大型調達・200名組織への急成長に必要な「CEOの変容」とは──ユニコーン企業への期待高まるhacomono・X Mileの両CEOが語る失敗と学び
Sponsored日本のスタートアップ界隈でも、「ユニコーン級」や「ユニコーンを目指せる」という言葉が目立つようになってきた。もちろん、投資家によるポジショントークの場合もあれば、起業家が掲げるムーンショットの場合もあるだろう。とは言っても、やはり昨今の環境をマクロ的に見ていけば、「リスクマネー供給量の増加」や「スタートアップパーソンの増加」といった背景から、ユニコーン企業のさらなる誕生への期待が高まってもおかしくはないと言えよう。
そして、ユニコーン企業が生まれていくであろう期待が特に集まっているのが、バーティカルSaaSを手掛ける企業群だ。そこで今回、FastGrowが独断と偏見から選定したX Mileとhacomonoの創業者対談を企画した。いずれも投資家から「ユニコーン企業になる」というお墨付きがある2社だ。テーマは大きく分けて二つ、「経営者(CEO)の器はどのように成長するのか?」そして「大きなインパクトを見据えて組み上げた事業ビジョンとは?」。
ロジスティクス領域でコンパウンドに攻める累計26.8億円調達のX Mile と、スマートシティ構築を目指してプロダクトを拡張・進化させている累計64.5億円調達のhacomono。野心溢れるミッションやビジョンを掲げる両社から、これまでの軌跡やビジネスへの思い、そして日本のベンチャー企業に対する期待を語ってもらった。
なおこの記事は、2024年2月に開催したイベント『FastGrow Conference』でのセッションを、対談形式のインタビューとして記録したものである。
- TEXT BY TOMOE IWAO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
スピーディー過ぎるくらいのトライアンドエラーがあるから、今がある
野呂創業して半年ほどの間は、さまざまな方向で探索をしていました。たとえば、医療業界のサービスをリサーチしていた時期もありました。
そうしていくつものサービスをつくっては、また潰して別の仮説を、という作業の繰り返し。その中で前に進み出したいくつかの事業を同時に走らせながら、徐々に今の形に落ち着いていったんです。
蓮田私も同様で、今のプロダクトを立ち上げる前には、5つ以上の事業を立ち上げては閉じるという経験をしてきました。
エンジニア出身ということもあり、いいプロダクトさえできれば事業は伸びると考えていました。しかし失敗を重ねるうちに、プロダクトの力だけでイノベーションを起こすことは難しいのだと感じるようになりました。「強い営業チーム」の組成、そして「時代変化」による後押しをうまく受けなければ、大きな価値創出はなかなかあり得ないんですね。
初めに提示したテーマは「創業時に経験したピボットの数々と、そこでCEOとして学んだこと」。さっそく滑らかに話し出したように、2人とも、出発点から数々の挫折を味わってきたという共通点がある。
蓮田創業期に、海外で先に普及が進んでいた「スマホで注文・決済ができるプロダクト」を開発していた時期がありました。実は一部の顧客の店舗では売上向上への貢献も見られていたんです。ですが拡販を進める中では、多くの店舗さんから「今までのレジがあるから」と言われ、価値を感じてくれるユーザーを増やせませんでした。
野呂私たちの今のメイン事業領域である物流業界を対象にしたプロダクトとしては、まず初めに、個人トラック運転手と運送してほしい店舗・企業とのマッチングサービスを考えていました。蓮田さんの話と同様に、海外ではすでに成り立っている事業があり、日本にそのモデルを輸入すればいいのではないかと考えたんです。
しかし、立ち上げを模索する中でわかったのが、物流版Uberのようなスキームは日本だと成り立ちづらいということ。アメリカや海外と日本の法律による違いによって、革新性のあるサービスにすることが難しい。そう感じて、断念しました。
