「期待値のズレ」が、オープンイノベーションを停滞させる──スタートアップ×大手の協業ノウハウをMS原・Sun*梅田・FW横山・GCP野本が大激論
Sponsored近年、大企業とスタートアップがタッグを組む事例が増えている。なかでも大企業が展開する支援プログラムでは、開発インフラの提供だけでなく、事業支援を行うものもある。リソースや人材の足りないスタートアップにとって大企業は心強いパートナーになり得る。
2022年2月に開催されたFastGrow Conference 2022のセッション「エンプラ開拓の新手法!?起業家必見、スタートアップ支援プログラムの“リアル”」で、大企業とスタートアップの協業が難しい理由や、良い関係を築くために必要な考え方を探った。
登壇したのは、マイクロソフトのスタートアップ支援プログラム『Microsoft for Startups Founders Hub』に携わる原浩二氏、マイクロソフトと連携し、スタートアップのグロース及び大企業の新規事業支援に関わるSun Asterisk取締役の梅田琢也氏、Microsoft for Startups Founders Hubに採択されたフライウィール 代表取締役の横山直人氏、グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパルの野本遼平氏だ。
大企業、スタートアップ、ベンチャーキャピタルなど、異なる立場から、スタートアップと大企業、そしてそうした枠組みに縛られない、協業の“リアル”を語った。
- TEXT BY YUI TSUJINO
期待値やKPIのギャップを超え、Win-Winな関係を築くには?
冒頭では、大企業(エンタープライズ、エンプラ)とスタートアップが「うまくいかない場合、うまくいく場合の違い」について、各々の経験を踏まえて語られた。
原氏の携わる『Microsoft for Startups Founders Hub』では、マイクロソフトのクラウドサービスの無料配布だけでなく、人的・知的アセットまで提供する。そのなかでも原氏は、スタートアップと大企業のマッチングに特化した仕事を担ってきた。
その経験から原氏は「スタートアップと大企業の期待値のギャップ」が、うまくいかないときの大きな原因だと語る。
原大企業では、誰が決裁権を持っていて、どういう手順で決裁されるか、を理解することが不可欠です。協業を進める際に、スタートアップ側がこうしたことを十分に理解していないと、やはりうまくいきません。反対に、スタートアップの属性を大企業が掴めていないことも、失敗の要因としてよくある話ですね。
両者の違いを、両者ともに理解ができてないため「期待していたものと違う」となってしまう場合が最近も少なくなっていかないのかなと。
マイクロソフトと連携し、EC・小売企業向けデータサービスソリューションの提供を拡充してきたフライウィールの横山氏も同意する。
横山「うまくいく」の定義を、両者の強みを生かし、事業インパクトが出せている状態とします。その前提には、戦略的な会話ができ、持続的な関係が保てていることが必要ですね。
両者ともに求められる努力とは、アウトプットのイメージを埋めるために、認識を合わせようとすること。例えば、大企業として求めていたアウトプットや成果に対し、スタートアップはそこまで想定していなかったというパターンは少なくないです。もったいないなあと思いますね。
スタートアップと大企業とともに、新規事業開発などをファシリテートすることもあるSun Asterisk取締役の梅田氏は、期待値に加えて「KPIのズレ」や「リソースの確保」に言及する。
梅田私たちがよく関わるのは、本流の事業とは別に新しい事業を始めるというパターン。大企業だと、新規事業でも「5年で営業利益10億円」くらいの大きな目標を掲げていることもありますよね。でも、それを実現するパワーがスタートアップにあるのか?という問題がたまに表出します。
特に、本流の事業とは別にPoC(Proof of Conceptの略、「概念実証」)を行う場合、人的リソースをどのように確保するのかが、よく直面する課題です。
だから私たちSun Asteriskのチームを活用してもらう、という支援を行っています。大企業とスタートアップの協業において、スタートアップがリソースを賄えない部分を、弊社が代わりに担うわけです。
