3つの分野から探る、
ミレニアルズが支持するFinTechサービス7選

  • TEXT BY TAKASHI FUKE
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA

FinTech市場の成長が止まらない。

『CB Insight』のデータによると、2018年度第1四半期におけるFinTech企業への投資額は、世界規模で54億ドル(約5,900億円)にのぼった。この要因には、大手銀行がFinTechスタートアップとの連携を加速していることが挙げられる。

銀行各社が狙うのはミレニアルズだ。米国労働人口の35%を占め、世代別で最も大きな割合となるミレニアルズは、今後資産運用の主体となっていく。どの企業もミレニアルズ向けFinTechサービスの開発を急いでいるのだ。

本記事では、3つの分野に分けて、合計7社のミレニアルズ向けFinTechスタートアップを紹介していきたい。

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モバイル財務管理「Clarity Money」 「Qapital」

Clarity Money

残高確認から受送金、収支バランスの分析・アドバイスまで、従来の銀行が提供するすべてのサービスをアプリ上で完結させたいという需要が高まっている。その最先鋒として登場したのが「Clarity Money(クラリティーマネー)」だった。

「Clarity Money」は2016年にニューヨークで創業し、累計1,450万ドル(約15億円)の資金調達をしている、財務管理アプリだ。ユーザーは銀行口座情報と連携させることで、無料で同アプリ上で簡単に残高や収支履歴などの各種情報を確認できる。

タブ分けせず、トップページをスライドしていくだけで、一連の情報を確認できる明快なUIが高く評価された。2017年度にGoogle Play StoreおよびApp Storeでアワードを獲得している。

Clarity Money

筆者も利用していたが、サブスクリプションサービスを自動解析して一覧表示してくれる点は非常に使い勝手がよかった。ワンクリックで不要なサービスの利用停止を行えることから、わざわざ利用サービスにログインして解約する手間もかからない。

財務管理アプリでは必須機能となっている目標貯金額に向けたサポート機能も充実している。機械学習を用いて、過去の購買履歴を解析し、最も出費を削減できそうな項目を提示して、目標額に届くように進言してくれる。

TechCrunchによると、リリースから1年しか経っていない2017年時点で、10万登録ユーザーを達成し、100億ドル(約1兆円)の取引を解析。平均して1ユーザー当たり300ドル(約3.3万円)の無駄な出費の削減サポートに成功しているという。

ミレニアルズをユーザーとして取り込むことに成功した実績を見込まれ、2018年4月にゴールドマンサックスに買収された。この買収の一件は、冒頭で説明した大手銀行がミレニアルズの囲い込みに躍起になっていると証左といえるだろう。

Qapital

ミレニアルズ向けの財務管理アプリのなかでも、行動経済学に基づいたサービス設計を行ったユニークな事例が「Qapital(キャピタル)」だ。同社は2012年にニューヨークで創業し、累計調達額は4,730万ドル(約51億円)にのぼる。

「Qapital」は、ユーザーの目標貯金額を、生活習慣をトリガーに達成していくUX設計を行った。各ソーシャルサービスの自動連携ができる「IFTTT」の財務管理版ともいえるだろう。たとえば、Instagramに写真を投稿したら自動的に1ドルを貯金、マクドナルドで食事をしたら自動的に3ドルを貯金するような設定ができる。

ユーザーの生活習慣を貯金トリガーとすることで、日々の悪い出費癖を改善したり、生活習慣の改善にもつなげることができる。ユーザーの行動習慣と貯金管理を結びつけることで、高いエンゲージメントを保つことに成功したのだ。TechCrunchの記事によると、2018年4月時点で42万ユーザーを獲得し、累計5億ドル(約550億円)の無駄な出費削減に貢献したという。

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ミレニアルズの価値観に寄り添う次世代銀行「Chime」

Chime

“新しい銀行”を作ったスタートアップもいる。Chime(チャイム)」は、20代後半の年収500-700万円ほどのミレニアルズ向けのバーチャル銀行だ。同社は2013年に創業し、累計調達額4,250万ドル(約46億円)を達成。

既存銀行が徴収する各種手数料を撤廃。専用のデビットカードを発行し、ユーザーの負担する手数料はネットワーク外のATM利用料2.5ドルのみに絞り、基本サービス利用料は無料。利用料金の透明化および一律化を図った。「Chime」は提携デビットカード会社から、利用額の1.5%分を手数料としてもらい、収益化を図る。

競合企業には、2009年に創業され、累計1,530万ドルの資金調達を果たした後にスペインの銀行に買収された「Simple」がいる。彼らもミレニアルズを狙った、モバイルファーストのサービス展開を行った。筆者は「Simple」も利用したことがあるが、「Chime」の機能はそれを上回る。

米国のミレニアルズは、空き時間を有効活用して働く「ギグワーカー」として配車サービス「Uber」や「Lyft」、オンデマンド配達サービス「Postmates」や「Instacart」などを通じて、余暇で副業をするのが一般化し始めている。このような労働者は、早く賃金を受け取りたい需要が高い。そこで「Chime」は入金予定日より2日早く賃金を受け取れるサービスを展開する。

従来の不透明な“手数料”を取り払い、ミレニアルズの働き方に沿った形で収支管理ができるサービスが、「Chime」が目指す新しい銀行のありかたなのだ。同サービスのミレニアルズからの人気は高く、2017年9月時点で50万ユーザーを獲得している

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ラフなコミュニケーションで財務管理を。財務チャットボット「Penny」「Cleo」

