連載押さえておきたい、スタートアップの生成AI

押さえておきたい、スタートアップの生成AI関連事業創出事例──FastGrow厳選急成長スタートアップ6社の取組み(前編)

2023年、生成AI関連の事業やプロダクトに関するリリースが相次いでいる。

もちろん、これまでも生成AIを使用したサービスは存在した。しかし、本年のChatGPTの急速な広がりを受けて、生成AIあるいはより広義のAIを活用した事例創出の勢いに拍車がかかっている。

あちこちから毎日のように聞こえてくる「『○○ LLM』をリリースしました」あるいは「生成AIを取り入れた『AI ○○』」──。正直どの企業の、どのサービスを押さえておくべきか、と迷うFastGrow読者もいるのではないだろうか。FastGrowとしても、一旦、この流れを整理しておきたい。

そこで今回は生成AIに関連する新規事業や新規プロダクトに取り組む意思決定を行った急成長スタートアップを吟味し、6社にまずは迫ってみた。一つひとつ、その意思決定や狙いについて、見ていこう。

  • TEXT BY REI ICHINOSE
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法人カードのUPSIDERによる業務効率化AI『AI Coworker』

2022年に2回行われた超大型資金調達に続き、2023年は三菱UFJ銀行による80億円のシンジケートローンによる資金調達──。

昨今、スタートアップシーンで話題のスタートアップと言えば、UPSIDERの名を挙げる方が少なくないいるだろう。

まずは法人カード事業等を展開する同社の、AIを活用した新プロダクトを紹介したい。AIチャット型の業務効率化ツール『AI Coworker』だ。(リリースはこちら

AIが、各企業の申請ルール、組織図などを学習することで、契約書の締結・稟議承認・支払いなど従業員ごとに異なる対応が求められる業務を代行する。

freee会計、クラウドサイン、Google Workspace、Salesforceなど、特にスタートアップ界隈で良く使われるサービスを連携先として優先的に開発しており、実際のAIとのやりとりはSlackのみで完了させられる。

これまでの急成長を牽引してきた法人カード・後払い決済サービスに続いて発表されたこのプロダクト。まず、法人カード・後払い決済サービスで資金面からスタートアップを支え、次に業務効率化ツールで人事・労務面を支える意思を感じられ、「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」をミッションに掲げるUPSIDERらしい展開だ。

ちなみにAI Coworkerは、UPSIDERの既存サービスのユーザーであるスタートアップ企業には、無償提供される。代表取締役の宮城氏のnoteでは、無料開放について次のように書かれている。

まず、なるべく多くのお客様に開放し利用できるようにしたいと考えています。価値の大きなプロダクトだと信じているからこそ、価値を世の中に問いたいんです。そして、大量で多様なデータやフィードバックを集めることによって、学習を最速で回し、最高の体験を届けていきます。

(中略)

加えて、私たちは「お客様とテーブルの同じ側に座る」ビジネスモデルを大切にしています。お客様と対立構造にならず、「お客様が成長するとUPSIDERも成長する」という関係性です。これまでずっと、そのようなビジネスモデルでやってきました。

──note<新プロダクト「AI Coworker」の無料開放と「UPSIDER Capital」設立で、日本に再び競争力を | UPSIDER共同創業者 宮城>から引用

サービスの発表後100社が事前登録したことにも、頷ける。

またこのタイミングで、森 大祐氏をVPoPに迎えた。森氏は、数々のAI事業を抱えるPKSHA Technologyでプロダクト総括を務めた経験を持つ。UPSIDERのAI事業への気概を感じざるをえない。

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ノーコードでAIが利用でき、メディアやコンテンツ配信の最適化につなげるサービスを展開「FLUX」

次は、『FLUX AI』紹介を紹介しよう。FLUXといえば『FLUX Autostream』『FLUX CMS』などといった名称で、特許技術のidとAIを活用したマーケティング支援SaaSを提供していたスタートアップだ。それが、いよいよプロダクト名に「AI」という言葉そのものを組み込み、あくまで「ノーコードAIスタートアップ」であるというブランディングを進めるようになった。

