AI作曲サービス『SOUNDRAW』を運営している、SOUNDRAW代表取締役CEOの楠太吾氏。
楠氏は、2016年に踊ることで音楽を奏でるウェアラブル楽器ガジェット『SoundMoovz』を開発。欧米を中心に、世界17カ国で40万台を販売した経験を持つ。2018年からAI作曲技術の研究開発を始め、2020年にAI作曲サービス『SOUNDRAW』をリリースした。

『SOUNDRAW』が解決するのは、多くの動画クリエイターが抱える「BGM探し」の悩みだ。
楠100名ほどの動画クリエイターにインタビューを実施したところ、多くの方が「BGMを探すのが大変で、時間がかかる」と回答しました。動画で使用するBGMは素材サービスから探してくることが多いものの「動画の雰囲気にあった音楽か?」「音楽の盛り上がるタイミングが適切か?」など、1曲ずつ聞きながら探さなければいけないからです。
またクライアントから依頼を受けて動画を制作する場合、「スタイリッシュな感じ」など、ざっくりとした要求をされることが多い。さらに「ちょっとイメージが違う」と手戻りが発生すると、また一から音楽を探さなければならず、工数はさらに増える。そこで、適切なBGMを入手するまでの煩わしさを解消するために『SOUNDRAW』を開発しました。
『SOUNDRAW』は、ビデオテーマ・ムード・曲の長さを選択するだけで、カスタマイズされた15曲を自動で生成。使用したい音楽を選択した後、テンポや音量、キーなど細かく編集することができる。また、必要に応じてメロディを変更したり、ベースやドラムなど楽器を追加・変更したりすることも可能だ。

ブラウザ版のみならず、Premiere Pro After Effects プラグイン版をサブスクリプションモデルで展開している。
膨大な楽曲を提供できる背景には、AIの仕組みがあると楠氏は語る。
楠音楽をメロディ、バッキング、ベース、ドラムの4つに分け、それぞれで学習データを作成しています。さらに、AIでインプットとアウトプットを繰り返し、新しい音楽を量産できるマシンラーニングを開発・運用しているんです。
現在は、動画市場にフォーカスして事業を拡大させている同社だが、今後は音楽市場やゲーム市場など、クリエイティブ領域を中心にターゲットを拡大していくと語る。
「エンジニアやデザイナーなどを募集しています。ご興味ある方はぜひご連絡いただければ幸いです」と語り、ピッチを締めくくった。
雨宮氏は「クリエイティブ制作は、自動化が進みづらい領域。作曲家に依頼するしかなかったBGM制作を、動画クリエイターなど、専門知識を持たない方々が手がけられるようになることには、大きな意味があると感じています」とコメントを加えた。

コーピー
AIの安心・安全な運用に特化した、ミッションクリティカルAI

続いて登壇したのは、コーピーFounder兼CEOの山元浩平氏。同社は、ミッションクリティカル領域に特化したAIソリューションを提供している。
ミッションクリティカル領域とは、モビリティや製造業、ヘルスケア領域など、事業に滞りが生じると、社会に大きな影響を与えうる基幹的な領域のこと。現状、実際にAIが取り入れられているのは、万が一事業に支障をきたしたとしても、社会に甚大な影響を与えることはない非ミッションクリティカル領域であり、「ミッションクリティカル領域でのAI活用は、PoCより先には進んでいない」と山元氏は語る。
山元大きく分けて2つの要因があります。一つは、AIのブラックボックス問題。例えば、AIが猫の画像を犬と判定した時に、その根拠がわからないと現場の人が困ってしまいます。つまり、AIのアウトプットの判断根拠が理解できない。万が一問題が起こった際、対応ができないんです。
また、AIの品質を十分に検証できていないという問題もある。テストでは95%の精度を計測したAIを実際に運用してみたところ、70%まで精度が下がってしまうことは少なくない。こういった現象の原因は、最初に集めたデータが限られていることですが、この問題を解決できなければ社会に対する影響力が大きい領域におけるAIシステムの導入は難しくなります。
安心安全なAIの導入・運用・品質管理をサポートするプロダクトが必要だと考えたんです。