断念と言っても落胆していたわけではなく、必要なトライアンドエラーだと考えて、事業戦略として転換する、このような仮説検証を連続的にスピーディーに行ってきました。
トライアンドエラーの時期は当然、メンバーも簡単に増やせない。だからなんでも自らの手でこなしていたという共通点も見られた。
野呂人が少ない中で、お金も稼ぎながら前に進まなければなりません。なので、営業やマーケティングはもちろんのこと、給与の振り込みまで、なんでもこなしていました。
蓮田私もそうですね。ですが特に、自分が得意だったプロダクト開発と営業にばかり注力していました。
CEOの変容が始まる時──権限移譲と、それに伴う失敗・学び
蓮田10人から30人の社員がいる段階でようやく営業チームを立ち上げ、100人を超えた頃にはプロダクトへの関与を減らして採用に注力しましたね。
野呂私は組織が30人を超えた頃から事業責任者的な立場になり、ようやくミッション・ビジョンづくりに専念し始めました。
事業現場でマルチに躍動しながら、失敗も数多く経験し、組織成長が目に見えて始まった。そしてちょうど同じく30人規模の頃に、CEOの役割変化を考え、実行していったという共通点もあったようだ。
野呂CEOとしての役割は、「重要度は高いが緊急度は低いこと」をこなすことです。経営陣で唯一、そこに時間を割ける立場であり、割かなければならない立場なんですね。
蓮田はい、私も同感です。わかりやすい課題は部下に任せ、わかりづらい問題、わからないことに自ら向き合うことをするようになりました。
「社内で、他にできる人間がいないことを、自分がやるんだ」と考えて動いていくのが、CEOの使命だと思っています。別の言い方をすれば、「他の人でもできること」を見極めて、任せ、成長を促すわけですね。
フェーズに合わせて自らの役割を変化させる。もちろん、変化させればすべてがうまくいくわけではない。創業期と同様に、試行錯誤を重ねてきた。
蓮田組織は拡大し始めたものの、急ピッチで人材を増やしすぎた影響でプロダクトから弊社らしさが失われかけたことも過去にはあり……バランスを取るのは難しいですね(苦笑)。
野呂採用という観点では、時間を巻き戻して対応したいと感じることは、経営をしているとよくあります。例えば管理部門の組織編制などは良い例です。事業が急成長していると、どうしてもBizサイドの採用や組織作りを優先し、管理部の採用はつい後回しにしてしまいがちです。ですが、事業が拡大するにつれて、会計や労務管理はどんどん複雑で難しくなる。業務が複雑になる前に、ここを任せられる人材を優先的に採用して業務を任せるべきだと思います。
会計をよく理解しているメンバーがいれば、ビジネスをより効率的に回していけるようになります。人事専任のメンバーは、創業期に近い頃からいてくれたほうが採用アトラクトなどの場面で熱い想いを語りやすくなります。こうした職種は、早く採用するメリットが大きいんです。
蓮田まったくの同感です。コーポレートや人事を任せられるメンバーの採用は、早いに越したことがないですね。管理部門の大切さを、創業初期に感じることはどうしても難しい。ですが、事業と組織が伸び始めたころになって向かい始めると、非常に複雑な業務ばかりになります。キャッチアップにも実際の対応にも時間がかかるので、任せられるメンバーが早い段階で増えていないと、CEOの工数も割かざるをえなくなります。
一方で、採用を進めて盤石な間接部門の体制をつくれていれば、セールスやプロダクト開発といった直接部門が安心してアクセルを踏み込めるようになります。スタートアップでは「これ以上アクセルを踏んだら組織が壊れる」と感じる瞬間がよくあります、その適切な抑止力になってくれるイメージですね。
野呂「どの順番で採用して、組織の中のどの部分を優先的に埋めていくか」を適切に意思決定していくことは、創業期におけるCEOの大切な役割だと思います。それを一人で考えるかたちになってしまいがちなので、うまく相談しながら進められるといいですよね。
No.2からの指摘が、CEOの次なる成長に