『FLUX AI』というプラットフォームを基盤に、広告・メディア・WEBサイトなどの業務に活用できるサービスを複数提供する。AIが行動を予測し、例えば、オーディエンスの設定やコンテンツの配信が最適化できる。嬉しいことにノーコードで利用できるサービスだ。

FLUXの発表によると、顧客数は1,106社にのぼり、月次解約率は0.2%と驚愕の数字だ。どれだけ使いやすく、役に立つツールであることか、容易に想像できる。

冒頭で述べたとおり、AIを利用したサービスは相次いでリリースされる。しかし、AIを扱えるエンジニアの不足は深刻で、AIのビジネス利用が広がらないケースは多い。だがFLUXは創業期から、東大松尾研究室所属のCTO、Edwin Li氏を筆頭に、専門チームを世間に先駆けて組成。技術開発に取り組んできた。ノーコードで提供することへの、並々ならぬこだわりを感じる。

また、FLUXの実力は、資金調達面からも見て取れる。2023年6月に発表された44億円にのぼる大型資金調達では、新たな出資先にSMBC日興証券、NTTドコモ・ベンチャーズなど、名だたる企業が散見された。

先日FastGrowで行ったインタビューのなかで、CEOの永井氏は出資先から特に3点を評価されたと語った。

今回私たちの事業が評価されたポイントは大きく分けて3つあります。1つは売り上げ向上とコスト削減に直結するプロダクトに対しての評価です。たとえその事業領域の市場が下火のときでも代替されにくい価値があるプロダクトだと評価してもらえました。

そして2つめは、そのプロダクトのコア技術であるAIテクノロジーをプラットフォーム化することによって、他領域での汎用性が大きくあることです。

さらにこれらに加えて、3つめとして組織やカルチャー醸成への高い評価がありました。

──FastGrow<「ハイパフォーマーが最も報われる環境に」大型調達を経た未上場スタートアップが挑戦するカルチャー醸成と報酬設計をFLUX永井・布施が語る>から引用

名だたる大企業から出資を受けたことも納得だ。このインタビューでは特に3点目の組織について深く詳しく言及してもらった。ぜひ読んでみてほしい。

ここで一旦FLUXの歴史を振り返ろう。創業は2018年、プロダクトのリリースから3年半で顧客数は750社。国内最速とも言われるスピードでARR10億円を達成。

2021年には週刊東洋経済「すごいベンチャー100 」に、2022年にはForbes JAPAN「JAPAN’ s CLOUD 20」で15位に選出された。

こんなにも華々しい成長を遂げてきたFLUX、今回のテーマで紹介しないわけにはいかなかった。かつ、生成AI時代が到来するのに先駆けて、組織整備とプロダクト化を進めてきた先見の明には、脱帽するほかない。ここからの事業加速が楽しみだ。

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美容口コミアプリLIPS内に新たなAIサービスを追加「AppBrew」

2017年にローンチされた「LIPS」は、2023年に累計1,000万ダウンロードを達成。口コミ数は累計400万件を誇るアプリだ。AppBrewはLIPSを通じて自社ECやSNSの活用など、取引先ブランドのマーケティングを一貫して支援するサービスを展開する。

LIPSを紹介するにあたり、以前実施したインタビューを紹介する。

2018年にFastGrowは代表取締役の深澤氏と取締役の松井氏へインタビューを行った。その際、LIPSの誕生についてこう語られている。

松井 2ヶ月近くかけて開発して、リリースから数日でクローズすることもよくあります。創業して最初につくったサービスは、リリースして2日でクローズしましたね(笑)。

深澤 リリース時点での感触が良くても、グロースの目処が立たなかったら撤退も考えます。資金調達も含めて3ヶ月以内に次のステージへの見通しが立たないのであれば、その時点でイケていないサービスですから。そして、その“3ヶ月ルール”をクリアしたのがLIPSだったんです。

──FastGrow<ヒットへの近道は「失敗すること」。人気コスメアプリLIPSを生んだAppBrewの開発スタイル >から引用

スタートアップらしい速度でトライし続けた結果がLIPSである。インタビューを補足すると、LIPS誕生までに5つのサービスをクローズさせているという。

ちなみにこのインタビューから1年後、深澤氏と松井氏は、2019年「Forbes 30 Under 30 Asia」の「MEDIA, MARKETING & ADVERTISING」部門に選出された。