Penny

AIチャットボットサービスが急速に台頭してきた2-3年前、FinTech領域で脚光を浴びたのが財務管理アプリ「Penny(ペニー)」だ。2015年にサンフランシスコで創業し、130万ドル(1.4億円)の資金調達を経た後、「Credit Karma」に買収された。

「Penny」の特徴は、仮想財務アドバイザーとクイズ形式のチャットを通じて、自分の収支情報を理解し、無駄な出費削減につなげられる点にある。

たとえば、「今月あなたが最も通ったファーストフード店はどこでしょうか?」のような質問と共に、4つの選択肢が与えられる。どの店舗も過去1カ月の間に一度は訪れているため、なかなか鋭い質問内容になっている。

クイズ形式なのでユーザーの負荷も少ない。また、シンプルなグラフ形式で月ごとの収支比較も知れるため、使い勝手がとても良い。筆者も好んで利用していた時があり、悪い出費習慣を知ることができて非常に助かった経験がある。数ある財務アプリを試したが、最も長く使ったアプリであった。

最近ではロンドンを拠点に活躍する「Cleo(クレオ)」が、“ポストPenny”の座を狙って拡大を続けている。「Cleo」もAIチャットボットを通じた財務管理アプリだ。UIは多少違うが、GIFを通じたやり取りをするなど、ミレニアルズが求めるフランクな会話を通じた、財務アドバイスの需要を満たす。

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仮想通貨投資「Robinhood」「Circle」

Robinhood

2013年以降、米国では既存通貨を使ったミレニアルズ向け投資アプリRobinhood(ロビンフッド)」の登場と共に、投資ブームが起きた。「Stach(スタッシュ)」などの競合アプリも大型調達を果たしている。手数料無料や、1-5ドルの少額から手軽に投資を始められる点がウリだ。

そして2018年に入り、仮想通貨を使った投資アプリが台頭し始めている。

「Robinhood」は、BitcoinとEthereumの2種類の仮想通貨を使って投資ができる新アプリ「Robinhood Crypto」を発表。手数料はもちろん無料。仮想通貨取引所「Coinbase(コインベース)」では手数料を1.5%以上取られることから、大きな価格差別化を図っている。

Circle

ゴールドマンサックスも仮想通貨投資のトレンドに乗ろうとしている。直近では2018年5月に仮想通貨取引インフラの構築を目指す「Circle(サークル)」へ投資を行った。同社は2013年にボストンで創業され、累計資金調達額は2.46億ドル(約270億円)。今回のラウンドでは1.1億ドル(120億円)もの調達を行った。

「Circle」は計4つのサービスを立ち上げ、巨大な仮想通貨インフラを作り上げている。

「Circle Invest」は最大7種類の仮想通貨を登録することができ、1ドル相当から投資をすることができる。「Circle Pay」は既存通貨の国際送金を手軽に行えたり、「LINE Pay」のように友人間で手軽に割り勘できるサービス。ゆくゆくは「Circle Pay」に仮想通貨取引の機能を実装して、友人間の受送金を行えるようにする予定だ。

仮想通貨市場取引所「Circle Poloniex」も立ち上げ。加えて、市場価格で換算レートが決まる市場取引とは異なり、売り手と買い手が1対1で仮想通貨を直接取引ができる、仮想通貨向けOTC(Over the Counter)取引所「Circle Trade」も立ち上げた。こうした市場および市場外取引の両方のインフラを構築することで、世界的な仮想通貨流通を目指す。

「Circle」が目指すビジョンは、“次世代型ソーシャルペイメント企業”だ。ミレニアルズが仮想通貨を日常的に使う世界を見据え、元締めとなる取引所から、手軽に投資、友人間の送金を行えるサービスまで、一貫した仮想通貨の流通環境を整えている。

Ervins Strauhmanis

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シンプルな仕組みと、手軽な財務管理サポートを求めるミレニアルズ

ここまでミレニアルズ向けFinTechサービスを簡単に紹介してきた。総じて言えることは、使い勝手の良いUIおよびモバイルファーストの精神に基づいてサービス設計が行われている点だ。

大手銀行が提供するサービスは、単なる預金管理サービスでしかない。ミレニアルズが求めるのは、収支を最適化するアドバイスであり、これまで敷居の高かった投資機会へのアクセス権だ。モバイル上でこれらすべてのサービスを享受できる手軽さを実現できているスタートアップが大型調達を果たしている。

仮想通貨に関しては、未だ値動きが激しく、新たな“通貨”として信頼を勝ち得るのは時間がもう少しかかるだろう。しかし、5-10年のスパンでミレニアルズおよびジェネレーションZが仮想通貨を当たり前に使う時代が来るだろう。

そうなれば、仮想通貨世界で、前述した収支最適化および手軽に投資を行える需要が増えることは想像に難くない。この点、「Circle」は明らかに次世代の大きな需要を予測しているといえるだろう。

もちろん、従来の銀行サービスをより扱いやすいものにする「Clarity Money」や「Qapital」のようなサービスへの期待も高い。一方、「Circle」が描くような仮想通貨を手軽に流通させる次世代インフラの需要を見据え、事業を立ち上げる方が将来的に大きな商機を掴めるかもしれない。

いずれにせよ、ユーザーが求めるのは複雑化された手数料の仕組みや、収支管理を自動で最適化してくれる、透明性と利便性の高いサービスであることに間違いはない。あとは時代のニーズに合った“通貨”を取り扱うだけの問題であろう。

こちらの記事は2018年06月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

福家 隆

1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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