創業からの歳月を経て、失敗も経験しながら、次第にCEOとしての成長も感じ始めたという両者。しかし、新たな課題に直面し続けるのも、経営者ならではと言えるだろう。2つ目のテーマ「CEOとしての実体験から語る、事業・組織成長のTips」の中で話題に上がったのが、マネジメントレイヤーの存在だ。両者とも、No.2と呼べる存在から、重要な示唆を受ける中で自身をさらに成長させていった感覚があると振り返った。
蓮田私とはタイプが全く違う経営メンバーのCOO平田英己さんの存在は大きいですね。ローランド・ベルガーや楽天グループで、経営や戦略の経験を積んできた人です。プロダクト開発ばかりのキャリアだった私とは、バックボーンが大きく異なります。なので当然ながら、日々の経営における発想もだいぶ異なります。
そんな平田さんとの議論では、いつも新しい発見があるので、非常にありがたいですね。私の発言や仮説に対して、非常に論理的に問題提起をしてくれるんです。
そんな中で、CEOとしてもっと変化していかなければならないと思うようになりました。
創業者というのは、どうしても組織内で声が大きい存在となってしまいがちです。必要以上に、意見がスッと通りやすいんです。このことを、平田さんの言葉によって具体的に認知できるようになってきました。それで、「トップダウン」なマネジメントスタイルを見直し、「チームで議論をしてから答えを出す」というスタイルに変化してきました。
平田さんから直接「トップダウンをやめたほうがいい」と言われたわけではありません。でも、今になって思えば、じっくりと誘導されたのかもしれないです(笑)。
野呂弊社も同じように、共同創業者でCOOの渡邉悠暉さんの存在は大きいですね。
私自身が前の会社でCOOを務めていたこともあり、どうしても執行のための行動に出がちな側面があります。事業に関して何か問題が起きそうな時には、率先して自ら動いていました。そんなスタイルを、渡邉さんからのある進言をきっかけにして見直しました。
創業時、外部変化によるトラブル対応に対して全社向けメッセージをスピーディーに直接伝えようとした時のこと。渡邉さんが「待ってくれ、CEOからメンバーに直接この指示を出すのは、その後のことを考えるとリスクがある。私から伝えます。」と強く言ってくれたんです。
「スケーラブルな仕組みを創ろう」という行動指針が私たちX Mileにはあります。重要なことだからこそ自ら率先して動きたくなってしまうのですが、むしろ、スケールする組織を創るためには重要なことを任せないと中長期的に成長しない。そんな気付きを得ました。
それに、人によって仕事に取り組む姿勢やマインド、働く目的が大きく異なります。「人生観の違いを意識しながら、経営やマネジメント、組織編成をしなければならない」と、それ以降は常々考えています。
No.2から、いわば“起業家病”を指摘されたこの二人。対話を通して自身を見つめ直すようになった。指摘やフィードバックをまわりから受け、率直に向き合う。その結果、CEOとしての成長がまた一つ見られたエピソードだ。
「次の次代をつくる」という覚悟
そんな両者が、200人を超える組織を率いる現在、担っているのはどのような役割なのだろうか。
蓮田現在は、各チームをモニタリングして、どの選択肢が最善なのか判断するのが私の役割です。
比較的わかりやすい課題なら、執行側に任せます。そうではなく「わかりづらいもの」や「そもそも正解がまったくないもの」に向き合うことで、非連続的に事業価値を高めることを考えようとしているんです。
CEOとして、視野をより広くして、いろいろなものに目を向けなくてはいけないと思っています。
野呂組織や主幹事業についてはCOO、そこを起点とするマネジメントチームに任せています。そんな中で私は、新規事業の立ち上げやグロースについて、直接現場に入ることもあるくらい、コミットしています。
次の大きな成長をかたちづくるためにノンデスク産業向けSaaS・プラットフォームを中心に、次々と新たなプロダクトや機能を開発・強化していくわけです。その手綱を今も私自身が握り、推し進めていきます。