つまり、「現場で手を動かせる人がいるかどうか」も、うまくいく協業において重要なポイントだと思います。
スタートアップ支援に携わった後、KDDIグループでM&Aや投資にも関わってきた野本氏は、「ゴール設定、そこに向けたアクションがブレイクダウンできているかが、うまくいくかどうかを左右するのでは」と指摘する。
野本大企業とスタートアップが組むといっても、様々なパターンがあります。「営利10億円の事業を作りたい」だったり、「ある分野でPoCをしたい」だったり。それぞれにおいて、何がゴールかによって、どうアクションすべきかは全然違う。
例えばPoCなら「検証がうまくいかなかった」と確認すること自体が重要でもあります。なのに売上や利益を見てしまうケースだって実際には起きています。その辺りを明確にしないまま、スタートしてしまう協業も、まだ少なくないと感じますね。
「良好な関係構築」の前に「顧客課題を把握」すべし
ゴール設定やアクションのブレイクダウンの話を受け、横山氏はWin-Winな関係を構築するためのチェックポイントを共有してくれた。実際にフライウィールで活用しているものだという。
横山一般的な話として、Win-Winな関係を構築するためには、3つの段階を意識する必要があると考えています。
1つ目の段階は「Value offering」です。これがこのまま弊社のチェックポイントとして使われているわけではないのですが、一つの例としてご覧ください。まずは、提供しているプロダクトの『Conata』で、顧客の課題が解決できそうかどうかの見極めですね。顧客企業の責任者や担当者に、『Conata』の価値を感じてもらえそうかを細かく確認します。また、顧客が弊社のプロダクトや事業構想に興味があるか、技術的な意思疎通の素地が十分にありそうかといった点も同時に確かめます。
2つ目の段階は「Relationship」です。顧客と持続的に良い関係が構築できそうか、また、顧客と戦略議論ができるほど足並みが揃っているかがポイントです。
3つ目の段階は「Expansion」です。顧客から追加注文があった場合、弊社にサポートできる体制が整っているか、またプロダクトの横展開の可能性があるかをチェックします。
この共有を聞いて野本氏は、「ここまですり合わせを徹底している企業は少ない」と驚きを隠さない。指摘することには、「Value offering」を飛ばし、オフラインの交流の場で「一緒に何かやりましょうよ!」と良好な関係構築、「Relationship」から始めてしまう企業が少なくないという。
また、横山氏のチェックポイントをみて「資金調達と似ている部分があるのでは」と梅田は語る。
梅田資金調達、広い意味でリソースの調達なのだなと改めて感じました。
VCから資金調達する際、マーケットサイズや数値計画など、求められるクライテリアはかなり明確になっていますよね。
同じように、大企業と組んで、一定のリソースを調達するにあたっても、サービスやビジネスのフィットなど含め、チェックポイントに挙がっているようなプロセスを経て、信用を獲得する必要があるのだなと思います。
ここ数年で変わってきた、大企業のスタンス
期待値のギャップや認識合わせなど、難しさについての議論が続いたが、NTTドコモ、Google、Facebookと名だたる大企業を経て起業した横山氏は「ここ数年で、大企業とタッグを組みやすくなっている」と、変化を語った。
横山私たちは顧客のデジタル化をサポートし、業務効率化とともに売上をつくることに尽力したいと思っています。しかし、プロジェクトの第一フェーズでは、そもそもデジタル化がうまくいきそうか検証しないといけません。
最近は、その検証段階でうまくいかないことも折り込み済みで対応してくれる大企業が増えていると感じます。アジャイルで開発を進めたり、現場でプロダクトをカスタマイズしたりすることを大企業も理解し、私たちスタートアップが協業において最大限のバリューが出せるように考慮してくださる人が増えたと感じます。
背景には、大企業の方が抱えている危機感があるのではとも思います。前までは「自社でSaaSをつくろう」「プロダクトをカスタマイズしよう」と考えていたところが、「SaaSは私たちの強みにならないから」と外部のパートナーの力を借りるケースが増えている。
野本氏は「スタートアップの守備範囲が産業のコアに侵食しつつあるという見方もできるのではないか」と視点を示す。