AppBrewのスタートアップらしさを十分感じていただいたところで、ここからは、AIに焦点を絞ってお伝えする。

LIPSには2022年末から3つの拡張機能が連続して追加された。SNSなどでバズった、第一弾の「AR技術を活用したパーソナルカラー診断機能」に続く、2つの拡張機能にAIを使用する。

第二弾の『LIPS AI バーチャルビューティーアドバイザー(β)』では、LIPS内に溜まった口コミと商品情報をベースに、美容の悩みに解答する。

これまでも検索やレコメンド機能、機械学習を用いてユーザーに有意義な情報を届けてきた。今回AIを実装したことで、ユーザーの質問への回答を重ねることにより、一層精度の高い回答ができるようになった。悩みに応答するごとにAIの学習が進んでいく仕組みだ。

第三弾の『肌タイプ×成分相性診断』にもAR機能と併せてAIを使用している。スマホで自撮りし、設問に答えることで肌を5つのタイプに分類し、スコアリング。その後、肌の状態にあった成分や商品をAIが回答する仕組みとなっている。

LIPS AI バーチャルビューティーアドバイザー(β)』のリリースにあたり、AppBrewはこう伝えている。「「LIPS AI」では先端技術の実装へ積極的に取り組み、美容領域の"当たり前"をさらに進化させていきたい」──。

この一行からも、LIPSへのAppBrewの信念を感じる。

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電話DXを牽引するIVRy、AIによる電話対応サービスの提供を開始

続いて電話DXを牽引するIVRyを紹介したい。同社は電話の自動応答や、電話の内容にあった音声ガイダンス、応対後のSMS自動送信などを提供する。「最高の技術を、すべての企業に届ける」というミッションを掲げ、日本の中小企業を中心に広がる人材不足に、電話DXという側面からアプローチしている企業だ。

2020年11月のリリースから約2年半で、5000アカウント発行・500万着電を突破。MRRはYoYで600%アップするという急成長ぶりだ。

導入事例をみると、ペットクリニックや東横INN、ロイヤルホスト。中小企業を中心に導入が進んでいる点も特記すべきだろう。

同社の勢いはとどまるところを知らず、2023年3月にはシリーズBラウンドにて13.1億円の資金調達を実施。(リリースはこちら)フェムトパートナーズ、Headline Asia、SMBCベンチャーキャピタルなど名だたるVCが出資した。期待が寄せられていることがわかる。

そして、資金調達のリリースと同時に、AI音声認識機能(β)・ChatGPTを活用した通話音声要約機能(β)の提供開始が発表された。ノーコードでカスタムでき、かつ、月額3,000円〜利用可能だ。調達した資金はAIを中心としたプロダクト開発やサービス拡大、採用強化に充てるとし、AIの活用を促進させていくとのことだ。

続く2023年6月、ChatGPTを活用したAI電話システムの試験提供を開始した。API連携によりネットの予約在庫情報を活用した予約受付の完全自動化を視野に入れている。こちらのプレスリリースにデモの電話番号があるので、気になる方はぜひ試してほしい。自動音声との違いが実感できることだろう。

余談だが、AI音声プラットフォーム「CoeFont」を提供する株式会社CoeFontと、IVRyの共同開発も記憶に新しい。2023年6月末で終了したが、両社は「AIひろゆき」に電話できる「ひろゆき電話GPT」を提供していた。CoeFontでは30文字程度入力すると読み上げる機能は残っているので、気になる方はこちらもトライだ。

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2018年より、日本初のAI契約書チェックサービスを手掛けるGVA TECH

生成AIが世間で話題になりはじめたころ、AIの活用例として頻繁にリーガルチェックが挙げられていたことを覚えているだろうか。2018年に日本初のAI契約書チェックサービス『AI-CON』をリリースしたGVA TECHを紹介したい。

現在のGVA TECHは、『AI-CON』を前身とした、AI契約書レビュー支援Cloud『GVA assist』がプロダクトの中心である。他にも、法務管理クラウド『GVA manage』、『GVA 法人登記』などのプロダクトを提供。『GVA NDAチェック』は会員登録すれば無償でNDA(秘密保持契約)をチェックできる。