CEOの役割から、企業の今後も垣間見える。対談も終盤に差し掛かったこのタイミングで、今後の展開について聞いていきたい。最後のテーマ「バーティカルSaaSを起点に、CEOとして描き続ける変革の青写真」に沿って語られたのが、以下の戦略だ。
野呂私たちは「令和を代表するメガベンチャーを創る」というミッション、そして「テクノロジーの力で、ノンデスクワーカーが主役の世界を」というビジョンを掲げています。
日本では経済の低成長が長く指摘され、特にベンチャー企業やスタートアップにおいては上場後に時価総額が100億円をなかなか超えられないということもよく言われます。企業経営をめぐる課題は山積しています。
そんな中で、ノンデスク産業という一大市場を対象に、HRやSaaS、Fintechをかけ合わせた複数事業によってDXを実現していくことで、大きな成長を続けようとしています。その姿として描いているのが「令和を代表するメガベンチャー」です。
蓮田hacomonoは、「ウェルネス産業を、新次元へ。」というミッション、そして「アフターデジタルを牽引するウェルネステック・カンパニーへ。」というビジョンを掲げています。なので、バーティカルSaaS企業というイメージをいい意味で脱却し、社会インフラをつくる企業を目指しています。
事業としては、まずはフィットネス関連業界での大きなシェアを確保し、データプラットフォームとコミュニティを構築していきます。そのうえでサプライチェーンをつくり、Fintech事業も絡めながら、ユーザー企業・パートナー企業に対して大きな価値を提供できる存在を目指します。
壮大なミッション・ビジョンを掲げ、非常に大きな市場をバーティカルに攻めていく。そして、シンプルなSaaSだけでなく、複数の事業・プロダクト群のプラットフォームを構築していく。そんな戦略上の共通点も、ここで改めて感じるところだ。
野呂ノンデスク産業を分解すると、物流、建設、製造など、一つひとつがものすごく大きな業界がいくつも含まれることになります。これらを対象に、連続的・多発的に手がけることで強みをつくり出し、新しい社会価値・経済価値をいち早く生み出していきたいと考えています。
蓮田最終目標として「スマートシティのプラットフォームになる」ということも掲げています。私たちが入ることで、単なる便利な地域ではなくて、ウェルネスを基本としたスマートウェルネスシティをつくれるのではないかと思っています。
二人の口から「ユニコーン企業になりたい」といった言葉は一切出てこない。あくまで目指すのは、社会を大きく変えていく存在になるということである。そんな熱い想いが最後に語られた。この2社が、これからの日本のスタートアップ界を、さらには経済界を押し上げていく原動力となることを期待したい。
野呂最後に、誤解を恐れずに言えば……今も、優秀な人の多くが、大企業でのキャリアを選びがちだと思います。それを否定したいわけではありませんが、大企業の仕事と同じかそれ以上にダイナミックで面白いチャレンジが、私たちのようなスタートアップにも間違いなくあると思います。
アメリカでは、大学の優秀層の多くがスタートアップやベンチャー企業でのキャリアを選ぶそうです。日本でもそんな流れをつくりたい。検討する人がもっと増えるように、私たちもがんばっていきたいですね。
蓮田先人たちが必死でつくり上げてくれた平和な社会に、とても感謝をしています。それは、戦後の日本で、今のソニーやパナソニックのような素晴らしい大企業が生まれ育ち、大きな経済価値を創出してきたからだと思うんです。その根底には、経営者の大志や野心があり、困難に立ち向かい続けた姿があるのでしょう。
これから私たちは、さらにそれを超える社会をつくる努力をしていきたい。それがスタートアップの使命なのかもしれないと感じています。こんな想いを共にしながら一緒に仕事をしていける仲間を増やしていきたいですね。
こちらの記事は2024年03月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
巖 朋江
写真
藤田 慎一郎
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