原氏も長い間、大企業とスタートアップの協業を支援するなか「大企業からスタートアップの話を聞きたいと言われることが増えた」と言う。
原スタートアップの話を聞きたいと言われて赴くと、企業の経営に関わるような人達とお話をすることが増えました。上層部の方が「事業をどう伸ばしていこうか」と考えている企業との協業は、非常にやりやすいなと思います。
「いつ・どういう目的で」を押さえて、大企業を使い倒せ
話題も終盤に差し掛かったころ、野本氏がこの議論の本質を突く。
野本というか、大企業とスタートアップの区別も曖昧になってきていますよね。例えばメルカリってどっちだろうというと、難しい。
5年前くらいなら、この「大企業・スタートアップ」っていう対立軸でいいと思うけれど、最近は日本でも、組織規模が大きくても“スタートアップ的”な企業も増えてきているので、考え方を変えたほうがいいですよね。協業を考えていく枠組み自体が変わってきているという感覚があります。
梅田例えば、デジタルな事業体とノンデジタルな事業体、という区別で協業の在り方を整理するのが一つのやり方でしょうか。横山さんが紹介してくれた例も、ある程度当てはまる気がしますね。
議論を始めやすいのが二項対立だが、やはりモヤモヤも感じながら話していたことがわかる。確かに、何も「大企業とスタートアップ」と区別せずとも、「企業の枠を超えた協業すべて」に関する議論だと整理しても、特に不都合のない議論だとも言える。
そんな流れも経て、最後に、さまざまな協業をサポートする原氏、協業を推進する梅田氏、大企業と連携して事業拡大に挑む横山氏、そしてベンチャーキャピタリストの野本氏、それぞれの立場から企業が協業する際のアドバイスが述べられた。
原マイクロソフトは「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」をミッションに掲げています。なので、マイクロソフトにかかわる人たちをどうエンパワーメントできるか、我々にどういうバリューが出せるかを考えて活動を進めています。
「自分たちは最先端な技術をもっていないから」と悲観的になっているスタートアップに出会うこともあるのですが、マイクロソフトを使い倒すくらい我々を存分に活用して、事業拡大してほしいなと思っています。
梅田成長するにあたって、ボトルネックを解消していくのが1つのマイルストーンになっていきます。ボトルネックを因数分解したときに、望ましい未来を逆算して、それぞれの活動がどんな価値を出しているかをみるべきだなと。うまくいかないことも多いと思いますが、原さん同様、諦めないでください。
横山私が大企業にいた頃からスタートアップの方に言ってきたことですが、スタートアップが特に苦労するリードの獲得は、大企業を使い倒すことをおすすめします。わたしの体験では、メガバンクの人たちがいろんな人を紹介してくれました。ちなみに、マイクロソフトさんもかなりいろいろやってくれますよ(笑)。
大企業を使い倒すためには、その分スタートアップの価値を提供しなければいけませんが……。スタートアップにどういう価値があるかを理解してくれる人は絶対いますので、その人を頼って協業してみるのをオススメします。
野本横山さんの「使い倒す」という観点で追加で、いつ・どういう目的で大企業を使い倒すかは考えたほうがいいです。
お声がかかったことをきっかけにして、プロジェクトをはじめる方も多いと思いますが、受け身は危険です。経営タイミング的に今ではないと判断したら、勇気をもって断ることも必要です。今の時代、チャンスは何度も訪れますから、焦って変な失敗をしないようにしてほしいですね。
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こちらの記事は2022年02月28日に公開しており、
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執筆
辻野 結衣
1997年生まれ、東京都在住。関西大学政策創造学部卒業し、2020年4月からinquireに所属。関心はビジネス全般、生きづらさ、サステナビレイティ、政治哲学など。
連載FastGrow Conference 2022
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