実用的なAI運用をサポートするのが『CONFIDE』だ。『CONFIDE』は、AIの判断根拠を説明可能にする「XAI(explainable AI)」と「QAAI(quality assurable AI)」をベースにした、運用・品質管理プラットフォーム。製造業における外観検査AIや、自動走行における物体検知AIなどの運用をサポートする。
また、XAIとQAAIを活用したコンサルティングサービスも展開。AIの開発・運用・品質管理をワンストップでサポートしているAIシステムの本導入後も視野に入れて運用管理プロセスを構築するため、安心安全な運用が可能になる。
製造業向けに展開している『CONFIDE for Factory』は、製造業におけるAIシステムの開発・運用サポートに特化したプロダクト。現在は「外観検査」「作業解析」「異常検知・故障予測」「製造工程最適化」を支援するAIソリューションを提供している。

モビリティ領域においては、自動車メーカーと連携し、自動走行AIシステムを共同で開発。また、ヘルスケア領域では医師がCTやMRI画像などから診断を下すことをサポートする診断支援システムの研究開発に取り組んでいる。
山元事業拡大に向けて、協業パートナーや、XAI&QAAIによるDXに力を入れたい企業を募集中です。COOやPM、機械学習エンジニアなど募集しているので、グローバルに活躍する多様で優秀なメンバーと働きたい方はぜひご連絡ください。
雨宮氏はコーピーの「巻き込み力」を讃え、こうコメントした。「AIのBtoBプロダクトを開発する場合、開発の初期段階からお客様からフィードバックを受けながらブラッシュアップしていくことが重要になります。コーピーはそういった開発プロセスを、高い精度で実現している。これからも多くのお客様の要望に精度高く応えるプロダクトを生み出すことに期待しています」
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メドメイン
デジタル病理を強力に支援するAI搭載クラウドシステム

最後に登壇したのは、デジタル病理AI解析ソリューション『PidPort』を運営している、メドメイン代表取締役CEOの飯塚統氏。
冒頭で、飯塚氏は患者さんの病気を特定する「病理医」の仕事について説明した。
飯塚病理医の仕事は、臨床医が診断に迷った場合、臨床医から提供される検査材料を元に最終的な診断を下すこと。例えば、がんの疑いがある患者さんが見つかった場合、その患者さんから採取した組織や細胞が病理医に渡されます。病理医はそれらを顕微鏡で観察し、診断を下す。その結果によって治療方針が決まるため、一つひとつの意思決定が生死に関わる極めて重要なものなんです。

現在、世界的にがんの診断件数が増加しているにも関わらず、国内外問わず病理医の数は慢性的に不足している状況だと飯塚氏は語る。
飯塚病院ごとに最低1人以上、できれば複数人の病理医によって病理診断が下せる環境がベストです。とはいえ、なかなかそうもいかず、多くの病院が他院や検査センターなどに病理診断を外注しているような状況です。さらに1人の病理医が全ての病理診断を担当している場合、負担がとても大きく、専門領域ではない病気の診断については自信を持ちづらく、他の医療機関に診断を依頼していることもあります。
また、外部に依頼する際には、患者さんの細胞や組織が入ったプレパラートを丁寧に包んでダンボールに詰め、車で輸送するなど、アナログな方法で共有されています。
このように、多くの課題が存在する病理診断をデジタル化するのが『PidPort』だ。AIによる画像解析で瞬時に結果を判定し、病理画像データをクラウドで管理。リアルタイムで画像の閲覧ができるため、遠距離での病理診断や離れた施設間でのコンサルテーションも可能だ。病理画像に直接メモなどの書き込みができる他、症例に関連したPDFを添付する機能も備わっている。
さらに、病理標本のデジタル化をサポートするために、患者さんから預かった組織や細胞のプレパラートをデジタル化し、バーチャルスライドとして納品するサービス『Imaging Ceter』も展開している。

これまで国内のみならず、インド、タイ、アメリカ、シンガポールなど合わせて約70施設と連携し、病理AIの実証実験を実施。また国内においては、21の大学病院からデータ提供などの協力を得ている。
2020年8月にシリーズAで11億円の資金調達を実施し、現在はシリーズBに向けて事業を推進している。「世界で戦っていく仲間を積極的に募集しています。ご興味ある方はぜひご連絡ください」と参加者に呼びかけた。
メドメインの魅力と強みについて、雨宮氏からこんなコメントが加えられた。
「病理AI解析サービスはユーザーにその有用性を理解してもらいやすい一方、実際の導入に至るまでには距離があると感じています。特にヘルスケア領域のプロダクトは導入してもらうための壁が高く、単にサービスを提供するだけでは導入してもらえない。メドメインは、お客様からいただいた一つひとつのフィードバックをしっかりとプロダクトに反映することで、お客様の細かな要望に応えられるプロダクトを作り込んでます。そこが大きな魅力であり、強みでしょう」
採用情報

今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2022年01月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
編集
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
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