そして、GVA TECHは2023年7月21日に資金調達を発表した。DBJキャピタル株式会社、株式会社シグマクシス・インベストメントなどから約8億円の第三者割当増資を実施した。(リリースはこちら)これにより「GVA」シリーズのさらなる普及や事業体制強化を行う。

ところで、代表取締役の山本氏は弁護士の資格を保持している。法律事務所に勤務したのち、2012年にGVA法律事務所を創業。(現在も代表を務める)そして、2017年にGVA TECHを創業。弁護士と創業者の二足の草鞋を履く山本氏はどこを目指すのか。

山本氏のnoteの一部を紹介しよう。

「法律業務を仕事としている人」も「法律」の専門性の高さに集中してしまうことが多くテクノロジーによる法律業務の効率化も進んでないため、その他「すべての活動」への理解が及ばないことが生じています。

(中略)

GVA TECHはこのような「法律」⇄「すべての活動」や「法律業務を仕事としている人」⇄「法律業務を仕事としていない人」の間に存在する大きな「垣根」が課題の本質だと捉えました。

そこでこの課題の本質を捉えた新パーパスはこちらにします! 「「法律」と「すべての活動」の垣根をなくす」

──note<GVA TECH新パーパス|山本俊>から引用

noteには法律と社会への情熱が詰まっていた。山本氏率いるGVA TECHはさらなる強化体制に入ったようだ。引き続き注目したい。

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経済予測AI、xenoBrainを提供する「xenodata lab.」

スタートアップを含む国内50万社の業績動向、国内2万業界の動向、さらには、3万品目の需給を予測する──。それがxenoBrainだ。

xenoBrainを扱うxenodata lab.は2017年からプロダクトにAIを使用してきた。特にAI活用が評価され、当時から株式会社三菱東京UFJ銀行、株式会社帝国データバンク等と資本提携をしていた。また、同時期にダウ・ジョーンズ社とも業務提携し、今日まで約2,000万本のニュースの提供を受ける。各企業が開示する資料と併せて、独自のAIが経済の動向を予測できる仕組みだ。

これまで様々な形でアップデートが進んできた。

まずは、xenoBrainの機能面でのアップデートだ。決済コメントの自動生成機能の追加、アフターコロナの経済動向レポートの無償提供、顧客データの予測などが追加された。

次に、無償で見られるコンテンツも続々と増やしてきた。現在は、「1年で大きく変化する上階や市況」の予測、「消費者物価指数やダウ工業平均株価など注目すべき指標としてピックアップされた」予測などが見られる。

最後に、業務提携の企業だ。 三菱東京UFJ銀行や、岡三証券、Sansan、三井住友海上、野村ホールディングスなど、日本を代表するエンタープライズ企業と業務提携を進めている。

着実にプロダクトを充実させ、拡大してきたxenodata lab.は、2023年5月、新たなプロダクトを発表した。『SPECKTLAM』、経済分野に特化した文章生成AIである。(リリースはこちら

約2000万本の経済ニュース、その事象を分析したシナリオデータ、この2つを正しく理解するための蓄積してきた辞書体系。これらxenoBrainの機能を解釈するために訓練された言語モデルが今回発表されたSPECKTLAMというわけだ。

現在、野村證券株式会社の個人顧客に向けたサービス提供の準備が進められている。今後は、ユーザー毎にカスタマイズされた予測結果と解説文章コンテンツを届けることで、あらゆるビジネスパーソンの経済分析を支えるサービスの実現を目指す、としている。

これまで日本のAI活用をリードしてきたxenodata lab.は、次の一手として「文章生成プロダクト」を選んだ。ChatGPTの台頭による社会のムードを受けて発表したこの一手、どう広がり、どう活用されていくのか、楽しみだ。

ここまで、生成AI関連事業を進める急成長スタートアップを6社を紹介してきた。あの企業のあの事例は紹介しないの?と思った方は安心してほしい。その企業は後編で登場するかもしれない。後編でも6社、紹介する予定だ。

こちらの記事は2023年08月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

いちのせ れい

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